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氷姫救出編
束の間の休息
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「……イさ……! ……レイ……!」
声が聞こえる。柔らかな音色で俺を呼ぶ声。何度も聞いた愛おしい声。
薄く目を開けると残雪のような銀髪が目に入った。それを見るだけで胸が暖かくなる。
俺は手を伸ばし頬に触れた。
「ラ……ナ……」
「コラ!!! 何してんの!?」
頭に衝撃が走り、意識が覚醒する。身体を起こして振り返ると顔を真っ赤に染めたアイリスと拳を握りしめたサナがいた。
「痛え! 何すんだコラ!」
「それはこっちのセリフだよ!」
視線を向ければ顔を手で覆って俯いているアイリスがいた。俺は自分の手のひらとアイリスを交互に見る。手には柔らかな感触が残っていた。
それで状況を理解した。
「あ~~~。悪い」
「いえ、いいんです。似てますしね」
「……ほんとごめん」
素直に頭を下げる。悪いのは完全に俺だ。まさか間違えるとは。
これはラナに対してもアイリスに対しても失礼だ。
「頭を上げてください。……あの……えっと……レイさんとお姉様はいつもあんな事を?」
「…………は?」
呆けた声が出た。なんてことを聞いているんだ。そんなことを言ったら食いついてくる奴らがいる。
「私も! 私も気になる!」
「もちろん俺もな」
予想通り幼馴染二人がニヤニヤしている。こうなると止まらない。特にサナは女の子らしくこういう話が大好物だ。
「お前らは黙ってろ。……それと……いつもはしてない」
「「いつもは?」」
「あーもううるせぇ!」
俺たちのやり取りを見てアイリスが上品に笑った。
「それにしてもレイさんはお姉様の事、大好きなんですね」
「だ――!?」
思わず大きな声が出た。顔が熱い。きっと俺の顔もアイリスみたいに赤くなっている。
「レイのそんな顔、初めて見るな~」
「本当にな~」
二人のニヤニヤが加速する。もはやニマニマだ。
睨むと二人はわざとらしくそっぽを向いた。
……クソが。
「いいねぇ青春だねぇ。おっさんは羨ましいぜ」
「……」
ウォーデンが何か言っていたが、無視した。
「それで、身体は大丈夫ですか? 一応回復魔術はかけましたが……」
「からだ……? そういえば俺、なんで意識を失って……」
記憶を辿ると直ぐに思い出した。
……そういえば枯れ木みたいなヤツに襲われたんだったな。
バケモノではないが同種。ヤツが何者なのかはわからない。だが脅威だ。
ひとまずは撃退したが殺せたとは思えない。仮に殺せてたとしてもヤツらと同じなら何体もいるはずだ。
次、襲われたらみんなを守り切れるのか。
正直、自信はない。今回誰も死ななかったのは運が良かっただけだ。
……もっと強くならなきゃな。
拳を握る。強くなったと思っていたが全然足りていなかった。
剣術、闇の使い方、殺戮衝動の制御。やれる事はまだある。俺はもっと強くならなければならない。
そこでふと思った。
……そういや、なんで最後殺戮衝動が消えたんだ?
