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2-3.格闘技再出陣、そしてジュニア
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「もう一回、MMA(総合格闘技)に舵を切るぞ」
依然として第一線に踏みとどまり、エースの座に君臨している実木が、社長としてそんなことを言い出した。対して配下のレスラーや社員らは、声なき声も含めて消極的な意見が大半を占める。
「社長、それは時期尚早ではないかと」
会議の場で、実木に物言える数少ない社員、新妻が、それでも遠慮がちに意見した。
「おせえくらいだよ。俺の異種格闘技路線を支持してくれたファンがもっと多かった頃に始めるべきだったんじゃないか。それに志貴斗は解散しちまって、選手はみんなちりぢりだ。対抗戦はもはや組めやしない。いい奴を一本釣りしようにも、たいていは世界に羽ばたいちまって、高いギャラをもらっているから、呼び戻せそうにない。総合格闘技自体、国内では下火だが、地球規模で見ればどこもかしこも盛況みたいじゃねえか。ボクシングに肩を並べる勢いだぜ。あの成長拡大ぶりを、指をくわえて黙って見ている手はない」
「総合格闘技がプロフェッショナルの興行として規模を拡大しているのは同意しますが、うちが手を付けるのは、もう少し先でも……」
「いや。他に一つ、今やる理由がある」
意味ありげにウインクする実木。新妻は期待と不安を一度に抱いた。彼だけではなく、会議に出ているレスラーと役員皆がそうだったろう。実木のウインクにはいい意味でも悪い意味でも、何度となく驚かされてきた経験がある。
「一体何が」
「息子がいい具合に育った。お披露目してやるには、今が旬だ」
「え?」
実木には息子が一人いた。相手女性は未婚で出産、そのまま育てていた。交際自体、公にはされておらず、実質的に隠し子であった。当然、姓は異なり、本名を宍戸海斗という。
そのような子供がいると実木が周囲の者に明かしたのが約三年前。当人がプロレスラーを志向しており、父親としては勝手知ったる仲間に己の子を鍛えさせるために打ち明けたという。才能は抜群で運動神経もプロレスでの勘所もよく、二十歳になった今、いつでもプロレスデビューは可能だとみられていた。
「お披露目は我々営業の口の出すところではありませんが、その、社長はもしかすると、海斗さんのプロレスでのデビューではなく、総合格闘技でのデビューを考えてらっしゃると……?」
「ああ。非公式戦だが、アマチュアの強くて活きのいい連中と渡り合って、七割方勝ってるんだろ?」
宍戸海斗は成長するにつれ、見た目が実木に似てきたため、アマチュア格闘技の大会にすら出場させてはいない。
「その通りですが……いきなり、大舞台に出すというのはいかがなものかと」
周囲から挙がった消極的な声に、実木は目を剥いた。
「俺の息子に、大舞台はふさわしくねえっていうのか?」
「そ、そういう意味ではなくてですね、せめて道場で非公式試合を組んで、その出来を見てからでいいのではないかと愚考する次第です、はい」
新妻よりも年上の役員が、へりくだりつつも考えを述べる。すると実木は、かかと大笑した。
「実木社長?」
「――はっはっは。そんなことを心配してたのか。バカヤロー、取り越し苦労の最たる奴だ。そんなもの、とうに父親の目でテスト済みだよ」
「えっ、いつの間に」
道場での一切を取り仕切る柳本が、困惑を露わにする。これに対しても笑みを向けた実木。
「心配するな。勝手にやったんじゃない。ちょっと前にアメリカ遠征しただろ。あのとき、息子もちょうど里帰りしていたから、会って、肌を合わせて確かめておいた。俺の目が信じられないというのなら、また話は違ってくるがな」
「そ、そうだったんですか……」
感嘆した返事の中に、いつの間にという戸惑いを含める柳本。それもそのはず、米国遠征には柳本も同行し、ほぼほぼ実木と行動を共にしたつもりでいたのだから。
依然として第一線に踏みとどまり、エースの座に君臨している実木が、社長としてそんなことを言い出した。対して配下のレスラーや社員らは、声なき声も含めて消極的な意見が大半を占める。
「社長、それは時期尚早ではないかと」
会議の場で、実木に物言える数少ない社員、新妻が、それでも遠慮がちに意見した。
「おせえくらいだよ。俺の異種格闘技路線を支持してくれたファンがもっと多かった頃に始めるべきだったんじゃないか。それに志貴斗は解散しちまって、選手はみんなちりぢりだ。対抗戦はもはや組めやしない。いい奴を一本釣りしようにも、たいていは世界に羽ばたいちまって、高いギャラをもらっているから、呼び戻せそうにない。総合格闘技自体、国内では下火だが、地球規模で見ればどこもかしこも盛況みたいじゃねえか。ボクシングに肩を並べる勢いだぜ。あの成長拡大ぶりを、指をくわえて黙って見ている手はない」
「総合格闘技がプロフェッショナルの興行として規模を拡大しているのは同意しますが、うちが手を付けるのは、もう少し先でも……」
「いや。他に一つ、今やる理由がある」
意味ありげにウインクする実木。新妻は期待と不安を一度に抱いた。彼だけではなく、会議に出ているレスラーと役員皆がそうだったろう。実木のウインクにはいい意味でも悪い意味でも、何度となく驚かされてきた経験がある。
「一体何が」
「息子がいい具合に育った。お披露目してやるには、今が旬だ」
「え?」
実木には息子が一人いた。相手女性は未婚で出産、そのまま育てていた。交際自体、公にはされておらず、実質的に隠し子であった。当然、姓は異なり、本名を宍戸海斗という。
そのような子供がいると実木が周囲の者に明かしたのが約三年前。当人がプロレスラーを志向しており、父親としては勝手知ったる仲間に己の子を鍛えさせるために打ち明けたという。才能は抜群で運動神経もプロレスでの勘所もよく、二十歳になった今、いつでもプロレスデビューは可能だとみられていた。
「お披露目は我々営業の口の出すところではありませんが、その、社長はもしかすると、海斗さんのプロレスでのデビューではなく、総合格闘技でのデビューを考えてらっしゃると……?」
「ああ。非公式戦だが、アマチュアの強くて活きのいい連中と渡り合って、七割方勝ってるんだろ?」
宍戸海斗は成長するにつれ、見た目が実木に似てきたため、アマチュア格闘技の大会にすら出場させてはいない。
「その通りですが……いきなり、大舞台に出すというのはいかがなものかと」
周囲から挙がった消極的な声に、実木は目を剥いた。
「俺の息子に、大舞台はふさわしくねえっていうのか?」
「そ、そういう意味ではなくてですね、せめて道場で非公式試合を組んで、その出来を見てからでいいのではないかと愚考する次第です、はい」
新妻よりも年上の役員が、へりくだりつつも考えを述べる。すると実木は、かかと大笑した。
「実木社長?」
「――はっはっは。そんなことを心配してたのか。バカヤロー、取り越し苦労の最たる奴だ。そんなもの、とうに父親の目でテスト済みだよ」
「えっ、いつの間に」
道場での一切を取り仕切る柳本が、困惑を露わにする。これに対しても笑みを向けた実木。
「心配するな。勝手にやったんじゃない。ちょっと前にアメリカ遠征しただろ。あのとき、息子もちょうど里帰りしていたから、会って、肌を合わせて確かめておいた。俺の目が信じられないというのなら、また話は違ってくるがな」
「そ、そうだったんですか……」
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