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夫婦は只今別居中!
6.初めての討伐
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シーファスに付き合ってもらい、初めての討伐依頼にやってきた。
場所は角兎が出てくる草原エリア。
「角兎は案外素早いから、急所に突撃されないよう気をつけろよ」
Fランクの魔物だし余裕だろうと思ってたらそんな忠告を貰って、慌てて気を引き締め直す。
油断して大事なところを攻撃されたらたまったもんじゃない。
そして見つけた角兎。
見た目は可愛いのにこちらを視界に入れた途端威嚇する猫みたいに敵意を露わにしながら突っ込んできた。
これは怖い。
でも予め心の準備ができていたから危なげなく倒す。
ザシュッ!
一匹二匹…三匹。
うん。大丈夫だ。
ホッとしながら討伐部位である角を斬り落としていると、『油断し過ぎだぞ』という声と共に剣戟音が聞こえてきた。
どうやら背後から俺を狙っていた個体がいたらしく、シーファスが倒してくれたようだ。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。本当にラインハルトは危なっかしいな」
どこか呆れたように言われるも、本当の事なので俺は何も反論できない。
こういうのもやっぱり慣れていくしかないんだろうな。
多分多少痛い目に合わないと俺は学習しないんだと思う。
「ゴメン」
「よし!俺が鍛えてやる」
俺があまりにもしょぼくれていたからか、シーファスは危なっかしい俺を放っておけないと言い出し、ギルドで討伐依頼証明書を受け取った後、俺を連れて今度は森へと向かった。
「こう言うのは場数を踏むのが一番だ。経験を積めば誰だって自信もつくし、それに付随して実力もつくからやりがいがあるぞ」
流石先輩冒険者。
後輩を励ますのもお手の物。
俺にはそんなシーファスの姿がとても輝いて見えた。
そこからは本当に特訓だ。
スライムもゴブリンも初めてだし、数も多いしでへとへとになりながらどんどん倒すことに。
終わる頃には体力も限界で、かなりグッタリしていた。
「う~…疲れすぎてもう限界」
「頑張ったな。でも頑張った分、少しは慣れたんじゃないか?」
「慣れたけど…暫く動けそうにない」
「そうか。じゃあこれ」
そう言って初級ポーションを差し出してくれるシーファス。
「明日も付き合ってやるから、これ飲んで元気出せよ」
「ありがとう」
(うぅ。優しい)
旦那(仮)の優しさが身に沁みる。
しかも帰りは街までおぶってくれた。
至れり尽くせりで涙が出そうだ。
嫁から逃げ出した旦那にはとても見えなかった。
(本当に…一回くらい顔出ししてくれたらちゃんと話せそうなのにな)
もっととんでもない性格破綻者だったら話は別だったけど、シーファスは面倒見は良いし性格もいいから、きっとちゃんと向かい合って話せば建設的な話ができるんじゃないだろうか?
(やっぱりもう一回家令に言って、帰ってきてもらえるよう手紙を出してもらおっと)
そんなことを考えながら俺達はギルドで別れた。
それからの俺はタイミングさえ合えばシーファスと一緒に討伐に出るようになった。
シーファスにだってAランク冒険者としての仕事があるから毎日ではないけど、その分一緒になった時はいっぱい鍛えてくれて、色んなことを教えてもらうことができた。
一緒の時間を過ごせば過ごしただけ良い面しか見えてこない。
レベリングにも付き合ってくれるし、魔物の弱点や特徴なんかも教えてくれるし、危ない時はサッと助けに入ってくれる。
シーファスが俺にとっての尊敬すべき先輩冒険者になるのは当然の流れだった。
そんなシーファスとは私的な会話も多い。
出会いが出会いだ。
気安く何でも話せる関係になっていたから、なんとなくの流れで恋愛話になることもあった。
それによると、どうやらシーファスは嫁が嫌というよりかは恋愛対象が男なんだと言うことに気が付いた。
自分で決めた相手なら割り切れたかもしれないけど、決めたのはそういうことを何ら考慮しない親ときたらそりゃあ逃げたくもなるだろう。
「その後向こうからは何も言ってきてないのか?」
ちょっとだけ探りを入れるべく話を振ってみる。
家令は手紙を出したって言ってたから、手紙自体は届いているはず。
でも返ってきた答えはガックリ来るものでしかない。
「屋敷から手紙は来たけど、もう封すら開けてない」
「どうして?」
「どうせ最初の手紙と同じく『戻って話し合いを』しか書いてないのが分かり切ってるからな」
「うっ…確かに」
それはまさにその通り。
でもシーファスにその気は全くないから最早読んですらもらえないようだ。
「はぁ~…いっそラインハルトが嫁だったら喜んで帰るんだけどな」
そう言われて思わずドキッと胸が弾む。
これはある意味チャンスなんだろうか?
