運命を知りたくないベータ

riiko

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イギリス編

25、運命と出会った日 ※

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「海斗‼ 待って!」

 えっ、なんで。

 類は僕がいることに気がついた? その場を去ろうとした足を止めると、オメガを抱きしめながら、僕の方をしっかりと見つめる最愛の人がいた。息が上がっている、きっと彼もラットを。

「お願い! こっち来て、この子を助けて」
「えっ、どういうこと……」
「海斗、お願い。俺を捨てないで……」

 何が起きているの? 君たちは今、運命の出会いを果たして、これから本能のままにつがいになるんじゃないの。捨てるのはいつだってアルファ側なのに……でも類は珍しく汗もかいていて必死に僕に訴える。

「海斗ォ‼」
「る、類‼」

 僕は考えるよりも、彼のところに走っていった。周りがざわざわする、運命の二人のところに行く男、そして僕という人物はあまりに世間に知られすぎている。

 僕は類の元に行くと抱きしめられた、その時にサングラスも帽子も外れた。そして密着してわかるけど、類は興奮している。オメガの子はもうヒートに入っているようで、何もできずうずくまっている。首にはネックガード、類は彼を抱きしめながら僕にキスをした。唾液を絡めるとても濃厚なもの。

「愛してる……海斗、俺、抑制剤打つから、この子をお願い。抱きしめて俺のフェロモンで少し覆ったけど、もう無理そう。周りがこの子を襲わないように、すぐに緊急抑制剤打たないと、持っているか聞いて、打ってあげて」

 それで抱きしめていたの? 類が苦しそうにしている。きっと、この子を襲いたい本能を抑えて、そしてこの子を守ったんだ。

「わ、わかった」

 離れた唇からは銀糸が伸びる。

 キス一つで、僕はさっきまでの光景も忘れて心が楽になった。瞬時に理解したことは、類は運命に出会っても抗ったということ。周りに人がいるけど、類はカバンから注射を出して腕に打っていた。そして僕はその子を、オメガの男の子を預かり、彼に聞く。

「君、緊急抑制剤持っている?」
「はあ、はっ、え……kaiカイ!?」
「そうだよ、君は今、道端でヒートを起こしている。まずはそれを沈めてから話をしないと」
「あっ、もってない。僕、初めてのヒートみたいで。お願い、kaiカイ助けて……」
「大丈夫、君を守ってあげるから」

 まだ若い子だと思ったが、未発情の子だったらしい。それじゃあ本能に逆らうことも難しいだろう。

「海斗、ここじゃまずい。ヒート対応のホテルに連れて行って、その子の保護者呼ぼう。ちょっとキスさせて」
「えっ、んんん」

 類がいつもよりも激しめにキスをして、僕に類の唾液を送ってきた。いつもの通り飲もうとしたら、類が唇を離して僕の口に手を当てた。

「唾液は飲まないでためて。ヒートを収めるのはアルファの体液がてっとり早いけど、俺はその子に触れられない。……海斗、俺以外とキスするのは嫌だろうけど、人命救助だと思って口移しでその子に俺の唾液入れて」

 僕は口を閉じたまま頷いて、その子にキスをした。その子は驚いた顔もするも、すぐにうっとりした表情になって僕に縋ってきた。それを見て安心した、類をよこせて言われても応じられないから。こんな状況に僕を呼んだ類は、もう覚悟を決めているとわかったんだ。

「んんん、んん、はっ、……kaiカイ、もっと、もっと頂戴」
「これくらいで我慢してね、あれ? 気を失っちゃった?」

 正気を戻しつつある類がタクシーを手配して、僕達はその子を抱えて車に乗った。その時、周りはカメラを向けていたりして、ざわざわしていた。僕はそれなりに顔が知られているし、類だって僕と一緒にモデル活動をしていたんだ。僕の熱愛相手というのは知られているはず。

 そこに、ヒートを起こしたオメガ。

 僕と類のキス、僕とオメガの子のキス。何を囁かれるのか想像がつくような気もするが、この場を収めないと。

「急にヒートになった子を運ぶだけだから、みんなSNSとかにアップしないでね。この子はこれから保護者を呼んで助けるから、心配しないで」

 周りがわあっとなったが、すぐにタクシーに乗ってその場を去った。

 類が懇意にしているホテルに、その子を連れ込みベッドに寝かすと、すぐに類が僕にキスをしてきた。性急すぎて、いつになく余裕がない。

 これが……これがラット?

