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イギリス編
26、運命を知った最高の日
しおりを挟むその子はポケットからスマホを取ると、電話をした。電話口から声が漏れたと同意に、発情がまた始まってしまった。電話が手から落ちる、そして電話口からは焦った男の声が聞こえてきた。
医者がその子をなだめるが、薬を使ったばかりで対処療法するしかないという。やはり運命の作用は薬くらいじゃ効かないらしい。類は大丈夫なのかな? それにしても対処療法って、セックス?
「あなたはこのオメガの子の親ですか? それとも彼氏?」
『婚約者だ! お前は誰だ‼ 俺のジャックに何をした!?』
「婚約者? 君の名前聞いてもいい?」
『トム・パーカーだ‼ ジャックを出せ‼ 金ならいくらでも渡すから、お願いだ……』
彼氏というか、婚約者? そうとう必死だから嘘じゃないみたい。
「ねぇ、ジャック? 君の好きな人の名前教えて。君が好きな番になりたい人はなんて名前?」
「トム……トム・パーカー」
「パーカー? わかった、彼をココに呼んでいいんだね?」
「うん。トムと、トムと会いたいっ、ぐすっ」
「今すぐ彼をここに呼んであげるからね、いい子で待っていて」
僕は部屋を出て電話を続けた。そこにはシャワーを浴びた類がいた。類は自分についたオメガの匂いを落としたいと言ってシャワーをした。下着も汚れていたから、早くすっきりしたかったのだろう。しかし運命を前にして耐えられるアルファがいるなんて聞いたことない。ううん、類は相当必死に耐えたんだ。類の腕には噛み跡があった、いつの間に自分を噛んだんだろう、会った瞬間かな?
「僕は発情期になったジャックを保護したカイといいます。ジャックから君の名前聞けたから教えるね。彼は町中で運命の番に会った」
『えっ、お前、俺のジャックを噛んだのか!?』
類が僕を抱きしめて、首元にすがってきた。くすって笑って話を続けた。
「噛んでない。僕はベータで、その運命のアルファは僕の恋人だから、他のオメガを噛むはずがない」
『そ、そうか。それで今どこに!?』
ちゅって、僕の腕にキスをする類。もう落ち着いたのかな。
「ダウンタウンのホテル、スマホに地図と部屋番号を送るから。ジャックは運命とあった衝撃で抑制剤も効かない。対処療法しかないってここにいる医者は言っているんだ。君が収めてやってくれない?」
『すぐ行く、あの、ありがとう』
電話を切ると類がキスを仕掛けてきた。きもちいい、僕は選ばれたんだ。運命が隣の部屋で発情しているのに、僕にキスをして愛おしい目で僕を見る。
「類、なにしているの」
「キスしている、愛している、すぐに抱きたい」
「だめでしょ。あの子の彼氏が今からここに来るんだから、状況を説明しないと」
「そうだね。ヒートになったあの子を今すぐ番にして、あの子と俺の運命を切ってくださいって言わなくちゃ。そうしたら俺は本当の意味で海斗だけだって証明できる。こんな素敵な日はない。運命に出会えた日はやっぱり最高の日なんだな」
そういう意味の最高なんて初めて聞いた。
「ふふ、なにそれ。ちょっと意味がちがうけど、まあそうだね。類、僕を選んでくれてありがとう。類の運命と出会えた日は僕にとっても最高の日だね」
「俺は一生海斗だけだよ、俺の童貞奪ったんだから生涯かけて面倒みて」
「ふふ、愛してる」
キスをしているとドアベルがなった。早くない!?
