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第四章 定め

4.22 ヨアナの招待

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 うぅ。体が上下に揺れる。何事?
 そんな力任せに体を揺らさないで!

「――――優花!」

 私はうっすらと目を開ける。
 ここは馬車の待合小屋? 石造りの天井が見える。
 
 左右に首を振ると、泣きそうな表情で顔を歪めたヨアナ、そして元商人の男性。
 あれ、ジャックとロバートもいる。

「よかったぁ! ったく、もう起きないんじゃないかと思ったよ!」

 ヨアナが抱き付いてくる。
 私はその背中に手を回して、ポンポンと叩く。よしよし。
 
「目が覚めて良かったのう。魔力切れだったんじゃろ」
「俺らの方が先に到着しててさ、やっと来たと思ったら寝てるし。なかなか起きないから心配したよ」

 元商人の男性も安心したように、私を見つめている。
 ああそうだ、ヨアナと一緒に馬を操縦してくれた人だ。

「私は、キリーグ・ケイラーと申します。この度は窮地をお救い頂き誠にありがとうございました。貴女のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。火口優花ひぐちゆかです!」

「昔、リドラ商会にいたんだって」

 と、ヨアナがつけ加える。

「なんだって! リドラの商人!? 石鹸から機密情報までなんでも取り揃えるっていう、あの!?」

 ジャックが驚く。
 え。そんなに有名な商人さんだったの!? 機密情報なんて、こわ。

「いえいえ、『元』でこざいます。今は別の事業を立ち上げたく、様々な地でその準備を」

 キリーグは私に名刺サイズのカードを手渡す。「キリーグ・ケイラー」という文字。隅の印は……、なんだろう。魔法かな? うっすら輝いてる。

「優花様、ヨアナ様。事業成功のあかつきには、このご恩をお返ししたく思います。この度は、本当にありがとうございました」

 キリーグはそう言って一礼するとクルガの街へ消えていった。

「アタシもカード、もらった。事業って……。いったい何をはじめるんだろうな」

 ヨアナの一言で気づいた。ホントだ。なんの仕事だろう。
 馬車の待合小屋に、私とヨアナ、ジャックとロバートが残る。
 遺体の引き渡しなどはヨアナたちが済ませてくれたらしい。

 私がお礼を言うと、ヨアナは悲しそうな表情になる。
 遺体の家族がつい先ほど、遺体を引き取りに来たのだそうだ。

 ヨアナの表情から、何となく状況を察して私もしんみりとする。

「何時までもしんみりしていても先へは進めないぞい。美味いモンでも食べて飲んで、気分転換じゃ。眠り姫も目覚めたことだし、ワシらは酒場に行くが二人はどうするんじゃ?」

「アンタら、臨時収入が入ったからって……。まあ、アタシは実家に帰るよ。積もる話は後日にしようじゃないか」

「そっか。じゃ、シャーナちゃんに宜しくな!」
「では優花、ヨアナ、またのう」

 ジャックとロバートもまたクルガの街に消えていく。

「うるさい奴らが消えたところで、優花。アンタ、宿と食事どうするって言ってたっけ」

 そうだ、そこまで話して黒いボロボロの少年が現れたんだった。

「宿はギルドで面倒みてくれるから問題ないけど、食事は安いところがあればそこでって思ってた」

 ヨアナは両手を組んで、何かを考えている。
 
「宿はギルドもちか。そんなら間違いなく、高い宿の方がいい。クルガはね、キロンとは違って宿屋を選べるけど……。ピンキリなんだ」

「安いと……お風呂がない?」

「フロ基準かよ。まぁ、それもあるが……。イロイロだよ。ベットの質が悪かったり、壁が薄かったり、相部屋だったり、トイレが無かったりとね」

 なるほど。選べる分、サービスの質の幅が広いようだ。
 安いのは正義って思ったけど、時と場合によりけりか。

「ヨアナ、オススメある?」

「あるよ、ウチの近く。サービスの質については間違いないところが。まぁ、そのかわりなかなかのお値段だけど、ギルドもちならジャンジャンいこう」
「いや、ジャンジャンいかないけど。ありがとう、そこにする!」

 ヨアナの実家の近くか。頼れる人が近くにいるのは安心感あるよね。

「よっし。サッサと行こうか!」

 空には夕日が見えていた。もうこんなに時間が経っていたんだ。
 そういえば疲労度。更新が来たのかな?体に疲れがない。
 
 ヨアナによると待ち合わせ小屋はクルガの門のそばにあり、商業区にある宿屋ロンドまでは結構距離があるらしい。クルガの街は中心に転移門があり、商業区は西の方にあるんだそうだ。

 小屋から出てクルガの街へと入る門をチラ見する。レンガ造りの門だ。
 私は門と反対側に立って街の内部を眺める。石畳の美しい道が続き、キロンの町より整備されているのがわかる。

 ここが、ジョルド伯領都クルガ。なんか少し都会に来た感じ、ある。

「何してんだ、優花。行くよ!」

 革袋を担いだヨアナが私に向かって手を振る。
 私がヨアナに駆け寄ると、「街が珍しいのは分かるけど、そろそろ日が暮れる。急ごう」と早歩きでヨアナは進む。ヨアナの歩くペースはとても速い。

 鎧を着てるのに、油断してたらどんどん離される。
 おかげで街をじっくり見ている余裕はなかったけど、まぁいい。明日がある。

 ヨアナは商業区の宿屋ロンドを目指して歩く。
 だけど、一つわかったことがある。この町は、区画整理されているということ――――

 地球で言えば、碁盤の目になっているというか。方角さえ正しく分かればそうそう迷わない造りだ。商業区を歩いていくと、武器屋と防具屋、薬屋、道具屋。そのほかにも色々な店が並んでいる。

 ちゃんとショーウィンドウがある。街中を見る限り、とても経済的に豊かな街であることがわかる。伯爵領都でこんな感じなら、帝都はどれほどすごいのだろう? あ、何かワクワクしてきた。

「うちは兄貴が錬金術師でね、アタシが冒険者になるちょっと前にウェポンクリスタルを作り始めたんだ。最初はバイト程度に片手間で始めたんだけどさ。なんか目覚めたとかで、いつの間にかウェポンクリスタルを作る職人に転じてね。おかげで商業区に住めるようになったんだよ」

「それまでは何処にいたの?」

「街はずれの平民居住地さ。みんなで仲良く協力して住んでた。あれはあれでよかったけど、今の暮らしは、ホント、ありがたいよ」

 ヨアナは「兄貴さまさまだ」と誇らしげに言う。そして、

「そうだ優花! 宿のチェックインが終わったらさ、飯は、ウチで食べて行かないかい?」

 あらま! 初めてのご招待。なんかなんか、嬉しい!
 
「いいのっ!?」
「もちろんさ。ダチを連れて行くのは初だけどね!」

 ショルゼアで二人目の、トモダチ。女性のトモダチは、ヨアナが初めてだ。
 なんか顔がほころんでしまう。
 見たかフニオ。私もトモダチになったぞ。
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