異世界は流されるままに

椎井瑛弥

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第3章:冬の終わり、山も谷もあってこその人生

第22話:後始末は丸投げ

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「止まれ!」

 門のところにいた衛兵が、人を小脇に抱えて走ってきたレイを見て不審な顔をしました。ステータスカードのチェックがありますので、レイは盗賊を下に置いてステータスカードを出しました。

「そいつは……なんだ?」
「これは盗賊団の生き残りです。三〇人ほどいたので潰しました。今から冒険者ギルドに報告してくるので、関係のある場所に連絡を頼めますか? 詳細はそのメモに」
「盗賊団? わかった。そいつは任せてくれ」

 サラからメモを受け取った衛兵は内容をざっと確認すると、盗賊を担いで詰め所の方へ走っていきました。そのメモは、レイが盗賊から聞き出した情報をシーヴとサラに伝え、それを二人が紙に書き留めたものです。
 レイたちはそのまま走って冒険者ギルドに駆け込みまました。

「ど、どうされましたか?」

 いつもはのんびりとやって来るレイたちが駆け込んできたので、職員のパーシーは何があったのかと立ち上がりました。

「こちら処理をお願いします。ここから先はすべてギルドにお任せしますね」

 シーヴが盗賊たちのステータスカードが入った袋とメモをパーシーに渡しました。

「これ——ッ! は、はい、すぐに手続きをいたします」

 パーシーはステータスカードを確認すると、袋を持って窓口を離れました。

「いやあ、久しぶりに全速力で走ったね」
「さすがに疲れたな」
「レイは人を担いでいたから余計にでしょう」
「まだまだ大丈夫です」

 ざわつくロビーですが、四人は特に慌てた様子でもなく、のんびりと休憩しています。しばらくするとパーシーが四人の前に戻ってきました。

「申し訳ありません。ギルド長がみなさんと少し話がしたいということですが、お時間はいかがですか?」

 レイはシーヴを見ます。彼女がうなずいたのを見て、レイは話をすることに決めました。

「大丈夫です。細かな事情の説明もありますし」

 レイがそういうとサラたちもうなずきます。

「ではその間に報告と報酬の手続きなどを行います。みなさん、ステータスカードを出していただけますか? 手続きを済ませておきますので」

 別の職員の案内で、レイたちは二階にあるギルド長室へと案内されました。

 ◆◆◆

「ここのギルド長のジュードだ。去年からあいつらには悩まされていた。感謝する」
「いえ、こちらも少々縁がありまして」
「ほう」

 どうせならまとめて話しておいたほうがいいだろうと、レイは自分がギルモア男爵の息子であることを明かした上で、シーヴとラケルのことも一緒に伝えておくことにしました。
 話を聞いていたジュードは腕組みしながら何度もうなずいていましたが、バートの話を聞くと顔をしかめました。

「そうか。領主様は少し甘いところがあるからな」
「お会いしたことはないのですが、そのような方ですか?」
「ああ。さとせば必ずわかってくれるというのが領主様の考え方だ。世の中には殴られなければ理解できないバカもいるんだがな」

 いかにもギルド長らしい言い方です。ですが、冒険者やるか、冒険者できない、というように、冒険者が誰にでも就ける数少ない仕事だということは事実なんです。

「とりあえず調査が終わったら俺から領主様に報告する。向こうに届くまでしばらくかかるが……どうする? ここを離れておくか?」
「領主様から追っ手を差し向けられるとかですか?」

 どういう意味で聞かれたのかわからなかったので、レイはそう聞き返しました。

「いやいや、普通の頭をしていたらそんなバカなことは考えないだろう。領主様の跡取り息子が、ということなら身分の上下もあって面倒なことになりかねないが、盗賊に成り下がった甥孫ではな。でもまあ……どんなことでも可能性はゼロじゃないってことだ」

 バートはアシュトン子爵の甥孫にすぎません。その彼が盗賊団のリーダーになり、ギルモア男爵の息子で冒険者をしているレイに討伐されたというだけです。逆恨みするのは筋が違います。ただし、理屈ではなく感情で動く可能性がゼロではないかもしれない。ということです。
 あるいは、子爵自身は何もしなくても、バートの身内が何かしかけてくる可能性もゼロではありません。腐っても大商会の商会長の弟です。
 そのようなこととは関係なく、盗賊団が放っていた斥候が街中に潜んでいる場合もあります。レイたちには【索敵】がありますので大雑把に襲撃は把握できますが、レーダーほど確実ではないのです。

「王都に向かう途中でしたので、明日にでも南に向かいます」
「そうだな。ダンカン男爵領に入ってしまえば大丈夫だろう」

 ここは領境の町なので、町から少し離れれば魔物が多く、狩り場にぴったりだと思っていただけです。領境の町ならダンカン男爵領の一番北にあるアクトンでも同じで、活動を領境のこちら側から向こう側に移すだけの話ですね。
 そもそもが盗賊団のせいで魔物肉が足りないという話を聞いて活動していただけですので、問題が解決されるのならこの町にいる必要はないのです。