手紙を読んでもらえないならここで俺がカミングアウトする方が話は早いかもしれない。
(言え!言うんだ俺!)
「シ、シーファス」
「ん?」
どうかしたかとこちらを向いてくるシーファス。
でもいざ話そうと思ったところでハタと我に返る。
(いや、待てよ?)
シーファスと出会ってすぐの時なら兎も角、今言ったら物凄く怪しくないか?
それをしてしまうと『狙って近づいてきたのか?』とか思われて、『面倒見て損した!』って嫌われるだけなんじゃないだろうか?
(それは…ちょっと嫌だな)
折角仲良くなれたし尊敬すべき先輩だと思ってるのに…。
向こうだって裏切られたような気持ちになると思うし。
(どうしよう?)
これは困った。
それに今はラインハルトの姿だ。
『実は本当に俺がシーファスの嫁なんだ』とか言っても、慰めで言ってるか、冗談で言ってくれたんだな的に流される可能性の方が高い。
やるなら女装姿で会う方が話はスムーズに済む気がする。
そんな風にどうしたものかとウンウン唸ってたらシーファスがヒョコッと顔を覗き込んできたから、慌てて飛びのいた。
「ラインハルト?どうかしたか?」
「え?!いやっ!何でもない!」
グアッと顔に熱が集まるが、これはいきなりのドアップに驚いただけだ。
他意はない。
なんだか考えすぎて頭がパンクしそうだし、ここはもう一回諦めて話題を変えてしまおう。
「そ、それより今日の火トカゲの討伐だけど…」
「ああ。そうだな。火トカゲはFランクが頑張って倒せる範囲の強さだから、これが達成出来たら昇格できると思うぞ?」
そう。気づけばシーファスと出会ってからひと月が経ち、俺はEランク昇格間近になっていた。
月日が過ぎるのはなんて早いんだろう?
でもこの居心地のいいシーファスとの距離感と、憧れの冒険者生活にすっかりはまってしまっている自分がいた。
場所は角兎が出てくる草原エリア。
「角兎は案外素早いから、急所に突撃されないよう気をつけろよ」
Fランクの魔物だし余裕だろうと思ってたらそんな忠告を貰って、慌てて気を引き締め直す。
油断して大事なところを攻撃されたらたまったもんじゃない。
そして見つけた角兎。
見た目は可愛いのにこちらを視界に入れた途端威嚇する猫みたいに敵意を露わにしながら突っ込んできた。
これは怖い。
でも予め心の準備ができていたから危なげなく倒す。
ザシュッ!
一匹二匹…三匹。
うん。大丈夫だ。
ホッとしながら討伐部位である角を斬り落としていると、『油断し過ぎだぞ』という声と共に剣戟音が聞こえてきた。
どうやら背後から俺を狙っていた個体がいたらしく、シーファスが倒してくれたようだ。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。本当にラインハルトは危なっかしいな」
どこか呆れたように言われるも、本当の事なので俺は何も反論できない。
こういうのもやっぱり慣れていくしかないんだろうな。
多分多少痛い目に合わないと俺は学習しないんだと思う。
「ゴメン」
「よし!俺が鍛えてやる」
俺があまりにもしょぼくれていたからか、シーファスは危なっかしい俺を放っておけないと言い出し、ギルドで討伐依頼証明書を受け取った後、俺を連れて今度は森へと向かった。
「こう言うのは場数を踏むのが一番だ。経験を積めば誰だって自信もつくし、それに付随して実力もつくからやりがいがあるぞ」
流石先輩冒険者。
後輩を励ますのもお手の物。
俺にはそんなシーファスの姿がとても輝いて見えた。
そこからは本当に特訓だ。
スライムもゴブリンも初めてだし、数も多いしでへとへとになりながらどんどん倒すことに。
終わる頃には体力も限界で、かなりグッタリしていた。
「う~…疲れすぎてもう限界」
「頑張ったな。でも頑張った分、少しは慣れたんじゃないか?」
「慣れたけど…暫く動けそうにない」
「そうか。じゃあこれ」
そう言って初級ポーションを差し出してくれるシーファス。
「明日も付き合ってやるから、これ飲んで元気出せよ」
「ありがとう」
(うぅ。優しい)
旦那(仮)の優しさが身に沁みる。
しかも帰りは街までおぶってくれた。
至れり尽くせりで涙が出そうだ。
嫁から逃げ出した旦那にはとても見えなかった。
(本当に…一回くらい顔出ししてくれたらちゃんと話せそうなのにな)
もっととんでもない性格破綻者だったら話は別だったけど、シーファスは面倒見は良いし性格もいいから、きっとちゃんと向かい合って話せば建設的な話ができるんじゃないだろうか?
