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3-14.ご挨拶
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黒鬼がキラキラに変わった後、謎の空間は消滅した。
私達は、もはや懐かしく感じられる薄暗い場所に舞い戻った。
「困った」
そして、彼が呟いた。
「どういうこと?」
私は少しだけ不安になって問いかける。
「狐の代わりだ。あの鬼を利用しようと思ったが、うっかり消滅させてしまった」
「……あはは」
私は笑った。
心配とか、不安とか、そういう感情は無駄なのかもしれない。
真剣に悩んでる顔も凛々しい。
やはりアイドル。私はアイドルになろう。
彼のことは恩人として……ああそうだ、名前。
「ねぇ、ちょっと」
名前を教えて。
その言葉を口にしようとした瞬間だった。
【 】
聞き慣れない言葉が聞こえた。
……でも、あれ? どうして私は、これが言葉だって分かったの?
【 】
今度は別の言葉が聞こえた。
(……思い出した。これ、知ってる)
【 】
一回目。我は汝を見た。
二回目。我は汝を憎悪する。
三回目。憎悪は矢となりて汝を滅ぼす。
「避けて!」
咄嗟に叫んだ。
でも、遅かった。
「……うそ」
突如として四方八方に魔方陣が現れた。
そこから光の矢が現れ、彼を貫き、地面と魔方陣を繋いだ。
『あっはっは』
勝ち誇ったような声が聞こえた。
ああ、知っている。この声は、よく知っている。
「……驚いた」
『ほう、まだ生きているのか』
トン、と足音が聞こえた。
振り返る。そこに、恐ろしい狐が立っていた。
「星降る夜の口付け」
彼が何か呪文のような言葉を口にした。
その直後、白狐は世界から切り取られたかのように姿を消した。
「……」
私は言葉を失った。
白昼夢でも目にしたかのような気持ちだった。
「……生きてる、よね?」
足が震えている。
私は彼に近寄って、そっと手を伸ばした。
「触れるな」
ビクリとして手を引く。
「貴様が触れれば、死ぬ」
息を止める。
彼の口から初めて聞いた「死」という単語は、想像以上に恐ろしかった。
「……大丈夫、なの?」
「無論だ」
その声は、ほんの少しだけ震えていた。
彼は私を見る。そして、優しい目をして言った。
「この身はドスケベ・フィールドによって守護されている。この程度、四天王の足技にも及ばない」
「いやぁ! おしまいよ! 脳にダメージがあるタイプの技だったのね!」
「落ち着け」
私は蹲り、頭を抱えて嘆く。
彼だけが頼りだった。唯一、心の支えだった。
しかし彼は脳を破壊された。
おかしな発言が何よりの証拠。
「もう一度だけ言う。落ち着け」
トン、と肩に手を乗せられた。
顔を上げる。世界一の美形が、私を見つめていた。
「恐れることは何も無い。貴様は、ただ俺を信じていれば良い」
「……はい」
かっこいい。この世のモノとは思えない。
今日の出来事、全部が夢だと思えるくらいだ。
「酷いじゃないか」
声がした。
私は咄嗟に彼の背に隠れた。
こっそり覗き見る。
白髪の美男子が、少し離れた位置から私達を見ていた。
いや、美しいものか。
姿形はヒトに近いのに、さっきの黒鬼よりもずっと恐ろしい。
私には見える。
白狐の周囲に、何か恐ろしい靄のようなモノが漂っている。
「親切心で挨拶をしてやったのだぞ」
「挨拶か。ならば、本体で来たらどうだ?」
「……あっはっは。バレてしまったか」
どういうこと? あの白狐は偽物なの?
……あんなに、あんなにも禍々しいのに?
「これを返しに来た」
白狐は、無造作に何かを投げた。
それはひらりと宙を舞い、私達の前に落ちる。
じっと見る。
理解した瞬間、私は小さく悲鳴をあげた。
「その式神、なかなかに美味であったぞ」
それは、まるで何かの食べ残しみたいに、不格好な形になった足だった。
「……タマちゃん」
やめて。固有名詞を出さないで。
「あっはっは、良い。良いぞ。その顔が見たかった」
白狐は笑う。
そして、彼に指を突き付けて言った。
「次はお前だ」
パンッ、と風船が弾けるような音がした。
その後、白狐の居た場所にひらひらと何かが舞う。
形代だ。人の形を模した薄い紙。
彼が指摘した通り、あの白狐は偽物だったみたいだ。
「すまない」
彼が小さな声で呟いた。
それはきっと、タマちゃんに対する言葉だ。
「あまり醜い絵は見せたくなかったが、我慢してくれ」
違った。私に対する言葉だった。
でも、分かる。強い怒りを感じる。
「予定変更だ。直ぐに狐を狩る」
彼は言う。
「後釜には、そこのネズミを使うことにしよう」
ネズミ?
