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第三章 勇者の誓い
3.21 勇者
しおりを挟む――――懐かしい夢を見た。
なんでこれが夢だってわかるのか。
だって過去のことだから。思い出ってやつかな。
小学生の頃。優斗くんという子がいた。
優斗君は名前のわりに喧嘩ばかりしてる子で、同級生や上級生と喧嘩ばかりしていた。
おかげで優斗君は問題児扱いをされていたし、いつも独りだった。
私も優斗君は乱暴な子だと思っていたし、友達も優斗君を怖がっていた。
ある日、私が校庭で向日葵の世話をしてる時だった。
三人の上級生が、野良猫をいじめていた。
汚れて体のあちこちが傷ついた黒い猫。もう何日も前から学校の近くをうろついていた。
飼ってあげたいけど、うちにはカナタがいる。
上級生の一人が、持っていた棒で野良猫を殴り始めたとき。
私はそれ以上黙って見ていられなくて……怖いのを必死で我慢して上級生たちに立ち向かった。
予想外の邪魔が入ったことで、上級生たちは興味をなくして何処かへ行った。
助けた野良猫はボロボロだった。だけどこの猫を我が家で飼うことはどうしても許されなかった。
三日くらい経ってから、私は猫をいじめていた上級生たちからいじめを受けるようになった。
証拠がないから上級生たちのせいだとは言い切れないんだけど、上靴がゴミ箱に捨てられていたり、外靴がない時もあった。
放課後には呼び出されたりもした。
蹴られたり叩かれたりして何度も転ばされたりしたから足に擦り傷が出来た。
それをおばあちゃんには適当に嘘をついて誤魔化した。
だって忙しい母さんやおばあちゃんに心配かけたくなかったから。
その日も、いつもの三人に呼び出された。
一緒に行かないと友達もいじめると言われれば、嫌とは言えなかった。
足を踏まれたり、私の教科書で頭を叩かれたりはいつものことだ。
ちょっと我慢すれば終わる。
私だけ我慢すれば、誰も傷つかない。だから、耐える。
その時、優斗君は現れた――――
「おまえら下級生をよってたかっていじめるなんて恥ずかしくねーのか、そんなに暇なら俺があいてになってやる!」
上級生たちは優斗君を見るなり、逃げて行く。それを優斗君は追いかけて何処かへ行ってしまった。
家に帰ると私の様子を見て母さんは激怒した。
私も正直に話したから、母さんはおばあちゃんと二人で学校に殴り込み?に行った。
おばあちゃんによると怒り狂った母さんは、後日も色々なところでひと暴れしたらしい。
最後には三人の上級生の親たちが謝りに来て、私のいじめは無くなった。
わたしが優斗君に助けてもらったお礼を言うと、おまえなんで黙ってたんだ? と聞いてきた。
「先生に話したら友達をいじめるって言うから」
「ばっかじゃねーの。そうやって耐えてるから調子乗るんだぞ、やり返せよ」
「叩くと痛いもん。痛いのはやだ」
「そういってケガしてたら意味ないだろーが」
私を助けに来てくれたことがきっかけで、優斗君は女子から人気者になった。
優斗君を怖がったり、避けたりする子が居なくなって私も嬉しかったな。
そうしている間に黒猫はいつの間にか居なくなっていた。
最近見かけないからきっとどこかで幸せになってるよね、と私が言うと、
一緒に窓を拭いていた優斗君はそれ以上何も言わず、ただ、
「……ふんにゃらぽっけ」とよくわからない返事をした。
何度目かに話した時に教えてくれたけど、
優斗君のお父さんは保健所で働いているそうだ。
お母さんは何か事情があって居ないのか、参観日にはおばあちゃんが来る。
優斗君は変な子だった。
ニワトリ小屋の掃除は、臭いしすげーめんどくさいとか言いながらも、隅々まで掃除するし、逆に適当にやってる子がいると怒ったりもしてた。
言ってることと、やってることが真逆だから、ついつい笑っちゃう。
「うっせーな」
その度に優斗君は照れくさそうにする。
あとニワトリの餌をてんこ盛りにしすぎて先生に注意されていたのも、面白かった。
優斗君はその後も相変わらず誰かと喧嘩ばかりしていた。
でも、みんな本当は動物好きな優しい子だって知ってる。
喧嘩だって、たぶん喧嘩するだけの理由があったんだろうと思う。
そんな優斗君は転校する時、私に手紙をくれた。
走り書きの、決して丁寧とは言えない字で、勇者優花へと書いてあった。
「おまえにこれをやる、かならず読めよ!」
そういって走っていく優斗君。その耳は真っ赤だった。
「優花は勇者だ。何があっても負けるなよ! 優花をいじめるやつがいたら俺がいじめ返してやるからな! 元気でがんばれよ!」
思えば、あれってラブレターだったのかな?
私が手紙を読んでいると、後からチラ見したお婆ちゃんと母さんがニヤニヤしてたのが忘れられない。
私より、優斗君の方が勇者だと思うんだけど。
――――懐かしいな。
いま私は異世界で、勇者のたまごをやってる。
もし目指すなら。
私は優斗君のようなカッコイイ勇者になりたい。
応援ありがとうございます!
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