ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

文字の大きさ
上 下
5 / 62

しおりを挟む
ナディアはこれまで、貴族として最低限の教育はもちろん受けてきたものの、ほとんどの時間を自由に過ごしてきていた。
特に好きなのは乗馬で、日焼けするのをものともせずに、森を駆け回る毎日だった。

その一方、どうも苦手だったのは、社交の場だ。
舞踏会やお茶会に出かけていけば、同じ年頃の娘たちは、いつだってドレスや好みの男性の話に花を咲かせていた。
しかし、どうもそういった話題に疎いナディアは、適当に相槌を打つことしかできない。
乗馬のことなら、いくらでも話せたけれど、日焼けしないように常に日傘を持ち歩く彼女達とは、どうしても話が合わなかった。
というわけでナディアは、徐々に距離を置かれてしまっていたのである。

だから、こうして陰口を叩かれてしまっても、庇ってくれる者などいるはずもなかった。
かと言って、何を言われても、しおらしく耐え忍ぶことの出来るほど、ナディアは弱々しい性格ではなかった。

確かに、ここにいるお嬢様方と比べれば、決して身分の高い方ではない。
それでも、だからと言って悪口を言われる筋合いなどないではないか。

いつもいつも好き勝手にあれこれ言われて。
これ見よがしに笑われ続けて。

その上、本来なら、こう言う場でこそ自分を守ってくれなければならないはずの、婚約者のハロルドとは会うことすらできない。
ここまでくれば、もう、ナディアの我慢も限界を迎えつつあった。


そんなある日のことだ。
いつものように、出たくもない舞踏会に出席していたナディアは、この日もまた、陰口を聞きつけていた。

「ほら、今日も彼女、お一人よ」
「ちょっと!声が大きいわ。聞こえるわよ」
「なによ、聞こえたって構わないわ。
あーあ、なんで大して可愛くもない子が、ハロルド様の婚約者なのかしら」
「確かにそうよね。見た目で言えば、シャルロッテの方が余程美人だわ」

と、今やすっかり聴き慣れてしまった言葉を、聞こえなかったフリを決め込んで聞き流す。
そして手にしていたグラスを口に運びながら、横目で声の主を見た。

取り巻きの女性たちに囲まれながら、ツンとすましているのはシャルロッテ・ジョンソン伯爵令嬢だ。
自慢の金色の巻き毛を揺らして、ニヤニヤ笑いを浮かべているその顔は、確かに美しい。
しかしその甲高い声が、ナディアにはどうも苦手であった。

出来れば関わり合いたくない、というのが本音だ。
しかしシャルロッテの方はそうは思っていないようだった。
舞踏会でナディアと顔を合わせる度に、直接ではないにしろ、ああだこうだと、心を折るような言葉を投げかけてくるのである。

それはもちろん、ハロルドとの婚約を妬んでのことだろう、ということくらい、ナディアにも分かっていた。
だから仕方なく、我慢をして耐えてきたのだけれど。
積もり積もった苛々は、そろそろ爆発寸前にまで追い込まれていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

気が付けば丸々とした令嬢でした。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:215

婚約破棄されたので、意中の人を落とすことにします

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:22

婚約破棄現場に訪れたので笑わせてもらいます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:141

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:30,182pt お気に入り:2,106

【完結】君は強いひとだから

恋愛 / 完結 24h.ポイント:22,375pt お気に入り:3,942

(完結)婚約解消は当然でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:2,569

処理中です...