代理婚!

オレンジペコ

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夫婦は只今別居中!

5.出会い④

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俺を助けてくれた男の名はシーファスという名だった。
どこかで見たな。
うん。婚姻届けにあった名前と一致するのはきっと気のせいだ。

(こんな偶然があってたまるか!)

でも事情がわかったのは良かったかもしれない。
一応どうしてこうなったかは理解することができたから。




そんなこんなで一緒に飲んで、最終的に酔いつぶれたシーファスを家まで連れて帰った。
シーファスの住まいは割と新し目のアパートの一室だ。
俺が住んでる伯爵家の屋敷からはちょっと距離があるけど、冒険者ギルドから徒歩10分くらいの好立地物件。

(へぇ~。いいな、ここ)

冒険者として活動するなら凄く便利だと思う。
朝食にもってこいのパン屋のパンも近所だからすぐに買いに行けるし、市場へも近いから買い物が楽。
羨ましい限りだ。

ちなみに彼の家の場所が何故分かったかというと、酒場のマスターが知ってたからだ。
シーファスは冒険者としてはベテランで、10年くらいここで冒険者として活躍してるんだって教えてもらった。

飲みながら聞いたけど、シーファスは俺とは違って家の借金を返すために早くから頑張っていたらしい。
尊敬する。凄いな。

思いがけず知り合ってしまった、まだ見ぬ結婚相手。
正直結婚した相手に会おうとしない姿勢は不誠実だと思わなくはないけど、白い結婚のためというならきっとその通りなんだろう。
理屈はわかる。

それに偶然とは言え助けてもらったのは事実だし、悪い人柄ではないと思う。
だから俺は取り敢えず冒険者の先輩後輩として接していけたらなと思ったんだ。

(だって俺のこと、そもそもあっちは知らないんだし)

家令にだってバレてないから他の屋敷の者達だってもちろん知らないはず。
まさか嫁いでくるのが嫁の弟だなんて、誰も思うはずがない。

(まあ婚姻届は思いっきり俺の名前なんだけど)

それだって多分シーファスは知らないんだと思う。
役所から婚姻届が受理されたって連絡は封書で送られているはずだけど、あの分なら封すら開けていない可能性大だ。
きっとシーファスはそう簡単には屋敷へと戻ってこないような気がした。

それなら様子見をして付き合っていくのが一番だろう。
折角俺も憧れの冒険者になれたんだし、暫くは好きに過ごしたい。
Cランク、いやせめてDランクくらいになれればいい方か?
実家に送還されるなんて真っ平御免だし、やれるだけやってみたいなと思った。




そしてシーファスを送り届けた後屋敷に帰ったら、俺付きの侍女2人に思い切り怒られた。

「何時だと思ってるんです?!ラインハルト様!」
「しーっ!!ここではその名で呼ぶな!」
「……失礼しました。ミシェイラ様」

言わずもがな、ミシェイラは姉の名だ。
ラインハルトだと思いっきり男性名だから、ここではこれで通さざるを得ない。
何故か?
そりゃあ婚約者が姉だったからとしか言いようがない。
事実は違ってようと、無関係な者達にまで余計な気苦労をかける気はないんだから。

「今日はちょっと危ない目に合ったところを助けてもらったんだ」
「え?!お怪我は?!」
「大丈夫だったんですか?!」
「大丈夫。その前に助けてもらったから」

どうやら侍女達に心配をかけてしまったらしい。
でもここでやめる気はないからちゃんと言うべきことは言っておこうと思う。

「取り敢えず今日みたいに危ない時も固まらずに動けるように、もっともっと経験を積んでいきたいと思ってる。その方が絶対身の安全に繋がるし。だから協力してほしい」

そう言って頭を下げたら困ったように顔を見合わせ、侍女二人は溜息を吐いた。

「ミシェイラ様。それでも私達は貴方が心配です。せめてベテランのパーティーに混ぜてもらったりできないんでしょうか?」
「流石にそれは無理じゃないか?」

ベテランのパーティーとなるとAランクとかBランクになる。
そんな中に一人だけFランクが紛れ込んでも足手まといにしかならないだろう。
最悪危ない場所で囮にされて、そのまま見捨てられるんじゃないだろうか?

だから正直にそう話したら、『それならパーティーではなくソロの方でもいいので、誰か助けてくれそうな方を見つけてください』と懇願された。

「ソロか…」

シーファスはソロっぽかったけど、どうだろう?
強いのは強かったし、ベテランと言えばベテランだ。
でも果たして自分から積極的にかかわっていくのはアリなのか?

「う~ん……」

悩む。

(まあでも向こうから断ってくる可能性も高いよな。ダメ元で聞くだけ聞いてみるか)

結局最終的にその結論に至り、俺は今度会ったら聞いてみようと思ったのだった。




翌日。冒険者ギルドに行くと早速シーファスに出会った。
向こうもこちらに気づき、笑顔で手を上げ声を掛けてくれる。

「ラインハルト!」
「シーファス!昨日はありがとう」
「気にするなって言っただろう?それより昨日はわざわざ家まで運んでもらったみたいで悪かったな」

なんだかバツが悪そうにそう言ってくるシーファスに、俺はくすくすと笑った。

「滅茶苦茶酔ってたからマスターに家を教えてもらって運んだんだけど、良かったかな?」
「ああ。本当にすまなかった。これに懲りずに仲良くしてもらえたらいいんだが…」
「新米冒険者で良ければいくらでも」

そうして目を合わせプッと吹き出し笑い出した俺達は、とても出会って一日とは思えないほど打ち解けていた。
やはり酒の力は偉大だ。

「ラインハルトは今日も薬草採取の依頼を受けるのか?」
「ん~…昨日みたいなことがあったら困るし、先に討伐にも慣れておいた方がいいのかなと思ってて…」
「確かにそうだな。咄嗟の時に動けないのは危険だ。良かったら俺も付き合おうか?」
「え?」
「まだどこのパーティーにも入ってないんだろ?」
「う…まあ」
「慣れるまで付き合ってやるよ」

思いがけずそんな言葉をかけてもらえて、俺は本当にいいのかなと思いつつ結局そのまま付き合ってもらうことにした。


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