たしかラナの声が聞こえた気がする。そして殺戮衝動が消えた。
第五封印を解除していたのだ。全くなくなるなんて事はあり得ない。
「……って、封印!」
反射的に服を捲り上げる。
胸にはしっかりと六つの封印があった。
「きゃあああ!」
「コラァアア!!!」
サナから拳が飛んできた。普段は避けられるが、身体が重くまともに食らってしまった。
「痛え! サナ! 勇者は馬鹿力なんだから加減しろ!」
「うるさい! 服を脱ぐな!」
「男の上裸なんて腐るほど見てるだろ!?」
「私はね!? アイリスはお姫様なんだから! それにカノンちゃんの教育にも悪い!」
そう言われると返す言葉もない。だけどカノンはあまり気にしていなさそうだ。
「……わたしは別に。……あまり気にしない」
表情を動かさずにカノンが言う。
やっぱり気にしていないらしい。だから俺はアイリスに再び頭を下げた。
「何度も悪い」
「いえ、いいんです」
そう言って俯いたアイリスの顔は湯気が出そうなほど真っ赤になっていた。
……それにしてもラナとは大違いだな。
初めて会った時、俺はほぼ裸と言える状態だったがラナは顔色一つ変えていなかった。お姫様だからという理由なら当然ラナも当てはまるのだが、性格だろうか。
そこは姉妹でも似ていないなと思った。
ともあれ、封印はしっかりと起動している。再封印した覚えはないのだが。
「そういえば封印ってどうなったんだ?」
「レイが枯れ木を吹き飛ばした後、氷の鎖が出てきてお前を縛ったんだ。そしたら溢れ出してた闇が収まった」
「氷の鎖。……やっぱラナだな」
ラナの声がする前、胸から何かがヒビ割れるような音を聞いた気がする。
殺戮衝動に身を任せると封印をこじ開けようとするのでおそらくは第六封印が解けかけたのだろう。
であればラナが第六封印に細工をしていたのか、解けかけたのを察知して遠隔で魔術を起動したのか。
どちらでもラナになら可能だろう。なにせ天才なのだから。
……あの声は本物だったのかな。本物だといいな。
本物だったのならまだラナは無事だという事だから。
「そーいやカナタは大丈夫か?」
確か、枝に足を貫かれていたはずだ。足を見るとズボンの貫かれた場所に穴が空いているがすでに傷はない。
血痕もなくなっている。俺もあれだけ返り血を浴びたのに綺麗なものだ。
これがアイリスの言っていたコートにかけられた魔術の効果なのだろう。
素直に受け取っておいてよかった。
「ああ。アイリスに治してもらったよ」
「それは良かった。俺、どれぐらい気を失ってた?」
「一時間ぐらいかな?」
「一時間か……。悪い。そろそろ移動した方がいいな」
「そうできれば良いんだがな……」
カナタが俺の後ろを指差した。釣られて視線を向けると凄まじい光景が広がっていた。
「なんだ……これ?」
そこには枯れ木の枝がびっしりと張り巡らされており、洞窟を塞いでいた。
「レイがあらかた吹き飛ばしたのは良いんだけど、あそこだけは直ぐに再生して閉じ込められた」
「また壊せないのか?」
「壊しても直ぐ再生するから魔力の無駄遣いだな」
この口ぶりだと実際にやったのだろう。
「じゃあ……」
視線を行き止まりにある亀裂へと向ける。その先は未踏破領域。超がつくほどの危険地帯だ。
「行くしかないか。誰か向こう側は確認したか?」
「誰も確認してない。行くなら万全の状態でってのが結論だ」
「わかった。じゃあ行くか」
「待て。お前まだ回復しきってないだろ」
「いやこのぐらい大丈夫だ」
地面に手をついて立ち上がる。すると目眩がしてふらついた。
カナタに支えてもらわなければ転んでいた事だろう。
想像以上に消耗が激しい。これでは戦闘どころではない。
「ほらな。少し休んでからにするぞ。幸いここに魔物はいないしな」
