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第二部 ソレーユ編~失くした恋の行方~
21.※相談(ロイド×モブ)
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※このお話は、第二部番外編『嫉妬~後日談~』とリンクしております。
────────────────
「あっ…こんなッ…!」
腕の中で女が頬を染め上げ快楽に沈む。
「今後一切ライアード様に付きまとうのはやめてくれるな?」
「うっ…はぁんッ!」
「返事は?」
「あっあっ…ロイドッ!お願い!もっとしてッ!」
「ふっ…聞き届けてもらえないならできない相談だ」
「あぁん!付きまとわない!付きまとわないからぁッ!」
「シリィにも手は出さないと…約束してもらいたい」
「んぁあっ!する!するわッ!だから早くぅ…!」
焦らされ翻弄された女が腕の中で身悶えるのを見ながら思い切り突き上げてやる。
「はぁあああんッ!」
「約束は約束だ」
そうして一通り満足させてやると、自分に付きまとわないようにだけ記憶操作をしそのまま身を離す。
「あ…あぁ…」
ヒクヒクと身を震わせながらその場にへたり込む女に背を向けて、あっさりとその部屋を後にした。
正直確約さえ取れれば後はもうどうでもいい。
(シュバルツと寝たいな……)
どうでもいい女を抱くのは仕事だからいいとしても、このまとわりついた女の匂いがやけに不快に感じられた。
これまで気にしたこともなかったが、何となくシュバルツの清潔感溢れる香りのほうが好ましく思えて…今日はこのまま帰ろうと思った。
もしかしたら女の匂いをプンプンさせている方が思い通りに事が運んで、すんなり抱いてもらえるかもしれない。
欲求不満と言うわけでもないが、何となくそんな気分になった…ただそれだけだったのだが────。
その日の夜は思惑通りシュバルツと事に及べたと言うのに、予想外に乱れる羽目になったから腹が立って仕方がなかった。
まさかあの体位にあれほど感じてしまうとは思いもよらなかったのだ。
(~~~~~っ!!シュバルツの癖に!)
思い出すだけで羞恥に身が染まる。
自分の制止の言葉など聞かないとばかりに好きなだけ突き上げ乱してきたシュバルツ。
けれどその声はずっと優しくて、乱れた自分を見ても好きだと何度も繰り返していた。
身体に与えられる快楽と囁かれる優しさのギャップに翻弄されて、最後まで自分を保つことができなかった自分が憎い。
あんな風にされたら思わず少しくらいは弱みを見せてもいいかもしれないと思ってしまうではないか。
(くそっ!あんなのはまやかしだ!単に気持ちいい体位に嵌っただけだ!)
溺れさせられたのをどうしても認めたくなくて、シュバルツの前では平静を保ちつつも心の中で悪態を吐く。
(やっぱり許せん!)
そうやって怒りながら歩き、主人の元に行くまでに頭を冷やそうと思っていると、ちょうど前からシリィがやってくるのが見えた。
「ロイド。今から仕事?」
「ああ。シリィはお茶会か?」
「違うわ。今日のお茶会は午後からなの。その前にシュバルツ様にいくつかブレンドティーをもらおうかと思って」
「ああ、あれか。確かにこの間飲んだものは美味かったな」
先日飲んだのはペパーミントが効いているのか実にすっきりした味わいで、朝に飲むのにもってこいのお茶だった。
他にもいくつかブレンドしたものがあるらしく、シュバルツは気分で飲み分けているらしい。
恐らくシリィはそれを分けてもらうつもりでいるのだろう。
「お茶会のお茶はやっぱりあんまり好きになれないし、その前にゆっくりしておこうと思って」
「なるほどな。まあないとは思うが、浮気だけはするな」
「わかってるわよ!」
どこか茶化すように言って笑ってやると、シリィは話は終わりだとばかりにそのままシュバルツの元へと行ってしまった。
きっとついでにライアードとの件についても相談するつもりなのだろう。
二人はまだ一線を越えてはいないが、正直さっさと寝たらいいのにと思ってしまう。
ライアードが気を遣うのは非常によくわかるのだが、シリィの方の気持ちがさっぱりわからない。
もう結婚が決まっていると言うのに何をそんなに頑なになっているのか……。
(白魔道士はさっぱりわからんな…)
そうやって呆れたようにため息を吐きながら、先程までよりも幾分落ち着いた頭で主の元へと急いだ。
***
その日、シュバルツは先に部屋を出たロイドを追い掛けようと自分も一度部屋を出たのだが、開発の合間に飲むこともあるかと思い直しハーブティーを取りに戻った。
そのタイミングでコンコンと軽いノックの音に続いてひょこりとシリィが顔を出したので、思わず笑みを浮かべてしまう。
「おはよう、シリィ。今日はどうしたんだ?」
そう言いながらソファを勧めてやると、いつもの様に申し訳なさそうに口を開いた。
「おはようございます。ごめんなさい。こんなに朝早くに……」
シリィは先日から何度かこうして自分の所へやってきては何か聞きたそうにするのだが、今の所詳細は不明だ。
何か悩んでいると言うことだけはわかるのだが、無理やり聞き出すべきではない話なんだろうと思い自主的に話してくれるのを待っている状況だった。
「今朝はカモミールにしてみた。口に合うといいんだが」
そう言ってカップを差し出すとシリィは素直にそれを受け取りそっと口をつけた。
「美味しい……」
「良かった」
それから何となくハーブティーの話で盛り上がり、その後は珍しく自分達の話になった。
「シュバルツ様……」
「ん?」
「その……ロイドと何かありました?」
不意に振られたその言葉に思わず首を傾げてしまうが、シリィは何となく聞き難そうに先を続ける。
「なんだか今日はいつもと感じが違うので……」
そう言われても自分ではよくわからないので、どういうところがそう感じるのか尋ねてみたのだが…。
「何と言うか…こう…落ち着きましたよね」
「……?」
どうやらシリィ曰く、これまでの必死さや焦りが見られなくなり、雰囲気が柔らかくなったらしい。
「どことなく色香も出て艶っぽくなりましたし…。上手くいっていて羨ましいです」
そうやってポツリと呟かれて、シリィの悩みがライアードとのことだと言う確信を得ることができた。
「ライアード殿と何かあったのか?」
だからそうやって促してやったのだが、シリィは黙したまま語らない。
やはり今日もこれ以上聞き出すことはできないのだろうか?
