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第二章 勇者

2.9 グラススケイル

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 フニオが持ってきてくれた木の実や果実を全て平らげて、私はマロンを左肩にのせ、左手にボロボロの革靴を持って小屋の外に出て歩き出す。
 
 今日は湖でこのボロボロの革靴を洗う。その後はマロンが住処にしていた場所までもう一度散策だ。昨日は助けることを優先にしていたから、周りに何があるかはさっぱりだったし。同じ場所だ。マロンナビもいいだろう。

 こんなところで日頃の家事スキルが活きるとは。
 この程度の革靴ならサッと洗える手際の良さ!
 
 湖パワーで見違えるほどに綺麗になった革靴を、軽く水分を落として陽の当たる場所に暫らく置く。

「優花、これ、面白いの! マロンが入っても大丈夫なの!」

 靴の中にマロンが入り、その形にじゃれて遊んでいる。
 マロンったら……ね。革靴の合間からちょこんと顔を出すマロンは、思わずパシャっと一枚撮りたくなるほどだ。

 フニオは小屋の中で少し眠るとのこと。昨日の夜は休めなかったのだろう、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 ちなみに、フニオとマロンは協力して私の面倒を見ることにしたらしい。
 フニオも「マロンがいれば安心だ」というし、マロンはマロンで「マロン頑張るの!」とマロンマロンしている。
 
 この守られるだけの状態、何とかならないものか。
 そんな気持ちを察したのか、マロンは靴の中で遊ぶのをやめて私の膝の上に乗る。

「優花、安心するの!」

 そう言って、フニオのマネをしてキリリとした表情を作るマロン。

 ――――ああ、マロン。どうしてそんなに可愛いの。

 私が膝の上のマスコットにキュンキュンしていると、視界の奥、木々の間に何かキラッと光るものを見つける。

「何か光ってる。なんだろ?」

 マロンを抱き上げて肩の上に乗せる。

「優花優花、アレ、もう大丈夫なの!」
「ん? 靴?」

 確かに革靴が履けたら移動はしやすい。でもまだ乾いて……る!

「えっへ~~! マロンも褒めて遣わすなの!」

 ……マロン、その言葉は何処で覚えたの……。
 しかも使い方を間違えているし。でも、うれしい。!

「ふむむ。そのほうの此度の働き、大義であった! 褒めて遣わす!」
「ははぁなの~~!」
 
 そういってマロンは私の肩の上で両手を重ねて拝んでいる。
 
 何かが違うけど!! フニオはマロンに一体何を教えたの?

 私はボロボロのルームシューズからようやく解放され、革靴に足を入れて光に向かう。

 輝きを頼りに近づいてみると、それはキラキラ光る透明な樹液だった。
 幹には大きな傷跡がある。樹液はそこから流れ出て……いや固まっていた。

「樹がね、自分をなおしているの」
「自分を、治す?」
 
 マロンによると傷つけた樹皮を修復するための太陽光で固まる樹脂を分泌する樹なんだとか。この場所にだけ存在するとても珍しい樹らしい。が、ポイントはそこではない。

 重要なのは、「太陽光で固まる」というところだ。
 私はこういった液体に心当たりがある。

 ――――調べてみよう……。

 手で触ってみるとひんやり冷たい。見た目共々、本当にガラス。
 爪でくっついている部分をひっかくと、樹液の塊はポロリとはがれ、地面に落ちる。
 すると、またトロリと樹液が滲み出てきた。

 ――――この感じ……レジンだ!!


 周囲を見わたすと樹液を流す木は日陰になっている場所にあるため、少しばかり暗い。つまり、この時間帯は紫外線に当たりにくいということだ。

「優花?」

 マロンの呼びかけに笑顔で応え、私はその樹液を指先にたっぷりすくう。
 そしてそのまま太陽の光に当てて変化を見る。
 変化を見る。
 変化を見るが。
 変化……しない。

 ――――そうなんだよね~。レジンって、硬化するのに時間かかるんだよね……。

 そう思いながら、指先の樹液をツーーと地面に向けて垂らす。

「もっと、こう、一瞬で固まってくれればいいんだけどさぁ。こう、パキッとさぁ……」

 パキッ。

「っえ?」
「わぁ!」

「そんなことってある!?」

 なんということか。
 指からこぼれた樹液は糸を引いて流れ落ち、そのしずくは地面につく前に空中で止まった。
 細い糸で指とつながったしずくは、陽の光を受けて宝石のように輝く。

 私は、指先について固まった樹液とつながった硬い糸をパキンとはがし、小豆程度のしずく部分を手に取る。
 小さくはあるが、高い透明度があり、陽の光を当てると七色に輝く。


 ――――間違いない。これは、レジンだ。しかも輝きはまるで、モアサナイト!

 ダイヤモンドよりもより輝くその石を連想させるほど、ソレはキラキラと良く光る。

「とてもキレイなの! マロンも欲しいの!」

 肩の上のマロンが大興奮している。

 ――――うん、マロンってば、乙女ね。

「ちょっと待ってて!」

 マロンは頷く。ダークグレイの瞳が「興味津々です!」と強くうったえている。

 ――――良いじゃない!その期待にお応えしましょう!!

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