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3章 東西都市国家大戦編
番外編第2話 鯢の禊1
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A.D94年 トウキョウCN 統制論理機関タワー 執務室
「本日を以って、エドウィン・ローレンシュタイン君をNo4に任命。
交通局総括責任者、及び副司令官とする」
「謹んで拝命致します」
イヌカイ総司令の訓示にエドウィンが敬礼して応える。
20歳になり、CNとしては異例の出世。
約700万に及ぶ人の中における大都会で上り詰めた。
ただ、そこで動く様は時に足を着かせる実感が薄れる。
この世界は特殊極まるそれ。人、物の波は情報を介して
惑路い、見直すために水面で息継ぎする。
無数の中で蠢く野心、陰謀に翻弄されつつも踏み出す一歩。
たとえ何者に利用されようとも果たすべき役割と使命がある。
それこそが私が世界に対する統合という浄化だと思ったからだ。
A.D90年 サイタマCN 東竹山エリア
話は少し戻り、16歳だった時の事。
トウキョウ現地で実習生として滞在する事になる。
通常のCN加入従事者とは異なる門、有権者が見込みある者のみ
用意した特別枠の部署で、No直属の組織に行く。
向こうで行うべき任務を母に告げられた。
「エドウィン、トウキョウから連絡が入ったわ。
後10分でターミナルに送迎の人が来るらしいの」
「支度も全て準備し終えました。
向こうはどんな所なのか楽しみにしています!」
「ローレンシュタイン家はある意味、この日から始まるようなものよ。
だから、失礼のないようにね」
「理解しております、トウキョウに恥じる事のないよう精進し、
そして、サイタマを防衛し尽くしにゆきます」
これが私の居た家族の一様。
無理もない、ローレンシュタイン家は代々交通整備に大きく貢献して
当時は内心トウキョウに行く事を楽しみにしていた。
ここと大きく違うのは人口数だけでなく、技術や設備も先んじて
目を見張る様に期待をふくらませる。
どんな立場であれ若者なりの気持ちで歩幅を狭く歩いて外に出ると、
小さな足取りで姪がやってきた。
「あんちゃん、トウキョウにいっちゃうの?」
「ああ、向こうで仕事をする事が決まったんだ。
しばらくは会えなくなるな」
未成年者で仕事なんていう言い方も皮肉だ。
実際は18にならなければCNに従事する事ができない。
しかし、有権者の一族はそんな年功序列など全く意識の内にも入れず、
幼少より英才教育を施して将来に備えさせている。
言うまでもなく私もその1人で、一般と異なる仕事をさせられてきた。
5歳になる姪はまだ向こうには行けない。
A.D94年 トウキョウCN 手立エリア
そして、段取りも順調に私はエスカレーター式にNo4に就く。
父亡き後、交通局に精通する者はトウキョウでも中々現れずに、
逸早く実力者を置く必要があった。
直に教育を受けてきた自身がこの年齢で着任したのも跡継ぎか、世襲か。
あれ程まで数多い者がいるはずのここで敷かれたレールに乗るように、
運命という語で例えるだけだ。
サイタマと隣接するトウキョウ北部のエリアに到着。
20分かからずに自家製のビークルでやってきた。
性能も異常なく高磁力の機動は高速に動き、
古くから言い伝えられてきたリニアモーターカーの実現を
3CN間にのみ果たせられた。
(トウキョウを囲う2つのCN。
人員は昔からとうに補い合っていたわけだな)
祖父から都会の実情をよく聞かされてきた。
A.D紀元前から近隣の国は仕事の都合で行き来する光景が多く、
ドーナツ化によってそういった流れとなっていたという。
おそらくは宿賃貸であえて中心から避けて起きたと思われるが、
今の時代でさらにトウキョウの強硬さが分かる。
約300mまで延ばされた防壁はNo7による施作で、
トウキョアイトを現地で発掘、合金化した物で侵入を防いできた。
重役はほぼ有権者達ばかりで占められた実情も大層なもの。
彼ももう高齢で孫に後を継がせるようだ。私も同系列と言える。
曾祖母もNoに着任した経歴もあり、恥をかけられず。
