代理婚!

オレンジペコ

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夫婦は只今別居中!

10.距離を縮めたい Side.シーファス

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ラインハルトとの出会いから一か月。
何度も一緒に討伐に出掛けているうちにすっかり打ち解けて仲良くなった。
慰謝料の支払いのことを考えていっぱい稼がないといけないからAランクの仕事もこなさなければならないが、ラインハルトとの時間も大事にしたい。
そう考えてスケジュールを調整し、遠方に行かないといけない依頼は受けずに近場のものばかり引き受けることにした。

ラインハルトは冒険者レベルこそ低いもののそのポテンシャルは高いし、見た目も凄く良いから密かに狙っている者は多い。
それこそ下手なパーティーにでも入ればあっという間に餌食にされてしまいかねない。
勿論餌食とは貞操を奪われるという意味でだ。

そんな危機感も手伝って、俺はラインハルトと一緒の時はそう言った危なそうなパーティーを牽制するようにしていた。

だから余計に、だと思う。
誰にも譲りたくないという気持ちが膨らんでしまったのは。
普通に考えて、会ったことがないとは言え嫁持ちの俺が手を出すべきではない相手だってことくらいはわかってたんだ。
でも一緒に過ごせば過ごすほど惹かれる自分がいて、話が弾むほどずっと一緒にこんな風に過ごせたらいいのにと思うようになっていった。

どうしようもない独占欲が湧いてきて、すぐにでも妻と離縁してラインハルトと結婚したいと願ってしまうほど、どんどん気持ちばかりが大きくなっていく。
金もないのにそんなことを考えてしまう時点でかなりの重傷と言えた。

(どうしてこのタイミングなんだ…!)

せめて両親が結婚を決める前に出会えていたらと悔しく思う。
だからと言って離婚が成立するであろう三か月後までちんたら静観していたら他の誰かに奪われるのは確実だ。

(仕方がない)

誠実さに欠けるのは承知の上で、つかず離れず側に居て、意識してもらうところから始めよう。
ラインハルトが貴族なのは間違いないし、見る限りきっと価値観はノーマルのはず。
そんな相手を簡単に抱けるなんて俺だって思ってはいない。
だから少しずつ恋愛の対象として見てもらえるように距離を縮めていこう。
そう思ったからこそ、こんな風に言ったのだ。

「はぁ~…いっそラインハルトが嫁だったら喜んで帰るんだけどな」

少しでも俺を恋愛対象として意識してもらいたい。
そう思っての言葉だったが、反応としては今一だった。
もしかしたら妻を蔑ろにしてるって思われてしまったのかもしれない。
これはマズい。失敗だったか?

「シ、シーファス」
「ん?」

叱られるんだろうか?
そう思い、続く言葉を待つ。
でも何やらグルグル考えているようでなかなか次の言葉はその口からは出てこなかった。
どうしたんだろう?

「ラインハルト?どうかしたか?」

気になって窺うように顔を覗き込む。
すると驚いたように身を震わせ、顔を真っ赤にしてこちらを見てきた。

「え?!いやっ!何でもない!」

(本当に?)

俺への評価がマイナスになっていないならいいんだけどな。

「そ、それより今日の火トカゲの討伐だけど…」
「ああ。そうだな。火トカゲはFランクが頑張って倒せる範囲の強さだから、これが達成出来たら昇格できると思うぞ?」

なるほど。気になってたのはそっちの方だったのか。
俺はホッとしながら火トカゲの討伐の仕方をアドバイスし、先輩冒険者として振舞いつつラインハルトの様子を窺った。

警戒はされてない。
でもここからどうやって意識してもらえるように持っていけばいいだろう?

(やっぱり家に呼ぶか?)

もちろん襲う気で呼びたいわけではなく、ただこれを機にもっと親しくなっていけたら嬉しいと思ってのことだ。
一度来てもらえたらまた呼びやすくなるし、その内運が良ければ手料理なんかも作ってもらえるかもしれない。
この間そんな話だってしたし、機会はなくはないだろう。

そうやって一緒に過ごしていくうちにきっと確実に関係は深まっていくはず。
それこそ離縁が成立した辺りで恋人同士になれるのがベストだから、ここは焦らずゆっくり好印象を持ってもらえるよう頑張りたいと思っていた。

そんな俺に今日、奇跡が起きた。

無事に昇格を果たしたラインハルトが自らこんなことを言ってくれたのだ。

「こんなにすんなり昇格できたのもシーファスのお陰だ。何か御礼がしたいんだけど、欲しいものはないか?」

欲しいのはラインハルト。
でもそれを言ったらドン引きされるのは間違いないから、口が裂けても言う気はない。
でもこのチャンスを逃すほど俺も馬鹿ではなかった。

(言え!言うんだ!)

「コホン。その…なんでもいいのか?」
「ああ。何でも言ってくれ」
「じゃあ……その、お前の手料理が食べたい」
「え?」
「前に言ってただろう?冒険者になったら野営もするかと思って料理も勉強したのに、全然作る機会がないって」

気づけば俺の願望が駄々洩れになった言葉が口から飛び出していた。
おかしいな?
家で飲もうって言うだけのつもりだったのに、つい理由をつけて手料理が食べたいなんて口走ってた。

いきなりこんなことを言ってしまって、嫌われないだろうか?
ドン引きされないだろうか?
自分の軽率さに冷や汗が出る。

「だから、お前の作った料理を食べる、記念すべき第一号になりたいなって…」

そんな俺に気づくことなく、ラインハルトは満面の笑みで了承の返事をくれた。

「わかった。じゃあ腕によりをかけて作る!」

その言葉に俺が歓喜しないはずがない。

「そうか。楽しみにしてる」

そして一緒に市場へと出掛け買い物を済ませ、家へと招いた。

でもそこから一気に関係が進むなんてその時は全く思ってなかったんだ。
誓って言うが嘘じゃない。

ただ────据え膳だっただけなんだ。


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