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第四章 定め
4.5 主の影の中で
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主である少女の影の中。
俺の背中で寝ていたはずのアンバースクウィレル、マロンが目を覚ます。
対象を見事打ち倒した少女は、不思議な道具で自らのエクストラタイムを確認している。
EXT:79,050/86,400 FL :Lv1
金と銀の美しい道具。少女はスマホ型キッチンタイマーとか言っていたか。
……見事なものだ。マロンが大興奮して居たのもわからんでもないな。
それより、先程の魔法。
俺の白い稲妻を模したのだろう、それはわかった。
いや、それ以上だ。これが少女が持つ“願いの力”なのか。
このクイーンは、成れの果ての魔獣だった。いや、ある組織によって作られた実験体だ。
おおよそ不要になったからこの森に放たれたのだろうが、その際人間を最優先で襲うようにプログラムされていた。その正体は――――。
いや、これは告げないほうが良いだろう。
金の蝶と白い稲妻。
どうしてこの組み合わせなんだ、と一言いいたいが今は気が付かない素振りでいい。
「優花おわったの? 無事なの?」
手にはしっかりと何時もの石を持っている。少女の時間を蓄積させたソレ。
マロンの魔力を少しずつ掛け合わせることによって、その石の中には膨大な時間が込められている。
「ああ。まだ寝てていいぞ」
眠たそうなマロン。心配で目を覚ましたのだろう。
「はいなの。フニオ、よく我慢できたの、偉いの」
緑のクルミ石を持ったまま、マロンがボソッと呟く。俺といる時のマロンはたいていこんな感じだ。
マロンが癒し系だとデレデレしている少女に、マロンが隠しているもう一つのマロンの素顔だ。
「マロン、俺はいつか優花から離れなければならなくなる日が来るかもしれん。その時は、優花を頼めるか?」
「言われるまでもないの。マロンは優花のためならマロンのすべてを尽くすの」
「そうか」
マロンは、用は済んだとばかりにまた俺の背中で眠り始める。
やれやれ、これではまだここから出れないではないか。
聖獣は主の感情を敏感に感じ取ることができる。
少女の想い、今はしかと受け取ろうではないか。
『フニオ、マロン! 私、クイーン倒せちゃった!』
緑色の魔獣の核と赤い角、先程倒したダイナモたちの八本の曲がった白い角を拾って、
嬉しそうに念話を送る少女。
『ああ、見ていたぞ。一人でよく頑張ったな。マロンは今は寝ている』
俺の言葉に、少女は笑顔になる。まるで太陽のような笑顔だ。だが直後。その太陽が流れる雲に隠れるように一瞬陰りを見せる。
『これで……、いいんだよね? 洞窟の奥に、行くべきかな』
『それは……。まかせる。ただ、もう、ホーンダイナモはいなかった』
『ホーンダイナモ、は、いない……? でも、何かいた?』
『あぁ。どうやら、紛れていたようだ』
――――闇か。
少女は暫く深刻な顔で何かを考えた後、ショルダーバックの中にアイテムを詰め込む。
それから、スキルで炎を作り出し、その明かりを頼りに洞窟の奥へ進んでいく。
迷いのない足どり。
優花。決めたか――――。
炎の明かりを頼りに少女が進む洞窟の奥、そこには人間の骨が大量に散らばっていた。
赤黒い血が、洞窟の床にこびりついている。
その悪臭に、少女は気分が悪くなる。むせて、苦しそうだ。
クイーンホーンダイナモが守っていたもの。
それは四つのたまごだ。そのたまごのひとつがカタカタと動き、たまごにヒビが入る。
『優花、気をつけろ。出てくるぞ』
『――――クリエイト、雷光; レイヤータイム1sec、ライン; 発動』
静かな洞窟内部に、少女のスキルの宣言が響き渡る。
少女の体に疲労が重なる。膝をがくっとさせるが、すぐにバランスを取り体を起こす。
宣言と共に眩しい光のラインが、たまごを貫く。
ドロリとした赤黒い液体が、四つのたまごから流れ出し、黒い靄を放つ。
少女はたまごの中の正体を目にしたのだろうか?
