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氷姫救出編
特異属性
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特異属性には最強と呼ばれているモノが三つある。
一つ、空間属性。
その名の通り空間を支配する属性だ。瞬間移動を始め、空間を拡張したり、隔離空間を作り出したりと空間に関わることなら大抵のことはできる。
俺の第六偽剣も魔術で言うなら空間属性に近い。
二つ、星属性。
星の属性とはいうけれど能力は一つだ。星の力を操る事、つまり重力操作。
単純な力だが、最強と言われるだけあってできることは多い。
重力の向きと強さを操作すれば空を飛ぶことも可能だし、局所的に重力を強めれば攻撃にだってなる。
三つ、時間属性。
時間の操作を可能にする属性だ。時を戻したり進めたりすることが可能だ。
この属性に関しては情報がほとんどない。
というのも時間属性という存在自体が疑問視されているのだ。俺が呼んだ禁書には大天使という存在が示唆したとだけ書かれていた。
その為、実質的には最強の特異属性は二つになる。
そんなモノを両方持っている怪物が今目の前にいるヒュドラだ。
「カナタ。どれがどの首かわかるか?」
「十本目は……星で確定だ。……他二つはわからねぇ」
カナタが立ち上がりながら言う。
見れば身体中から雷が迸っている。おそらく身体強化魔術の類だろう。
そうでもしないとこの重力魔術下では立ち上がることすらままならない。
「だよな」
「……たぶん……八本目」
苦しそうに地面に膝をついているカノンの瞳には魔力が集まっていた。
魔眼だ。以前、魔力が見えると言っていた。ならばほぼほぼ確定だろう。
「……空間魔術を使ったのが……九本目」
「消去法で八本目か。助かるカノン」
「……ん」
カノンが小さく頷く。そこでカナタが思いついたように口を開いた。
「カノン。空間魔術の発動タイミングがわかるのか?」
「……ん。……わかる。……けど魔力が動いてから……発動までがとんでもなく早い」
「発動の直前に鴉を鳴かせる事はできるか?」
「……やってみる」
「頭いいなカナタ」
事前に空間魔術の発動タイミングがわかるなら戦いやすくなる。
「じゃあ手短に優先順位を決めよう。まず聖属性の首を落として再生不能にする。その後に空間、星でどうだ?」
「悪いレイ。俺は立っているのがやっとだ。あの星をどうにかしないと戦力にならない」
速度が武器のカナタとしては最悪の相性と言っても過言ではないだろう。
ヒュドラを倒し切るにはカナタの力が必要不可欠だ。
ならば星の優先度を上げる。まずは聖属性、その次に星属性だ。
「わかった。じゃあ重力魔術は俺が解かせる」
上を向けば、ヒュドラが連続して魔術を放っている。重力魔術を使い続けているせいか、六本首のように一斉に魔術を放ってくることはない。
だから俺の闇とサナの防御魔術でなんとか防げている。だが防御に闇を使っていては攻撃力が下がる。
「アイリス。防御は頼めるか?」
「任せて……ください!」
苦しそうにしながらもアイリスが魔術式を記述、防御魔術を発動する。
入れ替わるようにして闇の壁を解く。そのまま闇を四肢に集める。
体は重いままだがこれで何とか動ける。
両手に黒刀を作り出す。
「それと持続回復魔術? ってあったりするか?」
「あります。……五秒に一度回復をかける魔術ですが問題ないですか?」
「ああ。最高だ。やってくれ」
「はい!」
アイリスが両手に魔術式を記述し、発動する。
――聖属性回復魔術:清廉なる泉
ぽちゃんと身体の中に水が落ちるような感覚がした。それと共に身体から活力が漲ってくる。
「ありがとう。これで少し無理ができる」
四肢に集めた闇を変化させていく。
イメージするのは俺の中で最高の剣士が使った装甲。
――白銀装甲・偽
闇が形を変えていく。
本来なら白銀に輝く鎧が出現するのだが俺のはあくまで偽物。黒く、所々が乾いた血のような色をしている。本物とはかけ離れた姿だ。
ラナの白銀装甲は周囲の気温に応じて自信を強化する魔術だった。だけど俺のは胸から溢れ出る闇で限界以上の身体能力を引き出す。
「それ……は……!」
「ラナのはもっと綺麗だったけどな。……アイリス、サナ。俺がアイツを叩き落とす。そうしたら防御魔術を解除してくれ。カナタとウォーデンは重力魔術が解けたタイミングで援護をくれ」
カノンには空間魔術の感知を最優先してもらう。だから何も指示はしない。
俺は二刀を掲げる。
「行くぞ! 第五偽剣、葬刀!」
二刀で同時に放った第五偽剣がヒュドラの翼を斬り裂く。
「グォオオオオオ!!!」
洞窟全体を揺らす叫びを上げてヒュドラが落ちていく。同時に重力魔術以外の魔術が止んだ。
サナとアイリスが防御魔術を解除する。
俺は縮地を使い、ヒュドラの懐へと飛び込む。
その時には既に翼は再生していた。
……再生が早いな!