そう思っていたところで、徐にその言葉が耳へと飛び込んできた。
「あのっ!初めての時ってやっぱり怖かったですか?!」
思い切って聞いてみたと言わんばかりに突然真っ赤な顔で紡がれた言葉に思わず思考が停止してしまう。
────一体今、自分は何を言われたのだろうか?
けれどシリィはこちらの様子には気づかず、勢いで聞いてしまえと言わんばかりに真っ赤な顔で俯きながら懸命にその言葉を口にしてくる。
「や、やっぱり経験がないと不安だし、怖いんですよ!シュバルツ様も初めてロイドに抱かれる時にそう思いませんでしたか?何かその……準備なりなんなりしておいた方がいいんでしょうか?!ほ、本で知識を蓄えておくとかっ…!」
そうやって紡がれていく言葉を聞きながら、ああなるほどなとやっと合点がいった。
どうやら初夜に向けてシリィは随分尻込みしているようで、これがずっと言いよどんでいた悩みだったのだと確信する。
ずっと誰かに聞いてみたかったのだろう。
ここには女性の親しい相手もいないし、相談相手と言えば自分かロイドくらいだ。
精々がクレイやロックウェル達に連絡を取ることくらいしかできないし、さすがに百戦錬磨な元上司や黒魔道士達にそんな相談をするのは無理だと判断し、結果的に自分の所に来たのだろうと察せられた。
けれど…シリィは大きな勘違いをしている。
「シリィ…勘違いする気持ちもわかるが、私はロイドを抱く側だぞ?」
そう────それが問題だ。
だから素直にそう言ったのだが、それを言われたシリィはあまりにも意外だったのかその場で固まってしまった。
「…………え?」
たっぷり時間を掛けて驚いた後、物凄く意外そうな声でそう口にする。
けれど嘘を言っても仕方がないので正直にそのままを伝えてやった。
「だから、私が抱く側で、ロイドが抱かれる側だ」
「ええぇええっ?!」
やっと頭が回ったのか、物凄く驚いたような声で慄かれてしまう。
「そ、そんなっ!信じられないですよ!一回だけとかじゃなくてですか?!」
物凄いことを口にされたが、きっとそれくらい信じられなかったのだろうとそこはスルーすることにした。
「いや、本当だ。だから初体験の心境を聞くならロイドに……」
「嫌ですよ!だって聞くまでもなく、面白がって抱かれたとか興味があったから抱かれたとか言いそうですし!絶対緊張とかしなさそうだし!なんだったらどっちも試そうかとか笑いながら言ってそうじゃないですか!」
そんな言葉に当たらずも遠からずだと思わず笑ってしまう。
確かにロイドは初めての時は未経験にもかかわらず自信満々だった。
相談したとしても今のシリィの心境なんて全く分かってくれないだろう。
参考にしようとしてもできるものではない。
かと言って自分がアドバイスできるかと問われても、できそうにないのは確かだ。
「うぅ……」
けれどそうやって万策尽きたとばかりにガックリ落ち込むシリィを放っておくこともできなくて…。
「……シリィ。あまり気が進まないがフローリアと連絡を取ってやろうか?」
「え?」
同じ女という観点から何かしらのアドバイスくらいはしてもらえるのではないかと、一応提案してみる。
「まあ正直性格の悪い女だからシリィが求めるようなアドバイスが貰えるとは限らないが…少しくらいは足しになるんじゃないかと思って…」
別に嫌ならいいがと口にしてみると、意外にもシリィはその話に飛びついてきた。
「是非!是非お願いします!」
どうやらお茶会にくる女性達に比べたら絶対にマシなはずという非常に後ろ向きな視点からその結論に至ったらしい。
なんだか可哀想すぎる。
一体どれだけ性格の悪い女達とお茶を飲む羽目になっているのだろうか……。
(一度くらい同席してやった方がいいんだろうか……)
思わずそんな風に思うくらいには心配になってしまった。