 人生で見るのは二度目、一度目は僕の弟に向けられた目を僕は唖然と見るしかできなかった。でも今は、今は目の前のアルファはその目を僕に向けて、僕だけを求めている。

「ちっ、余計な味がする。海斗だけを味わいたい、お願い、口ゆすいでその子の味を消してきて。間違えないで、俺が求めているのは海斗だけだから、アルファだから勝手にラットは起こるけど、心も体も俺を満たすのはいつだって海斗だけ。愛してる、もう逃げないで」
「う、うん」
「待って、少しだけ海斗を頂戴」
「えっ!?」

 類は僕のズボンを下ろして、僕のまだなんの反応もしていないソレを口に含んだ。

「あ、あぁ、いきなり、あっ、あん」
「ごめん、海斗を味わいたい。いきなりは後ろに挿入はいいらないから、これだけでも飲ませて」
「あ、ああ‼! イクっ」
「んん、ごくんっ」

 吸われ慣れている類の口に、こんな状況なのにあっけなくイかされて、僕は欲望を類の口の中に吐き出した。

「美味しい、やっぱり海斗だけが俺を満たすことができる」
「はっ、はぁっ、あっ、類っ、ぐすん」
「ごめん、急に嫌だったよな。ほんと無理やりごめん」
「そうじゃない、そうじゃなくて、嬉しい。僕、二人を見て辛かったから……」
「愛してる、安心して。俺はどこにも行かない」
「うん」

 僕があの時、一瞬でも類を諦めたのに気がついたのだろう。でも責めないで僕に愛を囁いてくれる。僕はとにかくこの場を収めようと思って、類がズボンを履かせてくれたので、急いで口をゆすぎ、その子の様子を見に行った。

 その間に類が医者を手配してくれたので、医者があの子を見に来てくれていた。抑制剤も効いてきたとのことだった。

「はっ、あっ、いやいやっ、僕、運命なんて会いたくない‼」
「大丈夫ですよ。あのアルファにはちゃんと恋人がいて、あなたをどうこうしようと思ってここに連れてきたんじゃないですから」

 目が覚めたその子は暴れた、そして運命と言った。やっぱり二人は運命だったんだ。そして類同様、運命を拒絶している。

「はっ、いやっ! あっ‼ kaiカイ助けて‼」

 僕を見たその子は、きっと僕という存在をメディアで知っていて、唯一ここで顔を見たことある人として安心したのだろう。僕は慌ててその子に駆け寄った。

「大丈夫だよ、怖いことはない。さっきのアルファは、君の運命は……僕の彼氏だ。だから君をつがいにすることは無い」
「えっ」
「安心した? それとも残念だった?」

 僕は意地悪な聞き方をしてしまった。いまだこの子の発情が、僕には脅威だった。類を信じていないわけじゃないけど、運命を差し出せとオメガの子に言われたら辛い。

「ちがうっ、僕も彼氏がいて、その人しかつがいになりたくないの。だから良かった。でも……kaiカイの彼氏が、他の人の運命とか、嫌でしょ」

 僕はこんな状況でも、類を縛ることしか考えていないのに、この子は……。

「君は今、そんなこと気にしなくていいよ。それより君の保護者かその彼氏に連絡取りたいんだけど、取れる?」
「う、うん」

 僕は運命を勘違いしていたのかもしれない。類とこの子のあらがう姿を目の当たりにして、そう初めて思った。
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