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第二章 勇者
2.2 霧
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私は左に樹をよけ、ついでに大樹の幹をぐるりと回る。普通の樹のゆうに三倍はありそうな幹。テレビの旅行番組とかで見かける高級旅館に有りそうな大きな座卓を思い浮かべる。
とは言え何かに集中すると周囲が見えなくなるのは、私の悪い癖だ。
フニオが居ると思うとついつい安心しちゃうけど、このままじゃいけないのも分かってる。
私も何か……、戦う術を身に付けないといけないんだろうけど……。
このままじゃ邪竜はおろか、狼にさえ勝てる気がしない。
どれくらい森の中を歩いたろうか?
そろそろ着いてもいいんじゃないかと思うけれど、目指す建物らしきものが一向に見えてこない。
私はキョロキョロと辺りを見回す。日の光がカーテンのように木々の合間に差し込んでくる美しい森は先程と何も変わらないような気がする。
そう。何も変わっていないのだ。
私は不安を感じ、その場で足を止める。
「フニオ……もしかして私、さっきから迷ってる?」
「いや目的地には真っ直ぐ向かえている。だが、何者かが目に映る風景を意図的に変えている可能性がある。それもはっきりとした変化にならないよう、かなり慎重に、だ」
何かの違和感をフニオも感じていた事にホッとする。
でも妙だ。これまでのフニオなら異変にすぐ気が付き何らかの指示をくれるはず。
もしかすると……、この状況をフニオも十分に把握が出来ていない?
その時、フニオの固い声が響く。
「優花。動かないでくれ」
フニオは私の腕の中から飛び出し、地面に降りた。
辺りの地面の匂いを嗅ぎ、何かの方向を確認し始める。
私は犬っぽい可愛い仕草にほっこりするも、依然としてフニオの表情は険しい。
「霧が流れ込んでくる。幻惑の魔法か?」
「湖のそばなら安全じゃなかったの!?」
「十メートルくらいまでならな」
何処からか現れた白い靄のような霧が辺りを、というか私とフニオの周りを包む。
幻惑の魔法と言われて何だか納得する。まずい……。戦いになるんだろうか……。
今のところ私のポジションは、逃げ専あるいは応援担当だ。
異世界転生とか異世界転移ものならもっと派手で強力な攻撃スキルが初期からバンバン使えて、爽快感半端ないはずなのに。私の異世界生活はどうして――――。
ん? スキル?
私をこの世界に送り込んだ人物(?)……、確か『神使ロキ』が言っていた。
私は、「エクストラ」とよばれる、「勇者」なのだとか。
ということは、何か、スキル的なものをもっていてもよさそうな……。
きのう聖獣フニオは私の膨大な魔力を食べていると言った。
つまり私も魔法が使える可能性がある?
あと、なんかもっと大事なことを忘れている気がするけど、何だったかな。
私が考え事をしていた数秒間のうちに、事態は悪化していたようだ。
フニオの毛が何かを感じ取って逆立っている。
「優花。これは単なる霧じゃない。もしかすると"女神"の……。とにかくじっとしていてくれ」
「うん」
フニオが注意深く辺りを見回す。"女神"っていう言葉が気になるけど、まず、フニオの指示に従う。
霧がゆっくり集まり、その密度が増していく。完全に霧に包まれ、フニオの姿が全く見えなくなったが、フニオの「問題無い。"女神"の霧だ」という言葉を信じて、動きを止める。
そして、なんだろう。この霧から伝わる……、感情? 警戒? 苦しい……? 痛い……?
「もう大丈夫だ。じきに霧も晴れるだろう」
言葉通り、霧はスウッと引いていった。
「よかった。一体何がどうなっているの?」
「俺と優花は、どうやら“女神”の領域に入り込んでいたようだ」
「その“女神”って……?」
フニオによると、ショルゼアにはアンバースクウィレルと呼ばれる貴重な魔獣がいるらしい。
このアンバースクウィレルは、その美しい茶色の毛皮から別名“茶色の女神”と呼ばれており、今まで発生していた迷いの霧はこのアンバースクウィレルによるものだという。
でもフニオの判断で動きを止めたから、警戒を解いたアンバースクウィレルは、この場を去った。
だから霧が晴れたというわけだ。
「アンバースクウィレルの気配に気づけなかった俺が悪い。すまない」
「ううん、フニオが教えてくれたから全然大丈夫!」
霧はすっかり晴れ、視界がクリアになる。
そしてフニオが先程臭いを嗅いでいた方向を思わず見てしまう。
この先に何かが、あるのかもしれない。そう思ったら、足が自然とその方向に向かってしまう。
「優花、行かないほうがいい!」
とは言え何かに集中すると周囲が見えなくなるのは、私の悪い癖だ。
フニオが居ると思うとついつい安心しちゃうけど、このままじゃいけないのも分かってる。
私も何か……、戦う術を身に付けないといけないんだろうけど……。
このままじゃ邪竜はおろか、狼にさえ勝てる気がしない。
どれくらい森の中を歩いたろうか?