そしてすぐさまフローリアの所へと魔法でコンタクトをとってみると、あちらはあちらで驚いたようにしながらも好意的に話を聞いてくれた。
ソレーユに来る前に一度話をして和解したのだが、そのお蔭もあったのかどうやら少しは性格が丸くなったらしい。
「シュバルツ!久しぶりね」
「ああ。突然悪いな。今日はフローリアにシリィの相談に乗ってほしくてな」
そう言ってシリィを促してやると、シリィは丁寧に挨拶をしてからいきなりこんなことを相談して申し訳ないと恥ずかしそうに口火を切った。
それをフローリアは一通り聞き終えると、思っていたような辛辣なことは口にせず、極真面目に答えを口にしてくれる。
「お気持ちはわかりますが、そこは男性に花を持たせるくらいの心意気で挑めばよいのですわ」
「…え?」
「こちらが失敗したらどうしようと悩むよりも、こちらは何も知らないのだから失敗も成功も相手次第。そう考えた方がリラックスできて良いのです」
「…………」
「私の初めてはそこのシュバルツが相手でしたが…それなりに上手くやってくれましたわよ?」
そう言ってにっこりと微笑むフローリアはどことなく以前とは違って、穏やかな表情を浮かべていた。
「ああ…そう言えばあの時が初めてだったのか」
「ええ。シュバルツは経験者でしたし、口は悪くても無体を強いるタイプでもありませんでしたし」
フフッと笑うフローリアに思わずこちらも懐かしくなって笑ってしまう。
自分達の交わりは確かに幼稚なものではあったが、当時はそれが全てで、それなりに真剣だった。
そんな言葉にシリィは何やら考え込んでしまったので、そのまま暫しフローリアと久方ぶりの会話を交わす。
「シュバルツ…そちらでの生活はどう?あの黒魔道士にいじめられていないかしら?」
「ああ。最初は戸惑うこともあったがだいぶ落ち着いたな」
「そう。今度ライアード王子の結婚式に参列するために兄様とそちらに行くことになったのよ。だからその時にまたゆっくりと話せたら嬉しいわ」
「そうか。結婚式にはクレイ達も来る予定だから、機嫌を損ねないよう気をつけろよ?」
「わかっているわ」
そうして話していると、不意にクイッと袖を引かれてしまう。
「?」
振り返ると何故かシリィの不安そうな眼差しとぶつかった。
やはりクレイ達と確執のあったフローリアと仲良く話すのはまずかっただろうか?
そう思っていると、今度は脇からグイッと身体を引き寄せられた。
「随分楽しいことをしているな?シュバルツ」
「ロイド!」
まさかここでロイドが来るとは思いもしなかった。
扉が開いた音がしなかったから、もしかしたら影を渡ってきたのかもしれない。
もしや魔法開発に行くと言っていたのに姿を見せなかったから、わざわざ呼びに来てくれたのだろうか?
もしそうだったら嬉しいなと思い笑顔でそっと目を遣ると、どこか楽しげに微笑まれた。
(やっぱりカッコいい……)
こういう表情も大好きすぎてたまらない。
思わず見惚れていると、その表情を見たのだろう。フローリアの口調が一気に変わった。
「シュバルツ…。そんな男に骨抜きにされて…。そんなに男に抱かれるのがいいってこと?」
どうやらその言葉からフローリアの方にまで誤解されているらしいことが察せられる。
(まあそうだよな)
普通に考えてそのほうがしっくりくるのだろう。
もう訂正するのさえ面倒くさいと思っていると、突然ロイドが笑い出した。
「ははっ…!本当にお前の従妹は面白いな。はっきり言ってやればいいのに。お前を抱くより私を抱く方がずっと気持ちいいと…」
そう言いながらロイドがまるでフローリアに見せつけるかのように自分へと腕を回し、誘うような眼差しで妖しく自分を見つめてきた。
はっきり言ってロイドがこんな風に自分に絡んでくるのは珍しくて…なんだかドキドキしてしまう。
これまでこのポジションはクレイだったのに…本当にいいのだろうか?
