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3.初顔合わせ

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「初めまして。今日からここ、ヴェルヴァーナ学園でミッドナイト語を教えることになったアノス=ケイ=レイピアです。よろしくお願いします」

俺は壇上でそう挨拶をした。
ちなみに身バレして警戒されるのも良くないと考えて、一応手持ちの子爵家の爵位名を拝借した。
見た目も王族特有の白銀の髪はカツラで隠して黒髪にカモフラージュ。
瞳の色はよくある碧眼だから特に隠す必要はないだろう。
とは言え魔法を使う時だけは瞬間とは言え王族特有の鮮やかな青紫色に変わるから一応注意は必要だ。
でも俺が王弟だというのは学園長始め教師達は皆知っているし、フォローくらいはしてもらえるはず。
気楽にいこう。

そんな感じで俺の教師生活は始まった。


***


そよそよと初夏の風が吹き抜ける中庭。
そこで彼らの恒例のやり取りが行われていると聞き、早速足を運んでみた。

「カノン様。はい、あーん♡」
「ん。美味しい。ユナの手料理は最高だな」
「ユナ。俺にも一口」
「ウォーレン様もですか?いいですよ。はい、どうぞ」
「あ~ん♡美味い!」

そこには一人の男爵令嬢と五人の馬鹿な男達が集まって、イチャイチャしながら昼食を摂る光景が広がっている。
周囲の者達は皆見て見ぬ振り。
教師達情報によると彼らのそんな行為は昨年度からずっと続いているらしい。
流石に一年以上この状況が続いたから兄もカノンを見限ろうと思ったんだろう。
言ってみれば俺に頼んだのは最後のチャンスを与えたようなもの。
さて、どう料理してやろうか?

まず基本的な情報だが、カノンがぞっこんの男爵令嬢の名はユナ=ジル=マッシュ。
マッシュ男爵が心底惚れこんだ奥方の忘れ形見だそうで、幼い頃から蝶よ花よと甘やかして育てたらしい。
そのせいで礼儀作法は彼女がサボった分だけおざなりで、最低限のマナーさえあるのかどうかという体たらく。
けれど見た目が物凄くいいので、それがかえって彼等の目に新鮮に映ってしまったらしい。
ギャップ萌えと言うやつだ。
本当に趣味が悪いとしか言いようがない。
とは言え俺もあまり人の事は言えないが。

(メイナードはできる近衛騎士からの変態ドMだからな…。萌えるし、燃える)

「コホン。まあそれは置いておいて…」

今回それを教育するのが俺の仕事だ。
気持ちを切り替えよう。

対象者は五名。
まずは俺の甥っ子でもあるこの国の第二王子、カノン=サン=デルフィア。
そして外務大臣の息子、ルイ=ナル=アルカス。
第二騎士団長の息子、ウォーレン=リック=トワイス。
国境を守る辺境伯の息子、クレイグ=アラン=エンド。
大聖堂付き筆頭治癒士の息子、ワーナー=エディ=エバー。

いずれもそこそこの権力者の子息達だ。
影響力は馬鹿にはできない。
まずはどれくらい染まってしまっているのか直接試してみるか。

そう思いながら俺はその場へと近づいてみた。
さて、どこで気づくだろう?

一歩、二歩、三歩…………。

(…………)

冗談だろう?
すぐ目の前に来るまで全く気づかなかったぞ?
いくら安全とされる学園内とは言え、仮にも王子がこれではダメだろう。
しかも第二騎士団長の息子も辺境伯の息子もダメダメじゃないか。
護衛にさえならない為体ていたらくっぷり。
全員場合によってはすぐ死ぬぞ?

(俺が刺客だったらまず死んでたな)

とは言え言っても仕方がない。

「君達。楽しそうだな?」

こちらから声を掛けてやっとこちらを認識し、飛び上がるようにこちらを一斉に見てくる者達。
本当に救いようがない者達だと実感した。

「うわっ!なんだ新任のアノス先生じゃないですか。驚かせないでくださいよ」
「そうですよ。気配を消して近づくなんて悪趣味ですよ?」

(別に今は気配なんて消してないんだけどな?)

「いや。特に気配は消してない。というかそんな高等技術、平教師の先生は持ち合わせていないからな?」

まあそこについては嘘だけど。
何故かというと、俺の恋人にその辺はしっかり教わっているから。
あいつは本当に筋金入りの変態なんだ。

『殿下。勤務中に気配を消して近づいてきてくれませんか?いきなり耳元で殿下に囁かれたらと考えたら…はぁっ…はぁっ…』
『いきなり妄想して興奮してくるな。この変態が』
『あぁ…殿下。その蔑むような目で見つめられるとたまりません…!最高です!というわけで、是非覚えてください!色々使えて便利ですよ?』
『…………仕方がないな。まあいいだろう』

本当に欲望に忠実な奴だ。
使えるスキルだから別にいいけれど、理由が理由だけに人によってはドン引きするだろう。
そんな理由で俺に気配の消し方を教えてくるとか、ドMが過ぎる。

ちなみに俺はこの恋人のせいであれこれ普通では覚える必要のなかった魔法も色々覚えてきた。
使役魔法、拘束魔法なんかはその最たるものだ。
結界魔法なんか無詠唱で完璧に展開できるほどのエキスパートと化している。
しかも使用頻度が高いせいでそれら全ての魔法の熟練度はかなり高い。
他にも色々それ系統の技術は習得済みだし、五つ年上の可愛い恋人を悦ばせるため俺は努力をかかさなかった。

ちなみにその可愛いドMな恋人は今回の件を聞くや否やすぐさま俺と兄の間の連絡係に手を上げた。
少しでも俺の傍に居たいからということだが、そこにどれだけの愛があるのかは実はわかっていない。
まあドMなのは確実だから、取り敢えず悦ばせておいたら離れていくことはないだろうけど。

「それで?先生が何の用ですか?」
「ああ。皆婚約者そっちの気でここにいると聞いたから注意をしにきたんだ」
「大きなお世話です。要件はそれだけですか?それならさっさと行ってください」
「そうか。だがそうも言っていられない状況だと思うぞ?」

俺は困ったように装い、ズンズンとこちらへと向かってくる令嬢集団へとそっと目をやった。


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