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15.踏んだり蹴ったり Side.ユナ

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アノス先生のことはルイが引き受けてくれたから良しとして、私は私でいい感じにアノス先生を退職に追い込めるよう噂を流すことにした。

(あの幸せな日々を取り戻すためなら…!)

そうして翌日から噂を流そうと頑張っているのだけど、思うように事が進まない。

「アノス先生?そう言えば昨日はアノス先生の授業が大変だったって聞いたわ」
「え?」
「なんでも授業中に召喚魔法を使ったらしいのだけど、クレイグ様が先生の言いつけを破ったせいでスライムに犯されたとか」
「ええ?!」
「私も聞きましたわ。クレイグ様が結界を机に張る前に召喚魔法を試みたせいでクラス中パニックになってしまったとか。それを華麗に収めたのがアノス先生だったらしいわ。新任の先生なのに素敵よね」

キャッキャッと楽し気に話す女生徒達。
そんな姿にイラっとする。

(どうしてこんなに好感度が高いのよ!)

私は腹が立ってすぐにその場から離れた。
でもその後も全然上手くいかなくて、それだけではなく、とある令嬢からあり得ない話まで聞かされてしまった。

「アノス先生は酷いのよ?知っているでしょう?新任だからってカノン王子達を呼び出して扱き使っているって」
「あら、ご存じないの?カノン王子とウォーレン様、それにワーナー様の三人は不純同性・・交友をなさっていて、アノス先生はそれを何とかしようとご指導されているらしいって」
「……え?」
「流石新任の先生はやる気に満ち溢れていらっしゃるわよね」

オホホホホッと笑いながらその令嬢は楽し気に私へと目を向けてくる。

「ちやほやされて勘違いしてしまっていたようですけど、隠れ蓑にされていただけでしたのね。これまで誤解していてゴメンなさいね?うふふっ。これからは少しは仲良くして差し上げても良くってよ?」

見ると他の令嬢達もこれまでとは違った目で私を見てきていて、その目は皆楽しそうに見えた。

(そんな…っ)

いつの間にそんな噂が広がっていたのだろう?
全く気づいていなかった。
ルイやクレイグは知っていたんだろうか?

兎に角事実を確認しようと皆の姿を探していると、廊下から窓の外を見ているクレイグの姿を発見した。

「クレイグ様!」
「……ユナ?」

いつもの元気いっぱいの姿と違い、どこか打ちひしがれたような姿を見て、そう言えばと思い出す。

「クレイグ様!昨日はアノス先生のせいで酷い目にお会いになったとか。大丈夫ですか?」

そう尋ねるとクレイグはそっと近寄ってきて私の髪を一房手に取ると、ゆっくりとそこへ口づけを落とした。

「ユナは優しいな」
「そんなことありませんわ。でもクレイグ様がお辛いなら私が支えてあげたいと思ってます」

だから私の側にこれまで通りいてほしい。
そんな気持ちでいっぱいだった。

「本当に?」
「ええ!」
「俺を慰めてくれるか?」
「ええ」
「悩みにも乗ってもらえるか?」
「もちろんです!」
「手伝って…くれるか?」
「はい!」

だから全部肯定した。
でも────。

「ユナ。頼みがあるんだ」

そう言って人が来ない空き教室に連れていかれて、『優しいユナにしか頼めないんだ!頼む!俺の尻に指を挿れてほしい!』と言ってくるなんて誰が想像できただろう?

「この、変態!!!!」

バシィッ!!

人生初の平手打ちを思い切り叩きつけ、私は泣きながら教室へと戻った。
そして机に突っ伏して泣いて、ひたすら次の休み時間が来るのを待つ。
大丈夫。クレイグ一人が減っても問題はない。
そう自分に言い聞かせて。

「ユナ」
「カノン様!」

そしてそんな風に耐えたご褒美なのかなんなのか、久しぶりにカノン王子が笑顔で自分の元へとやってきてくれた。

「お会いしたかったです!」
「そうか。少し時間はあるか?」
「はい!もちろんです!」

二人きりで話だなんて、浮かれない方がおかしい。
きっと甘い雰囲気でキスしてくれるんだろう。
そう思っていたのに────。

「ユナ。すまないが、俺はもう君の傍に居られなくなった。その代わりクルバーナ公爵令嬢が絡んでくることはもうないから安心してほしい」
「ええっ?!」
「これまで君に辛い思いをさせてすまなかった。もう大丈夫だから、俺抜きでも楽しい学生生活を送ってほしい」
「そんなっ!カノン王子!」
「さようならユナ。元気で」

そんな風にあっさり立ち去られ、愕然となってしまう。
あんなに自分に愛情を向けてくれていたというのに、一体カノン王子に何が起こったんだろう?

しかも次の昼休みにも衝撃は続く。

「ユナ!ゴメン!昨日学園長に話しに行ったんだけど、全く取り合ってもらえなくて、帰ってから父上にも言ったら逆に叱られてしまったんだ。これを機に俺も心を入れ替えたらどうだって。あまり言ったらユナの側にいられなくなりそうだったから、取り敢えず何か他の手を考えようと思って引き下がってきた」

新任教師だからと甘く見ていたけれど、どうも一筋縄ではいかなさそうだ。
どうしてだろう?
本当に踏んだり蹴ったりだ。

「ユナ。そんなに落ち込まないでくれ。絶対に俺が何とかするから」

そう言って慰めてくれるルイの言葉だけが救いだなと思いながら、私はそっとその胸に身を寄せたのだけど────。

「ユナ…。まさかそんな。君がそんな女だったなんて……」

その声に顔を上げるといつの間にやってきたのかそこにはクレイグの姿があって、しかもあり得ないことを口にしてきた。

「ユナならちゃんと事情を話せば俺を助けてくれると思っていたのに…!まさか俺を弄んでいたなんて思いもしなかった!」
「えっ…?!」
「もうユナになんか俺の尻は託せない!やけくそだ!ウォーレンかワーナーに頼んでくる!」
「はいぃぃ?!」

ワッと泣きながら走り去ろうとするクレイグに私は慌てて声を限りに叫んだ。

「ちょっ!クレイグ様?!人聞きの悪いことを仰らないで?!私は貴方を弄んでなんかいませんし、お尻に指なんて突っ込んでいませんからねぇぇ?!」


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