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第六章 展開

6.15 予期せぬ特別

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 美しい庭園でのひと時を見事にぶち壊してくれたフニオをマロンは責めるけど。
 そのきっかけを最初に作ったのは、私だ。
 だから私が……、悪い、のかなぁ、そうなのかなぁ。

「ウチの聖獣がなんかスミマセン」という気持ちで謝る。
「致し方ない。これは予期せぬ事故だ」とナイスなフォローのガルシオン。ありがとう。

「優花も知らなかったことなの、ごめんなさいなの」

 とマロンもガルシオンに謝ってくれた。
 マロンに促されてフニオもガルシオンに謝っていた。
 
 ちょっとヘンな雰囲気になりかけたところに――――。

 颯爽と勇者登場!
 水森英人さんと風間かざまリサさんの二人! 
 
 なんかもう、ホントに色々勇者!
 さあ早く私をタスケテっ!!

『何かありました?』

 英人さんが私の視線に応える。
 念話を送ってくれるあたり大人の配慮だ。
 
『あは。ちょっとなんやかんやあって』と答える。
『ふむ、ちょっとガルシオンを借りますね』

 英人さんの頭のまだらの鳥がバタバタする。

『ニーロ。探しても麦酒はありま……』
『やっと会えたね、優花ちゃん。よろしくね!』

 と、英人さんの言葉に食い気味に被せてくるキラキラな声。
 あ、こういう感じのヒト、ね……! いたいた。大丈夫対応できる!

 英人さんは、サンドイッチをきっかけにガルシオンとなんとも自然に会話中。
 流れるように会話が弾んでる。さすが。

「初めまして! 私のことはリサって呼んで」 
「あは、……じゃあリサ。初めまして、よろしく!」

 風間リサは、ロングウェーブな茶色の髪と濃い茶色の目のキレイな女性だった。
 形の良い大きな胸。むぅ――――。たぶん私の1.9倍はある……かも。
 歌姫って言われてるけど、パステルグリーンのローブだからヒーラーさんかな?
 
 ふと見るとフニオやマロンが居ない。ニーロもいつの間にか居なくなってる。
 
『えっとね、聖獣みんなは影の中で会議中してる。今後どうするか的な』

 リサが念話で教え……。

「ちょっと英人! てゆうかソレ美味しそうね、一人で食べててずるいわ! 私も食べる~!」

 ぐいぐいいくリサ。もう馴染んでる!? すごい!

 ガルシオンが狙っていただろうフルーツタルトを、そんなこととは知らずスッと手に取りパクリ。「ンふ~~」という効果音付きでホントに美味しそうに食べてる。
 いたいた。こういう感じのヒト、いたいた!

「アハ。挨拶もせずがっついちゃったわ! っていうか優花ちゃんも食べてみてっ。これは食べないと乙女として損しちゃう代物よ!」

 といってフルーツタルトを渡してくれる。
 乙女を引き合いに出されたら断ることはできない。
 
 てかすごい。リサのスキル『ムードメーカー』ってやつ?

「私、風間リサ。サルヴァのリサ・アルザートっていうほうが馴染みがあるかしら?」

 とガルシオンにぺこりと会釈する。カーテシーとは違う、日本人女性の大人の礼。
 サルヴァ共和国の歌姫、リサ・アルザートとは彼女の事なんだそうだ。
 
「リサ様。稀代の歌姫にお会いできて光栄です。私は教会聖騎士総長、ガルシオン・セイラードと申します」

 と聖騎士の礼を取るガルシオン。

「おおぅ、教会聖騎士ってみんなこんなカッコイイ礼するの……? よろしくね、ガルシオン!」  

 リサの元気な声が辺りを包んだ時。
 そこへもう一人、歩いてくる女性がいる。

 鎧姿の女性騎士様だ。
 長い茶色の髪をポニーテールに結い上げている、キリッとしたクールビューティ。

「ユーリ!」

 その姿を見るとリサが嬉しそうに微笑んで、手を振る。

「私は、サルヴァ共和国アルザート家元騎士団長ユーフォリア・サ―シェと申します。教会騎士団総長ガルシオン・セイラード様、星の救世主・火口優花様、お初にお目にかかります。何卒よろしくお願い申し上げます」

 と、騎士の礼を取る。
 ガルシオンも返礼し、和んだ場が急に引きしま――――。

「こーのサンドウィーッチとフルーーツタルトがとにっかく素晴らしいのよっ! ユーリも乙女として食べてみて!」

 乙女推すなぁ!

 気が付けばサンドイッチもフルーツタルトもあっという間にペロリ。
 なんというペース。

 リサがユーフォリアさんと小声で何かをごにょごにょ話している。
 バッチリ聞こえちゃったケド……。

「ねぇユーリ。例のアレ、持ってきてくれたかしらの?」
 
 かしらの?

「ああ、だが、本当に良いんだろうか……」
「長老様もOKしてくださったんだから、良き良き。それに、ちょっとだけだしね!」

 ユーフォリアさんがアイテムクリスタルから三本のシャンパンの瓶と、八つのコップを取り出す。
 一本が一升瓶くらいの大きさ。これ、見た目からしてちょっとっていう量じゃない気がするけど?

「じゃ~ん! これはね、サルヴァで流行ってるシャンパンってやつよ!」

 ――? 虹色まだらのトリの影が見え――――。
 消えた。でもいた。バタバタしてた。 

「さー、飲むわよぉ!」

 同時に響く、栓の抜ける軽快な音。
 慣れた手つきで五人に木製のコップを渡し、次々注いでいくリサ。

 注いだ割りには……、減ってない?
 聞くと魔法で圧縮しているから、容量としては倍あるんだそう。
 てか全然ちょっとじゃないじゃん!

