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第三章 勇者の誓い
3.20 たいせつな人
しおりを挟む獣の低い唸り声と共に、よだれをたらしながらジワリと迫るパープルウルフ。赤黒い視線が私を射貫く。
ガルシオンは、獣からの視線を体で遮り即座に金色の結界を張る。
前にガルシオンがプレゼントしてくれた、金色のペンダントのような鎖が、半球を描いて私とガルシオンを包む。
結界を崩そうとするパープルウルフ。
直後、その頭部が背後から放たれた光の針に射貫かれる。一瞬動きを止めた後、攻撃の主を探すパープルウルフ。背後にいる光の針を放った主、ローランを見つけ襲いかかる。
二頭のパープルウルフを引き連れ、森の奥へと移動するローラン。
ローランの魔法、だろうか。
「ローラン、さん?」
「大丈夫だ。今、パープルウルフはローランしか見えていない」
いつの間にか消失していた金鎖の結界。
そして声の主、ガルシオンの腕の中にはマロンの姿がある。
「マロン!」
「魔力切れだろう、今は眠っていらっしゃる。女神を、頼む」
ガルシオンは私に向かって両手を差し出す。私の元に帰ってきたマロンを、震える両手で受け取る。
どれだけ無理をさせてしまったのか。
目から涙が溢れる。私の涙が、マロンのクルミ石を少し、濡らす。
「ありがとう、マロン。私のために――――」
「立てるか? 急かしてすまないが優花をキロンに送り届けたら、ローランを助けに行く。俺にとっては家族のような人なんだ」
森の奥を見つめるガルシオン。
「それなら、すぐ行ってあげて」
「彼は聖騎士だ。それに君を独りには出来ない」
私が――――、足かせ。
でも、ガルシオンだってそんなに回復したわけじゃないのに。
あ……、回復。確か体力回復剤って私もってたハズ!
私はショルダーバッグの中をあさる。
「優花……?」
「回復剤があったはずなの、体力と魔力の……。あった!!」
細めの小瓶が二本。どっちが体力回復で魔力回復なのかわからないけど、これだ。
「ごめん、一本ずつしかなくて。これでローランさんを助けてあげて。私はスキルを使って帰る事ができる。私も行きたいけど、これじゃ足を引っ張っちゃうから……」
二本の小瓶をガルシオンに押しつける。
お願いだからどうか受け取って。
「しかし……」
「お願い。ガルシオンには大切な人を失ってほしくない」
涙が、頬を伝う。
流した涙の一滴が、胸元のカナタ石にポタンと当たる。
ガルシオンが哀しそうな表情で私を見つめる。
私の顔に向かって手を伸ばすも、途中で降ろす。
「ありがとう、優花。また、会えるか?」
「うん」
ガルシオンは二本の小瓶を受け取り、右手を胸に当て聖騎士の礼を取る。
「貴女に聖竜様のご加護がありますように」
との言葉を最後にガルシオンはローランが駆けていった方角へ走る。
私はその姿が木々に隠れてしまうまで見つめていた。
――――ガルシオン。どうか、無事で……。
両手を組んで祈る。
もう私には祈る事しかできない。
ポケットの中のEXタイマーを見る。
EXT:10,010/86,400 FL :Lv7
? 1,000秒も減ってる? 17分も掛かるようなことなんか……?
うぅ。
体中が、痛い。疲労ってこんなに体にくるなんて……。
マロンを連れて帰らないと。でも、何も出来そうにない。
こんなところで倒れるわけにいかないのに。
というか。なんだろう、ものすごく、眠い……。
こんなとこで、眠るわけにいかない。
あぁ……意識が……遠の……く……。
冷たい地面に私は、マロンを抱えたまま倒れ込んだ。
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