「……悪いな」
「何言ってんだ。お前がいなきゃ死人が出てるところだ。ゆっくり休め。それとこれも食っとけ」
カナタから何かの包みを渡された。
広げてみると、緑色のブロックがいくつか入っていた。
「これは?」
「携帯食糧。腹が膨れるぞ」
「サンキュー」
ブロックを摘み、口に放り込む。口の水分が持っていかれるがそこまで不味くはない。うまいかと言われると微妙だが。
持ってきていた水と一緒に流し込んでいく。
「確かに、これは腹に溜まるな」
「だろ?」
もう一つ口に入れたところでカノンが隣に来た。
「……レイ、カナタ。……まだ少し時間ある?」
「ああ。レイが回復するまではあるけど?」
「……わかった。ならやっちゃう」
「「……やっちゃう?」」
俺とカナタが首を傾げていると、カノンが懐から肉塊を取り出した。結界で覆われているそれは、ヒュドラから取り出した心臓だった。
声が聞こえる。柔らかな音色で俺を呼ぶ声。何度も聞いた愛おしい声。
薄く目を開けると残雪のような銀髪が目に入った。それを見るだけで胸が暖かくなる。
俺は手を伸ばし頬に触れた。
「ラ……ナ……」
「コラ!!! 何してんの!?」
頭に衝撃が走り、意識が覚醒する。身体を起こして振り返ると顔を真っ赤に染めたアイリスと拳を握りしめたサナがいた。
「痛え! 何すんだコラ!」
「それはこっちのセリフだよ!」
視線を向ければ顔を手で覆って俯いているアイリスがいた。俺は自分の手のひらとアイリスを交互に見る。手には柔らかな感触が残っていた。
それで状況を理解した。
「あ~~~。悪い」
「いえ、いいんです。似てますしね」
「……ほんとごめん」
素直に頭を下げる。悪いのは完全に俺だ。まさか間違えるとは。
これはラナに対してもアイリスに対しても失礼だ。
「頭を上げてください。……あの……えっと……レイさんとお姉様はいつもあんな事を?」
「…………は?」
呆けた声が出た。なんてことを聞いているんだ。そんなことを言ったら食いついてくる奴らがいる。
「私も! 私も気になる!」
「もちろん俺もな」
予想通り幼馴染二人がニヤニヤしている。こうなると止まらない。特にサナは女の子らしくこういう話が大好物だ。
「お前らは黙ってろ。……それと……いつもはしてない」
「「いつもは?」」
「あーもううるせぇ!」
俺たちのやり取りを見てアイリスが上品に笑った。
「それにしてもレイさんはお姉様の事、大好きなんですね」
「だ――!?」
思わず大きな声が出た。顔が熱い。きっと俺の顔もアイリスみたいに赤くなっている。
「レイのそんな顔、初めて見るな~」
「本当にな~」
二人のニヤニヤが加速する。もはやニマニマだ。
睨むと二人はわざとらしくそっぽを向いた。
……クソが。
「いいねぇ青春だねぇ。おっさんは羨ましいぜ」
「……」
ウォーデンが何か言っていたが、無視した。
「それで、身体は大丈夫ですか? 一応回復魔術はかけましたが……」
「からだ……? そういえば俺、なんで意識を失って……」
記憶を辿ると直ぐに思い出した。
……そういえば枯れ木みたいなヤツに襲われたんだったな。
バケモノではないが同種。ヤツが何者なのかはわからない。だが脅威だ。
ひとまずは撃退したが殺せたとは思えない。仮に殺せてたとしてもヤツらと同じなら何体もいるはずだ。
次、襲われたらみんなを守り切れるのか。
正直、自信はない。今回誰も死ななかったのは運が良かっただけだ。
……もっと強くならなきゃな。
拳を握る。強くなったと思っていたが全然足りていなかった。
剣術、闇の使い方、殺戮衝動の制御。やれる事はまだある。俺はもっと強くならなければならない。
そこでふと思った。
……そういや、なんで最後殺戮衝動が消えたんだ?
