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第四章 定め

4.27 480秒①

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「――――0、ドール1ワンセントウ カイシ」

 開始と同時。
 俺は光の針を発動し、魔法人形ドールの頭部に向けて打つ。
 一対一の戦闘で敵視を稼ぐ必要はないが、護りを主体とする聖騎士の本分を貫く。

 直後、ドールの持つシールドが強く発光。フラッシュめつぶしだ。

 視界が白くなるが、何のことはない相手の気配を探ればいいだけのこと。特に魔法人形ドールは魔力の流れをつかみやすい。体を沈める動きが手に取るように読める。改良の余地あり、というところか。

 っと、突進か。
 ドールの剣の切っ先を左のロングソードでスルリといなす。
 俺の剣は片手用に軽めにつくらせた。剣同士の打ち合いでは分が悪いが、その分コントロールが容易だ。
 右に避けながらロングソードでドールを狙うも、盾が邪魔だ。
 一瞬待つ。目も慣れた。ドールが突進の動きを止めた直後の……この隙で脇を切りつける。

 赤いエフェクト。
 切りつけた箇所が僅かに赤く発光し、血液の代わりに魔力が流れ出ている。
 与えたダメージが視覚的に分かるのはいい。

 ドールはそのままの姿勢で、音声を高速で再生している。詠唱か……。

 ――――フレイム・ソード。

 ドールが無機質な音声を発した後。
 剣を水平に走らせ俺の足を狙う。その剣が途中で発火。
 
 軽く跳躍して避けるも、着地後すぐに燃える剣が切りつけられる。
 二撃、三撃。両手のロングソードで払うが熱気に当てられる。
 こんな物で鎧が貫通することはないだろうが、傷にはなるだろう。なるべく剣ではじき返したい。

 有効打にならないと見たか、ドールはステップを踏んで後退。直後に上空に跳躍。
 空中では自由になるまい。ホーリースラッシュで飛ぶ斬撃をお見舞いしてやる。

 俺はロングソード二本をクロスさせて大上段で構える。

 しかし――――。

 ドールは自身の盾を投げてよこした。しかも、燃えている。

「チッ!」

 ドール1のメインジョブの魔導士設定がそうさせたか。
 迫る燃える盾。ホーリースラッシュではだめだ。ならば――――。

「ホーリーシールドスラッシュ!」

 飛ぶ斬撃と共に衝撃波を発生させるカウンター技。
 衝撃波で盾を弾き、二本のロングソードで発生させた十字の斬撃がドールに襲いかかる!

 しかし、ドールは空中で後方に回転して斬撃を避ける。
 対人戦闘ではあり得ない動きだ。

 いや、対獣だった場合はあり得るか。
 実戦で「そう動くとは思いませんでした」という言い訳は通用しない。
 Sランク試験は高度な対応力も求められる。


 やや遠くに着地するドール。
 目が青と赤、交互に光る。この信号は“戦闘停止を問う”シグナルだ。
 
 ――――なめやがって。

疾風翼閃ゼファーウィング!」

 機動力上昇。こちらの番だ。
 地面を蹴って一気に接近っ! 背後を取ってやる。

 またも聞こえる音声の高速再生。
 
 ――――グリーン・トルネード。

 直後に出現する、何本もの竜巻。
 一本一本は樹木程度の大きさだが、不規則に動いている。
 しかも、庭に設置した木製の椅子を切り裂く程の鋭い風だ。

 この竜巻を掻い潜りドールの元にたどり着くのは至難――――、とでも思ったか?
 疾風翼閃ゼファーウィングを纏った俺にとっては、避けることなどたやすい。

 ドールに最短で向かいながら、魔法を唱える。

光の剣ライトニングブレード
 
 その声に反応して二本の剣も光を帯びる。

 最初の一撃でわかったドールの強度。重騎士の鎧ほどだろうか。なかなかだ。
 だとすると自分のロングソードでは軽すぎる。そのため剣の強度と切断力を上げる魔法がこれだ。
 突進と合わせれば、威力は倍増。

 見えた。ドールの背後までのルート。
 一瞬で音無く到達。

「もらった」
 
 背後から左袈裟で斬りかかる。
 が。予測していたのか、ドールは右の剣で受け止める。

「何!?」
 
 なんという反応速度。どういうつくりをしている?

