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ナディアはこれまで、貴族として最低限の教育はもちろん受けてきたものの、ほとんどの時間を自由に過ごしてきていた。
特に好きなのは乗馬で、日焼けするのをものともせずに、森を駆け回る毎日だった。
その一方、どうも苦手だったのは、社交の場だ。
舞踏会やお茶会に出かけていけば、同じ年頃の娘たちは、いつだってドレスや好みの男性の話に花を咲かせていた。
しかし、どうもそういった話題に疎いナディアは、適当に相槌を打つことしかできない。
乗馬のことなら、いくらでも話せたけれど、日焼けしないように常に日傘を持ち歩く彼女達とは、どうしても話が合わなかった。
というわけでナディアは、徐々に距離を置かれてしまっていたのである。
だから、こうして陰口を叩かれてしまっても、庇ってくれる者などいるはずもなかった。
かと言って、何を言われても、しおらしく耐え忍ぶことの出来るほど、ナディアは弱々しい性格ではなかった。
確かに、ここにいるお嬢様方と比べれば、決して身分の高い方ではない。
それでも、だからと言って悪口を言われる筋合いなどないではないか。
いつもいつも好き勝手にあれこれ言われて。
これ見よがしに笑われ続けて。
その上、本来なら、こう言う場でこそ自分を守ってくれなければならないはずの、婚約者のハロルドとは会うことすらできない。
ここまでくれば、もう、ナディアの我慢も限界を迎えつつあった。
そんなある日のことだ。
いつものように、出たくもない舞踏会に出席していたナディアは、この日もまた、陰口を聞きつけていた。
「ほら、今日も彼女、お一人よ」
「ちょっと!声が大きいわ。聞こえるわよ」
「なによ、聞こえたって構わないわ。
あーあ、なんで大して可愛くもない子が、ハロルド様の婚約者なのかしら」
「確かにそうよね。見た目で言えば、シャルロッテの方が余程美人だわ」
と、今やすっかり聴き慣れてしまった言葉を、聞こえなかったフリを決め込んで聞き流す。
そして手にしていたグラスを口に運びながら、横目で声の主を見た。
取り巻きの女性たちに囲まれながら、ツンとすましているのはシャルロッテ・ジョンソン伯爵令嬢だ。
自慢の金色の巻き毛を揺らして、ニヤニヤ笑いを浮かべているその顔は、確かに美しい。
しかしその甲高い声が、ナディアにはどうも苦手であった。
出来れば関わり合いたくない、というのが本音だ。
しかしシャルロッテの方はそうは思っていないようだった。
舞踏会でナディアと顔を合わせる度に、直接ではないにしろ、ああだこうだと、心を折るような言葉を投げかけてくるのである。
それはもちろん、ハロルドとの婚約を妬んでのことだろう、ということくらい、ナディアにも分かっていた。
だから仕方なく、我慢をして耐えてきたのだけれど。
積もり積もった苛々は、そろそろ爆発寸前にまで追い込まれていた。
特に好きなのは乗馬で、日焼けするのをものともせずに、森を駆け回る毎日だった。
その一方、どうも苦手だったのは、社交の場だ。
舞踏会やお茶会に出かけていけば、同じ年頃の娘たちは、いつだってドレスや好みの男性の話に花を咲かせていた。
しかし、どうもそういった話題に疎いナディアは、適当に相槌を打つことしかできない。
乗馬のことなら、いくらでも話せたけれど、日焼けしないように常に日傘を持ち歩く彼女達とは、どうしても話が合わなかった。
というわけでナディアは、徐々に距離を置かれてしまっていたのである。
だから、こうして陰口を叩かれてしまっても、庇ってくれる者などいるはずもなかった。
かと言って、何を言われても、しおらしく耐え忍ぶことの出来るほど、ナディアは弱々しい性格ではなかった。
確かに、ここにいるお嬢様方と比べれば、決して身分の高い方ではない。
それでも、だからと言って悪口を言われる筋合いなどないではないか。
いつもいつも好き勝手にあれこれ言われて。
これ見よがしに笑われ続けて。
その上、本来なら、こう言う場でこそ自分を守ってくれなければならないはずの、婚約者のハロルドとは会うことすらできない。
ここまでくれば、もう、ナディアの我慢も限界を迎えつつあった。
そんなある日のことだ。
いつものように、出たくもない舞踏会に出席していたナディアは、この日もまた、陰口を聞きつけていた。
「ほら、今日も彼女、お一人よ」
「ちょっと!声が大きいわ。聞こえるわよ」
「なによ、聞こえたって構わないわ。
あーあ、なんで大して可愛くもない子が、ハロルド様の婚約者なのかしら」
「確かにそうよね。見た目で言えば、シャルロッテの方が余程美人だわ」
と、今やすっかり聴き慣れてしまった言葉を、聞こえなかったフリを決め込んで聞き流す。
そして手にしていたグラスを口に運びながら、横目で声の主を見た。
取り巻きの女性たちに囲まれながら、ツンとすましているのはシャルロッテ・ジョンソン伯爵令嬢だ。
自慢の金色の巻き毛を揺らして、ニヤニヤ笑いを浮かべているその顔は、確かに美しい。
しかしその甲高い声が、ナディアにはどうも苦手であった。
出来れば関わり合いたくない、というのが本音だ。
しかしシャルロッテの方はそうは思っていないようだった。
舞踏会でナディアと顔を合わせる度に、直接ではないにしろ、ああだこうだと、心を折るような言葉を投げかけてくるのである。
それはもちろん、ハロルドとの婚約を妬んでのことだろう、ということくらい、ナディアにも分かっていた。
だから仕方なく、我慢をして耐えてきたのだけれど。
積もり積もった苛々は、そろそろ爆発寸前にまで追い込まれていた。
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