41 / 42
2-4.大物を希望
しおりを挟む
「とにかくだ。こいつはすでに決定事項だからな。格闘技路線に舵を切る一発目に、ワンデートーナメントと実木ジュニアのデビュー戦、この二本柱でなら間違いない」
「トーナメント、ですか」
「ああ。勘違いするなよ。息子は別枠だ。ほら、リザーバーってやつに回る。トーナメントには俺が出る。他にも何人か、うちから出場させてもいい。若手エースの小石川が出たいなら出すし、鶴口や福田辺りは久々に本領発揮したいだろう。出たい奴はみんな出す。あとは相手だ。国内及びアジアの、強い奴、でかい奴でフリーの連中は片っ端から集めてこい」
「アジア限定にするんですか。確かに、まだあまり世界には出ていないから、未知の強豪がいる可能性は比較的高いとは思いますが」
「あ、これも言ってなかったか。一発目はアジア予選トーナメントとして行う。その次は世界と銘打つぞ」
「ええ?」
未定のこととは言え、大風呂敷を次々に広げられて、役員達は目を白黒させ、顔を赤くしたり青くしたりした。その様子を見て、またもや実木が大笑いする。
「社長、笑い事じゃないですよ。アジアのトーナメント、そこはまあいいとしましょう。ギャラも低めで済むだろうから。その先、世界トーナメントを開こうって言うんなら、大変ですよ。アジア予選をやるからには、北米、中南米、欧州、ロシア、アフリカ、中近東ぐらいの区切りで、似た規模の予選トーナメントを開催しなければ、辻褄が合わなくなる。そういう点、日本のファン、マスコミは敏感ですからね」
「いや、そこは拘らなくていいだろ」
実木はあっさり、否定する。
「アジアトーナメントで成功を収めて、大金を引っ張ってくる。とらぬ狸のなんとやらじゃないぞ。当てはあるんだ。その金で大物を一本釣りして行けば、コマは揃うさ」
「い、違約金も払えるような大金が集まると?」
「ああ。ただし、いくつかのスポンサーは条件を出してきている。アジア大会に、ぜひともこいつを出場させよ、それなら気前よく資金援助してやろうってのが」
「だ、誰なんですか」
「まさか、他団体のプロレスラーじゃないですよね。その……長羽さんとか」
「あはははっ! 面白えこと言うな、新妻。そのアイディア、採用したいぜ。念のため、打診してくれるか」
「は、はあ」
永遠のライバルと目される長羽の名を人前で出されると、実木は不機嫌になることが多い。しかし、このときは違ったようだ。
「だが、スポンサーのお偉い面々は、格闘技とプロレス、そして今現在の人気というのを昔よりも分かってらっしゃるぞ。大竹が欲しいんだとよ」
その名前が出て、場にはこれまであとは別のざわつきが広がった。
大竹益明。志貴斗が地盤沈下したあと、立ち技格闘技でブームを巻き起こした神拳館のトップ空手家である。格闘技の世界で重量級においては、日本人選手はなかなか歯が立たない。特に立ち技となると、海外勢と比べるとスピードで劣るため、的になるケースがほとんどだった。しかし大竹はその定説を打ち破り、世界の強豪と互角に渡り合った。KO勝利こそ、外国人ファイターのそれにパーセンテージで劣るが、日本人離れした打撃力を拳のみならず、脚にも秘めている。加えて、ボクシング、キック、拳法など空手以外の道場・ジムに通って培った、様々な捌きやステップを匠に駆使し、相手の強打を紙一重で交わすことにも長ける。現代の日本格闘技界のトップスターの一人に、確実に数えられる存在だ。
「確かに、彼なら私も面識がありますし、神拳館とも親交があります」
新妻が考え考え、少しずつ言葉を紡ぐ。
「しかし、打撃系の重量級第一人者で絶頂にある大竹選手が、ガチンコの総合格闘技に出陣してくれるとは思えません。あちらさんだって興行があり、大エースに傷を付けかねない危険を冒したくはないに決まっています。総合の練習をしているとも聞きませんし。もしや、彼がMMA対応の練習をしているという極秘情報でも?」
「トーナメント、ですか」
「ああ。勘違いするなよ。息子は別枠だ。ほら、リザーバーってやつに回る。トーナメントには俺が出る。他にも何人か、うちから出場させてもいい。若手エースの小石川が出たいなら出すし、鶴口や福田辺りは久々に本領発揮したいだろう。出たい奴はみんな出す。あとは相手だ。国内及びアジアの、強い奴、でかい奴でフリーの連中は片っ端から集めてこい」
「アジア限定にするんですか。確かに、まだあまり世界には出ていないから、未知の強豪がいる可能性は比較的高いとは思いますが」
「あ、これも言ってなかったか。一発目はアジア予選トーナメントとして行う。その次は世界と銘打つぞ」
「ええ?」
未定のこととは言え、大風呂敷を次々に広げられて、役員達は目を白黒させ、顔を赤くしたり青くしたりした。その様子を見て、またもや実木が大笑いする。