と言うか、こんな風にロイドに誘われて全くその気にならなかったクレイの気がしれない。
自分なら即落ちてしまう。
現に頬は染まってしまうし、下半身は熱くなってしまうし、正直今すぐ寝室に連れ込みたい気持ちでいっぱいだ。
そんな自分にロイドがそっと耳打ちをしてくる。
「ほら、好きなだけ私に甘えてあの女にお前なんてもう眼中にないと言ってやれ」
どうやら以前フローリアに言われて失くしていた自信を取り戻すチャンスだと言うことらしいのだが…それよりも何よりもロイドが自分の為を想ってこんな風に行動してくれたその気持ちの方が嬉しくてたまらなかった。
こんな風に優しくされたら、もう本当にどうしてやろうかと胸がいっぱいになってしまう。
「はぁ…ロイド。こんなに私を夢中にさせるなんて狡い。今すぐ襲いたい気分でいっぱいだ」
だからついロイドを見ながら熱い眼差しでうっとりとそんなセリフを口にしてしまったのは仕方がないと思う。
それなのに何故かそんな自分を見てフローリアはふるふると震え、シリィに至っては涙目で叫びをあげた。
「わ、私のシュバルツ様がロイドに毒された────!!」
………酷い言われようだがどうしたらそんな風に言われるのかさっぱりわからない。
自分達は恋人同士なのだから別におかしくもなんともないと思うのだが……。
けれどロイドはそんな二人に艶やかに笑いながら実に楽しげに告げるのだ。
「ふん。シュバルツは私のペットだからな。私が躾ければこれくらいの色香、当然のことだ」
面白がりつつ自信満々で言い放ったロイドには悪いが、一体いつ自分が色香を出したというのか。
自分に色香がないのはクレイやロックウェルまで認めていると言うのに。
そんなことよりも……。
「心外だな。私はただロイドが好きなだけなのに……」
そこはペットではなく恋人と言ってほしかったと少し拗ねたようにキスを強請ると、ロイドはそのまま拒否することなくチュッと軽く口づけを与えてくれた。
「シュバルツ。後で魔力交流をしてやるから少し待っていろ。先にシリィをライアード様の所に連れて行きたいからな」
「ん…待ってる」
素直に頷くと今度は後ろでフローリアが叫びをあげた。
「シュバルツ!シリィ様の言う通り、そこの黒魔道士にかなり毒されてますわ!悪いことは言わないから一度国に帰ってきなさい!」
二人揃って酷い言いようだ。
「フローリア。折角ロイドを手に入れたのにそう簡単に国に帰るはずがないだろう?ロイドは凄く可愛いんだぞ?もっともっとこれから色んなロイドを知っていきたいんだから邪魔をするな」
そう言ってロイドに抱きつきながら睨んでやると、『目が腐ってる』とまた叫ばれてしまう。
「その不遜な男のどこが可愛いと言うの?!私より可愛いなんてありえませんわ!」
「ロイドはフローリアよりずっと可愛いし、おまけに文句のつけようがないほどカッコいいし、凄く魅力的なんだ。見る目のないお前なんかに言われたくはない」
あまりにも腹立たしかったので冷たくそう言い放ったのだが、どうやら理解は得られなかったようでその場で倒れられてしまった。
そんな姿にロイドが声を上げて笑った。
「傑作だな!」
「ロイド……」
「可愛いと言われるのは心外だが、実に面白い余興だった」
そう言ってさっさと幻影魔法を解除してしまう。
「お前にしては良くやったな」
頤を持ち上げニッと楽しげに笑ってくるロイドは本当に自分を魅了してやまない。
「ロイド…今すぐお前を啼かせたい」
カッコいいロイドを今すぐ可愛く啼かせてみたいという欲求に襲われてしまう。
「ふ…言うようになったな。悪くはない誘いだが、私はまだ仕事があるからな。魔法開発もしたいし、夜まで待て」
「わかった」
そう言われてしまっては仕方がない。
大人しく引き下がらずを得ないだろう。
そんな自分に満足げに微笑むと、ロイドはそのまま放心状態のシリィを連れて主の元へと行ってしまった。
***
「ロイド!離して!」
シリィは回廊を引っ張って行かれながら途中でハッと我に返りロイドへと叫んだが、ロイドは冷たい目で前を見遣るだけで手を離してはくれない。
正直このままライアードの元へと連れていかれるのは御免だった。
「今日は午後からお茶会なのよ!」
けれどロイドはそんなことは百も承知だと言ってくる。
「ライアード様だってお仕事でしょう?!」
仕事の邪魔になってしまうのも嫌だし、できれば一度部屋へと帰りたかった。
何故か先程のロイドとシュバルツのやり取りが胸の中でモヤモヤと渦巻いているのだ。
原因はわからないが、お茶会までになんとか気持ちを落ち着かせたい。
それなのにロイドはつれなく言葉を紡ぐばかり。
「さっさとライアード様のところに行って抱かれてこい。婚約している癖に人の物に手を出すな」
「え?」
「シュバルツは私の物だろう?お前の物じゃない」
どうやら先程言ってしまった『自分の』と言う叫びが気に入らなかったらしい。
「あ、あんなの言葉のあやよ!シュバルツ様は口は少し悪いけど優しい方だし、不器用だからロイドに毒されるのを見ていられなかっただけで…」
「ふん。あれはお子様なだけであって、お前が思うような奴じゃない。本質はきっと腹黒だ。これから好きに育てるんだから邪魔をするな」
「なっ…!」
相変わらずの酷い言いようにさすがにカチンときてしまったのだが、そこをやってきたライアードに包み込まれ言葉を止められてしまった。
「シリィ。私の可愛い魔道士をあまり虐めないでやってくれないか?」
「ラ、ライアード様?」
「ロイドはこう見えてシュバルツ殿の事はかなり気に入っているようだからな」
そんな言葉に思わず目を瞠る。
ロイドがシュバルツをペット扱いしていると気付いていないのだろうか?
