上 下
53 / 157
第三章 勇者の誓い

3.20 たいせつな人

しおりを挟む

 獣の低い唸り声と共に、よだれをたらしながらジワリと迫るパープルウルフ。赤黒い視線が私を射貫く。
  
 ガルシオンは、獣からの視線を体で遮り即座に金色の結界を張る。
 前にガルシオンがプレゼントしてくれた、金色のペンダントのような鎖が、半球を描いて私とガルシオンを包む。

 結界を崩そうとするパープルウルフ。
 直後、その頭部が背後から放たれた光の針に射貫かれる。一瞬動きを止めた後、攻撃の主を探すパープルウルフ。背後にいる光の針を放った主、ローランを見つけ襲いかかる。

 二頭のパープルウルフを引き連れ、森の奥へと移動するローラン。

 ローランの魔法、だろうか。

「ローラン、さん?」
「大丈夫だ。今、パープルウルフはローランしか見えていない」

 いつの間にか消失していた金鎖の結界。
 そして声の主、ガルシオンの腕の中にはマロンの姿がある。

「マロン!」
「魔力切れだろう、今は眠っていらっしゃる。女神を、頼む」

 ガルシオンは私に向かって両手を差し出す。私の元に帰ってきたマロンを、震える両手で受け取る。

 どれだけ無理をさせてしまったのか。
 目から涙が溢れる。私の涙が、マロンのクルミ石を少し、濡らす。

「ありがとう、マロン。私のために――――」

「立てるか? 急かしてすまないが優花をキロンに送り届けたら、ローランを助けに行く。俺にとっては家族のような人なんだ」

 森の奥を見つめるガルシオン。

「それなら、すぐ行ってあげて」
「彼は聖騎士だ。それに君を独りには出来ない」
 
 私が――――、足かせ。
 でも、ガルシオンだってそんなに回復したわけじゃないのに。

 あ……、回復。確か体力回復剤って私もってたハズ!
 私はショルダーバッグの中をあさる。

「優花……?」
「回復剤があったはずなの、体力と魔力の……。あった!!」

 細めの小瓶が二本。どっちが体力回復で魔力回復なのかわからないけど、これだ。
 
「ごめん、一本ずつしかなくて。これでローランさんを助けてあげて。私はスキルを使って帰る事ができる。私も行きたいけど、これじゃ足を引っ張っちゃうから……」

 二本の小瓶をガルシオンに押しつける。
 お願いだからどうか受け取って。

「しかし……」
「お願い。ガルシオンには大切な人を失ってほしくない」

 涙が、頬を伝う。
 流した涙の一滴が、胸元のカナタ石にポタンと当たる。

 ガルシオンが哀しそうな表情で私を見つめる。
 私の顔に向かって手を伸ばすも、途中で降ろす。

「ありがとう、優花。また、会えるか?」
「うん」

 ガルシオンは二本の小瓶を受け取り、右手を胸に当て聖騎士の礼を取る。

「貴女に聖竜様のご加護がありますように」


 との言葉を最後にガルシオンはローランが駆けていった方角へ走る。
 私はその姿が木々に隠れてしまうまで見つめていた。

 ――――ガルシオン。どうか、無事で……。

 両手を組んで祈る。
 もう私には祈る事しかできない。

 ポケットの中のEXタイマーを見る。

 EXT:10,010/86,400 FL :Lv7

 ? 1,000秒も減ってる? 17分も掛かるようなことなんか……?

 うぅ。
 体中が、痛い。疲労ってこんなに体にくるなんて……。
 マロンを連れて帰らないと。でも、何も出来そうにない。
 こんなところで倒れるわけにいかないのに。

 というか。なんだろう、ものすごく、眠い……。
 こんなとこで、眠るわけにいかない。

 あぁ……意識が……遠の……く……。

 冷たい地面に私は、マロンを抱えたまま倒れ込んだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生しちゃったよ(いや、ごめん)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:7,403

【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,143pt お気に入り:2,366

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:539pt お気に入り:5,481

騎士団長と秘密のレッスン

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:2,339

皇帝の隠し子は暴れん坊公爵令息の手綱を握る。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:426pt お気に入り:2,966

それではみなさま、ごきげんよう〜服飾師ソワヨは逃げ切りたい〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:186

オネェ騎士はドレスがお好き

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:64

処理中です...