上 下
38 / 63

37

しおりを挟む







ふらふらと部屋に帰ると、ネロは自分のベッドのシーツに潜り込んで、まんじりと目を見開いて考え始めた

奴隷の分際を弁えろ

ミネルバの酷い言葉がなん度も頭の中を巡っていく

そういえば、バロイが頼んでくれたのと、ベッドの中での、どさくさで移転魔法以外は解放されていたなと思い出してスキルのウィンドウを開く

聖女の祈りを選択すると、身体が白く光った

1.おばけ大百足達の呪いを解呪しますか?
2.ミネルバ・アーチェストの奴隷印を解除しますか?

2択の選択が現れ、大百足達の呪いを解呪する

ステータスにすぐに現れた芦屋ネロの名前を隠蔽し、クロに変更する

奴隷印は、まだおいておかないといけない。解除すれば、すぐミネルバにばれるだろうから

ばれたらどうなるんだろうか?捨てられる?

ネロは暗闇を見つめながら考える

すやすやと隣で眠るバロイに醜い嫉妬をしながら、ミネルバに焦がれるのは辛い

ミネルバが言っているネロは、もうすでにバロイの事なんじゃないかとすら思える

胸が掻きむしられるような想いで、ぐっと下唇を噛む

先程まで熱狂的に求められた下半身の甘い痺れに、目を瞑る

ーー俺を選んではもらえない。それは事実だ

喉から迫り上がる痛みに耐えながら、眠れないままその日は朝を迎えた

伸びをするバロイに、もそりとネロも起き上がる

「おはよう、クロ!今日も可愛いぞ」

頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、柔らかくキスをされる

その日は、ネロもバロイの朝食について行くことにした

広間の長い豪奢なテーブルには果物が並び、メイド達が引いた椅子に座る

本来なら奴隷であるクロは座れない席だが、バロイが来てからずっと誘われていた

それもネロを余計に惨めにさせる

温情でしか、お前は此処にいる人間ではないと言われているようで

そのうちミネルバも起きてきて珍しくいるネロに驚いていた

そのまま自然な流れでミネルバはバロイにキスをして、バロイは嫌がっていたがミネルバは愛おしくて仕方がない顔を見せるので、膝に置いている手をぐっと握り込む

「…クロが来るなんて珍しいな?やはり兄弟仲が良いのか?」

「はい、仲良しですよ。ミネルバはクロと仲が良いみたいだね?」

「ふふ、嫉妬かい?」

その2人のやり取りだけで、もう嫌な気持ちでいっぱいになり豪華な朝食は砂を噛んでいるみたいで、味がしなかった

ミネルバとバロイの仲睦まじい様子をまざまざと見せつけられ、手が震える

食べ終わったバロイに、くっついて退出しようとしたらミネルバにクロは残ってくれと言われた

「えー?なに?クロだけ?」

不満そうなバロイの声に、宥めるようにミネルバは頭を撫でてキスをする

「すまない、アクロワナが屋敷のことで少し話があるみたいでな」

「早く返してね?」

バロイが出て行くと、引き寄せられ唇を塞がれる

舌を絡めて身体を触られてから、ネロは慌ててミネルバから身体を離した

「あ、アクロワナの話って?」

上がる息を整えながら聞くと、ミネルバは再びネロの身体を引き寄せる

「アクロワナがどうかした?」

首を傾げるミネルバに呆れながら手を突っ張る

「や、やっぱり良くないよ。こういうのはダメだよ…」

「昨日言ってくれた言葉は嘘なんだ?」

「う、嘘じゃないよ。でも、良くないよ」

額にキスを何度もしながら、ミネルバはネロの顔を覗き込んでくる

むやみに綺麗な顔で覗かれると、心臓がどきどきする

「じゃあ、もう一回言って?」

強請るような声の響きに、ネロの喉が痛みに鳴る

「…………もう、言わない」

ネロにとって、あの告白は一世一代の大舞台から飛び降りる気持ちでようやく言葉に出来た大事な告白だった

生まれて初めて告白をしたのに

もう心は引き裂かれて、二度と口に出来そうにない

肩に置かれたミネルバの手を振り払って部屋を出て行こうとすると、緊張するような凄味が背後に走った

「クロ?こっちにきなさい」

低い声に震える手で扉を開いて走る

「……後でね」

呟くようなミネルバの言葉に振り向くと、ミネルバはあの昏い眼でじっとネロを見ていた

あの暗い湿地帯での出来事がフラッシュバックのように蘇って怖気が走る

ミネルバを怖いと思ってしまった

焦燥感にかられ、ネロはそのまま屋敷を飛び出してきてしまった

足が痛くなって息が切れても走り続ける。やがて限界がきて、息を切らしながら止まると、あのピークパッツァとよく来ていた川だ

緩やかな流れの川は深い部分があり、流れも早い

そこに靴と着ているものを全て放り込む

バロイには悪いが、満更でもない様子だったしネロでいる限りミネルバに悪くもされないだろう

頭の中がめちゃくちゃで考えもまとまらない

ただネロにもわかるのは

体を繋いでいるのに全然大事にされない、ネロの目の前で、いちゃいちゃと此処に愛があるとでも言いたかったのだろうか

あの甘えた空気は愛があるのだろう。少なくともベッドの中で奴隷なんだから弁えろとは言われない筈だ

俺がネロなのにーーーー!

気づいてもらえないばかりか、酷いことを沢山された。ミネルバは本当に酷いやつだ

聖女の祈りで腹にある奴隷印の解除を選ぶ

光ると禍々しい腹の奴隷印は消え、すぐさま転移をする

あの、拠点としていた洞窟へ

黄色の花吹雪に右手をあげて、懐かしいあの洞窟の前にネロは佇んでいた

ミネルバから逃げてきてしまった

めちゃくちゃに荒らされていた洞窟にあった服を拾い、浄化して身につける

パーチェスが買ってくれたクロのお面もあったから、それを被った

そして以前、パーチェス達が拠点にしていた街へ移動すると、収納していたお金で靴を買い、宿を取ってから服と武器を買いに出かける

服屋で動きやすい黒い服を買い、武器は打撃が使える大きなハンマーと短刀を購入した

ついでに擬態で髪の色を白色にし目の色も薄い茶色に変えると、荒んだ顔に似合う色のように思えた

とにかく、探されても絶対に見つからないように変わるのだ

もう戻らない、ミネルバも知らない

もう二度とあんな惨めな想いをしないように
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

誕生日会終了5分で義兄にハメられました。

天災
BL
 誕生日会の後のえっちなお話。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

運命の番は後天性Ω

yun.
BL
男女の他に、α、Ω、β性がある世界。 男であり、αの海藤 一慶はある日、運命の番に出会った。 その運命の番は、β。 かと思いきや・・・後天性Ωだった。 自分好みに変わってゆく番に、メロメロにされるそんなお話。 初のBL作品です。 R18には※つけます。 一慶に愛され、だんだんとΩらしくなっていく番にメロメロになるお話。

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

割れて壊れたティーカップ

リコ井
BL
執着執事×気弱少年。 貴族の生まれの四男のローシャは体が弱く後継者からも外れていた。そのため家族から浮いた存在でひとりぼっちだった。そんなローシャを幼い頃から面倒見てくれている執事アルベルトのことをローシャは好きだった。アルベルトもローシャが好きだったがその感情はローシャが思う以上のものだった。ある日、執事たちが裏切り謀反を起こした。アルベルトも共謀者だという。

処理中です...