「優花ちゃんも飲めるよね!? 天気も良いし、今日はみんなで出会いをお祝いしましょ」

 そこへガルシオンが申し訳なさそうに、リサに告げる。

「リサ様。大変申し訳ございません。私は遠慮させて頂いてもよろしいでしょうか。護衛任務中ですので飲酒を控えたく……」

「ん~、まぁまぁそう堅いこと言わずに! 長老様も巫女様と一緒に後から来られるそうだし! あ、巫女様から白葡萄水も頂いているし! 酔っても全然OK!」

 白葡萄水、魔法だな。あ、魔法なんだな。

「てなわけでガルシオンが危惧することは解決済みよ! それとも勇者の私が勧めるお酒が飲めない理由が他に、あるのかしら?」

 リサの目がキラッと光る。
  
「承知いたしました。長老が許可したのであれば……。ですが立場的に飲めない場合もあるとご理解を……」

 押されてる。あのガルシオンが。ぐいぐいと。  

「この場は特別にいいってことが理解できたわ! やったぁ!」

 リサ、最強説。リサの音頭で「乾杯」と共に「宴会」が始まった――――。

 いまは長老様と巫女様も参戦、いや参加して宴会が行われている。
 なんと長老様は、他の教会の人間には見えないように遮断結界を張ったそうだ。
 良いんだか悪いんだか。

「本来は許可できませんが、こうした交流の場を設けることも必要ですからね」

 とにっこり微笑む長老様。
 何かを諦めた様子のガルシオン。

「ガルシオン様、折角ですのでわたくしの聖酒も皆様にお出ししてもよろしいでしょうか? 今回のも自信作なんです」

 と、巫女様。名前をミラディアと言うそうだ。
 茶色の長い髪と濃紺の瞳のミラディア様は、なんだか中学生くらいに見える。
 私が白葡萄水のお礼を告げると、照れたように微笑む。マロン系の可愛い系女子。

「ああ」

 そうこたえるガルシオン。ちょっと柔らかくなった?

「わーい! では早速!」

 巫女様が瓶のふたを取る。こちらも、ポン! と音がして葡萄の甘い香りが広がる。

「これは白葡萄水と同じ白葡萄を使っていて、魔法で発酵させたんです。聖竜ラルディアス様に捧げる聖酒として試験的に作ったものなんですが、皆さま是非お試しくださいませ!」

「いい香り! 是非頂きたいわ!」

 真っ先に手を出すリサ。

「アルコール高くないから優花ちゃんも飲んでみて!」とリサに勧められて私も一口。
 
 あ、これはイケるかも。美味しい!! 
 英人さんも頂いちゃってる。
 
 炭酸の入った甘いお米のお酒、地球にもあった。それと似てる感じがする。
 あ、後から酔いが一気に来る。飲みすぎ注意なやつだ、これ。
 
 長老様ってば、このお酒のために「宴会」を許可したわけじゃ……ないよね?

 そこへ聖獣会議が終わったマロンと聖獣たちがやって来た。
 長老様と巫女、ガルシオンとユーフォリアさんが一斉に礼を取る。

「我らはショルゼアの聖獣。聖竜ラルディアス様に仕え、三人の勇者を護る者だ」

 何故かフニオが偉そうに挨拶している。
 英人さんとリサもフニオに対して礼をとっている。
 
 あれ、私もすべき? だけどタイミングを逃したっぽい。しまった……。

「お目にかかれて光栄でございます。長老を務めますレグナルトでございます」

 長老様がご挨拶する。
 それに皆が続く。
 
「長老様の補佐を務めさせて頂いております。巫女のミラディアと申します」
「教会聖騎士団総長ガルシオン・セイラードと申します」
「サルヴァ共和国アルザート家元騎士団長ユーフォリア・サーシェと申します」

 三人ともスッと礼をする。
 ガルシオンが聖騎士の礼。
 ミラディアさんはエレガントなカーテシー、ユーフォリアさんもカッコいい騎士の礼をしている。

「おい、フニオ。めっさ堅っ苦しい挨拶で折角の宴会に水を差すな。俺たちも混じろうぜ」

 二足歩行の白いモフモフな狼人ミルク
 背中には二本の長さの違う剣。
 
「そうそう、てか皆イイもの飲んでるよなー、おいらにもくれー!」

 酒豪の鳥が目を輝かせてる。好きだもんね、宴会。
 フニオそっちのけで「宴」に興味を示す、二頭の聖獣。

「なんか楽しそうなの。マロンもワイワイするの」

 そしてフニオの頭の上でクルミ石を持って、何故かドヤァポーズを取ってるマロン。

「聖獣の皆様、大変申し訳ございません。交流の場として「宴」を催しておりました。聖獣の皆様もおくつろぎいただけますと、皆の親睦もより深まると存じます」

 長老様がフニオをフォロー。 

「……今回だけだぞ」
「ご配慮ありがとうございます」

 とみんなでフニオにペコリ。今度は私も。

「オレは風間リサの聖獣ミルクだ、宜しくな!」
「おいらは水森英人の聖獣ニーロ! よろしくたのむぜー!」
「優花の従魔なの。マロンなの」

 明るい自己紹介の流れ……みんなの視線がフニオに集まる。
 尻尾をフワリと揺らして、フニオが告げる。

「俺は……火口優花の聖獣、フニオだ」 キリッ。

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