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9章 アレクシアとアウラード大帝国の闇

デズモンドの傷

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「どうしたものかな⋯」

アレクシアの兄である皇太子のシェインは、このカオスな状態に苦笑いしていた。そんなシェインの横にいたロインは徐にステラの方に歩いて行く。

「魔国王妃様、貴女の要望はこのちんちく⋯アレクシア皇女との冒険ですよね?」

「今のはわざとでしゅね!?うぅ⋯今はちんちくりんでしゅが、あと十年後にはナイシュバデーになる予定でしゅ!!」

「ナイシュバデーって⋯ブッ」

ランゴンザレスは我慢ができずに笑い出す。その後ろではアランカルトが鼻で笑っていた。

「おい、二十年後の間違いだろ!」

ゼストは呆れているが、デズモンドはそんなアレクシアを優しい目で見守っている。

「何でしゅかその優しい目は!!何か⋯言えでしゅ!」

八つ当たりでデズモンドをポカポカ殴るアレクシア。

「む。アレクシア、こっちに来い」

デズモンドとアレクシアの微笑ましい光景が面白くないルシアードが、愛娘を無理矢理抱っこした。

「アレクシアはずっとちんちくりんのまま俺の横にいるんだぞ?」

「ちんちくりん、ちんちくりんうるさいでしゅね!失礼な!シアはダイナマイトバデーになるんでしゅ!」

父親の失礼な発言に、怒りのままその父親の綺麗な頬をつねってプンスカ文句を言うアレクシアを見て、流石にやり過ぎだ思ったシェインやロインは止めようとするが、案の定だが喜んでいるブレないルシアード。そんな息子を見て開いた口が塞がらないプリシラだが、肝心な事を解決しようと動き出す。

「そんな事よりこの子が魔国国王の婚約者ですって!?ルシアード、この子は駄目よ!絶対何かやるわよ!この国の外交にも関わる重要な縁談ならジェニファーが良いわ!」

それを聞いたデズモンドの顔から好青年の仮面が剥がれてスッと笑顔が消えた。昔から何かと邪魔をする国の為、家柄や身分、そしてアリアナだからと言うデズモンドにとっての最大の禁句をプリシラが盛大に刺激してしまった。

「おい!こいつを止めろ!」

危機感をいち早く察したのは、そんなデズモンドを長年横で見てきた魔国王妃であるステラだった。

アレクシアは抱えられていたルシアードから飛び降りて、急いでデズモンドの元に駆け寄る。デズモンドはプリシラの首を掴むと激しい怒りをぶつける。

「嫌な事を言ってくれるな?本当はこの国を滅ぼしてでも今すぐにアレクシアを魔国に連れて行きたいのを我慢していると言うのに!今からでも遅くはない、ランゴンザレス、ポーポトスよ。命令だ。この国を滅ぼすぞ」

デズモンドの命令を聞いたランゴンザレスは、何も言わずに跪く。そんな魔国王や孫を見てポーポトスは深い溜め息を吐く。

「ステラ、そしてユウラ。お前達も⋯」

「デズモンド!オババを離して下しゃいな!」

冷酷にも顔色を変えずにアウラード大帝国を滅ぼすと宣言するデズモンドから、必死にプリシラを助けようとするアレクシア。

「何故だ?お前は昔からそうだ⋯人族を慈しみ守った結果はどうだった!?酷く裏切られただろう!!」

「⋯。確かにシアは馬鹿でしゅ⋯でも、それでも大切な人達が傷つけ合うのは見たくないでしゅ!」

アレクシアが必死に訴える。ルシアードはアレクシアを守ろうとするが、自分の母親であるプリシラには見向きもしない。

「全く、若い者は命を軽く身過ぎじゃ!」

見かねたミルキルズが指を鳴らすと、プリシラを掴んでいるデズモンドの腕が反対方向に捩れた。それによって解放されたプリシラは酷く咳込み崩れ落ちた。そんなプリシラを上手に受け止めたポーポトス。

「すまないのう⋯。じゃが、この件には口を出さないでくれんか?」

ポーポトスの優しさの中に、怒りも含まれているのを感じたプリシラは何も言い返さずに静かに頷いたのだった。

腕を捩られたデズモンドは、声を上げる事なく魔法で瞬間的に治癒した。ミルキルズはデズモンドを見透かすように見つめ、ゼストは何かあった時の為に部屋に結界を張った。

『おいおい、デズモンドは大丈夫か?』

ウロボロスも心配そうにアレクシアの頭の上でデズモンドを見ていた。

「デズモンド、シアは昔から人の言う事を聞きましぇん。それに狡賢いでしゅし、お金がだいしゅきでしゅ」

「ああ、嫌と言うほど知っている」

お互いに見つめ合うアレクシアとデズモンド。ルシアードが割って入ろうとするが、ここは空気の読める方の父親ゼストとランゴンザレスに止められる。

「自由に冒険したいでしゅし、また懲りずに人族を助けると思いましゅ」

「だろうな」

昔を思い出しているのかフッと笑うデズモンド。

「昔⋯魔国でやらかした事もありましゅから、反対派の方が多いでしゅよ?」

「今度こそお前を守る。⋯お前がまた一人で解決しないように二人で一緒に解決していこう」

そう言ってアレクシアを抱っこするデズモンド。ウロボロスはそんな二人を静かに見守る。

アレクシアは下を向いたまま静かに頷いた。するとランゴンザレスがそっと近寄りピンクの花柄ハンカチをアレクシアに渡した。

「⋯ズビ⋯ズズズ」

「あんた!それで鼻水を拭かないでよ!」

先程の優しさが嘘のように、アレクシアから花柄ハンカチを取り上げるランゴンザレスであった。












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