ヒュドラは翼を大きく羽ばたかせると地面ギリギリで止まり墜落を免れた。
だが俺は気にせずに突き進む。二刀を大太刀に変え、鞘を作り出す。
重力魔術下での無理な動きで身体中が軋む。ブチブチと嫌な音が鳴り関節から血が吹き出す。
だけどすぐにアイリスの回復魔術が癒してくれる。
もともと痛みには慣れている。これぐらいの痛みならなんの問題もない。
「第一偽剣――」
抜刀の構えをとったところで頭上の鴉が鳴いた。
即座に偽剣を中断する。その時には既にヒュドラは空中にいた。
首から記述される数多の魔術式。
「サナ! アイリス! 防御に専念してくれ!」
「わかった!」
「わかりました!」
俺は縮地を使い、飛んだ。
二刀に闇を纏わせ、斬撃を叩き込む。しかし直線の斬撃は難なく避けられた。
ヒュドラの首が魔術を放つ。色とりどりの破壊が顕現する。
アイリスとサナが防御魔術を使った。
頭上にいる俺には業火の渦が襲いくる。
「なら――!」
俺は考えていた。
カナタのように空中で縮地を使う方法を。
移動中に聞いた話だと雷で強化した足を凄まじい速度で蹴り出すことによって空気の層を足場にしているらしい。
要は足場があればいい。
俺は空中に闇で板を作り出す。そこに身を捻り逆さまに着地した。
直ぐに横へと向けて縮地を使う。先へと再度、板を作り出す。業火を避けてまた着地。
「第五偽剣、葬刀!」
第五偽剣がヒュドラの翼を再び斬り裂く。
「グォオオオオオオオオオオ!!!」
絶叫を響かせながらヒュドラが落ちていく。魔術の嵐が止んだ。
直後に縮地。頭上で二刀を戦斧に作り替える。
――カァァァ
鴉が鳴いた。転移だ。
直後に目の前から、ヒュドラが消えた。
……集中しろ。気配を探れ!
「そこか!」
ヒュドラは俺のさらに頭上へ転移していた。
戦斧を解除して無数の黒刀を作り出し、そこへ向けて射出する。
その後、もう一度足場を作り出し着地。
数多の黒刀は鱗に弾かれるが、それでも突き刺さるモノはあった。
「グォオオオオオオオオ!!!」
叫び声を無視して再び縮地を使い、戦斧に切り替える。
そのまま、聖属性の首が目掛けて叩きつけた。薄緑色の首が地面に落ちていく。
その結果が俺には予想外だった。
……なぜ転移しない?
空間魔術を使えば首が落とされる事はなかった。ならばしないのではなくできないのか。
……もしかして再使用時間があるのか?
もしそうならば話は簡単だ。
……再使用時間中に落とす!