信じられない、というふうに眉をひそめている。
少女は目を閉じて祈る。
歪められた幼い命が、新たな生を授かり、今度こそ幸せになれるように。
少女の時間の秒針が動く。頭を抑えているから僅かな頭痛がするのだろう。
『これで親子は星界へ戻れるはずだ。』
『うん』
涙を拭う少女の心が伝わる。
『フニオ……。これが……』
優花。辛い思いをさせたな。
『闇?』
『――――。そうだ。その、一端だ』
そして少女は悲しげに瞳を静かに閉じ、決意を新たにする。
――――この惑星は、深い悲しみに溢れてる。それを必ず私が終わらせる。
と。
俺の背中で寝ていたはずのアンバースクウィレル、マロンが目を覚ます。
対象を見事打ち倒した少女は、不思議な道具で自らのエクストラタイムを確認している。
EXT:79,050/86,400 FL :Lv1
金と銀の美しい道具。少女はスマホ型キッチンタイマーとか言っていたか。
……見事なものだ。マロンが大興奮して居たのもわからんでもないな。
それより、先程の魔法。
俺の白い稲妻を模したのだろう、それはわかった。
いや、それ以上だ。これが少女が持つ“願いの力”なのか。
このクイーンは、成れの果ての魔獣だった。いや、ある組織によって作られた実験体だ。
おおよそ不要になったからこの森に放たれたのだろうが、その際人間を最優先で襲うようにプログラムされていた。その正体は――――。
いや、これは告げないほうが良いだろう。
金の蝶と白い稲妻。
どうしてこの組み合わせなんだ、と一言いいたいが今は気が付かない素振りでいい。
「優花おわったの? 無事なの?」
手にはしっかりと何時もの石を持っている。少女の時間を蓄積させたソレ。
マロンの魔力を少しずつ掛け合わせることによって、その石の中には膨大な時間が込められている。
「ああ。まだ寝てていいぞ」
眠たそうなマロン。心配で目を覚ましたのだろう。
「はいなの。フニオ、よく我慢できたの、偉いの」
緑のクルミ石を持ったまま、マロンがボソッと呟く。俺といる時のマロンはたいていこんな感じだ。
マロンが癒し系だとデレデレしている少女に、マロンが隠しているもう一つのマロンの素顔だ。
「マロン、俺はいつか優花から離れなければならなくなる日が来るかもしれん。その時は、優花を頼めるか?」
「言われるまでもないの。マロンは優花のためならマロンのすべてを尽くすの」
「そうか」
マロンは、用は済んだとばかりにまた俺の背中で眠り始める。
やれやれ、これではまだここから出れないではないか。
聖獣は主の感情を敏感に感じ取ることができる。
少女の想い、今はしかと受け取ろうではないか。
『フニオ、マロン! 私、クイーン倒せちゃった!』
緑色の魔獣の核と赤い角、先程倒したダイナモたちの八本の曲がった白い角を拾って、
嬉しそうに念話を送る少女。
『ああ、見ていたぞ。一人でよく頑張ったな。マロンは今は寝ている』
俺の言葉に、少女は笑顔になる。まるで太陽のような笑顔だ。だが直後。その太陽が流れる雲に隠れるように一瞬陰りを見せる。
『これで……、いいんだよね? 洞窟の奥に、行くべきかな』
『それは……。まかせる。ただ、もう、ホーンダイナモはいなかった』
『ホーンダイナモ、は、いない……? でも、何かいた?』
『あぁ。どうやら、紛れていたようだ』
――――闇か。
少女は暫く深刻な顔で何かを考えた後、ショルダーバックの中にアイテムを詰め込む。
それから、スキルで炎を作り出し、その明かりを頼りに洞窟の奥へ進んでいく。
迷いのない足どり。
優花。決めたか――――。
炎の明かりを頼りに少女が進む洞窟の奥、そこには人間の骨が大量に散らばっていた。
赤黒い血が、洞窟の床にこびりついている。
その悪臭に、少女は気分が悪くなる。むせて、苦しそうだ。
クイーンホーンダイナモが守っていたもの。
それは四つのたまごだ。そのたまごのひとつがカタカタと動き、たまごにヒビが入る。
『優花、気をつけろ。出てくるぞ』
『――――クリエイト、雷光; レイヤータイム1sec、ライン; 発動』
静かな洞窟内部に、少女のスキルの宣言が響き渡る。
少女の体に疲労が重なる。膝をがくっとさせるが、すぐにバランスを取り体を起こす。
宣言と共に眩しい光のラインが、たまごを貫く。
ドロリとした赤黒い液体が、四つのたまごから流れ出し、黒い靄を放つ。
少女はたまごの中の正体を目にしたのだろうか?
信じられない、というふうに眉をひそめている。
少女は目を閉じて祈る。
歪められた幼い命が、新たな生を授かり、今度こそ幸せになれるように。
少女の時間の秒針が動く。頭を抑えているから僅かな頭痛がするのだろう。
『これで親子は星界へ戻れるはずだ。』
『うん』
涙を拭う少女の心が伝わる。
『フニオ……。これが……』
優花。辛い思いをさせたな。
『闇?』
『――――。そうだ。その、一端だ』
そして少女は悲しげに瞳を静かに閉じ、決意を新たにする。
――――この惑星は、深い悲しみに溢れてる。それを必ず私が終わらせる。
と。
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