「ライアード様!ロイドはシュバルツ様を軽く扱いすぎです!あれじゃあシュバルツ様が可哀想です」
「ふん。シュバルツはどう見ても喜んでいただろう?勝手に可哀想だと決めつけるな」
興醒めだと言わんばかりにそう言った後、ロイドが居住まいを正してライアードへとスッと頭を下げる。
「ライアード様。シリィは確かに引き渡しましたので私はこれで下がらせていただきます。暫く魔法開発の方に集中しておりますので、何かありましたら眷属までお願いいたします」
「ああ。わかっている」
あまりの変わり身の早さに唖然としていると、ロイドはまた不遜な態度でこちらを見遣り、そのまま背を向け去って行ってしまった。
後に残されたのはライアードと自分だけ────。
「さあシリィ。休憩がてら少し話でもするとしようか」
そしてそんな風に笑顔で促されて、逃げるに逃げられずただただ曖昧な笑みを浮かべるしかなかったのだった。
────────────────
「あっ…こんなッ…!」
腕の中で女が頬を染め上げ快楽に沈む。
「今後一切ライアード様に付きまとうのはやめてくれるな?」
「うっ…はぁんッ!」
「返事は?」
「あっあっ…ロイドッ!お願い!もっとしてッ!」
「ふっ…聞き届けてもらえないならできない相談だ」
「あぁん!付きまとわない!付きまとわないからぁッ!」
「シリィにも手は出さないと…約束してもらいたい」
「んぁあっ!する!するわッ!だから早くぅ…!」
焦らされ翻弄された女が腕の中で身悶えるのを見ながら思い切り突き上げてやる。
「はぁあああんッ!」
「約束は約束だ」
そうして一通り満足させてやると、自分に付きまとわないようにだけ記憶操作をしそのまま身を離す。
「あ…あぁ…」
ヒクヒクと身を震わせながらその場にへたり込む女に背を向けて、あっさりとその部屋を後にした。
正直確約さえ取れれば後はもうどうでもいい。
(シュバルツと寝たいな……)
どうでもいい女を抱くのは仕事だからいいとしても、このまとわりついた女の匂いがやけに不快に感じられた。
これまで気にしたこともなかったが、何となくシュバルツの清潔感溢れる香りのほうが好ましく思えて…今日はこのまま帰ろうと思った。
もしかしたら女の匂いをプンプンさせている方が思い通りに事が運んで、すんなり抱いてもらえるかもしれない。
欲求不満と言うわけでもないが、何となくそんな気分になった…ただそれだけだったのだが────。
その日の夜は思惑通りシュバルツと事に及べたと言うのに、予想外に乱れる羽目になったから腹が立って仕方がなかった。
まさかあの体位にあれほど感じてしまうとは思いもよらなかったのだ。
(~~~~~っ!!シュバルツの癖に!)
思い出すだけで羞恥に身が染まる。
自分の制止の言葉など聞かないとばかりに好きなだけ突き上げ乱してきたシュバルツ。
けれどその声はずっと優しくて、乱れた自分を見ても好きだと何度も繰り返していた。
身体に与えられる快楽と囁かれる優しさのギャップに翻弄されて、最後まで自分を保つことができなかった自分が憎い。
あんな風にされたら思わず少しくらいは弱みを見せてもいいかもしれないと思ってしまうではないか。
(くそっ!あんなのはまやかしだ!単に気持ちいい体位に嵌っただけだ!)
溺れさせられたのをどうしても認めたくなくて、シュバルツの前では平静を保ちつつも心の中で悪態を吐く。
(やっぱり許せん!)
そうやって怒りながら歩き、主人の元に行くまでに頭を冷やそうと思っていると、ちょうど前からシリィがやってくるのが見えた。
「ロイド。今から仕事?」
「ああ。シリィはお茶会か?」
「違うわ。今日のお茶会は午後からなの。その前にシュバルツ様にいくつかブレンドティーをもらおうかと思って」
「ああ、あれか。確かにこの間飲んだものは美味かったな」
先日飲んだのはペパーミントが効いているのか実にすっきりした味わいで、朝に飲むのにもってこいのお茶だった。
他にもいくつかブレンドしたものがあるらしく、シュバルツは気分で飲み分けているらしい。
恐らくシリィはそれを分けてもらうつもりでいるのだろう。
「お茶会のお茶はやっぱりあんまり好きになれないし、その前にゆっくりしておこうと思って」
「なるほどな。まあないとは思うが、浮気だけはするな」
「わかってるわよ!」
どこか茶化すように言って笑ってやると、シリィは話は終わりだとばかりにそのままシュバルツの元へと行ってしまった。
きっとついでにライアードとの件についても相談するつもりなのだろう。
二人はまだ一線を越えてはいないが、正直さっさと寝たらいいのにと思ってしまう。
ライアードが気を遣うのは非常によくわかるのだが、シリィの方の気持ちがさっぱりわからない。
もう結婚が決まっていると言うのに何をそんなに頑なになっているのか……。
(白魔道士はさっぱりわからんな…)
そうやって呆れたようにため息を吐きながら、先程までよりも幾分落ち着いた頭で主の元へと急いだ。
***
その日、シュバルツは先に部屋を出たロイドを追い掛けようと自分も一度部屋を出たのだが、開発の合間に飲むこともあるかと思い直しハーブティーを取りに戻った。
そのタイミングでコンコンと軽いノックの音に続いてひょこりとシリィが顔を出したので、思わず笑みを浮かべてしまう。
「おはよう、シリィ。今日はどうしたんだ?」
そう言いながらソファを勧めてやると、いつもの様に申し訳なさそうに口を開いた。
「おはようございます。ごめんなさい。こんなに朝早くに……」
シリィは先日から何度かこうして自分の所へやってきては何か聞きたそうにするのだが、今の所詳細は不明だ。
何か悩んでいると言うことだけはわかるのだが、無理やり聞き出すべきではない話なんだろうと思い自主的に話してくれるのを待っている状況だった。
「今朝はカモミールにしてみた。口に合うといいんだが」
そう言ってカップを差し出すとシリィは素直にそれを受け取りそっと口をつけた。
「美味しい……」
「良かった」
それから何となくハーブティーの話で盛り上がり、その後は珍しく自分達の話になった。
「シュバルツ様……」
「ん?」
「その……ロイドと何かありました?」
不意に振られたその言葉に思わず首を傾げてしまうが、シリィは何となく聞き難そうに先を続ける。
「なんだか今日はいつもと感じが違うので……」
そう言われても自分ではよくわからないので、どういうところがそう感じるのか尋ねてみたのだが…。
「何と言うか…こう…落ち着きましたよね」
「……?」
どうやらシリィ曰く、これまでの必死さや焦りが見られなくなり、雰囲気が柔らかくなったらしい。
「どことなく色香も出て艶っぽくなりましたし…。上手くいっていて羨ましいです」
そうやってポツリと呟かれて、シリィの悩みがライアードとのことだと言う確信を得ることができた。
「ライアード殿と何かあったのか?」
だからそうやって促してやったのだが、シリィは黙したまま語らない。
やはり今日もこれ以上聞き出すことはできないのだろうか?