「第五偽剣、葬刀!」
再生を防ぐため落下していた首を両断する。それから再度足元に板を生成、縮地を使う。
十本目の首に肉薄し、偽剣を放つ。首が残っていたら魔術を使われる。ならば塵すら残さない。
俺は空中で抜刀の構えを取った。
「第一偽剣、刀界・絶刀無双!」
第一偽剣が十本目の首を文字通り跡形もなく吹き飛ばす。
その瞬間、フッと身体が軽くなった。
「カナタ!」
――ズドンと雷鳴が轟いた。
雷速でヒュドラの頭上に到達したカナタが魔術を使う。
――雷属性攻撃魔術:墜天
一つ、空間属性。
その名の通り空間を支配する属性だ。瞬間移動を始め、空間を拡張したり、隔離空間を作り出したりと空間に関わることなら大抵のことはできる。
俺の第六偽剣も魔術で言うなら空間属性に近い。
二つ、星属性。
星の属性とはいうけれど能力は一つだ。星の力を操る事、つまり重力操作。
単純な力だが、最強と言われるだけあってできることは多い。
重力の向きと強さを操作すれば空を飛ぶことも可能だし、局所的に重力を強めれば攻撃にだってなる。
三つ、時間属性。
時間の操作を可能にする属性だ。時を戻したり進めたりすることが可能だ。
この属性に関しては情報がほとんどない。
というのも時間属性という存在自体が疑問視されているのだ。俺が呼んだ禁書には大天使という存在が示唆したとだけ書かれていた。
その為、実質的には最強の特異属性は二つになる。
そんなモノを両方持っている怪物が今目の前にいるヒュドラだ。
「カナタ。どれがどの首かわかるか?」
「十本目は……星で確定だ。……他二つはわからねぇ」
カナタが立ち上がりながら言う。
見れば身体中から雷が迸っている。おそらく身体強化魔術の類だろう。
そうでもしないとこの重力魔術下では立ち上がることすらままならない。
「だよな」
「……たぶん……八本目」
苦しそうに地面に膝をついているカノンの瞳には魔力が集まっていた。
魔眼だ。以前、魔力が見えると言っていた。ならばほぼほぼ確定だろう。
「……空間魔術を使ったのが……九本目」
「消去法で八本目か。助かるカノン」
「……ん」
カノンが小さく頷く。そこでカナタが思いついたように口を開いた。
「カノン。空間魔術の発動タイミングがわかるのか?」
「……ん。……わかる。……けど魔力が動いてから……発動までがとんでもなく早い」
「発動の直前に鴉を鳴かせる事はできるか?」
「……やってみる」
「頭いいなカナタ」
事前に空間魔術の発動タイミングがわかるなら戦いやすくなる。
「じゃあ手短に優先順位を決めよう。まず聖属性の首を落として再生不能にする。その後に空間、星でどうだ?」
「悪いレイ。俺は立っているのがやっとだ。あの星をどうにかしないと戦力にならない」
速度が武器のカナタとしては最悪の相性と言っても過言ではないだろう。
ヒュドラを倒し切るにはカナタの力が必要不可欠だ。
ならば星の優先度を上げる。まずは聖属性、その次に星属性だ。
「わかった。じゃあ重力魔術は俺が解かせる」
上を向けば、ヒュドラが連続して魔術を放っている。重力魔術を使い続けているせいか、六本首のように一斉に魔術を放ってくることはない。
だから俺の闇とサナの防御魔術でなんとか防げている。だが防御に闇を使っていては攻撃力が下がる。
「アイリス。防御は頼めるか?」
「任せて……ください!」
苦しそうにしながらもアイリスが魔術式を記述、防御魔術を発動する。
入れ替わるようにして闇の壁を解く。そのまま闇を四肢に集める。
体は重いままだがこれで何とか動ける。
両手に黒刀を作り出す。
「それと持続回復魔術? ってあったりするか?」
「あります。……五秒に一度回復をかける魔術ですが問題ないですか?」
「ああ。最高だ。やってくれ」
「はい!」
アイリスが両手に魔術式を記述し、発動する。
――聖属性回復魔術:清廉なる泉
ぽちゃんと身体の中に水が落ちるような感覚がした。それと共に身体から活力が漲ってくる。
「ありがとう。これで少し無理ができる」
四肢に集めた闇を変化させていく。
イメージするのは俺の中で最高の剣士が使った装甲。
――白銀装甲・偽
闇が形を変えていく。
本来なら白銀に輝く鎧が出現するのだが俺のはあくまで偽物。黒く、所々が乾いた血のような色をしている。本物とはかけ離れた姿だ。
ラナの白銀装甲は周囲の気温に応じて自信を強化する魔術だった。だけど俺のは胸から溢れ出る闇で限界以上の身体能力を引き出す。
「それ……は……!」
「ラナのはもっと綺麗だったけどな。……アイリス、サナ。俺がアイツを叩き落とす。そうしたら防御魔術を解除してくれ。カナタとウォーデンは重力魔術が解けたタイミングで援護をくれ」
カノンには空間魔術の感知を最優先してもらう。だから何も指示はしない。
俺は二刀を掲げる。
「行くぞ! 第五偽剣、葬刀!」
二刀で同時に放った第五偽剣がヒュドラの翼を斬り裂く。
「グォオオオオオ!!!」
洞窟全体を揺らす叫びを上げてヒュドラが落ちていく。同時に重力魔術以外の魔術が止んだ。
サナとアイリスが防御魔術を解除する。
俺は縮地を使い、ヒュドラの懐へと飛び込む。
その時には既に翼は再生していた。
……再生が早いな!