歴代より構築された仕様を目前に、内心しつつ視ていた時。
「ウエッヒッヒィ」
「?」
トウキョウの市民達が数人近寄ってくる。
中年の男達が不審な笑い声をしながら聞いてきた。
「行脚さん、サイタマからの上がりなんですってぇ?」
「ええ、そうです。エドウィンと申します。交通局総括となりました。
不束者ですがよろしくお願いします」
「あんたもずいぶんと若いのに叩き上げられて大変だわぁ。
まあ、こっちも飯が食えればどこだろうと良いですがな。
でも、わしらもちょっと頼み事があるんでさぁ」
「と、言いますと?」
「最近、あんたらの周りでミールシーケンスの要求を過剰にしてくる
連中が増えているんですよ。これでも決定権はトウキョウ側で、
立場ってモンがあるんで、分からせてやって下さいな」
「身をわきまえずに一丁前に要求してくる連中もいますから。
サイタマモンに礼儀を叩きあげて下さいよぉ」
「ぐふふぅ、あくまでも管理者がコッチ、敷かれるのはソッチでさ。
なんてったってこっちは関東最大CNですからぁぁお」
「わしらトウキョウモンは合理的な連中ばっかりでっせぇ。
用意周到に配慮して下さいよぉっほお!」
「ガハハハハハハ!」
まるで冷やかしそのものな内容。
食料自給率が高いのを良い事に取り分をもっと高めろと言う。
支配下同然の立場であるサイタマとカナガワ者がトウキョウの一派に
選ばれた事を信用していないようだ。
反論はしない、結果を出さなければ言い分の通りにもなるから。
実力最重視のここで発揮する事こそ、何よりの道だ。
(私の家系は道路交通整備で成り立つ。
大昔からここへ絶えず貢献し続けてきた由縁がすでに在るわけだ)
よって、示しの一部が街中のあらゆる場所に複数の管として在中。
各地に配置しているのは一方通行駅なので、
今においては出身は出身地のみでラボリを行うのが常。
亡命しない限りCNに居続けるルールとなっている。
しかし、能力によっては同盟間で移籍する場合もあり、
ローレンシュタイン家がトウキョウの中枢に入れたのはこれが主だった。
エマージェンシームーヴシステム、サイタマとカナガワからトウキョウまで
連結する避難経路を先祖より構築されてきた。
直径10mの銀色チューブ状を都心部にまで向かうよう設計で、
敵性の侵略から回避するために瞬時に移動できる。
1車線にビークルは1機ずつのみ。
機体を磁力で浮かし、摩擦と衝突を起こさないように運ぶ。
理由は当然、武力強固なトウキョウへかくまうためで、
人を守る事を最優先に迅速な対応としてこのような設計にされる。
市民も定期避難訓練を行って、時間もかけずにここへ来られるのだ。
その流れが変わらずに、末裔の私にまで辿り着いた。
(道があるから人は動ける、常識だが間を整え続けるのも大事だ)
私の組織は軍事執行局と異なり、他を制圧できるほど強くない。
だが、流動さは生きてゆく上での奥の髄。
地形整備も生きるためには欠かせない要素の一部である。
交通とは人の通り道。
傍から観ればただそれだけの意味で、安全に通れるための場所。
水の様な潤滑さを示すのが交通局の務めだと教わってきた。
元は鉄道兵団、地権者の1人からCNの内部に定着してきた者だ。
空気を切る音のみ聴こえて宙を流れる。
これが行き来の理想として無駄を省く最高率の設計として組織を成立した。
A.D96年 統制論理機関タワー一室
この年、1つの転機が訪れる。
Noの定例会議はどこまでも内部事情ばかりの内容で、
私の身辺も常に見張られる様に配置制限をかけられてゆく。
No1からある要請を直に伝えられた。
「エドウィン君、中々良い働きぶりを拝見させてもらっておる。
交通局始まって以来の優秀ぶりだ」
「お褒めの言葉、大変光栄に存じます。
まだまだ不足もありますが、以ってこれからも精進致します」
「ふむ、物は相談だが、君の在籍はサイタマCNであるな。
ここトウキョウへ変更する気はないかね?」
「在住権をこちらに、ですか?」
「実は戸籍の附票で天主殻より問題を指摘されてな。
同盟CN間において別国でラボリを継続すると
P分配やMUFなど身を分けすぎた軋轢が生じるという。
よって、役員も全てトウキョウ籍として配置しろとの事だ。
できればトウキョウに籍を置いてほしい」
