運命を知りたくないベータ

riiko

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イギリス編

19、恋心

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 類はそのまま大学に行くというから、僕も職場に行くために一緒に家を出た。なぜか手を繋いでいた。付き合うってこういうことなのかとちょっと照れ臭くなったけど、嫌じゃない。昨日まで誰とも付き合う気がなかったのは、本当だったのに、どうしてだろう。

 咄嗟に僕と付き合わないかって聞いていた。

 あれはなんの考えもなくて僕の心から、ふっと出た言葉。それに類が反応して、そうなった。これは自然の流れなのかもしれない。あの出来事から四年たって、次に進むべきという時が来た。そのきっかけが同じ経験をした類との出会い。

 手を繋いだ一瞬で僕の中に落ちてきた思考が、妙に納得できてしまった。そして二人で仲良く歩いていたら、セフレの一人だったアルファがマンションの前にいた。怖い顔をして僕の前に来た、その瞬間類が僕をかばった。

kaiカイ、その男はなに? そんなにフェロモン付けられてどういうこと?」
「えっ、アレン? どうしてここにいるの?」
「メアド変えられて連絡つかないから、家の場所を調べた。こないだの、俺は納得してない。一方的に関係やめるなんて勝手過ぎだと思わないか?」

 一応けじめとして、これからは仕事に打ち込みたいから遊びの関係はやめると、セフレ達にはメールを送った。何人かは納得いかないとか、だったら遊びじゃなくて真面目に交際をしてほしいというような内容の返信がきたが、それにもきちんと断りの返事をした。その後にメールアドレスまで変えたのはやり過ぎかとも思ったけど。家まで調べたの? 怖過ぎる。ビリーが言っていた意味がやっとわかった。

「海斗、この人誰?」
「あっ、ごめん。類はもう行って」
「でも、俺以外のアルファからいまだ執着されているのは気持ちがよくないし、ちゃんと全ての関係を俺の前で清算して」

 驚いた、類もアルファなんだ。嫉妬だよね? どうしてだろう、今日の僕は、ううん、類と出会ってからの僕はおかしい。今まで爽と付き合っている時も何度もあらぬ疑いをかけられて嫉妬されてきたけど、そのたびに嫌で仕方なかった。それなのに、今の僕は類のその言葉に震えている……嬉しいって思ってしまった自分に驚きだった。そして僕の手を離さない類を見て、アレンは冷ややかな声で類に話しかける。

「おい坊や、アジアの言葉で話すな。こっちの言葉を話せないなら母国に帰って、ママのおっぱいでもスってろ、それにその手を離せ」
「あんた、kaiカイにフラれたんだよ。メアド変えられているのに、まだわからないの? それから俺という本命ができたから、今後kaiカイがあんたの相手をすることはない」

 類を馬鹿にした言葉を話すアレンだったけれど、美しいイギリス英語を話す類に少し驚き、そして僕の本命ということを伝えるとさらに驚愕していた。

「な、んだと……kaiカイ、どういうことだ? 俺はお前が本命を作らないというから、体だけで我慢していたのに、話が違うだろう。それにだったら俺と恋人になるべきだ」

 やだよ、こわいよ、こんな風に待ち伏せする人は。

「その恋人が俺だ、もうkaiカイには近づくな」
「そんなの信じられない、kaiカイはこの業界に入ってから誰とも付き合ってこなかった、kaiカイは抱いてくれる相手さえいればよかったはずだ、どうしてこんな子供に?」

 確かにそうだけど、だけど類の前でそんなこと言わなくてもいいじゃんか。

「ごめん、僕もうそういうの卒業したんだ。彼を好きになっちゃったし、彼なら僕を心身ともに満足させてくれるから、もう彼だけでいいんだ。ごめん、今までありがとう」
「そんな、ラノキリアの社長が自ら動いているって噂を聞いたから、てっきりkaiカイはあの社長の愛人になったのかと思っていたのに、あんな人が相手なら、それならまだ納得できたのに、どうしてそんなガキなんだよ」