ヒュドラは翼を大きく羽ばたかせると地面ギリギリで止まり墜落を免れた。
だが俺は気にせずに突き進む。二刀を大太刀に変え、鞘を作り出す。
重力魔術下での無理な動きで身体中が軋む。ブチブチと嫌な音が鳴り関節から血が吹き出す。
だけどすぐにアイリスの回復魔術が癒してくれる。
もともと痛みには慣れている。これぐらいの痛みならなんの問題もない。
「第一偽剣――」
抜刀の構えをとったところで頭上の鴉が鳴いた。
即座に偽剣を中断する。その時には既にヒュドラは空中にいた。
首から記述される数多の魔術式。
「サナ! アイリス! 防御に専念してくれ!」
「わかった!」
「わかりました!」
俺は縮地を使い、飛んだ。
二刀に闇を纏わせ、斬撃を叩き込む。しかし直線の斬撃は難なく避けられた。
ヒュドラの首が魔術を放つ。色とりどりの破壊が顕現する。
アイリスとサナが防御魔術を使った。
頭上にいる俺には業火の渦が襲いくる。
「なら――!」
俺は考えていた。
カナタのように空中で縮地を使う方法を。
移動中に聞いた話だと雷で強化した足を凄まじい速度で蹴り出すことによって空気の層を足場にしているらしい。
要は足場があればいい。
俺は空中に闇で板を作り出す。そこに身を捻り逆さまに着地した。
直ぐに横へと向けて縮地を使う。先へと再度、板を作り出す。業火を避けてまた着地。
「第五偽剣、葬刀!」
第五偽剣がヒュドラの翼を再び斬り裂く。
「グォオオオオオオオオオオ!!!」
絶叫を響かせながらヒュドラが落ちていく。魔術の嵐が止んだ。
直後に縮地。頭上で二刀を戦斧に作り替える。
――カァァァ
鴉が鳴いた。転移だ。
直後に目の前から、ヒュドラが消えた。
……集中しろ。気配を探れ!
「そこか!」
ヒュドラは俺のさらに頭上へ転移していた。
戦斧を解除して無数の黒刀を作り出し、そこへ向けて射出する。
その後、もう一度足場を作り出し着地。
数多の黒刀は鱗に弾かれるが、それでも突き刺さるモノはあった。
「グォオオオオオオオオ!!!」
叫び声を無視して再び縮地を使い、戦斧に切り替える。
そのまま、聖属性の首が目掛けて叩きつけた。薄緑色の首が地面に落ちていく。
その結果が俺には予想外だった。
……なぜ転移しない?
空間魔術を使えば首が落とされる事はなかった。ならばしないのではなくできないのか。
……もしかして再使用時間があるのか?
もしそうならば話は簡単だ。
……再使用時間中に落とす!
「第五偽剣、葬刀!」
再生を防ぐため落下していた首を両断する。それから再度足元に板を生成、縮地を使う。
十本目の首に肉薄し、偽剣を放つ。首が残っていたら魔術を使われる。ならば塵すら残さない。
俺は空中で抜刀の構えを取った。
「第一偽剣、刀界・絶刀無双!」
第一偽剣が十本目の首を文字通り跡形もなく吹き飛ばす。
その瞬間、フッと身体が軽くなった。
「カナタ!」
――ズドンと雷鳴が轟いた。
雷速でヒュドラの頭上に到達したカナタが魔術を使う。
――雷属性攻撃魔術:墜天
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