亡命の一種として身を寄せてほしいと催促された。
サイタマの身でトウキョウで活躍を続けると功績に偏りが表れて
リソースや利益率が外側へ漏れやすくなる。
家系をまるごとこちらの枠に固めたいようだ。
出世を考慮すれば、チャンスといえばチャンス。
しかし、サイタマに残る親族とも話をしなければならず。
ここを逃がせば、もう次は来なくなるだろう。
私の意思はその方向へ流れていった。
サイタマCN 東竹山エリア
「母上・・・私は・・・トウキョウに移籍します」
家族にはきちんと伝えてサイタマから離れる方針を打ち明ける。
もうここに戻らない主旨を簡潔にたどたどしく母に話した。
「いつかはその日がくると思っていたわ。
お前も父様と同じく、遠くで成果を上げようと決心したのね」
「・・・・・・」
すでにそうなるとばかりの言葉振りだ。
親と等しく向こうを目指す気持ちはとうに読まれていた。
「私の方からは何も言えない、自身の信じる道を行きなさい。
でも、いつでも帰って来られるよう部屋はまだ空けているから。
せめて、今日だけはここに居なさい」
「はい」
やりとりはそう長く続かずに終わる。
出世も人生の分かれ道とばかり静かに変化するものだろう。
今日はここで泊まっていく。
さすがに1日の間隔だけは許されて滞在。
最後の故郷を余韻しろなどという言い方も酷だが、
どんな立場であろうと育った地から離れる虚しさはぬぐいきれないものだ。
実家周辺は向こうと違って自然も少し見られる所。
ほんの少ししか離れていない場所にもかかわらず、景色の違いも気付ける。
最近はあまりゆっくりとできなかったゆえ、緑の反射光景が落ち着かせる。
(ここはまだ自然が残る所もあるな)
トウキョウはリフレッシュルームに生えてる大きな木だけ。
何というか、間があると思わず走りたくなってくる。
そういえば運動する機会も減少しがちで回ってこようと思ったら、
姪や友達の子がバケツに何か入れてきたようだ。
「サンショウウオか、こんな所にもいたとは」
近辺の池や沼から捕ってきたようだ。
確か両生類に属する生物で水辺にいるトカゲと似た物。
アメリアのゲッコと同じ体型なのはこういった生物をモデルにして、
スムーズなモーションを参考にしていたらしい。
かつて父も飼っていて大きな水槽の中に入れていた。
私は動物を飼う趣味はなく、人生から程遠い関係にあったはずだが。
「お兄ちゃんもほら、これ」
「わ、私も?」
1匹持っていけと言われた。
黒く、ぬめりのある艶やかな外見に、光すら吸い取りそうな感じだ。
父と同じ展開になるのも複雑な気持ちになりそうでこんなきっかけもあるか。
断るのも忍びなく、No権限で飼育の1つくらいは良いだろう。
御礼に私も何かあげようと思い、過去に使っていた物を差し出した。
カプッ
「サイズが合わないが、これを使ってくれ。
お前達が将来、同じ道を辿れるよう祈っている」
「いいな、いいなー!」
姪にベレー帽をわたして頭にかぶせる。
他の子にはワッペンを与えて類的な気持ちにさせる。
いつか同じ世界に入ってこられるのを願いつつ差し出した。
サイズまでは考えていないから仕方がない。
子ども達が大人の真似をして敬礼のポーズをする。
「オクニのためにっ!」
「ああ、御国のために」
同様に返して立場らしく示す。
別れの示しがこんな方法でしか表せられないが、
何もしないで終わるよりは良いだろう。
これといった珍しい事でもないが、自然の間の小さな出来事。
出てゆく前に与えたのは良かったと思う。
この子達の将来を守るためにも、今一度精気を入れ直して
トウキョウへ従属しにいった。
A.D97年 トウキョウCN 統制論理機関タワー一室
No達が集まり、会議を行う。
過去に行われた戦後処理の後片付けはまだ残り続けていた。
今後の配置について話し合う時。
人員が欠けたチームを補うのは主にPDで、男女均等配置法すら
追いつけずに能力を遺憾なく発揮しきれない者も多い。
私もグラハムも他地方への圧制を極力抑える努力を続ける。
このまま続けばトウキョウも綻びが生じてくる。
そこを突いてきたのはNo3のアメリアだった。
「第3001部隊から増設する?」
「そうよ、今いる人兵はそのままにして先の交戦で減った数を