 そういう噂があるの? 今度ビリーに謝ろう。

「心が震えたんだ、それだけ。体じゃなくて僕は心を満たしてくれる相手が欲しかったって気がついたの。僕の心を満たすのは、この人だけなんだ。本当にごめん」

 可愛そうだけど、僕のことをそんなに思ってくれていたのに驚きだった。そんなやり取りをしていたらカシャッと写真を撮られた。パパラッチに撮られたのは初めてだった。

 僕はベッドを共にするだけで、外で誰かと会うことがないから、セフレとこうやって外で話すこと自体珍しい。その瞬間をよく捉えたなと、そのカメラマンに感心した。

「あっ、クソっ、パパラッチだ。わかった、kaiカイのことは諦める、俺も今騒がれるのはごめんだから」
「うん、あのパパラッチのことはこっちで片付けるから、迷惑かけてごめん」

 そうしてアレンは諦めて帰ってくれた。僕はそのことをすぐに社長に話してなんとかしてもらう必要があるから急いだ。

「類、巻き込んでごめんね。僕すぐに事務所に行って社長にパパラッチのことお願いしなくちゃいけないから、類はもう大学行ってね」
「海斗、昔の男が来るのは正直つらいけど、でも俺のことそういうふうに思ってくれているって知れて嬉しい方が勝った。心が震えるってなに、昨日は都合がいいから付き合おうみたいな流れだったよね、なのに、なに? 俺は何を信じていいの」

 類は僕を抱きしめた。類の方こそ震えている、この子は真剣に恋をしてきた子だから。僕の昨日の軽いセリフはやはり引っかかっていたみたいだった。僕は抱きしめ返して類の頭をぽんぽんってした。

「昨日はごめんね、軽く始めすぎた。僕はきっと類を知った時から何かが変わるって思っていた。類と付き合いたいって言った言葉も本当。僕から誰かと付き合いたいって思ったのは初めてだよ、類と繋がって心が震えたし、愛おしいって気持ちが溢れている。これが本当の僕の想い。類が好き、はは、僕もしかしたら重い?」
「海斗……嬉しい、好きだよ、ほんと好き。俺、付き合うのは初めてだし、昨日も初めてだったから海斗をまだ満足させてあげられないかもしれないけど頑張る」

 あんな自信満々に僕を抱いたのに、可愛いな。あれ以上頑張られたら僕が参っちゃうよ。

「ふふ、やめてよ。僕あんなに満足したのは初めてかも。類、本当に初めてだったの? ちょっと驚いちゃった。心が震えたのと同時に、体も今までにないほど満足したよ」

 僕は類にキスをした。類は真っ赤な顔で僕を見下ろして、そのまま深いキスに変わった。

 道を通る人が見る、僕の顔はそれなりに知られているから噂されるだろう、それでいい。いろんな人がこの本気のキスを見ればいい、どんどん写真をとってSNSに載せればいい。僕の恋人に誰も手が出せないように、パパラッチをも僕は味方にして、類を僕から離さないようにした。

「海斗……」
「僕は心を伴うそういう触れ合いを望んでいた、類が……類だけがこれからは僕を満たして」
「うん」

 類は心配だからと一緒に事務所に来た。そして僕は社長に類を紹介した、僕の彼氏として。パパラッチからは先程の写真は雑誌にあげるとすでに連絡が来たので、僕が社長に事情を伝え、アレンは載せないようにしてもらい類と僕の撮影写真も一つ差し出した。

 ビリーとも相談の上だった、ラノキリア専属モデル『kaiカイの熱愛』というのをきちんと載せてもらうことでラノキリアの広告に繋がるだろうからと、事務所もラノキリアもそれでいいと言った。

 そしてこの記事のお陰でラノキリアの新作発表会には多くのマスコミが訪れる、その時に僕と類の関係を狙う記者たちも多く押しかけることにより、撮影をきっかけに交際が始まった、縁起物の時計という触れ込みも勝手につくだろうとビリーの戦略もあり、僕と類の交際はみんなが喜んでくれる運びとなった。

 そして僕の家は、元セフレに知られている可能性もあるので、付き合った次の日には、類の家に引っ越しをさせられた。

 恋心を自覚した途端、こんなに順調に行っていいのってくらい、物事が急速に進んでいった。
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