ヒート中のオメガがいるフロアには、ホテル側がボディガードとして警備を配置している。彼らがここに来るアルファの身分証を確認しているので、安全だとわかり僕はドアを開けた。そこには30代くらいの大きなアルファが、息を切らせて現れた。
「え、……kai!? kaiがジャックの運命? そんな‼」
「あの、僕はモデルのkaiです。知っているみたいだね? ジャックも僕を知っていた」
「そりゃ、有名だし。それにジャックはあなたの大ファンで……」
「そう、嬉しいな。そんな落ち込まないで、僕はベータだ。内緒だよ? そして僕の彼氏がアルファで、ジャックの運命だった」
「えっっ‼」
とりあえず入ってもらった。
「ジャックは!? どこですか」
「今隣の部屋で医者が付き添っているよ。その部屋はフェロモン対策してあるから匂いはもれないようになっている」
バスローブからホテルスタッフに用意してもらった服に着替えた類が出てきた。
「ミスターパーカー、初めまして、俺はルイ・サクライ。kaiの婚約者です」
「えっ、二人は婚約を!?」
えっ、僕も初めて聞いた。でもその方が説得しやすいか。
「はい。表向きにはまだ発表していないし、kaiの性別も事務所からストップがかかっていて公表できないのですが、俺たちは恋人同士でいずれ籍をいれます」
「そ……うですか。俺はトム・パーカーです。ジャックは俺の恋人で婚約者です。発情期が来たら番になる約束もしていました。なかなか発情期が来なかったけど、でもやっと来たと思ったら運命に触発されたなんて」
自分じゃ発情させられなかったのに、ぱっと出のアルファにヒートを誘発されたなんて辛いよね。
「じゃあ、彼を番にするのは諦めるの?」
僕は意地悪な聞き方をした。ジャックだって一生の問題をこの彼に背負わせるにはもう少し話し合った方がいいのかもしれない。僕が類を独り占めしたいというだけでこの二人の一生を決めてもらうわけにはいかない。その場合は、ジャックに番が現れるまでお互い別の国にいるくらいの契約は結ばせよう。今後、会わなければ番になれないから。
「まさか‼ どんな状況でもチャンスだと思って彼と番になります」
「はぁ、良かったぁ! ルイ、トムはジャックと番ってくれるってことだよね? これで安心だね」
「ああ、これでkaiに認めてもらえる」
僕の心配は一瞬で終わった。
「でも、ルイはいいのか? 運命のなんてこの世に一人しかいない。俺はお前の運命を番にする。ダメだと言われてもするけど、ルイは納得しているのか? 後腐れないように聞いておきたい」
「あんた、相手の運命に会ってもまだそんなこと言っているの? あの子は必死に俺に抗っていた。運命と出逢いたくないって」
「ジャック……。ルイ、すまない。ナイーブな問題だったから。でも俺は迷わない、ジャックの運命があんたで良かった」
アルファも大変だ、僕は初めて本気でそう思った。本能に抗うことの難しさをこの二人は知っている。類が僕を抱き寄せて、彼に言った。
「嫌な言い方して悪かった。俺は生涯この人だけ。運命の番に会って体はラットを起こしたけど、それでも心から抱きたいと思うのは、この人。だから君たちが番になってくれたらそんなに嬉しいことはない。俺はkaiを安心させてあげられる。kaiはベータだから番にはなれない、いつか現れるかもしれない俺の運命におびえる生活を与えなくて済むだけでも俺はジャックに出会えて良かった。ここのホテルは自由に使って下さい。あの部屋はフェロモン対策ができているから安心して」
「ルイ、kai、何から何までありがとう。悔しいけどジャックの運命があなたで本当に良かった。本当にありがとう、そんな傷まで作って耐えてくれて。番になったらお礼に伺う」
ああ、まだ類の手のケアができてなった。ジャックのところにいる医者に類の手も手当てしてもらわなくちゃ‼
「いや、こちらこそ、君たちに出会えて感謝しかない」
あとで番になった時、一応今回のこともジャックと直接話たいし、きちんと運命の糸は切れたのか確かめたいと類はトムに話してお互いの連絡先を交換した。
「あの、先に謝っとくけど、僕ジャックにキスをした」
「なんだって‼」
「いや、あの時は抑制剤もなくてジャックが道端で発情するから、アルファの体液が必要で。ルイはジャックにキスできないから、僕がルイとキスして唾液をもらって、それをジャックの口に入れた」
「くっ、そ、そういうことなら」
「なんか……ごめんね?」
「いや、ありがとう」
ファンの子たちが写真を撮っていたから、もしかしたら誰かがSNSにあげないとも限らない。一応後で知ることになるより、今知った方がいいと思って伝えた。トムは悔しそうにしたけど、納得してくれた……かな?
そしてトムにその場を任せて、僕たちは部屋を出た。
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