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第二章 勇者
2.10 マロン石
しおりを挟む私は、その樹の近くを見回す。
葉っぱがほしい。表面がつやつやしたものがいいな。
あとは、樹液をかき集めるヘラ。ん~~、木の枝でいいかな。
探し物はすぐに見つかったので、再びグラススケイルの樹まで戻る。
まずは、道具作りだ。
なるべく真っ直ぐで鉛筆程度の太さの枝を四本。草ひもでまとめる。一方を横一列にもう一方を束ねる。葉っぱを敷けば……、ごっついけどすくえる木べらの完成。
あとは受け皿。大きな葉っぱを互い違いに三枚重ねて、先端と根元を後ろに折り込む。できたけど……。葉っぱのまな板だね、こりゃ。でも、平らで表面がつやつやだからいいや。
理想は、水晶玉みたいな球形がいいけど、まるいタブレット型でもいいよね。
うっふふ~~! つくる時はいっつもワクワクする! イメージ通りにならないことの方が多いけど、それはそれ。作品の個性ってやつさ。
「さあ、やるぞ!」
「楽しみなの!」
今回は模様づけや磨きはしないから、考えるのは「マロンが持ちやすいまるい形」っていうことだけ。ここに集中しよう!
グラススケイルの樹を自分の体の影にする。すでに固まっている樹液部分を今度は大きめにポロリとはがす。つまり大きなカサブタだよね。ごめんなさい。
そして、樹液がにじみでてくるのを待ち、右手の木べらですくう。なるべくたっぷり、たっぷり。固まるなよ~。
次に、葉っぱのお皿の上にツーーと垂らす。
まるくなれよ~~。マロンのクルミな感じ。まるーく。まるーく。
ん? まるーーく?
垂れた樹液がピトっと葉っぱの皿に触れたかどうかというその後。
樹液は葉っぱに広がらず、葉っぱの上にまさにまるく、そう、球状にまるくたまっていくのがわかる。
えっ!? た、確かにまるいけど、こうなるとは……!
動揺が伝わったのか、葉っぱの上の球体の表面が少し波うつ。
だが……いい! このままの形で硬化だ!
スッと体をよけ、日光に当てる。
するとみるみるうちにその球体は硬く固まり……。
完成……だ。
「わ~~~~! 優花、すっごいの~~!!」
なんか、ほんと。すっごい。
ちょっとよく見てみよう。
球体からヘラにつながる糸をパキンと折って、太陽にかざして確かめる。
すごい。この大きさなのに、硬化不良がおきてない。透明度のせい?
しかも、なぜか落ち着いたトーンの優しい緑色になっている。葉っぱのせい?
波うった表面に光が当たると、キラキラと緑のグラデーションが美しい。
――――どゆこと?
異常に早い硬化時間もそうだし、球状になるのもそうだし。
異世界のレジンは、常識も異世界だ。
「これマロンの石なの? すごくすごくキレイなの!」
状況が理解できず私が呆然としていると、出来上がったばかりの石に大興奮している。
私はマロンにクルミの殻の形の石を渡す。
「マロン、その石は重くない?」
「ちょうどいい重さなの。とても持ちやすくて、キラキラしててとてもキレイなの!」
マロンからハートマークがいっぱい出ているような気がする。
とても気に入ってくれたみたいで、嬉しい。
次の瞬間、とても重たい荷物を背負ったかのような身体的な疲れが襲う。
なんだろう、体がだるい。まるでMAXまで貯めた家事をいっぺんにこなした時のような疲れだ。
「優花、大丈夫なの? この疲れはマロンじゃ治せないの……無理しないでなの」
「ありがとう、マロン。ちょっと休んだら大丈夫かも。こんな時に魔獣に襲われたらどうしよう」
心配そうにマロンが私を見つめる。
ダークグレイの瞳がうるうるしている。はぁ、かわいい。
その時、突如マロンの表情がこわばる。同時に周囲に緊張が走る。
マロンがある一方をずっと見つめていて、私もその方角を見る。ゆっくりと……足音が近づいてくる。
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