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第六章 展開

6.14 差し入れ

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 怒涛の謁見が終わった後、私と長老様、ガルシオンは再びエルディア教会へ戻ってきた。

 皇帝謁見が終わって私が控室に戻ると、皇后様の使者が来て食事会にと誘われた。
 対応に困っているとその食事会は別室にいた長老様とガルシオンの共闘で回避された模様。

 ふたりがどうやって食事会を回避したか、私は知らないケド……。
 でも長老様は笑顔だし、ガルシオンは疲労困憊って感じ。

 うん、何となくわかった、かも。
 
 私はといえば……、せっかく魔力酔いが収まったのに今度は貴族酔い。
 なんかもう貴族って存在がトラウマになりそう。
 
 踏んだり蹴ったりだ。
 もしも宮廷からの支援を受けていたら、毎日コレ?
 うはぁ。ガチで勘弁願いたい。

 ちなみに貴族酔いも、巫女様の白葡萄水で回復することが判明。すごい。
 着ているものも、オフホワイトのワンピースと濃紺のローブのセットアップにお召し替え。
 こっちの方が落ち着くよね、ホント。

 そして今は。
 お天気がいいので、ガルシオンと一緒にエルディア教会の庭園に来ている。
 大きな噴水があって大きな池があって。落ち着く。
 
 そこへ書記官ゼフェトさんがガルシオンに来客を告げに来た。
 終わり次第戻るとのことだけど。
 
 小難しい礼儀作法の講義中だったので、解放されてちょっとホッとしてる。
 私のための講義だから、嫌とは言えない。でも理解できてる気がしない。
 
 こんなにもお天気が良くて、美しい庭園に居るのに。
 この風景、フニオとマロンにも見せたい! ということでお呼びした。
 
「フニオもマロン聞いて! 私、マトゥーク魔法学院に行くの!」

 フニオの頭に陣取るマロン。
 すっかりそこがお気に入りの定位置になったんだね。

「それは良かったな。優花はずっと魔法を学びたいと言っていたが、ようやくだな」
「ヒトの学校というの、マロンも興味があるなの。楽しみなの!」
 
 そこへガルシオンが戻ってくる。 
 手には大きめの取っ手の付いた籠。

 籠を私に渡すと、フニオ達にガルシオンは聖騎士の礼を取る。

「気楽にと言ったはずだが、礼儀正しくあるのは称賛だ。どこぞの者も見習うべきだな」
 フニオとガルシオン、マロンが私を見る。
 ……マロンまで!? 残念な子を見るような視線が痛い。

「いいえ、ある日突然身についたわけではありません。失敗し、学んだからこそ今がございます」

 んー、ガルシオンが失敗したことなんてあったのかな。
 「失敗」しないために「努力」を重ねる人っていうイメージがあるけど?

「だそうだ、優花」
「千里の道も一歩よりなの、がんばるの!」
 
 あ。私の呼びかけに直ぐに来てくれた理由がわかった。
 久しぶりに会えたから、まだ影の中に帰って欲しくない。

 念話でもう少し一緒に居て!とお願いする。

 『まったく、しょうがないやつだな』
 『まったく、しょうがないの』

 なんでフニオもマロンも同じセリフ? まあいいけど!
 ガルシオンから預かった籠はそこそこ重い。

 まあ私でも持てなくはないんだけどね!

「ガルシオン……これって?」

 ガルシオンを訪ねてきたのは、ノエラ公爵夫人の使いで来た方。
 
 その使者の方から受け取ったのが、ローランさんの奥様から預かったという籠。
 フォーレン公爵邸にガルシオンが滞在していることを知り、用意してくださったのだとか。

 籠の中にこれでもか!と入っていたのは。
 丁寧にカットされたフルーツタルトと数種類のサンドイッチが個別に包装されたもの。
 タルトの色とりどりのフルーツが陽を浴びてキラキラする。

「わぁ。カラフルでキラキラしてキレイなの!」

 マロンはフルーツタルトを見るのが初めて?
 フニオも興味深そうに見ている。
 
 確かに多彩なフルーツをふんだんに使ったこのタルトは、食べられる「芸術」と言ってもいい。

 でもこんなに沢山、私とガルシオンだけじゃ食べきれないような……?
 あ、この容量。もしかしてジェラルドさん仕様なのかな。

 私が「マロンとフニオも頂いてみる?」と聞いてみる。
 マロンとフニオは互いに顔を見合わせる。

 あれ、どうしたんだろ。

「フニオ様とマロン様も、よろしければお好みのものをお選びください。作った者も喜びます」

 ガルシオンも勧めてくれる。……が。

「うーんと、マロンは美味しそうに食べてる優花を見ているだけでいいの」

 マロンがガルシオンの言葉に対し、にっこりとしつつ答える。
 これは「そういうことにしておいてなの」、というマロンの笑顔の圧力だ。
 ガルシオンはそれだけで何か理由があると察したらしい。

「フニオは……?」

「俺は、優花の魔力で腹が膨れていてな、すまないな、ガルシオン」

 フニオもマロンに続き、キリッとした表情を崩さずに答える。
 私が不思議に思ってフニオを見つめると、フニオの尻尾が妙な動きをして止まった。 
 
『優花、この状況で理由を掘り下げようとするな』
『マロンはともかく、フニオは不自然なんだもん。へんなの』

「それでは御前ですが、失礼致します」

 ガルシオンが食前の祈りを捧げ、サンドイッチを食べ始める。
 私も食前のお祈りをしてからサンドイッチを頂く。

『聖獣や魔獣に味覚というものはない。どんな味かもわからんが、ただ咀嚼することは出来る』
『うん?』

 ……へぇ。そうなんだ? 

『ただ、原型を留めない形でその場で排出される』

「グフッ……」

『フニオ! なんで優花にこのタイミングで教えるの! 信じられないの!!』

 急いで口元を抑える。否が応でも状況を想像してしまった……私、食事中なのに。
 しかもガルシオンの前で、乙女らしからぬ醜態を……どうしてくれるの、フニオ!

「大丈夫か、優花。これを飲むといい」

 ガルシオンが籠の中に入っていたボトルから水を取り出して渡してくれる。

「あ、ありがとう」

 胸を少したたく。マロンがフニオを片手でペチペチ叩いている。
 そんな様子を見たガルシオンから念話が入る。

『フニオ様とマロン様のご様子がいつもと違うようだが……なにか失礼でもあったか?』
『あは、全然失礼はないよ、大丈夫。でも、後でね』
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