 ――いや。反応じゃない。

 竜巻の配置を巧妙に操作して、俺が攻めやすいルートをつくった。
 誘われたか――。

 ドールの目が赤く点滅。“挑発”のシグナル。
 煽っているのか?

 直後、ドールの剣が折れる。
 チャンスだ。
 
 ドールに連撃をたたき込む。
 両ロングソードをそろえ、左右からの袈裟懸け。
 片方ずつすくい上げてからの、クロスで振り下ろし。

 二刀流剣術の基本的な型と、その応用だ。
 型の組み合わせを自在に変えて、回避困難な剣筋をつくり出す。
 加えてこの速度だ。躱せる者はいない。

 ドールの胸部に増えていく無数の傷。
 傷口は赤く発光し、魔力が漏れ出る。

 しかし、ドールも後退しながらなんとかダメージを軽減しようと試みるため、決定打にはならない。
 命ある者であれば痛みでひるむのだろうが、ドールにはそれがない。

 そうするうちに、ドールの目が赤く発光。

 まずい。何か来る。
 後ろに飛び退こうとするも……、かなわない。

 ――――ストーン・アイ。

 左足が石化し地面から離れない。
 やっかいな……。

 素早く「守護」を張り、「精霊召喚」で金の蝶を召喚。
 石化を解かなければ。

 ドールが距離をとる。
 守護の間に攻撃しても無駄であることを知っているのだろう。
 守護は、こちらが攻撃行動を取らなければほぼ全ての攻撃を弾くことができる。

 精霊が左足に金の粒子を放出している。
 間もなく石化はとけるだろう。

 ドールも胸部の魔力漏れを修復しているようだ。

 それにしても――――。

 人形だと思って少々なめていたか。
 新式は攻撃性能、耐久力が劇的に向上したわけではない。
 向上したのは、「戦闘の思考」なのだろう。

『お人形相手に手こずるとはな。期待外れもいいところだな。』
 
 チッ。忌々しい声が響く。うずく左目。

『オレに主導権を渡せ。一瞬で破壊してやる』
「失せろ」
 
 ――――ハッ。つまらん――――。


 直後、ポツ、ポツと雨が降り始める。
 魔導師タイプのドールが、守護の合間でも有効な攻撃手段を考えた結果だろう。
 
 木々が急速にしおれ、芝生が枯れていく。
 庭に設置した家具もみるみる朽ちていく。

 緑色の「毒の雨」だ。
 ドール自身は雨の外から詠唱。
 剣と盾を失って、確実に魔導師モードに移行したな。

 左足の石化が解けるも、周囲は水浸し。この状況で守護を解くわけにいかない。

 だが――――。
 ドールの思考も読めてきた。

 次の手はおそらくアレだ。
 俺の高速の動きを抑制し、濡れた周囲も活用できる魔法。
 ならば……。利用させてもらおう。

 「疾風翼閃ゼファーウィング
 そして「光霊の誓約ルミナリーカヴェナント」。

 これで攻撃力、防御力が上昇するも、守護は消失。

 鎧が毒で汚れる。後で手入れが大変だな。
 最後に唱える。「リュミエール・ミラージュ」。

 行くぞ!

 ドールが発する風の刃を左右のステップで難なく躱す。
 一瞬足を止めてしまったが、再度直進。行ける!

 しかし――――。まさに毒沼エリアを抜ける、というその瞬間。

 ――――サンダースパーク。

 ドールの音声と共に、電気が空中を走る鋭い音。
 その手の平から放たれた電撃が毒沼に着弾。
 恐ろしいまでの強い電流は、水を伝って一瞬で毒沼にいる方・・・・・・の俺を包み込む。

 そう。

 ドールが見ているのは、俺の幻影だ。
 そしてすでに。俺はドールの背後を取っている。

 あとは難しい技術はいらない。
 ただ、力一杯の蹴りをくれてやるだけ。放電中の沼に向けて、な。

「さよならだ」

 無防備な背後からの一発を受け、ドールの体は雷沼へ突き進む。

 直後に響く強烈な電撃の音。
 光に包まれ、のけぞるドール。

 その一瞬で電気は消失。
 相当の電流が体内を駆け巡ったはずだ。

 しかし――――。
 それでも――――。

 立ち上がるドール。
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