異世界は流されるままに

椎井瑛弥

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第4章:春、ダンジョン都市にて

第18話:思いつきで行動した結果

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「内臓のストックが増えたな」
「ギルドも余り気味ですからね」

 ここしばらくのレイたちは、町から少し離れた場所でのグレーターパンダを狩っていましたが、他の魔物がいればもちろん狩ります。ハードアルマジロ、スパイラルディアー、ヒュージキャタピラー、ラインベアー、カラムベアー、タスクボアー、スピアーバード、などなど。他にはキノコ系の魔物もいます。
 魔物は冒険者ギルドのギルド長ザカリーとの約束で、一部は丸ごと売却し、一部は解体してから売り払っています。肉や骨は自分たちで使うために残してあります。問題は内臓など、肉以外の素材です。
 薬の材料となる魔物の内臓は、冒険者ギルドや薬剤師ギルドで買い取ってくれますが、この町はダンジョンがあって冒険者も多いので、魔物の素材の買い取り価格は低めになっている。スピアーバードの砂肝や大型の魔物の心臓などは食べればいいのですが、膵臓や肝臓、胆嚢などは薬にするしかありません。あまり売らないから溜まる一方になっています。

「マジックバッグの容量も無限じゃないからなあ……。明日にでも何か薬を作って減らそうか」

 レイは魔物を解体して内臓を触っているうちに【調合】というスキルが付きました。これは薬剤師や錬金術師などが使うスキルですが、あくまで一般スキルなので、誰でも身に付けられます。
 作りたい薬を頭に思い浮かべ、その薬についての十分な知識があり、その上で使われている材料を知っていれば、作り方が頭に浮かぶようになっています。場合によっては、詳しく知らなくても使ったことがあれば作れることもあり、その基準は誰にもわからないとされてします。
 いずれにせよ、魔力を込めればポンと煙が出て完成するようなものではありません。乳鉢や釜などを使って自分で作ってから瓶詰めなり乾燥なりする必要があります。すべて手作業です。それでも、道具があって知識があれば、お金になる薬が作れるわけです。

「収入を確保する手段ならいくつあってもいいよね」
「薬剤師ギルドの許可を取って販売しますか?」
「いや、そこまでは無理だろ。自分たち用でいいんじゃないか? ちょっと譲るくらいならできると思うけど」

 今のところレイのマジックバッグには余裕があります。さらにはサラもラケルもマジックバッグを持っていて、シーヴには【秘匿】という収納スキルがありますので、共有物の一部はそこに移し替えました。それでもグレーターパンダを二〇匹も入れるとあまり余裕がなくなってきました。そこで、内臓の在庫を減らすために薬を作るという考えにレイはたどり着いたのです。
 完成したものを店などで販売しようと思えば薬剤師ギルドに申請しなければなりませんが、個人で少量だけ売買する程度なら手続きはいりません。たとえばダンジョン内で怪我をしたパーティーに薬を売るのにギルドの許可は必要ないということです。
 そもそも、個人が大量に売ろうとしてもなかなか売れるものではありません。安いからと市場の屋台に並んでいる薬を買いたいとは思わないでしょう。効き目の悪い薬を売りつけられはしないかと考え、普通なら薬屋に買いにいくものです。

「何ができるのです?」
「下級の体力回復薬と毒消し、それに痛み止めと媚薬だな」
「なんで媚薬なんて作れるの?」
「媚薬って名前になってるけど、基本はエナジードリンクと同じだからな」

 媚薬は惚れ薬ではなく、興奮剤に近いものです。栄養補給成分も入っています。頑張るなら必要ですよね。

「ご主人さま、胸を大きくする薬は作れないです?」
「今のところは無理だなあ。それにそんな薬があったら大変なことになるぞ。あと、揉みすぎるとまた痛くなるぞ」

 残念ながらレイの頭の中にはありません。【調合】を使うには、作りたいものを頭に思い浮かべなければなりません。レイはバストアップ用のサプリを買ったことがありませんので、どのような成分が必要なのかがわからないのです。
 体力回復薬や媚薬が作れるのは、コンビニや薬局でエナジードリンクやちょっとお高めの栄養ドリンクを口にしたことがあったからです。
 そうはいっても、シュンとしたラケルを放っておくことはできなかったので、「できるようになったら作ってやるから」とレイは声をかけました。

「薬剤師ギルドに行って、道具を買ってから帰る。みんなはどうする?」
「私は先に戻りますね」
「私も戻っとく。ラケルも一緒に戻るね」
「私もです?」
「そうそう。ちょっと頼みたいことがあるから」

 頭の上にクエスチョンマークが現れたラケルに向かって、サラが手を合わせてお願いしました。

「ああ、戻ってくれていいぞ。そこまで行くだけだから」
「わかりましたです」

 レイは一人で薬剤師ギルドに向かいました。歩き去るレイを見てからシーヴが口を開きます。

「どう思います?」
「五分五分かな」
「何がです?」
「レイって一人で出歩くと、わりといいことが起きるんだよ」

 サラはレイの「いいこと貯金」について説明します。レイ自身は少し苦労しますが、結果として誰にとってもいい結果になると。

「だから奴隷商には一人で行かせたんだよね」
「それで私はご主人さまに買われたのです?」
「その可能性もあるってこと。結果として私たちには優秀な盾役が見つかったし、ラケルはいい主人に出会えたし、あの男にやり返せたし、奴隷商は奴隷が売れたし、誰も困ってないでしょ?」
「やっぱりご主人さまはすごい人です!」