そろそろ着いてもいいんじゃないかと思うけれど、目指す建物らしきものが一向に見えてこない。
私はキョロキョロと辺りを見回す。日の光がカーテンのように木々の合間に差し込んでくる美しい森は先程と何も変わらないような気がする。
そう。何も変わっていないのだ。
私は不安を感じ、その場で足を止める。
「フニオ……もしかして私、さっきから迷ってる?」
「いや目的地には真っ直ぐ向かえている。だが、何者かが目に映る風景を意図的に変えている可能性がある。それもはっきりとした変化にならないよう、かなり慎重に、だ」
何かの違和感をフニオも感じていた事にホッとする。
でも妙だ。これまでのフニオなら異変にすぐ気が付き何らかの指示をくれるはず。
もしかすると……、この状況をフニオも十分に把握が出来ていない?
その時、フニオの固い声が響く。
「優花。動かないでくれ」
フニオは私の腕の中から飛び出し、地面に降りた。
辺りの地面の匂いを嗅ぎ、何かの方向を確認し始める。
私は犬っぽい可愛い仕草にほっこりするも、依然としてフニオの表情は険しい。
「霧が流れ込んでくる。幻惑の魔法か?」
「湖のそばなら安全じゃなかったの!?」
「十メートルくらいまでならな」
何処からか現れた白い靄のような霧が辺りを、というか私とフニオの周りを包む。
幻惑の魔法と言われて何だか納得する。まずい……。戦いになるんだろうか……。
今のところ私のポジションは、逃げ専あるいは応援担当だ。
異世界転生とか異世界転移ものならもっと派手で強力な攻撃スキルが初期からバンバン使えて、爽快感半端ないはずなのに。私の異世界生活はどうして――――。
ん? スキル?
私をこの世界に送り込んだ人物(?)……、確か『神使ロキ』が言っていた。
私は、「エクストラ」とよばれる、「勇者」なのだとか。
ということは、何か、スキル的なものをもっていてもよさそうな……。
きのう聖獣フニオは私の膨大な魔力を食べていると言った。
つまり私も魔法が使える可能性がある?
あと、なんかもっと大事なことを忘れている気がするけど、何だったかな。
私が考え事をしていた数秒間のうちに、事態は悪化していたようだ。
フニオの毛が何かを感じ取って逆立っている。
「優花。これは単なる霧じゃない。もしかすると"女神"の……。とにかくじっとしていてくれ」
「うん」
フニオが注意深く辺りを見回す。"女神"っていう言葉が気になるけど、まず、フニオの指示に従う。
霧がゆっくり集まり、その密度が増していく。完全に霧に包まれ、フニオの姿が全く見えなくなったが、フニオの「問題無い。"女神"の霧だ」という言葉を信じて、動きを止める。
そして、なんだろう。この霧から伝わる……、感情? 警戒? 苦しい……? 痛い……?
「もう大丈夫だ。じきに霧も晴れるだろう」
言葉通り、霧はスウッと引いていった。
「よかった。一体何がどうなっているの?」
「俺と優花は、どうやら“女神”の領域に入り込んでいたようだ」
「その“女神”って……?」
フニオによると、ショルゼアにはアンバースクウィレルと呼ばれる貴重な魔獣がいるらしい。
このアンバースクウィレルは、その美しい茶色の毛皮から別名“茶色の女神”と呼ばれており、今まで発生していた迷いの霧はこのアンバースクウィレルによるものだという。
でもフニオの判断で動きを止めたから、警戒を解いたアンバースクウィレルは、この場を去った。
だから霧が晴れたというわけだ。
「アンバースクウィレルの気配に気づけなかった俺が悪い。すまない」
「ううん、フニオが教えてくれたから全然大丈夫!」
霧はすっかり晴れ、視界がクリアになる。
そしてフニオが先程臭いを嗅いでいた方向を思わず見てしまう。
この先に何かが、あるのかもしれない。そう思ったら、足が自然とその方向に向かってしまう。
「優花、行かないほうがいい!」
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