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私でない人を愛している夫は、もう要りません──!

前編

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 私には、心から愛する夫が居る。

 私たちの出会いは、あるパーティー会場で……私が彼に見初めらた事で、あれよあれよという間に婚約まで話が進んだのだ。

 そしてその後、彼の母にも紹介され……私達は結婚したのだった。



 結婚後も、夫は私をとても大事にしてくれる。

 だから私は、毎日がとても幸せだった。

 でも……時々ふと、心の中にある疑問が浮かんでくるのだ。



 彼は、私のどこに一目惚れをしたと言うのだろう──?

 私は、特別美しい容姿をして居る訳ではない。

 とても、殿方に一目惚れされるような女では……。



 あのパーティー会場には、他にもっと美しい娘が何人も居た。

 なのに彼は、最初から私しか見えなかったと言って、求愛して来たのだ──。



 そんなある日の事──。

 私は夫の誕生日の贈り物を買う為に、町に出ていた。

 そしてある店の前を通り過ぎた時、自身の名を呼ばれたのだ。


 
 その声は、愛する夫のものだった。
 
 ただ……その声は何だか、いつもより甘い気がした──。



 私は振り返り、彼の元へ駆け出そうとした、が……私の足は、地面に張り付いたように動かなかった。

 店から出てきた夫が見知らぬ女と腕を組み、笑って居たからだ。



「少し早いけれど、誕生日おめでとう。これ……あなたにあげるわ」

「嬉しいよ、ありがとう」

「ウフフ……奥さんよりも、先に渡せて良かった」



 そして夫は……再び私の名を呼び、彼女を抱き締めた。



 待ってよ……あれは、彼女の名を呼んだのよね?
 
 と言うか、私と彼女は同じ名前なの?

 妻である私と、全く同じ名前の愛人──!?



 私の背中を、嫌な汗が伝った。

 そして私は……二人が去ったのを見計らい、その店に入った──。



 その後、夫の誕生日を祝う時がやって来た。



「はい、これ。誕生日のお祝いよ。私からだけど、受け取ってくれる?」

「勿論だよ、ありがとう」



 夫は私から受け取った包みを開けると、何の迷いも無く箱を取り出しその蓋を開けた。



「……指輪?」

「そうよ。そこに、あなたと私の名を刻んだの」



 すると彼は急に私から目を反らし……そしてその顔には、焦りの色が浮かんでいた。



「嬉しくなかった?」

「いや、そんな事はないが……」

「でも……そうよね。同じものが二つもあったら、どっちがどっちか分からなくなってしまうものね。本物の愛と偽物の愛の区別がつかなくなっては嫌だものね」



 私の言葉に、夫は焦った顔で椅子から立ち上がった。



「お、お前……どこまで知って──」

「何もかもよ。あなたのお母様に、全て聞いたわ──」
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