たしかラナの声が聞こえた気がする。そして殺戮衝動が消えた。
第五封印を解除していたのだ。全くなくなるなんて事はあり得ない。
「……って、封印!」
反射的に服を捲り上げる。
胸にはしっかりと六つの封印があった。
「きゃあああ!」
「コラァアア!!!」
サナから拳が飛んできた。普段は避けられるが、身体が重くまともに食らってしまった。
「痛え! サナ! 勇者は馬鹿力なんだから加減しろ!」
「うるさい! 服を脱ぐな!」
「男の上裸なんて腐るほど見てるだろ!?」
「私はね!? アイリスはお姫様なんだから! それにカノンちゃんの教育にも悪い!」
そう言われると返す言葉もない。だけどカノンはあまり気にしていなさそうだ。
「……わたしは別に。……あまり気にしない」
表情を動かさずにカノンが言う。
やっぱり気にしていないらしい。だから俺はアイリスに再び頭を下げた。
「何度も悪い」
「いえ、いいんです」
そう言って俯いたアイリスの顔は湯気が出そうなほど真っ赤になっていた。
……それにしてもラナとは大違いだな。
初めて会った時、俺はほぼ裸と言える状態だったがラナは顔色一つ変えていなかった。お姫様だからという理由なら当然ラナも当てはまるのだが、性格だろうか。
そこは姉妹でも似ていないなと思った。
ともあれ、封印はしっかりと起動している。再封印した覚えはないのだが。
「そういえば封印ってどうなったんだ?」
「レイが枯れ木を吹き飛ばした後、氷の鎖が出てきてお前を縛ったんだ。そしたら溢れ出してた闇が収まった」
「氷の鎖。……やっぱラナだな」
ラナの声がする前、胸から何かがヒビ割れるような音を聞いた気がする。
殺戮衝動に身を任せると封印をこじ開けようとするのでおそらくは第六封印が解けかけたのだろう。
であればラナが第六封印に細工をしていたのか、解けかけたのを察知して遠隔で魔術を起動したのか。
どちらでもラナになら可能だろう。なにせ天才なのだから。
……あの声は本物だったのかな。本物だといいな。
本物だったのならまだラナは無事だという事だから。
「そーいやカナタは大丈夫か?」
確か、枝に足を貫かれていたはずだ。足を見るとズボンの貫かれた場所に穴が空いているがすでに傷はない。
血痕もなくなっている。俺もあれだけ返り血を浴びたのに綺麗なものだ。
これがアイリスの言っていたコートにかけられた魔術の効果なのだろう。
素直に受け取っておいてよかった。
「ああ。アイリスに治してもらったよ」
「それは良かった。俺、どれぐらい気を失ってた?」
「一時間ぐらいかな?」
「一時間か……。悪い。そろそろ移動した方がいいな」
「そうできれば良いんだがな……」
カナタが俺の後ろを指差した。釣られて視線を向けると凄まじい光景が広がっていた。
「なんだ……これ?」
そこには枯れ木の枝がびっしりと張り巡らされており、洞窟を塞いでいた。
「レイがあらかた吹き飛ばしたのは良いんだけど、あそこだけは直ぐに再生して閉じ込められた」
「また壊せないのか?」
「壊しても直ぐ再生するから魔力の無駄遣いだな」
この口ぶりだと実際にやったのだろう。
「じゃあ……」
視線を行き止まりにある亀裂へと向ける。その先は未踏破領域。超がつくほどの危険地帯だ。
「行くしかないか。誰か向こう側は確認したか?」
「誰も確認してない。行くなら万全の状態でってのが結論だ」
「わかった。じゃあ行くか」
「待て。お前まだ回復しきってないだろ」
「いやこのぐらい大丈夫だ」
地面に手をついて立ち上がる。すると目眩がしてふらついた。
カナタに支えてもらわなければ転んでいた事だろう。
想像以上に消耗が激しい。これでは戦闘どころではない。
「ほらな。少し休んでからにするぞ。幸いここに魔物はいないしな」
「……悪いな」
「何言ってんだ。お前がいなきゃ死人が出てるところだ。ゆっくり休め。それとこれも食っとけ」
カナタから何かの包みを渡された。
広げてみると、緑色のブロックがいくつか入っていた。
「これは?」
「携帯食糧。腹が膨れるぞ」
「サンキュー」
ブロックを摘み、口に放り込む。口の水分が持っていかれるがそこまで不味くはない。うまいかと言われると微妙だが。
持ってきていた水と一緒に流し込んでいく。
「確かに、これは腹に溜まるな」
「だろ?」
もう一つ口に入れたところでカノンが隣に来た。
「……レイ、カナタ。……まだ少し時間ある?」
「ああ。レイが回復するまではあるけど?」
「……わかった。ならやっちゃう」
「「……やっちゃう?」」
俺とカナタが首を傾げていると、カノンが懐から肉塊を取り出した。結界で覆われているそれは、ヒュドラから取り出した心臓だった。
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