異世界は流されるままに

椎井瑛弥

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第5章:初夏、新たなる出会い

間話:ある年の大晦日

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「レイ、二年参りに行こうよ」

 サラがレイの部屋の窓を外から開けながら言いました。

「行こうよって、積もってるけどいいのか?」

 そう聞かれたサラは、あらためて窓の外を見ました。あまり大雪にはならない地域ですが、それでも年に何度かは積もります。そして、今年は珍しく、一二月の下旬に入ってから、ずっと雪が続いています。

「う~ん、やっぱやめとく」

 冬でも昼間ならともかく、雪の夜に出かけるのはそれほど好きではないサラです。

「それより、早く入って閉めてくれ。雪が入るだろ」
「あ、ごめん」

 猫のように身軽に部屋の中に入ったサラは、コタツに体を滑り込ませました。そして、壁を向いて手を合わせます。

「それならここで二年参りしよう」
「お前の頭はどうなってるんだ?」

 年末年始をまたいで神社仏閣にお参りすることですね。時間も場所も違いますよ。

「ちなみに、どこに向かってるんだ?」
「八幡さん」
「もう少し北だ。そっちは城跡だぞ」
「こっちか」

 サラは言われたとおり、体の向きを変えて手を合わせ直しました。
 二人が漫才をしていると、階段から足音がしてドアが開きました。

「お兄ちゃ~ん。なんか賑やかなんだけど~。サラちゃん来てる~?」
「兄貴、入るよ」

 レイの弟のシンと妹のエリカが入ってきました。

「いるぞ」
「エリ、シン、おはー」
「もう夜だよ~」
「姉さんのことだから、さっきまで寝てたんでしょ?」
「なぜわかった?」

 サラがない胸を張ります。シンはレイのことを兄貴、サラのことを姉さんと呼びます。
 しばらくすると、またドアが開きました。

「レイ兄、こんばんは。姉さんいる?」
「いるぞ。さっさと連れて帰ってくれ」
「ノ~~~ッ!」

 サラがコタツに入ったまま不満を表明しました。

「ノーじゃない。マイ、家にいなくて大丈夫か?」
「それは大丈夫」

 そう言いながらグッと親指を突き出すのはサラの妹のマイ。表情がころころと変わるサラとは違って、無表情がデフォルトです。
 さらに二分後、ドアが開いて男の子が入ってきました。

「姉ちゃんたち、やっぱりここにいたのか」
「あ、探した?」
「いや、別に。父ちゃんと母ちゃんが心配してたぞ。サラねえが兄ちゃんに迷惑かけてないかって」

 男の子は「はあっ」とため息をつきました。

「サラがいなくなったから心配したんじゃないのか?」
「ううん。いなくなっても春になったら出てくるだろうって。それまで兄ちゃんに迷惑がかかるからだって」
「春まで置いとくつもりはないぞ」

 まだ小学生なのにしっかりしているのは、サラの弟のカイトです。レイのことを兄のように慕って兄ちゃんと呼んでいます。二人の姉のことは、サラ姉とマイ姉です。
 この六人は、まるで兄弟姉妹のように育ちました。今年になってレイとサラは違う高校に進学しましたので、平日はあまり会うことがなくなりました。中学のときに比べれば疎遠になったでしょうが、それでもこのようにして集まるときは集まります。
 年齢はレイとサラが一番上で、レイの弟のシンが二つ下、サラの妹のマイが三つ下、レイの妹のエリカが五つ下、サラの弟のカイトが七つ下です。

「それで、なんでここに集まってるんだ?」
「もちろん暇だから」
「サラちゃんの声が聞こえたから~」
「父さんも母さんも酔って寝たから」
「姉さんを探しに」
「母ちゃんが迷惑代にこれを持ってけって。よろしく」

 レイはカイトからバン〇ーテンのピュアココア、低温殺菌牛乳のパック、そしてちょっと高級なチョコレートを手渡されました。

「俺が作るのか?」
「兄ちゃんが作るのが一番美味しいんだよね」
「レイ兄のが一番コクがある」
「お兄ちゃんのはダマにならないんだよね~」
「みんな適当すぎだ。ちゃんと量って練れよ」

 ピュアココアには油分があります。最初にしっかりと練らないと、分離してダマになります。面倒くさがりには向かないですよね。

 ◆◆◆

 六人で一つのコタツに入っています。遠慮なく足を伸ばしているのがサラとエリカで、マイは足を曲げています。男子三人は場所がなくて胡座をかいています。

「で、兄貴がまた告白されたって聞いて」

 カイトがとして持ってきたチョコレートを口に放り込みながらレイを見ました。

「されたな」
「それで?」
「断った」

 まさに後ろからバッサリ袈裟斬りにでもするかのようにレイはシンに答えました。それから自分で作ったココアを口にします。

「兄貴って変なところで硬いよな」
「そうか? 好きでもない相手と付き合うのは向こうに失礼だろ」
「う~ん、間違ってはないと思うけど」

 シンが首をひねります。同じ兄弟でも性格が違って、レイは慎重派でシンは行動派です。仲はいいですし、シンはレイを慕っています。でも、そろそろ兄が彼女を作ってもいいのではないかと思っているんですよね。ちなみに、シンには彼女がいます。
 この会話の間、サラはレイの顔を右から見ていました。表情には出ていませんが、その内面はやや複雑です。
 サラは中学の途中あたりからレイを意識し始めました。昔から妹のように扱われていたことは自分でもわかっていましたが、それでも惚れてしまったのです。ただ、ずっと付いていくには成績が足りなかったのです。
 レイは「教科書と参考書を端から端まで覚えれば塾は必要ないだろ」と言って、それを実践しています。受け取って真っ先に頭に叩き込みました。県内トップクラスの高校に無理なく進めたのに対して、サラはランクを下げざるをえなかったのです。

「マミちゃんとマヤちゃんなんてどう~?」
「なんでそんな近場で見つけ出そうとするんだ?」

 マミとマヤは、サラの家の向こう側に引っ越してきた家の双子の姉妹です。学校がサラと同じなので、その三人はわりと仲よしです。マイとエリカもそこに加えてもらうことがあります。

「俺のことは別にいいんだよ。お前は彼女とうまくいってるんだろ?」
「もちろん」
「それなら仲よくやってくれ。弟が彼女に刺されたとか嫌だからな」
「やめてよ。刺されるなら兄貴のほうが可能性高いだろ? 断られた子にブスッと」
「大丈夫だ。きちんと説明してるから」
「どうやって?」
「今は恋愛に時間を使うつもりはないと」
「そう言われたらそれ以上言えないね」

 県内トップクラスの公立高校でトップクラスですので、レイがそう口にしてもおかしくはありません。実際にレイがそう思っていることも間違いではないんです。主にサラが原因で。
 サラが自分のことを気にかけていることはレイにもわかっています。ただ、どうしても恋愛対象と見ることができないんです。レイからすると、サラは妹のようなものですからね。
 そうはいっても、そのサラを放っておいて別の女の子と付き合うというのは、レイには難しいのです。どうしようもありませんね。器用そうに見えても、そんなに器用じゃないんですよ。

「そういうわけで、これまでと同じだ」

 レイはやや強引に話を切りました。それからは日が変わるまで六人はレイの部屋でダラダラとテレビを見たりゲームをしたりして過ごしました。

 それから一〇年少々が経ち、三〇を前にしてサラとレイが亡くなります。残った四人は年末に集まって二人の冥福を祈るとともに、来世で再会できますようにと願ったのでした。
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