PDで補給するの。リロケーション政策よ」
A.D50年の交戦で失ったリソースをアンドロイドで補うと言う。
ここ数年でシリコンで造られた人型も多くなっていた。
更なる発展で戦力は衰えずにトウキョウの硬さは維持。
ただ、気にかかる。
実働部隊にも大量投入する予定で人が介入する隙間も失う点があった。
「確認したところ、ライオットギア操縦者もPDがまかなう分隊もいる。
リソース分配で、防衛陣地側に人が担当する部分が少ない。
前線に出過ぎて人員の負担も増してしまう恐れもあるのでは?」
「あたしもそう思うわね、無機物を中枢部に設置する強固さも大きいし。
けれど、そのまま通すらしいのよ。
ターゲットの精密性より、人じゃなくAIの方が判断が速いと」
「情の入る余地もなく厳しい、どこの部署なんだ?」
「ここよ、統制論理機関による決定事項。
着任以来から構想してきた計画の実行時と総司令はおっしゃっている。
A.D10年から規定されている事だから変更できないの」
「そうか、ならばやむを得ない」
アンドロイド技術もかなり昔から供えられて、トウキョウも重要技術なる
一部だとAI深部を機密にしていたくらいだ。
最終決定権をもつNo1が決めた事は絶対。
彼女の言い分も理にかなって確かに効率的にも不足がなかった。
部屋から出て次の予定を念頭に入れる。
(ん、着任以来?)
ここである点に気が付く。
ふと足を止めて思い返すと、先の話で奇妙な部分を語っていた。
A.D10年から定められたのなら、着任よりいつ企画してたのか
成果経歴からNo1の身元も判明しているはずだ。
イヌカイ総司令の年齢、出身エリア、元の担当部署は全て不明。
それを総司令が決定したなら、先代もいつ居たのかも分かる。
しかし、本人の口ではなくアメリアが直接発言した事。
(あの女、No1について何か知っているのか?)
そうならば、出身不明のNo1がいつ就いたのかも分かるはずだ。
総司令が着任した経歴を何故No3が知っているのか?
もちろんヒストペディアにその類は載っていない。
この話はNo2、5、残る者達も知らないはず。
今思えば、トウキョウの最奥を思い知る機会はここで、
毒牙にかかる運命を抱えるとは思いもよらなかった。
「本日を以って、エドウィン・ローレンシュタイン君をNo4に任命。
交通局総括責任者、及び副司令官とする」
「謹んで拝命致します」
イヌカイ総司令の訓示にエドウィンが敬礼して応える。
20歳になり、CNとしては異例の出世。
約700万に及ぶ人の中における大都会で上り詰めた。
ただ、そこで動く様は時に足を着かせる実感が薄れる。
この世界は特殊極まるそれ。人、物の波は情報を介して
惑路い、見直すために水面で息継ぎする。
無数の中で蠢く野心、陰謀に翻弄されつつも踏み出す一歩。
たとえ何者に利用されようとも果たすべき役割と使命がある。
それこそが私が世界に対する統合という浄化だと思ったからだ。
A.D90年 サイタマCN 東竹山エリア
話は少し戻り、16歳だった時の事。
トウキョウ現地で実習生として滞在する事になる。
通常のCN加入従事者とは異なる門、有権者が見込みある者のみ
用意した特別枠の部署で、No直属の組織に行く。
向こうで行うべき任務を母に告げられた。
「エドウィン、トウキョウから連絡が入ったわ。
後10分でターミナルに送迎の人が来るらしいの」
「支度も全て準備し終えました。
向こうはどんな所なのか楽しみにしています!」
「ローレンシュタイン家はある意味、この日から始まるようなものよ。
だから、失礼のないようにね」
「理解しております、トウキョウに恥じる事のないよう精進し、
そして、サイタマを防衛し尽くしにゆきます」
これが私の居た家族の一様。
無理もない、ローレンシュタイン家は代々交通整備に大きく貢献して
当時は内心トウキョウに行く事を楽しみにしていた。
ここと大きく違うのは人口数だけでなく、技術や設備も先んじて
目を見張る様に期待をふくらませる。
どんな立場であれ若者なりの気持ちで歩幅を狭く歩いて外に出ると、
小さな足取りで姪がやってきた。
「あんちゃん、トウキョウにいっちゃうの?」
「ああ、向こうで仕事をする事が決まったんだ。