そう思っていたところで、徐にその言葉が耳へと飛び込んできた。
「あのっ!初めての時ってやっぱり怖かったですか?!」
思い切って聞いてみたと言わんばかりに突然真っ赤な顔で紡がれた言葉に思わず思考が停止してしまう。
────一体今、自分は何を言われたのだろうか?
けれどシリィはこちらの様子には気づかず、勢いで聞いてしまえと言わんばかりに真っ赤な顔で俯きながら懸命にその言葉を口にしてくる。
「や、やっぱり経験がないと不安だし、怖いんですよ!シュバルツ様も初めてロイドに抱かれる時にそう思いませんでしたか?何かその……準備なりなんなりしておいた方がいいんでしょうか?!ほ、本で知識を蓄えておくとかっ…!」
そうやって紡がれていく言葉を聞きながら、ああなるほどなとやっと合点がいった。
どうやら初夜に向けてシリィは随分尻込みしているようで、これがずっと言いよどんでいた悩みだったのだと確信する。
ずっと誰かに聞いてみたかったのだろう。
ここには女性の親しい相手もいないし、相談相手と言えば自分かロイドくらいだ。
精々がクレイやロックウェル達に連絡を取ることくらいしかできないし、さすがに百戦錬磨な元上司や黒魔道士達にそんな相談をするのは無理だと判断し、結果的に自分の所に来たのだろうと察せられた。
けれど…シリィは大きな勘違いをしている。
「シリィ…勘違いする気持ちもわかるが、私はロイドを抱く側だぞ?」
そう────それが問題だ。
だから素直にそう言ったのだが、それを言われたシリィはあまりにも意外だったのかその場で固まってしまった。
「…………え?」
たっぷり時間を掛けて驚いた後、物凄く意外そうな声でそう口にする。
けれど嘘を言っても仕方がないので正直にそのままを伝えてやった。
「だから、私が抱く側で、ロイドが抱かれる側だ」
「ええぇええっ?!」
やっと頭が回ったのか、物凄く驚いたような声で慄かれてしまう。
「そ、そんなっ!信じられないですよ!一回だけとかじゃなくてですか?!」
物凄いことを口にされたが、きっとそれくらい信じられなかったのだろうとそこはスルーすることにした。
「いや、本当だ。だから初体験の心境を聞くならロイドに……」
「嫌ですよ!だって聞くまでもなく、面白がって抱かれたとか興味があったから抱かれたとか言いそうですし!絶対緊張とかしなさそうだし!なんだったらどっちも試そうかとか笑いながら言ってそうじゃないですか!」
そんな言葉に当たらずも遠からずだと思わず笑ってしまう。
確かにロイドは初めての時は未経験にもかかわらず自信満々だった。
相談したとしても今のシリィの心境なんて全く分かってくれないだろう。
参考にしようとしてもできるものではない。
かと言って自分がアドバイスできるかと問われても、できそうにないのは確かだ。
「うぅ……」
けれどそうやって万策尽きたとばかりにガックリ落ち込むシリィを放っておくこともできなくて…。
「……シリィ。あまり気が進まないがフローリアと連絡を取ってやろうか?」
「え?」
同じ女という観点から何かしらのアドバイスくらいはしてもらえるのではないかと、一応提案してみる。
「まあ正直性格の悪い女だからシリィが求めるようなアドバイスが貰えるとは限らないが…少しくらいは足しになるんじゃないかと思って…」
別に嫌ならいいがと口にしてみると、意外にもシリィはその話に飛びついてきた。
「是非!是非お願いします!」
どうやらお茶会にくる女性達に比べたら絶対にマシなはずという非常に後ろ向きな視点からその結論に至ったらしい。
なんだか可哀想すぎる。
一体どれだけ性格の悪い女達とお茶を飲む羽目になっているのだろうか……。
(一度くらい同席してやった方がいいんだろうか……)
思わずそんな風に思うくらいには心配になってしまった。
そしてすぐさまフローリアの所へと魔法でコンタクトをとってみると、あちらはあちらで驚いたようにしながらも好意的に話を聞いてくれた。
ソレーユに来る前に一度話をして和解したのだが、そのお蔭もあったのかどうやら少しは性格が丸くなったらしい。
「シュバルツ!久しぶりね」
「ああ。突然悪いな。今日はフローリアにシリィの相談に乗ってほしくてな」
そう言ってシリィを促してやると、シリィは丁寧に挨拶をしてからいきなりこんなことを相談して申し訳ないと恥ずかしそうに口火を切った。
それをフローリアは一通り聞き終えると、思っていたような辛辣なことは口にせず、極真面目に答えを口にしてくれる。
「お気持ちはわかりますが、そこは男性に花を持たせるくらいの心意気で挑めばよいのですわ」
「…え?」
「こちらが失敗したらどうしようと悩むよりも、こちらは何も知らないのだから失敗も成功も相手次第。そう考えた方がリラックスできて良いのです」
「…………」
