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3章 東西都市国家大戦編

        鯢の禊2

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A.D100年 トウキョウ湾

「「こちら490部隊、サイタマ兵4名ロストォ!」」
「「81名、重軽傷多数・・・意識不明の重体者も含め・・・ふくめェ」」
「「えお゛お゛お゛、どうして俺達ばかり前線に立たされるんだァ!?
  ライオットギアにも乗せてくれずゥ、盾にされてばかりィ!」」

 中部兵との戦闘で少しずつ失ってゆく同胞達の様を観て、
人造人間との入れ替わりを素早く、無機質に目の当たりにする。
人の数そのものは多い。しかし、多い分だけ肉と金属の代替がより分かる。
組織を固める再配置リロケーションの本質。
軍事リソースを金属体とエネルギーの尺度を踏まえ、効率よく備えさせる。
つまり、人員が減る度に分隊は全て機体に埋め尽くされてゆく。
超合理主義は生きる者を外側へ追いやるつくりなのが染みてくる。

(このままでは全員機械化される、PD計画がさらに増強し続ければ
 トウキョウから全て人がいなくなるかもしれない)

この疑念は当然すぐに消し伏せられるものではない。
No1は何をするつもりか、有機物より無機物を最優先するとばかり、
それから逃れられる術は全国CN統合。
他のNoにも公にできず、自身の組織だけで対応する必要があった。


交通局 管轄部署

「抜け道っすか?」
「トウキョアイト防壁外周のどこかにでもわずかな穴があれば知りたい。
 君は元、外地の者と聞いて参考をいにきた」

 部下のラメッシュは下層階の形状に詳しく、よく担当させていた。
鉄道兵団は区画整備も携わるが、現場確認はほとんど側近が行う。
私の権限でPDも制御許可させて自由に発言させる。

「う~ん、ナガノ、トヤマ、ニイガタルート方面なら多少のガタが。
 他はほとんど補修されてPDの配置も完璧っす」
「外周から唯一移動できそうな通路は下水道から外側のみ。
 A.D50年から完備漏れしていないエリアはありそうか?」
「え~と、ここくらいか。
 栖馬エリア近隣なら亡命させられそうっすね、ところで誰を?」
「スノウを中部のどこかへ移籍させる、
 トウキョウ民をできるだけ地方に分散させたい」

親族のスノウをここから出す事を案じた。
1:1法を抑える先駆けに、エマージェンシームーヴシステムを
中部方面に伸ばす計画も企てる。過去には実際に鉄道路線を現地まで
敷いていたようで、CN制定から大まか撤去されたようだ。
ただ、私が直に関与すると他Noにも察知されてしまう。
そこでさらにヴェインにも協力を要請した。

「私の入手した情報によりますと、No3は軍備計画局に要請をかけて
 何やら新たな企画を立てているらしいと」
「下層階の工房で大型ライオットギアを製造?
 先月、No1が受諾したプロジェクトしたものがそれか」
「サイズからして地上の区画に配置するのは明白で、
 交通局も幅を削られる恐れが生じるでしょう。
 我々も押し返せるよう対抗する必要性も出てくるわけです。
 そこについで・・・なのですが」
「分かっている、屈強な者を引き入れさせたいのだろう?
 見込みあるを分隊へ加入する方針も掛け合っておこう」
「ウホホ、承知しました」

男好きも兼ねて実行できるようだ。
ヴェインは軍備計画局の者だが、他の局にも根回しを施して
今の地位を獲得してきたようだ。トウキョウは本当に変わり者が多い。
彼にPD手動操作させて証拠は消しておく。
彼女が外地視察している隙にドキュメントを調べてみる。
上層階は危ういので下層階で落ち合い、まとめを手渡される。
中身を確認した時、私達は背筋に戦慄せんりつがよぎる。
結果は黒。
AIの行動処理プログラムが細かく書かれているのが見つかった。
安全理事局で規格されているはずのない技術まで記載。
アメリアは直にアンドロイド技術と携わっていた事になる。

「ああ、それでは中身を拝見させてもらおう・・・これは!?」
「私もある程度見回して第1世代らしきコードがある点に気付きました。
 どういう事でしょうか?」
「つまり、基礎技術は全てあの女が手掛けていた。なんという事だ・・・」
「これは大発見、もとい大問題では・・・ふふふ副司令ぃ――!?」
「待つんだ、これだけでは証拠不十分だろう。
 No1から教授されたと言われればそれまでだ、
 他の手口が見つかるまで保留しておくように」