しばらくは会えなくなるな」
未成年者で仕事なんていう言い方も皮肉だ。
実際は18にならなければCNに従事する事ができない。
しかし、有権者の一族はそんな年功序列など全く意識の内にも入れず、
幼少より英才教育を施して将来に備えさせている。
言うまでもなく私もその1人で、一般と異なる仕事をさせられてきた。
5歳になる姪はまだ向こうには行けない。
A.D94年 トウキョウCN 手立エリア
そして、段取りも順調に私はエスカレーター式にNo4に就く。
父亡き後、交通局に精通する者はトウキョウでも中々現れずに、
逸早く実力者を置く必要があった。
直に教育を受けてきた自身がこの年齢で着任したのも跡継ぎか、世襲か。
あれ程まで数多い者がいるはずのここで敷かれたレールに乗るように、
運命という語で例えるだけだ。
サイタマと隣接するトウキョウ北部のエリアに到着。
20分かからずに自家製のビークルでやってきた。
性能も異常なく高磁力の機動は高速に動き、
古くから言い伝えられてきたリニアモーターカーの実現を
3CN間にのみ果たせられた。
(トウキョウを囲う2つのCN。
人員は昔からとうに補い合っていたわけだな)
祖父から都会の実情をよく聞かされてきた。
A.D紀元前から近隣の国は仕事の都合で行き来する光景が多く、
ドーナツ化によってそういった流れとなっていたという。
おそらくは宿賃貸であえて中心から避けて起きたと思われるが、
今の時代でさらにトウキョウの強硬さが分かる。
約300mまで延ばされた防壁はNo7による施作で、
トウキョアイトを現地で発掘、合金化した物で侵入を防いできた。
重役はほぼ有権者達ばかりで占められた実情も大層なもの。
彼ももう高齢で孫に後を継がせるようだ。私も同系列と言える。
曾祖母もNoに着任した経歴もあり、恥をかけられず。
歴代より構築された仕様を目前に、内心しつつ視ていた時。
「ウエッヒッヒィ」
「?」
トウキョウの市民達が数人近寄ってくる。
中年の男達が不審な笑い声をしながら聞いてきた。
「行脚さん、サイタマからの上がりなんですってぇ?」
「ええ、そうです。エドウィンと申します。交通局総括となりました。
不束者ですがよろしくお願いします」
「あんたもずいぶんと若いのに叩き上げられて大変だわぁ。
まあ、こっちも飯が食えればどこだろうと良いですがな。
でも、わしらもちょっと頼み事があるんでさぁ」
「と、言いますと?」
「最近、あんたらの周りでミールシーケンスの要求を過剰にしてくる
連中が増えているんですよ。これでも決定権はトウキョウ側で、
立場ってモンがあるんで、分からせてやって下さいな」
「身をわきまえずに一丁前に要求してくる連中もいますから。
サイタマモンに礼儀を叩きあげて下さいよぉ」
「ぐふふぅ、あくまでも管理者がコッチ、敷かれるのはソッチでさ。
なんてったってこっちは関東最大CNですからぁぁお」
「わしらトウキョウモンは合理的な連中ばっかりでっせぇ。
用意周到に配慮して下さいよぉっほお!」
「ガハハハハハハ!」
まるで冷やかしそのものな内容。
食料自給率が高いのを良い事に取り分をもっと高めろと言う。
支配下同然の立場であるサイタマとカナガワ者がトウキョウの一派に
選ばれた事を信用していないようだ。
反論はしない、結果を出さなければ言い分の通りにもなるから。
実力最重視のここで発揮する事こそ、何よりの道だ。
(私の家系は道路交通整備で成り立つ。
大昔からここへ絶えず貢献し続けてきた由縁がすでに在るわけだ)
よって、示しの一部が街中のあらゆる場所に複数の管として在中。
各地に配置しているのは一方通行駅なので、
今においては出身は出身地のみでラボリを行うのが常。
亡命しない限りCNに居続けるルールとなっている。
しかし、能力によっては同盟間で移籍する場合もあり、
ローレンシュタイン家がトウキョウの中枢に入れたのはこれが主だった。
エマージェンシームーヴシステム、サイタマとカナガワからトウキョウまで
連結する避難経路を先祖より構築されてきた。
直径10mの銀色チューブ状を都心部にまで向かうよう設計で、
敵性の侵略から回避するために瞬時に移動できる。
1車線にビークルは1機ずつのみ。