「私の初めてはそこのシュバルツが相手でしたが…それなりに上手くやってくれましたわよ?」
そう言ってにっこりと微笑むフローリアはどことなく以前とは違って、穏やかな表情を浮かべていた。
「ああ…そう言えばあの時が初めてだったのか」
「ええ。シュバルツは経験者でしたし、口は悪くても無体を強いるタイプでもありませんでしたし」
フフッと笑うフローリアに思わずこちらも懐かしくなって笑ってしまう。
自分達の交わりは確かに幼稚なものではあったが、当時はそれが全てで、それなりに真剣だった。
そんな言葉にシリィは何やら考え込んでしまったので、そのまま暫しフローリアと久方ぶりの会話を交わす。
「シュバルツ…そちらでの生活はどう?あの黒魔道士にいじめられていないかしら?」
「ああ。最初は戸惑うこともあったがだいぶ落ち着いたな」
「そう。今度ライアード王子の結婚式に参列するために兄様とそちらに行くことになったのよ。だからその時にまたゆっくりと話せたら嬉しいわ」
「そうか。結婚式にはクレイ達も来る予定だから、機嫌を損ねないよう気をつけろよ?」
「わかっているわ」
そうして話していると、不意にクイッと袖を引かれてしまう。
「?」
振り返ると何故かシリィの不安そうな眼差しとぶつかった。
やはりクレイ達と確執のあったフローリアと仲良く話すのはまずかっただろうか?
そう思っていると、今度は脇からグイッと身体を引き寄せられた。
「随分楽しいことをしているな?シュバルツ」
「ロイド!」
まさかここでロイドが来るとは思いもしなかった。
扉が開いた音がしなかったから、もしかしたら影を渡ってきたのかもしれない。
もしや魔法開発に行くと言っていたのに姿を見せなかったから、わざわざ呼びに来てくれたのだろうか?
もしそうだったら嬉しいなと思い笑顔でそっと目を遣ると、どこか楽しげに微笑まれた。
(やっぱりカッコいい……)
こういう表情も大好きすぎてたまらない。
思わず見惚れていると、その表情を見たのだろう。フローリアの口調が一気に変わった。
「シュバルツ…。そんな男に骨抜きにされて…。そんなに男に抱かれるのがいいってこと?」
どうやらその言葉からフローリアの方にまで誤解されているらしいことが察せられる。
(まあそうだよな)
普通に考えてそのほうがしっくりくるのだろう。
もう訂正するのさえ面倒くさいと思っていると、突然ロイドが笑い出した。
「ははっ…!本当にお前の従妹は面白いな。はっきり言ってやればいいのに。お前を抱くより私を抱く方がずっと気持ちいいと…」
そう言いながらロイドがまるでフローリアに見せつけるかのように自分へと腕を回し、誘うような眼差しで妖しく自分を見つめてきた。
はっきり言ってロイドがこんな風に自分に絡んでくるのは珍しくて…なんだかドキドキしてしまう。
これまでこのポジションはクレイだったのに…本当にいいのだろうか?
と言うか、こんな風にロイドに誘われて全くその気にならなかったクレイの気がしれない。
自分なら即落ちてしまう。
現に頬は染まってしまうし、下半身は熱くなってしまうし、正直今すぐ寝室に連れ込みたい気持ちでいっぱいだ。
そんな自分にロイドがそっと耳打ちをしてくる。
「ほら、好きなだけ私に甘えてあの女にお前なんてもう眼中にないと言ってやれ」
どうやら以前フローリアに言われて失くしていた自信を取り戻すチャンスだと言うことらしいのだが…それよりも何よりもロイドが自分の為を想ってこんな風に行動してくれたその気持ちの方が嬉しくてたまらなかった。
こんな風に優しくされたら、もう本当にどうしてやろうかと胸がいっぱいになってしまう。
「はぁ…ロイド。こんなに私を夢中にさせるなんて狡い。今すぐ襲いたい気分でいっぱいだ」
だからついロイドを見ながら熱い眼差しでうっとりとそんなセリフを口にしてしまったのは仕方がないと思う。
それなのに何故かそんな自分を見てフローリアはふるふると震え、シリィに至っては涙目で叫びをあげた。
「わ、私のシュバルツ様がロイドに毒された────!!」
………酷い言われようだがどうしたらそんな風に言われるのかさっぱりわからない。
自分達は恋人同士なのだから別におかしくもなんともないと思うのだが……。
けれどロイドはそんな二人に艶やかに笑いながら実に楽しげに告げるのだ。
「ふん。シュバルツは私のペットだからな。私が躾ければこれくらいの色香、当然のことだ」
面白がりつつ自信満々で言い放ったロイドには悪いが、一体いつ自分が色香を出したというのか。
自分に色香がないのはクレイやロックウェルまで認めていると言うのに。
そんなことよりも……。
「心外だな。私はただロイドが好きなだけなのに……」
そこはペットではなく恋人と言ってほしかったと少し拗ねたようにキスを強請ると、ロイドはそのまま拒否することなくチュッと軽く口づけを与えてくれた。