疑問に思いながら彼の目線を追いかけた先には、
私達は、もはや懐かしく感じられる薄暗い場所に舞い戻った。
「困った」
そして、彼が呟いた。
「どういうこと?」
私は少しだけ不安になって問いかける。
「狐の代わりだ。あの鬼を利用しようと思ったが、うっかり消滅させてしまった」
「……あはは」
私は笑った。
心配とか、不安とか、そういう感情は無駄なのかもしれない。
真剣に悩んでる顔も凛々しい。
やはりアイドル。私はアイドルになろう。
彼のことは恩人として……ああそうだ、名前。
「ねぇ、ちょっと」
名前を教えて。
その言葉を口にしようとした瞬間だった。
【 】
聞き慣れない言葉が聞こえた。
……でも、あれ? どうして私は、これが言葉だって分かったの?
【 】
今度は別の言葉が聞こえた。
(……思い出した。これ、知ってる)
【 】
一回目。我は汝を見た。
二回目。我は汝を憎悪する。
三回目。憎悪は矢となりて汝を滅ぼす。
「避けて!」
咄嗟に叫んだ。
でも、遅かった。
「……うそ」
突如として四方八方に魔方陣が現れた。
そこから光の矢が現れ、彼を貫き、地面と魔方陣を繋いだ。
『あっはっは』
勝ち誇ったような声が聞こえた。
ああ、知っている。この声は、よく知っている。
「……驚いた」
『ほう、まだ生きているのか』
トン、と足音が聞こえた。
振り返る。そこに、恐ろしい狐が立っていた。
「星降る夜の口付け」
彼が何か呪文のような言葉を口にした。
その直後、白狐は世界から切り取られたかのように姿を消した。
「……」
私は言葉を失った。
白昼夢でも目にしたかのような気持ちだった。
「……生きてる、よね?」
足が震えている。
私は彼に近寄って、そっと手を伸ばした。
「触れるな」
ビクリとして手を引く。
「貴様が触れれば、死ぬ」
息を止める。
彼の口から初めて聞いた「死」という単語は、想像以上に恐ろしかった。
「……大丈夫、なの?」
「無論だ」
その声は、ほんの少しだけ震えていた。
彼は私を見る。そして、優しい目をして言った。
「この身はドスケベ・フィールドによって守護されている。この程度、四天王の足技にも及ばない」
「いやぁ! おしまいよ! 脳にダメージがあるタイプの技だったのね!」
「落ち着け」
私は蹲り、頭を抱えて嘆く。
彼だけが頼りだった。唯一、心の支えだった。
しかし彼は脳を破壊された。
おかしな発言が何よりの証拠。
「もう一度だけ言う。落ち着け」
トン、と肩に手を乗せられた。
顔を上げる。世界一の美形が、私を見つめていた。
「恐れることは何も無い。貴様は、ただ俺を信じていれば良い」
「……はい」
かっこいい。この世のモノとは思えない。
今日の出来事、全部が夢だと思えるくらいだ。
「酷いじゃないか」
声がした。
私は咄嗟に彼の背に隠れた。
こっそり覗き見る。
白髪の美男子が、少し離れた位置から私達を見ていた。
いや、美しいものか。
姿形はヒトに近いのに、さっきの黒鬼よりもずっと恐ろしい。
私には見える。
白狐の周囲に、何か恐ろしい靄のようなモノが漂っている。
「親切心で挨拶をしてやったのだぞ」
「挨拶か。ならば、本体で来たらどうだ?」
「……あっはっは。バレてしまったか」
どういうこと? あの白狐は偽物なの?
……あんなに、あんなにも禍々しいのに?
「これを返しに来た」
白狐は、無造作に何かを投げた。
それはひらりと宙を舞い、私達の前に落ちる。
じっと見る。
理解した瞬間、私は小さく悲鳴をあげた。
「その式神、なかなかに美味であったぞ」
それは、まるで何かの食べ残しみたいに、不格好な形になった足だった。
「……タマちゃん」
やめて。固有名詞を出さないで。
「あっはっは、良い。良いぞ。その顔が見たかった」
白狐は笑う。
そして、彼に指を突き付けて言った。
「次はお前だ」
パンッ、と風船が弾けるような音がした。
その後、白狐の居た場所にひらひらと何かが舞う。
形代だ。人の形を模した薄い紙。
彼が指摘した通り、あの白狐は偽物だったみたいだ。
「すまない」
彼が小さな声で呟いた。
それはきっと、タマちゃんに対する言葉だ。
「あまり醜い絵は見せたくなかったが、我慢してくれ」
違った。私に対する言葉だった。
でも、分かる。強い怒りを感じる。
「予定変更だ。直ぐに狐を狩る」
彼は言う。
「後釜には、そこのネズミを使うことにしよう」
ネズミ?
疑問に思いながら彼の目線を追いかけた先には、
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