機体を磁力で浮かし、摩擦と衝突を起こさないように運ぶ。
理由は当然、武力強固なトウキョウへかくまうためで、
人を守る事を最優先に迅速な対応としてこのような設計にされる。
市民も定期避難訓練を行って、時間もかけずにここへ来られるのだ。
その流れが変わらずに、末裔の私にまで辿り着いた。
(道があるから人は動ける、常識だが間を整え続けるのも大事だ)
私の組織は軍事執行局と異なり、他を制圧できるほど強くない。
だが、流動さは生きてゆく上での奥の髄。
地形整備も生きるためには欠かせない要素の一部である。
交通とは人の通り道。
傍から観ればただそれだけの意味で、安全に通れるための場所。
水の様な潤滑さを示すのが交通局の務めだと教わってきた。
元は鉄道兵団、地権者の1人からCNの内部に定着してきた者だ。
空気を切る音のみ聴こえて宙を流れる。
これが行き来の理想として無駄を省く最高率の設計として組織を成立した。
A.D96年 統制論理機関タワー一室
この年、1つの転機が訪れる。
Noの定例会議はどこまでも内部事情ばかりの内容で、
私の身辺も常に見張られる様に配置制限をかけられてゆく。
No1からある要請を直に伝えられた。
「エドウィン君、中々良い働きぶりを拝見させてもらっておる。
交通局始まって以来の優秀ぶりだ」
「お褒めの言葉、大変光栄に存じます。
まだまだ不足もありますが、以ってこれからも精進致します」
「ふむ、物は相談だが、君の在籍はサイタマCNであるな。
ここトウキョウへ変更する気はないかね?」
「在住権をこちらに、ですか?」
「実は戸籍の附票で天主殻より問題を指摘されてな。
同盟CN間において別国でラボリを継続すると
P分配やMUFなど身を分けすぎた軋轢が生じるという。
よって、役員も全てトウキョウ籍として配置しろとの事だ。
できればトウキョウに籍を置いてほしい」
亡命の一種として身を寄せてほしいと催促された。
サイタマの身でトウキョウで活躍を続けると功績に偏りが表れて
リソースや利益率が外側へ漏れやすくなる。
家系をまるごとこちらの枠に固めたいようだ。
出世を考慮すれば、チャンスといえばチャンス。
しかし、サイタマに残る親族とも話をしなければならず。
ここを逃がせば、もう次は来なくなるだろう。
私の意思はその方向へ流れていった。
サイタマCN 東竹山エリア
「母上・・・私は・・・トウキョウに移籍します」
家族にはきちんと伝えてサイタマから離れる方針を打ち明ける。
もうここに戻らない主旨を簡潔にたどたどしく母に話した。
「いつかはその日がくると思っていたわ。
お前も父様と同じく、遠くで成果を上げようと決心したのね」
「・・・・・・」
すでにそうなるとばかりの言葉振りだ。
親と等しく向こうを目指す気持ちはとうに読まれていた。
「私の方からは何も言えない、自身の信じる道を行きなさい。
でも、いつでも帰って来られるよう部屋はまだ空けているから。
せめて、今日だけはここに居なさい」
「はい」
やりとりはそう長く続かずに終わる。
出世も人生の分かれ道とばかり静かに変化するものだろう。
今日はここで泊まっていく。
さすがに1日の間隔だけは許されて滞在。
最後の故郷を余韻しろなどという言い方も酷だが、
どんな立場であろうと育った地から離れる虚しさはぬぐいきれないものだ。
実家周辺は向こうと違って自然も少し見られる所。
ほんの少ししか離れていない場所にもかかわらず、景色の違いも気付ける。
最近はあまりゆっくりとできなかったゆえ、緑の反射光景が落ち着かせる。
(ここはまだ自然が残る所もあるな)
トウキョウはリフレッシュルームに生えてる大きな木だけ。
何というか、間があると思わず走りたくなってくる。
そういえば運動する機会も減少しがちで回ってこようと思ったら、
姪や友達の子がバケツに何か入れてきたようだ。
「サンショウウオか、こんな所にもいたとは」
近辺の池や沼から捕ってきたようだ。
確か両生類に属する生物で水辺にいるトカゲと似た物。
アメリアのゲッコと同じ体型なのはこういった生物をモデルにして、
スムーズなモーションを参考にしていたらしい。
かつて父も飼っていて大きな水槽の中に入れていた。
私は動物を飼う趣味はなく、人生から程遠い関係にあったはずだが。
