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第五章 始動

5.7 赦しと癒し

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「そうなの。マロンは邪竜と存在が繋がっているの」

 この事実。この衝撃。
 
 嘘、だよね? なにかの間違いだよね? ってマロンに聞き返したい。
 けど、乙女の勘がそれを止める。これが真実だと。

 マロンのダークグレイの瞳をいま私はどんな目で見つめているんだろう。
 私の視線をマロンは逸らすことなく真っ直ぐに受け止めている。

「どうして……」

 今まで黙って……。

 いや、ちがう。今聞くのはそんなことじゃない。
 
『優花、真実を語る時はタイミングも必要なの。今は、そう。時期じゃないの』

 マロンのこの言葉は、私と、マロン自身に向けた言葉だったんだ。
 もしもマロンと契約前にマロンからこの真実を聞かされていたら、私はカナタと会う目的のためだけにマロンを・・・・使おうと・・・・しただろう。それじゃ、密猟者とおんなじだ。

「どうして、聖竜アルヴィナスは、邪竜に……なっちゃったの?」
「ソレは言えないの。邪竜のプロテクトが掛かってて……。言うと、マロンの存在が曖昧になっちゃうの。そしたら優花にも影響が……。だから言えない、の。ごめんなの……」 

 そう、なんだ。
 マロンは聖竜だったアルヴィナスから生まれた。当然、邪竜アルヴィナスにとても近い。
 だから邪教集団はアンバースクウィレルの力を欲したのかもしれない。
 いや……。もしくは、絶滅。過去を払拭するために。

「マロンは、「女王」なのよね? ほかのアンバースクウィレルと何が違うの?」

「琥珀の女王は、聖竜アルヴィナス様の“眼”を継承する特別種なの。この“眼”は聖竜だった頃のアルヴィナス様の意思を宿す“眼”。マロンの魔力で優花の時間を凝縮できるのは、この“眼”の力があるから、なの」 
 
 ダークグレイの目は、聖竜の”眼”
 そして、聖竜アルヴィナスの意思は「愛する存在を、命を賭して守り抜く」。
 それを琥珀の女王として受け継ぐマロン。

 マロンは、これまで私をまさに「守り抜いて」くれた。
 なのにマロンは、私にとって――――

 ――毒――?

 ありえない。

 マロンが一度でも私を裏切るようなことがあった?
 
 ない。これからも、あるわけがない。
 そう、断言できるほど、マロンはいつも私の味方でいてくれた。
 そして、だからこそ、マロンは今こんなに辛いんだ。

 ねぇ。そんな目を、しないで、マロン。
 今度は私がマロンを信じて守る番、だよね。

「マロンはいつも私の側にいてくれてた。フニオと一緒に私を助けてくれた。初めて会った時から、マロンはずっと変わらずに私を想っていてくれて、本当にありがとう。私はマロンのその想いを信じる」

 マロンの瞳がやわらかく輝く。

「だから、さ。毒、だなんて言わないで。これからも、私の側にいてほしい」
「もちろん……なの。マロンは、ずっとずっと優花と一緒なの」

 マロンのダークグレイの瞳から涙が流れた。
 パーラ湖の水面のように綺麗な涙。

 気付いてあげられなくてごめんね。マロンはその秘密をずっと独りで抱えてた。
 この瞬間でさえもマロンは私を想って行動してる。

 私はそんなマロンの想いに応えたい。
 ありがとうだけじゃ足りない。私もマロンを守りたい。

 私はマロンに地球には“約束”を意味する“ゆびきり”っていうものがあることを話した。
 マロンは目をキラキラさせながら聞いてくれた。 

 私の小指と小さなマロンの両手で、“約束”を意味する“ゆびきりモドキ”だ。
 “私とマロンはずっと一緒。いつか寿命がきて本当のお別れが来るその時まで”

 笑顔で行われたこの約束を、私はきっと忘れないだろう。
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