133 / 157
第六章 展開
6.12 引き立て役
しおりを挟むヴィクトス帝国宮廷。
――――ここは、謁見の間。
玉座に続く赤い絨毯。その両脇に立ち並ぶ人々。
後で分かったのだけど、この方達がヴィクトス帝国十家の当主様なんだとか。
長老様、私、ガルシオンの順に歩いて玉座に向かう。
着替えた裾の長いローブは歩きにくく、軽く踏みつけて盛大に転ぶ自信がある。
この歩く、という行為に失敗は許されない。
私たち三人が通ると当主様は礼を取る――――
そうして(おそらく)皇帝陛下(だろう方)が座る玉座の前で、私たちは膝まづく。
「よくぞ参った、余はヴィクトス帝国皇帝ロアード・ジルヴァー・カイ・ヴィクトスである。面をあげるが良い」
この方が皇帝――――、白髪交じりの明るい茶色の髪、明るい茶色の目。
皇帝の手前、左右に立つのは美貌のセシル公爵様と、紺碧色の鋭い目つきの白髪の男性。
恐らくセシル公爵様と同じ公爵様なんだろう。
その鋭い目つきの白髪の男性が、巻物をうやうやしく読み上げている。
だれもが神妙に耳を傾けるそれは。
回りくどく、長ったらしく、それでいて要領を得ない、つまるところ――――。
何を言いたいのかよくわかんない巻物であることがわかった――――。
ありがたき、幸せ。
♢♢♢
執務室で目を覚ました時。
ガルシオンは机で何かを描いていた。
何かのデザイン画?くしゃくしゃに丸められたものが二つ三つ、机の上に転がっている。
「目が覚めたか。気分はどうだ?」
「うん、もう平気――――」
立ち上がるガルシオン。
私が机の上のデザイン画に興味津々でいると、苦笑が返ってきた。
「すっかり元気だな。官女たちを呼ぶから別室で着替えてくれ」
そういってデザイン画を片付ける。
チラリと見えたそのデザイン画は、剣の形をしていた。
聖剣――――? そんな風に思える美しいデザイン。もしかして長老様の聖剣?
私が残りの白葡萄水をいただいていると、数名の官女たちがやって来た。
彼女たちに連れられて別室で衣替え。
官女たちはテキパキと動き、あれよあれよという間に謁見仕様の私ができあがる。
鏡の前に白いローブ姿の、星の救世主っぽい人が立っていた。
誰、この清楚カワイイ系コスプレのコ。そういえばインスタで見たことある?
それから長老様がお迎えに来るまで、ガルシオンの執務室で待つ。
さっきまで着ていたローブとワンピースでは何故ダメなのか。
ガルシオンによると……。
ショルゼアでは公式な場においては「衣装」は「デザイン」より「色」が重視される。
誰が見てもどういう立場の者かすぐわかるようにすること、それが公式な場での礼儀らしい。
そして「白」は、教会、いわゆる光属性の象徴なんだとか。
「金色」は、聖竜ラルディアスと皇帝“ガル”の象徴
「銀色」は、聖竜ラルディアスに仕える者“レグ”の象徴
そして公式な場において「金色」と「銀色」のふたつを身に着けることが許されるのが、“星の救世主”なのだそうだ。
だから私が付けている真珠の「金」と「銀」チェーンが互いに寄り添う額飾りは、“教会が認めた聖なる存在”、つまり私が、星の救世主であることを示すものになる。
「それならこの額飾りだけつけていれば問題ないんじゃ?」と呟いたら、ガルシオンに「優花は面白い発想をするな」と笑われてしまった。
そこへタイミングよく現れた長老様が、補足説明をしてくださる。
「そうですね、立場ある者の服装には統一感と調和も必要なのですよ。ショルゼアでは、統一感と調和が整えられているものに安心感を抱く人間が多いのです。人の上に立つ者は見た目も重要ですから」
なるほど。
私が人の上に立つのかどうかはとりあえず置いておいたとしても。
白いローブとこの額飾りのコンボは、確かに「統一感と調和」がとれている。
ローブのデザインはガチでダサ……、いや安定したものだけど。
あれ――――?
よく見ると長老様と私の衣装のデザインは「残念」という言葉しか思い浮かばないものなのに。
ガルシオンが着ている聖騎士の鎧のデザインがずいぶん洗練されている様な?
壮絶美貌のガルシオンならどんな鎧でも様になるような気もするけど。
これは誰が見てもため息が出るほどカッコいいでしょ!
「……なんか聖騎士の鎧って素敵。ガルシオンの鎧のデザイン、カッコいい……」
素朴な感想のつもりで、ボソッと呟く私。
「ふふっ、素敵でしょう? それはですね、私の可愛いガルシオンが、何処にいても引きたつようにしたかったからなのですよ」
と笑顔での即答でこたえて下さる長老様。
てか。いま「私の」って、「可愛い」って言った!?
これはつまり……長老様とガルシオンはそのようなご関係ってこと!?
「長老、その発言は控えていただきたいとお伝えしたはずですが」
ガルシオンの目が、険しい。猫みたいに睨んでる。シャーって音だしてそう。
対して涼しい顔をしておられる長老様。
ふふっ。なんかわかっちゃった。「私の」、「可愛い」って意味。
いいですとも! 長老と私とで引き立て役に徹しましょう!
「優花も、ミラディアと同じ反応をしないでくれ」
あ、もしかして拗ねた?
うん、長老様の「可愛い」っていうの、なんか……わかるかも。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる