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3-12.因果改竄

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「未来を見た」

 そして、彼は話を始めた。

「未来……やはり最後の巫女というわけか」

 あんたじゃない。
 読め。空気を。流れを。

「あえて問おう。お主、何故ここに?」

 私は息を殺して二人の会話を見守る。
 実際、気になる内容だ。私は現状を全く理解していない。

「狐を狩るのは容易い」

 瞬間、衝撃が伝播した。
 白狐は、現世を滅ぼす程の力を持った大妖怪だ。それを容易く狩れると言い切った彼はそのビジュアルも相まって最高にクールである。

 黒鬼の表情にも驚きの色が見える。
 ご先祖様が陰陽師で生贄という宿命を背負った以外には外見と性格が良いだけの私には、非日常的な感情の機微が上手く読み取れないけれど、とにかく驚いていることだけは分かる。

「……あの狐を容易く狩れる、か。クカッ、大きく出たな。人間」

 黒鬼は再び彼に顔を近づけ、睨むような顔をして言う。

「ならば」
「いちいち顔を近づけるのを止めろ」

 黒鬼は( ゚Д゚)こんな顔をした。

「俺は、狐を狩った後のことを考えている」
「後だと?」
「あれは幽世の蓋役でもある。無暗に狩れば千年前の二の舞だ」

 な、……なんて、思慮深い人なの。
 遡ること300年以上前。フランス革命。貴族達の圧政に対して我慢の限界を迎えた民衆は、自由を求めて貴族達をぶっ殺した。

 でもその後は考えていなかった。
 結果、次はナポレオンに支配されただけ。秩序は失われ、ひたすら混沌としていた。

 彼は考えてる!
 未来の教科書に載るべき偉業!

 私の姿絵と共に!

「俺には二つの考えがある」

 彼は指を二本立てた。
 その姿を目に焼き付けるべく集中する。

「ひとつは、幽世を滅ぼすこと」
「クカカッ、抜かしおる。お主如き」
「まだ話の途中だぞ。妖怪には、相手の話を聞く程度の知能も無いのか?」

 私はそっと空間の隅に移動した。
 一触即発。そういう危険な香りがした。

「もうひとつは程良い妖怪を使役すること。貴様でも構わぬと思っていたが、こうも知能が低いと考え物だな」

 その胆力どこで買えますか?
 もう尊敬を通り越して畏怖です。怖い。

「……クカ、クカカッ!」

 黒鬼は笑う。

「矮小な人間如きが、抜かしおる」

 でも顔と声音は全然笑ってない。

「確かに体は小さい。だが、俺は貴様よりも強い」

 音が聞こえたような気がした。
 ぷっつん、という何かが切れる音だ。

「──ここまでコケにされたのは、千年振りよのぉ」

 空気が震えたような気がした。

「ワシの真名は因鬼いんが。因果を司る鬼」
「ほう、淫の名を関する鬼か。面白い」

 私は何かが擦れ違っている気配を感じた。
 
「お主のことは狐から聞いておる。ワシはあの生意気な狐が嫌いだ。お主の態度次第では手を貸してやろうかと思うていたが……所詮、ただの餌よのぉ!」

 黒鬼の体がグニャグニャに変形する。
 何かが裂けるような音がして、新たに六本の腕が現れた。

(……何あれ怖い。キモイ。やばい)

 私は両手で口を塞いで息を殺す。
 
(……大丈夫なの? これ大丈夫なの?)

 不安になって彼を見る。
 依然として余裕たっぷりな表情をしていた。

「ワシは因果を司る」
「ふ、貴様如きが淫キャを御せると思うなよ」
「抜かせ。今に見ておれ……ほう、ほうほう、そういうことか。クカッ、入れ替わりというわけか! ただの生贄がかくも生意気だと思うたら、なるほどのぉ!」

 え、え、なんで分かったの?

「これより出会いの因果を消す。どうなると思う?」

 黒鬼は悪い顔をして言う。

「巫女は呪いに従って餌となる。お主は今の出来事を忘れる。だが安心せい。ワシが現世に赴いた時、貴様を喰らう瞬間に、しっかりと記憶を返上してくれる。クカカ、分かるか? 貴様は恐怖と後悔を抱えながら死ぬのだ。怖かろう。恐ろしかろう」
「長い」

 彼は、退屈そうな溜息を吐いて言った。

「来るなら早く来い。格の違いを教えてやる」

 私は耳を塞いだ。
 黒鬼が激怒して、叫ぶ予感がしたからだ。

 その予感は当たった。
 黒鬼は何か支離滅裂な言葉を叫ぶ。

 そして、八本の腕が紫色の光を発した。

「因果改竄! お主と巫女の出会いをなかったことにする!」


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