もう少し泳げさせておけばさらなる企画が明らかになるはず。
ある程度までボロを出させてから失脚させられるだろう。
意外な事実にあっけにとられたものの、条件反射で行動するのは危険。
地方統合と平行して計画をゆっくりと進めていった。


 しかし、それから予想外な事が起こり始めた。
スノウが行方不明になり、全CN間で正体不明の装甲兵が徘徊し始め、
どこかからトウキョウのサーバーに侵入されてしまう。
敵性CNも短期間で東西にまで分けられ、
共喰いの如く火の粉を飛ばし始めた。

統制論理機関 会議室

「どうしてこんな事に・・・プロテクトを知るはずのない他地方から
 アッサリと解除されたなどありえん。基礎コードのみ知りえる
 サイタマでもカナガワでも不可能だ! 一体どこからだ!?」
「知らないわよ、他地方で同じマルウェアを使っているはずもないし!
 ある日突然PD経由で中に入られたんだから!」

No会議で怒鳴り合いが続く。
アブダクトされた軍備計画局の主任ですらそれはできないはずなので、
彼のせいにはできない。ありえるのはNoの上役人のみが知る方法だから。
彼らの顔をはっきりと見られずにうつむく。

(スノウにドキュメントを送信してからおかしくなり始めていった。
 あの内容に全てが、トウキョウが丸裸にされたのは私が・・・)

根拠は証明しきれないが、書類内にサーバー項目も記載されて
プログラム末端からコード越しに辿られてきたのだろう。
中央にいるイヌカイ総司令は長い眉毛で目を見せずに沈黙。
この件がNoに知られたら私は、ローレンシュタイン家は終わりだ。
アメリアはこうなるのを予測してあの話をもちかけたのか。
のうのうと泳がされていたのは私の方だった。


交通局 エドウィン自室

グリッ

「「こんなはずでは・・・こんな」」

 どこにいても気持ちは逃げられずに拳を握りしめる。
身から出た錆として返ってきてしまった。
後は1人ずつ精査されればいずれ私のところで発覚されるだけ。
今すぐにスノウと同じく他地方へ亡命しようか?
しかし、こんな状態で気も入れずに足がまともに動かせず、
思考も鈍いまま薄暗い部屋で嘆き続けていると。

ウィーン

「!?」

入ってきたのはアメリアだった。
23時を過ぎたにもかかわらずに静かに入室。
考えていた事を先回りしていたのか、居ても立っても居られずに
両手で肩をつかみ、彼女へ迫った。

ガシッ

「アメリア、本当の事を言え! お前はトウキョウの概要を・・・
 世界の成り立ちを全て熟知している者ではないのか!?」
「・・・・・・」

ガシッ ガシッ

4体のPDに逆につかまれて離される。
押し問答などできる立場もない、こんな状態でも真相を知るべく追及。
彼女は笑みを浮かべて正体を現した。


「うふふふ、やぶの多い所こそ爬虫類は過ごしやすいもの。
 でも、田舎もあまり好まないからあたしはここで暮らしてただけよ」
「やはり・・・実質、トウキョウを動かしてきたのはお前が――!」
「まあ、口を滑らせたあたしも悪かったけど、ここはお互い様という事で。
 でも、アンタだって公にできない事をしてるわよ?」
「どういう事だ?」
「部屋に配置していたAI制御装置を全部止めてわざわざ足を踏んで
 あたしの計画書を盗んだくらいだからぁ。でもソレ、国家機密レベルで
 下着泥棒の方がよっぽどマシなんじゃない?」
「な、何を根拠に――!?」
「あんたの配下が自白したの、トウキョウから人を逃がして
 勝手に敵性CNへ干渉させていたって」
「ぐっ!?」

独自調査していた件も気付かれてしまった。
ベルティナを揺動させて身辺調査させ、ヴェインの尻尾を辿ってきた。

「「あ、あれはお前が総司令の機密事項に関与する疑いで」」
「あたしは何も悪い事してないわよ?
 No1の出身について語っただけで、漏洩ろうえいに障るものじゃないわ。
 それこそ、アンタは明日の質疑応答で全てがさらされるわ」
「「ううっ」」
「そこで、話をもちかけにここへ来たの。
 まだ20代でどん底に落とされるのもイヤでしょ?
 あたしはヘビかもしれないけど鬼じゃないわ」
「「どうしろと?」」
「アンタの窃盗容疑は黙っててあげる、若い男は大好物だし。
 その代わりにあたしのクリエイト作をトウキョウに配置する
 計画にこぞって協力しなさい」

