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氷姫救出編

絶刀無双

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 空中に複数の足場を作り出し、連続で縮地を使う。
 カナタとシルが作り出す雷の隙間を縫って進んでいく。

「カナタ! シル! みんなが退避できるまで俺が前に出る! できるだけ温存してくれ!」
「了解!」
「ワン!」

 身体に纏っていた闇を操作して二刀に変える。右の刀を肩に担ぎ、左の刀をその平行になるように構える。

「第五偽剣――」

 放つ直前で首の裏にピリリとした違和感を感じた。俺は反射的に十本目の首を見た。
 ヒュドラも俺を見ていた。視線が交錯する。直感が警鐘を鳴らしている。

「チッ!」
 
 偽剣を中断し、即座に縮地を使う。その一瞬後、俺がいた場所の地面が陥没した。

 ……まだだ。

 一撃で止まるはずがない。
 俺の予想を裏付けるかのようにまだ十本目の首は俺を見ている。
 地面に着地してからでは間に合わない。俺はその直感に従い、足元に闇で足場を作り出し縮地を使う。そこで止まらずに二度三度と縮地を繰り返す。
 通った地面が次々と陥没していく。

 ……大体わかった。これなら問題ない。

 ヒュドラの首が動く。地水火風の首が魔術式を記述、光闇無の首が俺とカナタ、シルに向かって大口を開ける。

 ……魔術が効かないなら食おうってか?

「ワォォオオオン!!!」

 シルが遠吠えを上げる。身体が帯電し、銀の体毛が逆立つ。次の瞬間、姿が掻き消えた。と思った時にはヒュドラの首が消し飛んでいた。
 シルはヒュドラの遥か後方にある壁に着地している。

「負けてられねぇな!」

 カナタが雷を纏わせた刀を立て続けに振るう。一太刀する毎に雷の斬撃が飛んだ。ヒュドラが一瞬だけ怯み、防御のために魔術式を記述する。
 だがそれは悪手だ。その斬撃は本命ではない。

「甘ぇよ!」

 ――ズドンと雷鳴が轟く。
 カナタは既にヒュドラの頭上にいる。そのまま頭に雷刀を突き刺した。

イカズチよ!」

 カナタの言葉に従い、雷が暴れ狂う。それがヒュドラを内側から焼いていく。数秒のうちにヒュドラの首は黒焦げになった。

 カナタの雷の斬撃アレは魔術ではない。魔力を雷の属性へと変換した魔力をそのまま飛ばしているだけだ。
 であるならば魔術の使えない俺でも闇を代用すれば出来る。

 二刀に闇を纏わせる。
 第三偽剣断黒と要領は同じだ。要は過ぎなければいい。

「うぉぉぉおおお!!!」

 振りかぶった右の黒刀が黒き斬撃を放つ。即座に左の黒刀も振り、斬撃を喰らわせる。
 二つの斬撃が飛翔し、ヒュドラの首に傷をつけた。

 ……出来るもんだな!

 立て続けに刀を振る。振り続ける。その度に黒い斬撃がヒュドラに襲いかかる。
 強固な鱗に守られているがダメージがないわけではない。

「グォオオオオオ!!!」

 首が仰け反ったところに縮地を使い、二刀を戦斧に変え一振りで断ち斬る。
 すぐに傷口が蠢くが今は無視だ。どうせすぐ聖属性に回復されるのだから結果は変わらない。
 
 地水火風の首が魔術式を呑み込んだ。

 縮地を使って後退する。そこでまた直感が警鐘を鳴らした。一度、二度と連続で縮地を使い、重力魔術を回避する。
 
 既に俺が斬った首は再生を終えていた。カナタとシルが攻撃した首は焼かれているために聖属性の首が回復魔術を使っている。

 再生した首と二本の首が俺を見ていた。放たれるは炎と風の魔術。二つが合わさり爆発的な火力を生み出す。
 それはまるで炎の竜巻。

 ……防御は悪手だな。

 ならば正面から打ち破る。

「知ってるか? 魔術って斬れるんだぜ?」

 魔術というものはどこかに核とでもいうべき場所がある。
 強力な魔術師は隠す事ができるらしいが、このヒュドラはその領域には達していなかった。所詮は蛇ということか。
 見れば、一際魔力反応の強い場所が二つ。
 俺は戦斧を二刀に戻し、両肩に担ぐようにして構える。

「――第五偽剣、葬刀」

 正確に魔術の核を斬った。結果、魔力の流れが崩壊し炎の竜巻は瞬く間に霧散する。
 再生した首が俺を喰らおうと突っ込んでくるが、何の脅威でもない。二刀を戦斧に変え、再び斬り裂いた。血飛沫を上げながら宙を舞う。
 カナタとシルもそれぞれが魔術を対処している。

 ……そろそろか。

 俺は身体に纏っていた闇を全て解除し冥刀を作り出す。そして納刀。

「第六偽剣、空位断絶!」

 偽剣がヒュドラの首を捉える寸前で空間魔術を使った。想定通りだ。これで当分空間魔術は使えない。
 出現したのは俺の後方、扉との間だ。

「カナタ! シル! あとは頼む!」
「おう!」
「ワン!」

 一人と一頭が脇を駆けていく。
 俺は翼を作り出し空中へと舞い上がった。そこに足場を作り翼を解除、大太刀を作る。

「スゥ――――」

 大きく息を吐き、抜刀の構えを取る。意識を集中し刀界を広げていく。

 俺の変化を感じ取ったのか、ヒュドラの攻撃が苛烈さを増した。
 なりふり構わず魔術式を次々と記述して無数の魔術を放つ。
 無差別攻撃だ。破壊の嵐が空間を満たす。

 カナタとシルが魔術を駆使して、俺に当たる攻撃を的確に捌いていく。

「レイ! こっちは任せろ! 絶対に通さねぇ!」
「ワン!!!」

 俺はカナタの言葉を信じて目を瞑った。
 視界は不要。音も、感覚すらも不要だ。刀界を広げる事だけに全神経を使う。
 
 一秒が途轍もなく長く感じる。

 そして刀界が上へと向かって走る四人を捉えた。そこは刀界の最大範囲だ。

 ……もう少し。もう少し。

 一歩、二歩と上へ進んでいく。
 そして、――抜けた。
 
 目を開ける。音と感覚が戻ってくる。カナタとシルはヒュドラの攻撃を防ぎ続けていた。

「カナタ!」
「おう!」

 ズドンと雷鳴を置き去りにしてカナタが駆ける。まさに雷速。一瞬にして刀界から抜けた。

「ワォォオオオオオオオオン!!!」
 
 シルが一際大きく吼えると辺り一面に雷を撒き散らした。
 そして空気に溶けるようにして消えていく。カノンの元へと戻ったのだろう。

 ……あとはお前だけだ。

 十対の瞳と俺の瞳が交錯する。
 これが最後だと感じ取ったのだろう。ヒュドラが十本の首で一斉に魔術式を記述していく。それが組み合わさり、立体魔術式と化した。
 凄まじい魔力を感じる。

 だがもう遅い。既にこちらの準備は整っている。

「――第一偽剣、刀界・絶刀無双」

 抜刀。
 斬撃の嵐が全てを斬り裂いた。
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