 ラケルの中でレイの評価はとてつもなく高いところまで上がっていますが、この瞬間にさらに一段階高くなりました。

 ◆◆◆

「いらっしゃいませ~」

 カウンターの外にいた女性職員がレイを見て声をかけました。その職員を見たレイの頭には「安産型」という言葉が浮かびました。胸を大きくするとか揉むとか媚薬とか口にしたせいか、どうも考えがエロ方面を向いてしまったようです。レイは慌てて頭から邪念を追い出しました。

「すみません。調合の器具が欲しいんですけど」
「あれ? 初めての方でした?」

 職員はレイを見たことがあったようです。薬剤師ギルドに来るのは薬を作る仕事をしている人がほとんどです。レイのように素材を売る冒険者もいますが、この町では魔物の素材が余り気味なので、解体してもそれほど高くなりません。だから冒険者ギルドに丸ごと売るパーティーがほとんどです。

「いえ、ギルドに登録はしてますし素材を売ったこともあります。【調合】があるけど使ったことがなくて、ちょっとやってみようかなと」

 レイはステータスカードを見せながら説明しました。

「それでしたらそちらの棚のところへどうぞ」

 職員は乳鉢と乳棒が並んでいるあたりを差してレイを案内しました。そこには内側が滑らかなもの、荒くなったもの、そしてすり鉢のように筋が入ったものなど、いろいろな種類の乳鉢がありました。

「それでは説明は私ダーシーが担当します」

 ダーシーと名乗った職員は背筋をピンと伸ばし、敬礼をしました。

「どうしてそんなにやる気なんですか?」
「この時間帯はお客さんはあまり来ませんからね。少々退屈で~」

 言外に暇つぶしだと伝えるダーシーを見て、なかなかいい性格をしているとレイは思いました。逆に裏表がなさそうで信用できそうだとも。

「何を調合するかにもよりますが、すり潰す素材の硬さによって道具を分けるのが一般的です。ちなみにお店を始められるとか?」
「いえ、個人用です。体力回復薬がメインになりそうです」
「それならあまり大きくないほうがいいですね。業務用なら大きめをオススメしますが」

 そう言いながらダーシーは、内径が二〇センチほどの乳鉢を取り出しました。

「魔物の内臓や薬草なら、底が丸いものが一般的です。角や骨などの固いものなら、このような深くて底が平らな花崗岩や真鍮でできているものが飛び散らなくて便利ですよ~」
「なるほど」

 レイは手渡された道具を順番に確認していきます。

「薬草や内臓は、最初はほんのちょっとだけ水を加えて練るようにして、それから様子を見ながら水を少しずつ加えながら加えてください。それと、最初のうちはきちんと素材の重さをはかってくださいね。大切なのは使う素材の比率です。慣れれば目分量で大丈夫かもしれませんが、とにかく最初は慎重にやってください」
「比率が大切ってことは、水分量は関係ないってことですね?」
「はい。でも、多すぎたら煮詰める必要がありますので、それはそれで手間です。あとから水を足す方が楽ですよ」

 レイは質問しつつメモをとります。

「すべてを一つにまとめて火にかけます。成功していればおりが沈んでいって澄んだ液体になります。比率が間違っていると濁ったままです。それではそれぞれの素材が最初から持っている効き目はあるだけで、強い効果は出ません」

 正しい比率で組み合わせると、一〇足す一〇が一〇〇にも一〇〇〇にもなります。比率がおかしいと、一〇足す一〇は二〇でしかありません。

「ここに見本の色があります。この色よりも薄ければ、さっき言ったように煮詰めます。濃ければ水を足します。そのようにして調整してください。もし面倒なら量の増減でもかまいません」
「それでもいいんですね」
「はい。回復量さえ違わなければ大丈夫です」

 薬は濃度を変えても比率さえ合っていれば問題ありません。濃ければ薄める、薄ければ煮詰める。そのようにして薬瓶一本で体力が五〇回復するように調整します。それが面倒なら、濃ければ少し少なめに、薄ければ少し多めに入れれば結果として同じ分だけ回復するポーションができます。雑いですが、そういうものなんです。

「煮出したものはこのような目の細かい布で漉してください。残りカスは使い道がありません。無理してギュッと搾ると余分なものが薬に入ります。もったいないと思っても自然に落ちた分だけにしたほうがいいですね」
「わかりました」

 搾れば量は増えますが、カスが入ってしまうことがあります。薬草や魔物の内臓をすり潰したものですので、苦いんです。

「錠剤にするにはこちらの凝固剤を混ぜて固めてください。素材はデンプンが中心です。通常はこれくらいのサイズの錠剤を作ります」

 ダーシーが取り出したサンプルは、長さ一センチ程度のタブレットです。型に押し込んで取り出します。

「液体の量のわりには粒が小さい気がするんですけど」
「そういうものです。そのための凝固剤です」

 不思議な力で水分を吸収してくれるんです。ファンタジー素材の一つだと思ってください。

「ポーションはこのような薬瓶とコルクが一般的です。見栄えの問題でガラスを選ぶ人もいますが、値段が全然違います。錠剤なら薬壺で大丈夫ですよ」
「それならそのオススメでそれぞれください」
「はい、ありがとうございます。うまく完成したら教えてくださいね」

 レイは薬瓶とコルクのセットと薬壺を二〇ずつ、さらに錠剤を作るための型や凝固剤など、一式を購入しました。

 ◆◆◆

「大丈夫だった?」
「何がだ?」
「何もなければいいよ」

 サラにはレイが薬剤師ギルドで優秀な人材を引っかけてきたらいいと考えていましたが、残念ながらそうはなりませんでした。ところが、これがきっかけでレイは一つ仕事を得ることになります。

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