(やっぱりもう一回家令に言って、帰ってきてもらえるよう手紙を出してもらおっと)
そんなことを考えながら俺達はギルドで別れた。
それからの俺はタイミングさえ合えばシーファスと一緒に討伐に出るようになった。
シーファスにだってAランク冒険者としての仕事があるから毎日ではないけど、その分一緒になった時はいっぱい鍛えてくれて、色んなことを教えてもらうことができた。
一緒の時間を過ごせば過ごしただけ良い面しか見えてこない。
レベリングにも付き合ってくれるし、魔物の弱点や特徴なんかも教えてくれるし、危ない時はサッと助けに入ってくれる。
シーファスが俺にとっての尊敬すべき先輩冒険者になるのは当然の流れだった。
そんなシーファスとは私的な会話も多い。
出会いが出会いだ。
気安く何でも話せる関係になっていたから、なんとなくの流れで恋愛話になることもあった。
それによると、どうやらシーファスは嫁が嫌というよりかは恋愛対象が男なんだと言うことに気が付いた。
自分で決めた相手なら割り切れたかもしれないけど、決めたのはそういうことを何ら考慮しない親ときたらそりゃあ逃げたくもなるだろう。
「その後向こうからは何も言ってきてないのか?」
ちょっとだけ探りを入れるべく話を振ってみる。
家令は手紙を出したって言ってたから、手紙自体は届いているはず。
でも返ってきた答えはガックリ来るものでしかない。
「屋敷から手紙は来たけど、もう封すら開けてない」
「どうして?」
「どうせ最初の手紙と同じく『戻って話し合いを』しか書いてないのが分かり切ってるからな」
「うっ…確かに」
それはまさにその通り。
でもシーファスにその気は全くないから最早読んですらもらえないようだ。
「はぁ~…いっそラインハルトが嫁だったら喜んで帰るんだけどな」
そう言われて思わずドキッと胸が弾む。
これはある意味チャンスなんだろうか?
手紙を読んでもらえないならここで俺がカミングアウトする方が話は早いかもしれない。
(言え!言うんだ俺!)
「シ、シーファス」
「ん?」
どうかしたかとこちらを向いてくるシーファス。
でもいざ話そうと思ったところでハタと我に返る。
(いや、待てよ?)
シーファスと出会ってすぐの時なら兎も角、今言ったら物凄く怪しくないか?
それをしてしまうと『狙って近づいてきたのか?』とか思われて、『面倒見て損した!』って嫌われるだけなんじゃないだろうか?
(それは…ちょっと嫌だな)
折角仲良くなれたし尊敬すべき先輩だと思ってるのに…。
向こうだって裏切られたような気持ちになると思うし。
(どうしよう?)
これは困った。
それに今はラインハルトの姿だ。
『実は本当に俺がシーファスの嫁なんだ』とか言っても、慰めで言ってるか、冗談で言ってくれたんだな的に流される可能性の方が高い。
やるなら女装姿で会う方が話はスムーズに済む気がする。
そんな風にどうしたものかとウンウン唸ってたらシーファスがヒョコッと顔を覗き込んできたから、慌てて飛びのいた。
「ラインハルト?どうかしたか?」
「え?!いやっ!何でもない!」
グアッと顔に熱が集まるが、これはいきなりのドアップに驚いただけだ。
他意はない。
なんだか考えすぎて頭がパンクしそうだし、ここはもう一回諦めて話題を変えてしまおう。
「そ、それより今日の火トカゲの討伐だけど…」
「ああ。そうだな。火トカゲはFランクが頑張って倒せる範囲の強さだから、これが達成出来たら昇格できると思うぞ?」
そう。気づけばシーファスと出会ってからひと月が経ち、俺はEランク昇格間近になっていた。
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