「お兄ちゃんもほら、これ」
「わ、私も?」
1匹持っていけと言われた。
黒く、ぬめりのある艶やかな外見に、光すら吸い取りそうな感じだ。
父と同じ展開になるのも複雑な気持ちになりそうでこんなきっかけもあるか。
断るのも忍びなく、No権限で飼育の1つくらいは良いだろう。
御礼に私も何かあげようと思い、過去に使っていた物を差し出した。
カプッ
「サイズが合わないが、これを使ってくれ。
お前達が将来、同じ道を辿れるよう祈っている」
「いいな、いいなー!」
姪にベレー帽をわたして頭にかぶせる。
他の子にはワッペンを与えて類的な気持ちにさせる。
いつか同じ世界に入ってこられるのを願いつつ差し出した。
サイズまでは考えていないから仕方がない。
子ども達が大人の真似をして敬礼のポーズをする。
「オクニのためにっ!」
「ああ、御国のために」
同様に返して立場らしく示す。
別れの示しがこんな方法でしか表せられないが、
何もしないで終わるよりは良いだろう。
これといった珍しい事でもないが、自然の間の小さな出来事。
出てゆく前に与えたのは良かったと思う。
この子達の将来を守るためにも、今一度精気を入れ直して
トウキョウへ従属しにいった。
A.D97年 トウキョウCN 統制論理機関タワー一室
No達が集まり、会議を行う。
過去に行われた戦後処理の後片付けはまだ残り続けていた。
今後の配置について話し合う時。
人員が欠けたチームを補うのは主にPDで、男女均等配置法すら
追いつけずに能力を遺憾なく発揮しきれない者も多い。
私もグラハムも他地方への圧制を極力抑える努力を続ける。
このまま続けばトウキョウも綻びが生じてくる。
そこを突いてきたのはNo3のアメリアだった。
「第3001部隊から増設する?」
「そうよ、今いる人兵はそのままにして先の交戦で減った数を
PDで補給するの。リロケーション政策よ」
A.D50年の交戦で失ったリソースをアンドロイドで補うと言う。
ここ数年でシリコンで造られた人型も多くなっていた。
更なる発展で戦力は衰えずにトウキョウの硬さは維持。
ただ、気にかかる。
実働部隊にも大量投入する予定で人が介入する隙間も失う点があった。
「確認したところ、ライオットギア操縦者もPDがまかなう分隊もいる。
リソース分配で、防衛陣地側に人が担当する部分が少ない。
前線に出過ぎて人員の負担も増してしまう恐れもあるのでは?」
「あたしもそう思うわね、無機物を中枢部に設置する強固さも大きいし。
けれど、そのまま通すらしいのよ。
ターゲットの精密性より、人じゃなくAIの方が判断が速いと」
「情の入る余地もなく厳しい、どこの部署なんだ?」
「ここよ、統制論理機関による決定事項。
着任以来から構想してきた計画の実行時と総司令はおっしゃっている。
A.D10年から規定されている事だから変更できないの」
「そうか、ならばやむを得ない」
アンドロイド技術もかなり昔から供えられて、トウキョウも重要技術なる
一部だとAI深部を機密にしていたくらいだ。
最終決定権をもつNo1が決めた事は絶対。
彼女の言い分も理にかなって確かに効率的にも不足がなかった。
部屋から出て次の予定を念頭に入れる。
(ん、着任以来?)
ここである点に気が付く。
ふと足を止めて思い返すと、先の話で奇妙な部分を語っていた。
A.D10年から定められたのなら、着任よりいつ企画してたのか
成果経歴からNo1の身元も判明しているはずだ。
イヌカイ総司令の年齢、出身エリア、元の担当部署は全て不明。
それを総司令が決定したなら、先代もいつ居たのかも分かる。
しかし、本人の口ではなくアメリアが直接発言した事。
(あの女、No1について何か知っているのか?)
そうならば、出身不明のNo1がいつ就いたのかも分かるはずだ。
総司令が着任した経歴を何故No3が知っているのか?
もちろんヒストペディアにその類は載っていない。
この話はNo2、5、残る者達も知らないはず。
今思えば、トウキョウの最奥を思い知る機会はここで、
毒牙にかかる運命を抱えるとは思いもよらなかった。
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