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3-13.鬼退治

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「因果改竄! お主と巫女の出会いをなかったことにする!」

 出会いをなかったことにする。
 その意味を理解した時、私は初めて事の重大さを理解した。

「待って……」

 私は絶対に死にたくない。
 もしも彼と出会わなければ、きっと何も分からないまま白狐の餌になっていた。

「お願い……」

 上手く声が出ない。
 恐怖で身体が震えて、呼吸さえも苦しく感じる。

「やめてぇ!」

 だけど私は、お腹に力を込めて叫んだ。

「ふはははっ、遅い遅い。もはや手遅れよのぉ!」

 その思いを踏みにじるかのように、黒鬼は笑う。
 ふはは、ふはは、ふは、ふはははは、ふは……。

「……は?」

 黒鬼は急に不思議そうな声を出した。

「どうした?」

 彼が言う。

「何か不都合でも起きたのか?」
「……お主、何をした?」

 私は相変わらず理解が追い付かない。
 だけど、なんとなく、雰囲気だけは分かる。

「逆に聞きたい」

 私は彼を見た。
 自分の姿を鏡で見たならば、その瞳には希望の色が浮かんでいることだろう。

 そんな期待感に答えるかの如く、彼は自信たっぷりに言った。

「過去を変えた程度で、俺と彼女の出会いを無かったことにできると思ったのか?」
「なにぃ!?」

 私は思わず両手で口を覆った。
 涙が止まらない。幽世に来てから訳の分からないことばかりだけど、彼が頼りになることだけは分かる。安心感がある。

「ならば、より深く潜るまでよ!」

 黒鬼が叫ぶ。
 もちろん彼の態度は変わらない。

「教えてやろう。お主が生まれる前まで遡り、誕生の因果を消す。お主が如何に強者とて、生まれる前に殺せば抵抗できなかろうて!」
「ほう、それは恐ろしいな」

 黒鬼の言葉はとても恐ろしく聞こえた。
 しかし彼は余裕を崩さず、煽るような態度で言う。

「ならば、じっくりと潜るが良い。焦ることは無い。待ってやろう」
「……その言葉、後悔させてくれるわ!」

 黒鬼の全身が発光する。
 最初は恐ろしく感じられたその光も、今の私ならば「虹鬼になった(*^^)v」と友達にラインを送るような心境で見ることができる。

「ぬぁっ!? な、なんだ、この記憶は!?」

 突然、黒鬼が悲鳴をあげた。
 
「ああ、そうだ、思い出した」

 彼はポンと手を打ち、黒鬼に一歩近づいた。

「二人目の四天王と戦っている時だ。時空間魔法に似た干渉を受けた。やけに練度が低いと思ったが、あれは貴様だったのだな」

 言葉の意味はさっぱり分からない。
 しかし彼は楽し気な表情をして、囁くようにして言った。

「精神攻撃の盾にした。礼を言う」

 瞬間。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉ────!?」

 黒鬼が情けない声を発し、全身から謎の液体を噴出した。
 様々な色がある。目立つのは、妙に濁った白色と、黒っぽい赤色だろうか。

 私には液体の正体が分からない。
 ひょっとしたらグロテスクな光景だったのかもしれない。

 だけど私は、綺麗だと思った。
 そう思った一番の理由は、多分、彼の横顔。

 言葉は無数にある。
 ひとつだけ口に出すなら……そう、夢ができた。

 私、アイドルになろう。
 このルックスでがっぽがっぽ稼いで、今まで諦めていたこと、全部、やろう。
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