「失礼します。報奨金をお持ちしました」

 パーシーがトレイに金貨と銀貨と銅貨を乗せて運んできました。

「ステータスカードをお返しします。今回の討伐依頼の分も足してあります」
「ありがとうございます……おっ、ランクが上がった。みんなも上がったんじゃないか?」

 レイの言葉を聞いて三人もステータスカードを見ます。

「私も上がった」
「私も上がりましたね」
「私もです」

 レイがC、サラがD、シーヴがB、ラケルがCになりました。

「レイは二つ?」

 羨ましいと思ったわけではなく、純粋な疑問としてサラはそう聞きました。

「みたいだな。ジュードさん、一緒にやってたのにこんなことってあるんですか?」

 二つ上がって嬉しい以前に、同じように活動していて違いが出るのかという疑問です。

「リーダーとしてみんなの命を預かってるからだろう。メンバーに指示を出したり何かを決めたり、そういうことをすると上がりやすいとは聞く。神様は見てるんだろうさ」

 ジュードはニカッと笑いながらレイに返しました。

「兵士の詰め所のほうにも報告をしてくださったようで、向こうからも連絡が来ました。討伐隊を組んで盗賊の根城に向かうことになったそうで、ギルドからも増援を出すことになりました」
「ありがとうございます。俺たち四人だけではどうしようもありませんので」

 パーシーの説明では、兵士の詰め所から冒険者ギルドへ討伐隊編成の話が届きました。そこでギルドが急遽冒険者を集め、兵士たち一緒に森へ向かう準備を進めているということです。
 レイたちは盗賊のステータスカードを提出したときに、自分たちはここまでだと伝えています。仮に根城で金貨がザクザク見つかっても、自分たちは銅貨一枚すら求めないと。
 四人が盗賊を退治したとき、金目のものだけは奪っておきました。大したものはありませんでしたが、銅貨と銀貨、それにそこそこの見た目のナイフが一本見つかっています。それらは救出された女性たちの生活費に充ててほしいと伝えています。
 それ以外には、バートが持っていた高そうな剣がありました。腐ってもCランクパーティーでリーダーをしていましたので、それなりに見栄を張っていたのでしょう。その剣はステータスカードと一緒にオグデンに送ってもらうことにしました。持っていてもレイは使わないでしょうし、使いたくもありませんからね。

「すみませんが、後片付け遺体の処理もお願いします。倒してステータスカードだけ持ってそのまま戻ってきましたので」

 盗賊たちの死体はそのまま森の近くに放置してきました。放っておくと場合によってはアンデッドになることがありますので、【浄化】だけはかけておきました。ただ、マジックバッグに入れて持ち帰るのだけは抵抗がありました。

「しかしまあ、登録してから三か月も経たずにCランクか。期待の若手だな」

 ジュードがレイを見ながらつぶやきます。

「やっぱり早いですか?」
「いなくはないが、少ないな。一つ二つは修羅場を超えないと、なかなかそこまで上げるのは無理だな。ただなあ、ポンポンと上がってしまって調子に乗ってると、なかなかBに上がれずに腐ってしまう場合もある。誰とは言わんが」

 ちょうどそのような元冒険者の盗賊を退治したばかりなので、レイにはジュードの言いたいことが痛いほどわかりました。

「若くしてSランクになりたいとか、そういう野望はないので大丈夫ですよ」
「まあ顔を見てる限りは大丈夫だな。ダメなヤツはすぐに顔に出る。向上心があるのはいいことだが、他人を妬み始めるとあっという間に転がり落ちるからな」
「肝に銘じておきます」

 話が一段落すると、ジュードは紙を取り出して何かを書き始めました。それを封筒に入れて封をします。

「俺からの紹介状だ。クラストンの冒険者ギルドに着いたら渡してくれ。優秀な新人だからいざとなれば頼れと書いておいた。内容はそれくらいだ」
「俺たちが頼るのではなく、頼られるんですか?」
「どんな町でも困ったことは起きる。そういう場合に頼れる冒険者がいると心強いものだ」
「そこまで頼りになりますかねえ」

 シーヴは以前にも冒険者をしていた経験がありますが、ラケルは去年からで、しかも何か月ものブランクがあります。レイとサラにいたっては今年になって冒険者になったばかりです。
 彼ら『行雲流水』はベテランでもなんでもありませんが、新人としては戦闘能力が飛び抜けて高いパーティーです。魔法も使いますが、基本的には全員で突撃することが多く、バランスの面でもけっしてよくありません。ただ、その戦い方がこの四人には妙にうまくはまっているんです。若い女性が多いと甘く見ていると足元をすくわれるでしょう。

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