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第二章 勇者

2.23 噴水にて

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 私もすることがある。
 宿屋から出て鑑定所の裏手へ行くと、防具屋があった。

 私は濃紺のローブを選ぶ。フードが付いてて、何となく魔法使いっぽいからこれに決めた。
 ついでにベージュ色のショルダーバックも購入する。ローブに合わせて革靴も新調。
 今まで着ていたお洋服はショルダーバックにしまい込んで、濃紺のローブに着替えると……。
 
 あら不思議! どこからどう見ても魔法使いそのものではありませんか! いやいや、ウキウキしている場合ではない。

 次は武器屋に行ってみた。持ちやすい短剣があったのでそれを購入する。
 そのほか道具屋で大きめの透明な瓶を一つ購入する。

 サラ達のお陰で何処へ行っても、有望な新人冒険者として優遇が利く。
 値段から割り引いてもらえたり、体力回復剤や魔力回復剤をおまけにもらえたり。
 まぁ、ごひいきにってことなんだろうけど。

 何かクエストをこなして手数料を払わないと申し訳ないと思うくらいだ。
 
 買い物が終わって現在の所持金は、銀貨十一枚、大鉄貨一枚。まだ、余裕はあるかな。
 
 私はキロンの町の中央にある噴水のある広場へやって来た。
 中央には、噴水の水が勢いよく太陽に向かって噴き上がり、飛沫が光を浴びて輝く。
 さらに上空には虹がかかっていて、人々の目を楽しませてくれる。まさにそこは憩いの場。

 噴水前で待ち合わせをする恋人たちが数人、子供たちが噴水前で無邪気に走り回っている。
 おそらく恋人達であろう姿もあり、待ち合わせ場所としてもよいのだろう。
 みんなに愛される場所っていう感じ。いいな。

 栗色の髪、青い目の若い男性が、噴水を背にして立っている。
 その手には一輪の赤い花。見た感じ薔薇のようだけど、色が深紅でキラキラ光る。
 少し緊張した表情で何かを考え込んでいる。

 あらま。これってばきっと……。

 気にしちゃ悪いと思いつつも……。チラチラ。屋台で購入したチキンが挟まった大きめのサンドイッチを口に運び、噴水を眺められる位置の芝生に座って食べる。

  
 暫くして。
 栗色の長い髪をなびかせて走ってくる緑色の目の若い女性が、噴水にやってくる。
 噴水前に立つ、青い目の若い男性を見つけて、嬉しそうに走り寄って行く。

 男性が、女性に、顔を赤らめながらも真剣な眼差しで――――その花を渡す。
 女性は驚きながらも、満面の笑みでその花を受け取る。

 周りから祝福の拍手。
 
 私も思わず拍手をしてしまった。 
 

 ようやくありつけたチキンもなかなか喉を通らなかったのに、恋人たちの姿を見て心が和んだからかもしれない。

 なんとかなる。そう思えてくる。

 うん。切りかえていこう。
 この後は森に行こう。グラススケイルを取りに行きたい。そのために瓶を買ったのだから。
 あれがあれば――――、そう、つくれちゃうもの!
 うん。なんか、いける。


 ――――?

 ふと、視界の端で白い何かが動いたような気がした。
 私の心臓がドクンと鳴る。

 カナタ? そんな馬鹿な。カナタは地球に居るはず。なんでショルゼアに?
 私は目をこすってあたりを見回す。

 ……さっきのは白い猫だ、と思う。

 噴水付近では、色んなショルゼアの人が過ごしていた。
 誰かと待ち合わせをしている女性や、新聞っぽいものを見ている男性。
 
 ――――いた!

 視界の端に見えた白猫が、こちらを振り返る。美しい空色と琥珀色の目。見間違うわけがない。
 
 ――――カナタ!

 私は、オッドアイの白猫の後を、追いかけていた――――。
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