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第四章 定め

4.23 宿屋ロンド

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 ヨアナの早歩きのおかげで、レンガ造りのお洒落な宿屋に辿り着くのは予想よりも速かった。
 扉にはどこかで見たことのある紋章――――白いワシのような動物が描かれている。

 まさか? キロンの洋屋敷と同じ!?

 ドアノブに手をかざすとドアが開くのも、キロンの時と同じ。
 ゆっくりと扉が左右に開いていく。

 中に入るとグッと広いロビー。石畳の床。左右の白い壁。

 歩いていくと、それに合わせて壁際がライトアップされて、その光がゆらゆら揺れる。
 不思議に思って壁に近づくと、壁際の床部分には、水が張られている。
 ゆらゆら動くのは、魚が泳いでいるからだ。
 出目金、かな。色とりどり、七色の出目金もキラキラ輝く。

 これがずっと奥までつづいている。すごい。

「アタシも中に入るのは初めてだけど、さ。なんていうかすごい豪華だね」

 石畳の床を進むと、ちょっと一段高くなった場所に重厚感ある樹の切り株が真ん中にドンと置かれている。その真ん中には美しい水晶玉が一つ置かれている。

 なんだこれ? どっかで似たようなものを見たことがあるような――――
 ヨアナも気になって水晶玉に手をかざしているが……、何も起きない。

 しかし私が手をかざすと――――。

 奥から茶色のメイド服を着た女性が三名出てくる。髪型が違うだけで同じ顔の女性達。三つ子姉妹? とか思ってしまう。

 三人のメイドさんたちは私とヨアナに丁寧に礼を行う。貴族に対するお辞儀だ。

「ようこそロンドへお越しくださいました。火口優花様でいらっしゃいますね?」

「あ、はい。火口優花です。よろしくお願いします」

 驚いて自己紹介みたいになっちゃった。
 なぜ分かったのか聞くと、マリア所長から連絡があったのだとか。
 ヨアナに、ヒュ~と、はやされる。

「お待ちしておりました、優花様。先日は私共の主と当主をお守りくださいまして、誠にありがとうございました。お部屋をご用意してございます。どうぞこちらへ」

 左側のツインテールの女性が、ヨアナに礼をして「お連れ様はロビーにご案内いたしますのでそちらでお待ちください」と案内しようとする。

 予想外の対応に私はヨアナと顔を見合わせる。

「荷物くらい、置いてきたら? ロビーで待ってる。でもなんか緊張するから早めに戻ってきてよ」

 と爽やかに笑う。そうしてヨアナはツインテールの女性とロビーの方へ向かって行った。
 
「優花様、こちらです」

 私はショートカットの女性に連れられて、ダークブラウンの木の手すりの付いた大きな螺旋階段を昇る。部屋は三階の奥の部屋のようだ。

「このお部屋の扉は優花様の声紋で開きます。“スカーレット・リリー”と唱えてください」

 何そのシステム。なんてハイテク。

「スカーレット・リリー」

 私がそう唱えると、扉がゆっくり開く。

 白い壁紙、ダークブラウンのフローリングと家具。余計な装飾はないけれど、間違いない。また私はどこかの貴族令嬢になってしまった。

 必要最低限らしいけど、ドレッサーはあるし、ベットはクイーンサイズだし、クローゼットもソファも机もちゃんとある。たぶんトイレもお風呂もあるのかもしれない。キロンの部屋で見慣れたせいかな、同じぐらいかやや小さい部屋だ。

 そしてスカーレット・リリーというのはこの部屋の名前なんだそうで、このお宿で三つのお部屋だけは声紋認証で開くらしい。まさかとは思うけど、スカーレット・リリーが私専用の部屋なんてことはないよね?

「優花様、お食事はどうなさいますか?」
「実は友人宅に招待してもらっているので、そちらでいただきます。すみません」

「かしこまりました。それではお支度が出来ましたら、ロビーへご案内いたしますのでベルでお呼びください」
 
 ポケットから小さな銀色のベルを取り出して、渡してくれる。


 ショートカットの女性が退出した後。
 誰もいなくなった部屋で、私はフニオとマロンに話しかける――――

『優花、どうした?』
『えっと、私寝ちゃってから全然お話できなかったら……』

『そうか。寂しくなったか。気持ちは分かるが、優花も予定が有るだろう? また後でな』

 フニオとマロンに振られる。
 確かにヨアナを待たせたら申し訳ないのだけど。

 私はショルダーバックをベットの近くに置いて、小さな銀のベルを鳴らした。
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