「シュバルツ。後で魔力交流をしてやるから少し待っていろ。先にシリィをライアード様の所に連れて行きたいからな」
「ん…待ってる」
素直に頷くと今度は後ろでフローリアが叫びをあげた。
「シュバルツ!シリィ様の言う通り、そこの黒魔道士にかなり毒されてますわ!悪いことは言わないから一度国に帰ってきなさい!」
二人揃って酷い言いようだ。
「フローリア。折角ロイドを手に入れたのにそう簡単に国に帰るはずがないだろう?ロイドは凄く可愛いんだぞ?もっともっとこれから色んなロイドを知っていきたいんだから邪魔をするな」
そう言ってロイドに抱きつきながら睨んでやると、『目が腐ってる』とまた叫ばれてしまう。
「その不遜な男のどこが可愛いと言うの?!私より可愛いなんてありえませんわ!」
「ロイドはフローリアよりずっと可愛いし、おまけに文句のつけようがないほどカッコいいし、凄く魅力的なんだ。見る目のないお前なんかに言われたくはない」
あまりにも腹立たしかったので冷たくそう言い放ったのだが、どうやら理解は得られなかったようでその場で倒れられてしまった。
そんな姿にロイドが声を上げて笑った。
「傑作だな!」
「ロイド……」
「可愛いと言われるのは心外だが、実に面白い余興だった」
そう言ってさっさと幻影魔法を解除してしまう。
「お前にしては良くやったな」
頤を持ち上げニッと楽しげに笑ってくるロイドは本当に自分を魅了してやまない。
「ロイド…今すぐお前を啼かせたい」
カッコいいロイドを今すぐ可愛く啼かせてみたいという欲求に襲われてしまう。
「ふ…言うようになったな。悪くはない誘いだが、私はまだ仕事があるからな。魔法開発もしたいし、夜まで待て」
「わかった」
そう言われてしまっては仕方がない。
大人しく引き下がらずを得ないだろう。
そんな自分に満足げに微笑むと、ロイドはそのまま放心状態のシリィを連れて主の元へと行ってしまった。
***
「ロイド!離して!」
シリィは回廊を引っ張って行かれながら途中でハッと我に返りロイドへと叫んだが、ロイドは冷たい目で前を見遣るだけで手を離してはくれない。
正直このままライアードの元へと連れていかれるのは御免だった。
「今日は午後からお茶会なのよ!」
けれどロイドはそんなことは百も承知だと言ってくる。
「ライアード様だってお仕事でしょう?!」
仕事の邪魔になってしまうのも嫌だし、できれば一度部屋へと帰りたかった。
何故か先程のロイドとシュバルツのやり取りが胸の中でモヤモヤと渦巻いているのだ。
原因はわからないが、お茶会までになんとか気持ちを落ち着かせたい。
それなのにロイドはつれなく言葉を紡ぐばかり。
「さっさとライアード様のところに行って抱かれてこい。婚約している癖に人の物に手を出すな」
「え?」
「シュバルツは私の物だろう?お前の物じゃない」
どうやら先程言ってしまった『自分の』と言う叫びが気に入らなかったらしい。
「あ、あんなの言葉のあやよ!シュバルツ様は口は少し悪いけど優しい方だし、不器用だからロイドに毒されるのを見ていられなかっただけで…」
「ふん。あれはお子様なだけであって、お前が思うような奴じゃない。本質はきっと腹黒だ。これから好きに育てるんだから邪魔をするな」
「なっ…!」
相変わらずの酷い言いようにさすがにカチンときてしまったのだが、そこをやってきたライアードに包み込まれ言葉を止められてしまった。
「シリィ。私の可愛い魔道士をあまり虐めないでやってくれないか?」
「ラ、ライアード様?」
「ロイドはこう見えてシュバルツ殿の事はかなり気に入っているようだからな」
そんな言葉に思わず目を瞠る。
ロイドがシュバルツをペット扱いしていると気付いていないのだろうか?
「ライアード様!ロイドはシュバルツ様を軽く扱いすぎです!あれじゃあシュバルツ様が可哀想です」
「ふん。シュバルツはどう見ても喜んでいただろう?勝手に可哀想だと決めつけるな」
興醒めだと言わんばかりにそう言った後、ロイドが居住まいを正してライアードへとスッと頭を下げる。
「ライアード様。シリィは確かに引き渡しましたので私はこれで下がらせていただきます。暫く魔法開発の方に集中しておりますので、何かありましたら眷属までお願いいたします」
「ああ。わかっている」
あまりの変わり身の早さに唖然としていると、ロイドはまた不遜な態度でこちらを見遣り、そのまま背を向け去って行ってしまった。
後に残されたのはライアードと自分だけ────。
「さあシリィ。休憩がてら少し話でもするとしようか」
そしてそんな風に笑顔で促されて、逃げるに逃げられずただただ曖昧な笑みを浮かべるしかなかったのだった。
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