どんな物を造るつもりか、事もあろうか創造物などといった言い方。
トウキョウに籍を移せという件もこれが元だった。
身動きできない隙間から私の腰に手を回してさすり始める。
すでに拒否権すら無し、彼女の言うままに従う他になかった。
こんな関係になるとは想定の内にも入らず。
範囲の見えない大きな囲いで私は女の罠にかかり、手中に収められる。
次は何を言い出すのか予想もつかない、まだ他に何かあると思いきや
顔を横に向けて水槽を観て聞いてきた。

「あら、アンタ生き物なんて飼っていたの?」
「これはサイタマから持ってきただけだ・・・企てとなんら関係ない」
「そう・・・まあ良いわ。じゃあ、交渉成立という事で決まりよ。
 またいつか報告に来るから」

ウィーン

部屋から出ていく、短時間の密会に大きな気力を削がれた感じがした。
ヘビににらまれた両生類の様が今起きた出来事と重複。
この会話も全て消去されて隠滅される。
当然だ、データを詳細に制御していたのも全て彼女なのだから。


トウキョウCN甘谷エリア 兵器保管庫

 それからまたしばらくの日々を送る。
トウキョウの最奥を垣間見た私は地に着かない立場の様な仕事を行う。
一応、ローレンシュタインの銘柄めいがらは立場を保ち続けられ、
交通局保管庫の中でそれらの1つを薄目で眺める。
ここを守るという役目は変わらない。
今日は関東兵の侵攻を阻止するために新型を完成させた物に搭乗、
新たに差し出されたクリエイト物は支配下同然に設置された。

その名はサラマンダー、アメリアの創造品が完成した。
閉所戦闘用ライオットギアを交通局より設計、製造しろと迫られた物は
イヨから注文した黒曜石を合金化させた装甲、
トムから献上されたローズクォーツも関節部をより柔軟に変え、
彼女からめられる物質だと称えられた生物らしく成立。
意味は潤滑なる機動、アメリアの規格から少し異なる素材を用いているが、
特にアクチュエーターの構造が第4世代以上に複雑な構成。
これもクリエイト作の1つか、どこで学んできたのか世界の熟知者は
若造の私に想像しきれない存在をそびえ立たせた。

(クリエイト・・・生物・・・型の代替か)

これから自身も無機物の中でうごめき、生きる。
もし断ろうものならドキュメント流出を告訴されるに違いない。
生物を模したある観念を生み出させた。

「「ああ、そうか。サンショウウオ、それが私にとって相応しき在り方」」

長年忘れかけていた様を拝見と同時に思い返してゆく。
父はそれを示したくて飼っていたつもりだったのか。
考え過ぎだろう、アメリアの技術と多少類似していただけに違いない。

「「トウキョウ、摩天楼各所にゲッコを配置させている。
  あたしが完了の合図を出すまで兵器を展開継続、
  予定通りアンタは地上区域を防衛していなさい」」
「了解した・・・」

あの時、彼女を告訴していたら違った結末になったのか。
これは共犯、罪とけがれを落とすにはこれらによる方法でしかない。
アメリアの案じたサンショウウオでここを守らなければならない。
交通とは円滑に進めるための組織であるべきだと思い直す。

(ドーナツ化、円滑・・・ああ、そうだ。
 囲いがあるから何でも物と事は運ばれる、頂点など一角に過ぎず)

追加して言い直せば、組織体制は器があるからこそ成立できるもの。
どれだけ狭かろうとわずかな隙間すら通り抜ける道を築く。
よって、水陸両用生物として私はこうするしかなかった。
もう関東兵はここや古宿エリア付近まで来ている。
願うだけの平和はもう叶わない。
それでも未知なる者に従い、隷属れいぞくされようとも私はここに居る。
トウキョウを守り、そして無機物らしい手で支配統合を円滑に行い、
人の存在を実行して家を継がねばならないのだ。


「サラマンダー、これより関東兵を対処するフェイズへ移行。
 大人しく投降したまえ」
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