「社長、笑い事じゃないですよ。アジアのトーナメント、そこはまあいいとしましょう。ギャラも低めで済むだろうから。その先、世界トーナメントを開こうって言うんなら、大変ですよ。アジア予選をやるからには、北米、中南米、欧州、ロシア、アフリカ、中近東ぐらいの区切りで、似た規模の予選トーナメントを開催しなければ、辻褄が合わなくなる。そういう点、日本のファン、マスコミは敏感ですからね」
「いや、そこは拘らなくていいだろ」
実木はあっさり、否定する。
「アジアトーナメントで成功を収めて、大金を引っ張ってくる。とらぬ狸のなんとやらじゃないぞ。当てはあるんだ。その金で大物を一本釣りして行けば、コマは揃うさ」
「い、違約金も払えるような大金が集まると?」
「ああ。ただし、いくつかのスポンサーは条件を出してきている。アジア大会に、ぜひともこいつを出場させよ、それなら気前よく資金援助してやろうってのが」
「だ、誰なんですか」
「まさか、他団体のプロレスラーじゃないですよね。その……長羽さんとか」
「あはははっ! 面白えこと言うな、新妻。そのアイディア、採用したいぜ。念のため、打診してくれるか」
「は、はあ」
永遠のライバルと目される長羽の名を人前で出されると、実木は不機嫌になることが多い。しかし、このときは違ったようだ。
「だが、スポンサーのお偉い面々は、格闘技とプロレス、そして今現在の人気というのを昔よりも分かってらっしゃるぞ。大竹が欲しいんだとよ」
その名前が出て、場にはこれまであとは別のざわつきが広がった。
大竹益明。志貴斗が地盤沈下したあと、立ち技格闘技でブームを巻き起こした神拳館のトップ空手家である。格闘技の世界で重量級においては、日本人選手はなかなか歯が立たない。特に立ち技となると、海外勢と比べるとスピードで劣るため、的になるケースがほとんどだった。しかし大竹はその定説を打ち破り、世界の強豪と互角に渡り合った。KO勝利こそ、外国人ファイターのそれにパーセンテージで劣るが、日本人離れした打撃力を拳のみならず、脚にも秘めている。加えて、ボクシング、キック、拳法など空手以外の道場・ジムに通って培った、様々な捌きやステップを匠に駆使し、相手の強打を紙一重で交わすことにも長ける。現代の日本格闘技界のトップスターの一人に、確実に数えられる存在だ。
「確かに、彼なら私も面識がありますし、神拳館とも親交があります」
新妻が考え考え、少しずつ言葉を紡ぐ。
「しかし、打撃系の重量級第一人者で絶頂にある大竹選手が、ガチンコの総合格闘技に出陣してくれるとは思えません。あちらさんだって興行があり、大エースに傷を付けかねない危険を冒したくはないに決まっています。総合の練習をしているとも聞きませんし。もしや、彼がMMA対応の練習をしているという極秘情報でも?」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ああ、本気さ!19歳も年が離れている会社の女子社員と浮気する旦那はいつまでもロマンチストで嫌になる…
白崎アイド
大衆娯楽
19歳も年の差のある会社の女子社員と浮気をしている旦那。
娘ほど離れているその浮気相手への本気度を聞いてみると、かなり本気だと言う。
なら、私は消えてさしあげましょう…
快適に住めそうだわ!家の中にズカズカ入ってきた夫の浮気相手が家に住むと言い出した!私を倒して…
白崎アイド
大衆娯楽
玄関を開けると夫の浮気相手がアタッシュケースを持って立っていた。
部屋の中にズカズカ入ってくると、部屋の中を物色。
物色した後、えらく部屋を気に入った女は「快適ね」と笑顔を見せて、ここに住むといいだして…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
抱きたい・・・急に意欲的になる旦那をベッドの上で指導していたのは親友だった!?裏切りには裏切りを
白崎アイド
大衆娯楽
旦那の抱き方がいまいち下手で困っていると、親友に打ち明けた。
「そのうちうまくなるよ」と、親友が親身に悩みを聞いてくれたことで、私の気持ちは軽くなった。
しかし、その後の裏切り行為に怒りがこみ上げてきた私は、裏切りで仕返しをすることに。
妊娠したのね・・・子供を身篭った私だけど複雑な気持ちに包まれる理由は愛する夫に女の影が見えるから
白崎アイド
大衆娯楽
急に吐き気に包まれた私。
まさかと思い、薬局で妊娠検査薬を買ってきて、自宅のトイレで検査したところ、妊娠していることがわかった。
でも、どこか心から喜べない私・・・ああ、どうしましょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる