黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~

20.憂鬱なお茶会

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シリィはソレーユの第二王子であるライアードのプロポーズを受け、二度目となる婚約をしソレーユ国へとやってきた。
一度婚約破棄した相手との再度の婚約。
当然風当たりは厳しいだろうと覚悟はしていたのだが、来て早々、恥ずかしすぎて死ぬかと思った。
それと言うのも、シリィがいらぬ中傷をされないようにとあらかじめライアードが王宮内で根回しをしていたせいだ。

とは言えライアードが口にしたのは『一度は婚約を破棄してしまったが、離れて初めて本気で好きだったと気付いて改めてゆっくり二人で話した結果求婚し直すに至った』というその一言だけだったらしい。
それをロイドがにこやかに運命の相手だったと吹聴して回った結果、何故か王宮内でロマンティックな作り話が実しやかに流れたのだとか。

(くっ…!一度ならず二度までも…!)

一度目の婚約時にアストラスで似たような噂を流されていたのを思い出し、思わず虚脱感に襲われる。
大体あのロイドが『にこやかに』吹聴などとどうにも信じがたい。
絶対に面白がっていたに違いないのだ。
あの男なら嫌がらせの為なら主人だって利用するのではないだろうか?

そんな自分に、この国に来てからつけられた侍女達が笑顔で言う。

「普段ライアード様の隣で飄々としているあのロイドがそれはもう嬉しそうにライアード様の件をお話してたんですよ?皆何事かと耳をそばだてておりました」
「それもこれもライアード様に愛されるシリィ様のお美しさあってのこと。噂が広がるのも当然ですわ」

褒め言葉なんて右から左だ。
そんな風ににこやかに話されても、やはりロイドの確信犯と言う印象は拭えない。
噂が独り歩きしていることが問題なのだ。
しかもライアードはこの国に来てからこれでもかと言うほど自分を甘やかしてくる。
ドレスに宝石、装飾品などなど。次々贈られてくるので正直辟易してしまう。
一体いつ身につけろと言うのだろう?
侍女達から『愛されていますね』と言われても正直困ってしまうだけだ。
これまで王宮魔道士として働いていただけに、白のローブが懐かしい。

(はぁ…コルセットって窮屈だから嫌いなのよね)

普段の魔道士の聖白衣に慣れ過ぎていて、こうして締め付けられるのも毎日は辛い。
改めてアストラスでは気楽だったなと、早くもほんの少しホームシックになりそうになった。
そんな自分がそれでもなんとかこの国に留まれるのはシュバルツのお蔭だと言っても過言ではないだろう。
正直王族なのに国を飛び出し他国の一介の魔道士の元で過ごすと言う行動をとったシュバルツは凄いと思う。
結婚前提なわけでなく『折角恋人同士になれたのだからロイドの傍に居たい』というただそれだけで滞在を決めたのだから。
けれどそれをシュバルツに言うと、彼は自分の方がずっと大変だろうにと労ってくれる。
確かに大変は大変だが、それは自分が選んだ道だからと素直に言うと彼はとても優しい笑みと温かい眼差しでこちらを見てくれた。

「シリィのそういうところは潔くて好きだな」

そんな言葉にドキリと胸が弾んでしまう。
あんな風に応援してくれるシュバルツがいるのだから、ここでホームシックに浸っている場合ではないのだ。

(私はここで一生懸命頑張るって決めたのよ!)

一人ではないのだから、もっとしっかりしなければ!



そうして今日も誘われたお茶会へと足を運ぶ。
第二王子とは言えライアードは王子だ。
その妻となる自分もできるだけ周囲に顔を知ってもらう必要がある。
そのためここに来てからすぐ顔見せのためにと連日のように茶会が開かれ、主だった大臣や重臣達の奥方や娘達と交流を持つようにと勧められた。
それはわかるし、自分も最初はやる気満々だった。
けれど…そこはある意味女の戦場で────。

「今ソレーユではこの化粧水が良いと評判ですのよ。まぁ先日の菓子もご存じなかったシリィ様にはご興味のないことかもしれませんが……」

そんな言葉にクスクスと周囲から嘲笑が漏れる。
はっきり言うと、物凄く理不尽な目に合っていると言っていいだろう。
本当にどこでも女と言う生き物は厄介なものでしかない。
どうもライアードは以前自分と婚約破棄をした後、花嫁候補を探していたらしい。
それは別にいいし、そこで見つからなかったから再度自分に白羽の矢が立ったのだろう。
けれど、だからと言って集中砲火はいかがなものか?
つまらないことでチクチクと嫌味を言われるのは正直うんざりしてくる。
自分はいちいちそんなことに傷つくような繊細な性格ではないが、全く疲れないかと問われたら答えは否だ。
これがずっと続くのかと思うとさすがに溜息が出てしまう。

彼女達が選ばれなかったのは彼女達自身がライアードに気に入られなかったからであって、決して自分のせいではないと言うのに……。
とは言えそれをそのまま言うわけにもいかず、そこは笑顔ですっとぼけながらスルーするしかない。

「あら。きっとエリザ様のお肌にぴったりの化粧水なんでしょうね。私も色々と勉強中ですので、こうして教えていただけるのは嬉しい限りですわ」

そうやってその場では毅然と背筋を伸ばし、余裕のある振りでなんとか笑みを浮かべて乗り越える日々。
そして内心疲れに疲れて部屋へと戻ると、今度はライアードの甘い言葉が降ってくる。
これが正直地味に辛い。
気の休まる暇がなくてグッタリしてしまう。

もうシュバルツの部屋に逃げ込んで、お茶でも飲みながら愚痴を溢しうたた寝でもしたいくらいだ。
そうして鬱々と過ごしていたところでその爆弾は降ってきた。

「シリィ…そろそろ寝室を共にしないか?」

ソファでライアードに髪を梳かれながら笑顔でその場に固まってしまう。
ここ最近何となく口説かれながらそんな流れに行きそうなこともあったが、悉く気づかない振りをしてスルーし続けてきた。
あれらは冗談だと思おうとしていたのだが、ここまではっきり言われるとどうやら冗談ではなかったらしい。
けれどさすがにそれは遠慮願いたいところだ。
ただでさえストレスで寝不足気味だと言うのに、一人時間を減らされたらそれこそ潰れてしまうことだろう。

「え…と?あの、ライアード様。その…そういった事は結婚後の方がありがたいのですが……」

一応一回目の婚約時よりも物申せるようになりはしたものの、相手は王子だ。
バッサリ嫌だと言うほどにはまだまだ打ち解けられていない。
ただでさえ距離感を計りかねているので、目下の所そこを探るのに精一杯の日々。
精々この程度の控えめ加減で察してもらえないだろうか?
けれどライアードの続く言葉に更に固まってしまう。

「そうは言ってもシリィ…日に日に疲れが溜まっているようだ。無理をしていないか心配だし、私が癒してやりたい」

そう言って真っ直ぐ自分を見つめてくるライアードに焦りに焦る。

(え?!何?!気づいてくださっていたってこと?!)

てっきり全くこちらの様子に気づかぬままプレゼント攻撃やら甘い言葉やらを口にしているのだとばかり思っていたのだが、違ったのだろうか?
そうやって目をグルグルさせていると、そっとそのまま胸の中へと抱き込まれてしまう。

「はぁ…ロックウェルからシリィは鈍いからはっきり言ってやってほしいと忠告されていたが、どうやらその通りのようだな」

そんな言葉と共にライアードの温もりを感じて思わず叫びだしたくなる。

(は…恥ずかしすぎるッ!)

「シリィ…私は別にお前を困らせたくて贈り物を贈っていたわけじゃない」
「……?!」
「勿論愛しいから色々贈りたかったのはあるが、少しでも日々の癒しになればと思ったんだ」

どうもライアードの感覚がわからないが、要するにお茶会で疲れている自分が綺麗なものや可愛いものを見て少しでも喜べば気分転換に繋がるのではと考えたらしい。
と言うことは、あの甘い言葉の数々にも恐らく別な意味も込められていると言うことに他ならなくて……。

「ここが嫌になってアストラスに帰りたいと言われたくなかったから…早く私の愛で包んで引き留めておきたかった」

そう言って顎を持ち上げられながら近距離で切なげに見つめられてしまう。

(ひゃ────ッ!!)

気付けば思い切り飛び上がり、その腕の中から脱出している自分がいた。
はっきり言って男性からこれほどまでに真剣な眼差しで口説かれたことなど一度もない。
ああいうものはロックウェルが女性を口説く時に他人事のように隣で聞いていたから何とも思わなかっただけで、それがいざ自分の方に真っ直ぐに向けられるとどうしていいのか全くわからないのだ。
最初の婚約時も適当に上司の言葉の延長線上の様に冗談半分義務半分でスルーしながら聞いていたから大丈夫だっただけで、意識してしまったらどうにも恥ずかしさの方が勝ってしまう。
だからこの時も真っ赤な顔であうあうとパニック状態に陥り、涙目になりながらジワリジワリと後ずさった末、結局タイミングを見計らってそのまま扉から逃げ出してしまった。

「し、失礼します!」

もうこうなったらシュバルツの所に逃げ込む以外にない。
少しでも話を聞いてもらってなんとか落ち着かなければ────!
そう考え至ったところで何も考えずシュバルツの部屋目指して駆け込んでいる自分がいた。


***


「逃げられたな」

ライアードは残された部屋で大きなため息を吐いた。
些か急ぎ過ぎたかと思ったが、こればかりは仕方がない。
日に日に元気がなくなっていくシリィを見ているのはそろそろ限界だったからだ。

頑張り屋なところがあるシリィのこと。
無理をしつつも自分に弱音を晒すことは一度たりともなかった。
しかもその陰で彼女はこの国の事を学び、各大臣達の名だけではなく娘達の顔と名前まで事細かく覚え込んでいた。
ロックウェルの片腕として働いていただけにその辺りは実に優秀だ。
恐らく結婚式の時には完璧に挨拶をこなし、この国の情勢について話せるぐらいに成長してくれることだろう。
そんなシリィを見れば見る程に愛しさが募ると共に、倒れるのではないかと心配は増す一方だ。
そんな中、いっそ抱き潰してしまえばグッスリと眠れるのではないかと思いついた。
一度目の婚約破棄の原因が押し倒したあの時のことが起因しているだけにそこは慎重に行くべきだとわかってはいるのだが、だからこそ優しく丁寧に愛してやりたいと思っている。

欲を言えばもう少し二人の距離を近づけたい。
最初の時の婚約時と比べ、今のシリィは以前以上に自分を意識してくれているように思う。
けれどアストラスでの時とは違い、やはりこの国にいると自分が王子と言うことを改めて思い知るからかシリィとの会話がどことなくぎこちなくなる時がある。
体の関係ができれば自然とそう言った遠慮もなくなってくるのではないかと思ったのだが……。

「なかなか上手くはいかないものだな…」

そう溢すと、これまで気配を消していた優秀な自分の魔道士が横から声を掛けてきた。

「連れ戻しましょうか?」
「……別に構わない。また何度でも口説いてみるつもりだ」

そんな言葉にロイドは黙ってスッと下がっていく。
丁寧に礼を執ってはいたが、あれは恐らく追い掛けてくれたのだろう。
連れ戻さなくていいと言った手前無理に連れ戻すことはないとは思うが、きっと何かしら話しに行ったに違いない。
本当に主人思いの男だと思う。

そうやってクスリと笑っていると、扉をコンコンと叩く音が聞こえてきた。

「ライアード様。ミシェル様がお話があるので部屋まで来るようにと仰せですが」
「そうか」

その言葉にスッと思考を切り替える。
恐らく話と言うのは第二妃の件だろう。
シリィとの結婚話は滞りなく進めることができたが、彼女はアストラスの一介の貴族の娘に過ぎない。
王宮内では第二妃に有力な近隣の王族を迎えるべきだとの意見も出ている。
現に兄も二人の妃を迎えているし、それは特段珍しいことでもない。
けれど自分は今の所シリィ以外を妃に迎える気はないのだ。
だから────兄を味方に引き込むことにした。
今回の件でそれとなく兄が食いつくような情報を流しておいたしその点に抜かりはない。

(ふっ…兄上には申し訳ないがこの件は譲れないしな。精々利用させてもらうとするか)

手元にカードは揃っている。
これを機に一気に余計な虫は駆逐してやろうとライアードはそっとほくそ笑みながら兄の部屋へと向かった。


***


「兄上、お話とは?」

わかっていつつも笑顔でそう切り出すと、ミシェルの方は眉間に皺を寄せながらこちらへと尋ねてきた。

「お前が第二妃を迎えると噂を聞いた」
「……そうですか。兄上の耳にまで入ったとは驚きました」

そう言いながらそっと目の前のカップをゆったりと傾ける。
そんなどこかのんびりとした自分にミシェルは不満げに口を開いた。

「本気なのか?」
「トルテッティの姫君の話ですか?あれは周囲が勝手に持ち上げてきたにすぎません。シリィが白魔道士の美しい娘だと言うのを見た目だけで判断し、それならばシリィよりも魔力が高く美しい上王族である彼女なら不満はなかろうと勝手に盛り上がっているだけの話……」
「迎える気はないと?」
「当然です」
「では軍務大臣の娘との話は?」

軍務大臣の娘と言うと、以前一度試しに寝た女の事だろう。
そう言えば自分こそが第二妃に相応しいと吹聴して回ったと聞いた。
抱いた女はあの女だけではないのだが……何を勘違いしたのか。

「軍務大臣の娘に興味もなければ第二妃になど考えたこともありません」

その言葉にミシェルは疑わしげだ。
けれど興味など毛ほどもないのが事実。

(そう言えばシリィとの茶会の名簿にも名があったな……)

ふと、そんな事を思い出す。
彼女以外にも自分が手をつけた女は重臣の娘が多い。
当然茶会には顔を出してくる相手だ。
シリィに嫌味の一つでも言っているのは確かだろうが、そこを上手く乗り切ってもらえないと困るのは事実。
予め自分も彼女達の父親達に釘を刺しているとは言え、女の世界はそうそう介入しきれない。
だからこそ他でストレスを発散させてやりたいと思ったのだが────。

「あまりにも目障りになったらロイドに片をつけさせますので」

ミシェルがロイドの事を毛嫌いしているのを承知の上でそう言うと、そのまま一層機嫌を悪くし吐き捨てるように言ってきた。

「お前はいい加減ロイドを傍に置くのをやめろ!」
「兄上。あれほど優秀な魔道士をわざわざ手放すほど私は愚かではないつもりですが?」
「優秀なのは認めるが、お前にそれを扱いきれるとは到底思えない!いつか牙を剥かれるぞ?」

あくまでも心配して言っているのだと言ってくるミシェルに、いつもの如くサラリと返す。

「ご心配には及びません。あの者は私を裏切るようなことはしませんから」
「何か弱みでも握っているのか?」
「いいえ。あの者が勝手に夢中になり忠義を尽くしてくれているだけです」
「ロイドは他に恋人を作ったと聞いているぞ?」
「ええ。実に可愛いペットだと喜んでいました」

こうやって兄を冗談でからかうのは少し楽しいが、ロイドと自分の仲を勘繰られるのは少々面倒だ。
シリィの耳にでも入れられて誤解されたくはない。

「兄上…私とロイドはただの主従関係に過ぎません。勘繰るからには何かご自身に身に覚えが?」

自分が今現在男を相手にしているからと言って自分までそんな目で見てほしくはないと暗に言ってやると、案の定ミシェルはそのまま押し黙った。
別にそこまで隠すことでもなかろうに、この兄は本当に常識の枠に囚われ過ぎる男だ。
まあだからこそあまり虐めすぎては可哀想だと思うのだが……。

「………」
「ふっ…まあそう怒らないでください。私は別に兄上と対立する気もなければ王位を狙う気もサラサラありません。だからこそシリィ以外の妃は必要ないのだと、敢えて言わせていただきたい」

こちらに敵意などはないのだとはっきりと明言する。

「けれど周囲が煩いのもまた事実。それ故に兄上にはご協力いただきたいのです」
「……と言うと?」
「私の第二妃は必要ないと……手回しをしていただきたい」
「……それは本心からか?」
「当然です」

けれどそれだけでは疑わしいと思ったのだろう。
ここに来て一つの条件を出してきた。

「ロイドを切ったら協力してやってもいい」

それは当然言ってくるだろうなと思った条件だったので、余裕で答えを返す。
最近でこそ自分の事でいっぱいいっぱいでこちらにまで目が向いてこないようだったが、兄がロイドの事を嫌っているのは今に始まったことではないのだから────。

「困りましたね。ロイドは先程も言ったように私にとっての重要な手駒なのですよ」
「では私は一切この件に関して協力する気はない」

正直ミシェルが一生懸命虚勢を張っている姿は自分の目には子供のように可愛らしく映るだけだ。
これほど時に子供っぽく隙だらけで危ういにも関わらず王宮の狐狸貉達に食いつかれないのは、偏にミシェル自身のその超然とした近寄りがたい容姿と裏で自分がそういった者達を駆逐し牽制しているお蔭だと言ってもいいだろう。
でなければあっという間に大臣達の傀儡に成り果ててしまうところだ。
本人がもっと愛想を振り撒けるほどの器用さを持ち合わせていれば全然話は変わってくるとは思うのだが…ミシェルはそこまで器用ではない。
恐らく生真面目な性格からして『皇太子に可愛さなどいらん!』と一刀両断にされるのがオチだ。
一応ミシェルにとってはそこが最大の武器で、その完璧な容姿を上手く使えば誰しもを誑しこむことさえ可能だと言うのにそこをわかっていないのが残念すぎる。
頑張れば頑張るほど凄絶な美しさが際立ってより人形らしさが増し、近寄りがたい空気が増して損をするだけだというのにそれにさえ本人は気づいていないのだ。
とは言えその皇太子と言う立場の持つ力は手回しをするに十分な力を持っているし、ミシェル自身の努力でそれなりに人脈もあるため頼りにはできる。
上手く乗せるに越したことはない。

「ふっ…私が第二妃を迎えるのはお嫌でしょうに……。それならばこう言い換えましょうか?ロイドの恋人を陥落させて、彼にトルテッティでロイドと暮らしたいと言わせたら考えなくはないと……」

シュバルツはトルテッティの王族だ。
ロイドと国で暮らしたいと言えば自分と離れざるを得なくなるぞと水を向けてやると、ミシェルの目がキラリと光った。

「……本気で言っているのか?」
「そうですね。私とシリィの結婚式の日までに陥落させられたら考えますので、兄上はそれまでに第二妃の件を宜しくお願い致します」

その言葉にミシェルは思った通りすぐに食いつき了承してくれる。

「いいだろう。お前の結婚式の場でシュバルツ殿にロイドと共にトルテッティに帰ると言わせてみせよう」

第二妃の件はこちらに任せてくれていいと言い、兄はそのまま退室を認めてきた。

(本当に単純だな……)

これまでのロイドの行動を見ていればシュバルツに一緒に暮らそうなどと言われても断ることなどすぐにわかるだろうに、それがどうしてわからないのだろう?
とは言え生真面目で扱いやすい兄だからこそ信用はできる。
これで第二妃の件では確実に味方に付いてくれるだろう。
あとは一筋縄でいかない相手をロイドと駆逐していけばいいだけだ。

(まずは軍務大臣の娘だな……)

きっとロイドに言えばすぐに上手くやってくれるはずだ。
女を骨抜きにするのは得意分野なのだから────。



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