黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

107.※内憂外患

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「頭が痛い…」

ロイドは朝起きてすぐにそこがクレイの家のソファであることに気が付いた。
どうやら昨日はクレイとロックウェルの仲を見せつけられている内についつい飲みすぎてしまったらしい。

(私らしくもないな…)

そう思いながら身を起こそうとしたらちょうどそこへクレイが起きてきた。
「ロイド。大丈夫か?」
「…クレイ。すまなかったな。お前が運んでくれたのか?」
「いや。ショーンがここまで運んでくれたんだ。昨日は疲れているのに強い酒を勧めて悪かったな」
そう言いながらそっと水を差し出してくれる。

「いや…」

酔いつぶれたのは自分のせいだからと言ってやると、思いがけず好意的な言葉が返ってきた。
「昨日は調査で魔力も随分消費していたんだろう?必要ならいくらでも交流してやるから言ってくれ」
「いいのか?」
つい先日ロックウェルから注意されていたはずだが、クレイの中ではそれとこれとは別問題だと言わんばかりだ。
「別に構わないぞ?今回のトルテッティの件に巻き込んだのは俺だしな」
「…そう言うことなら喜んで」
こういうところが隙だらけでロックウェルをやきもきさせるのだとわかっていないクレイが可愛らしい。


あっさりと封印を解いてくれたクレイがその綺麗な紫の瞳で自分を見つめてくれる。
何度見ても吸い込まれそうな程美しいその輝きに見惚れている内にそっと唇が重なった。
流れ込んでくるのは甘くて濃厚な魔力。
何度味わっても自分を何よりも酔わせてくれる魅惑のもの────。

「んっんっ…」

夢中になって味わっていると優しく舌を嬲られて益々たまらない気持ちになってくる。
できればこのままずっと味わっていたい。
クレイに溺れていたい。
そう思って首に腕を回したところで、いつもこの男はわかっているとばかりに一気に魔力を増して自分を満足させてしまうのだ。

「はっ…ぁッ」

気持ち良すぎて荒く息を吐くとクレイはこれでおしまいだとばかりにあっという間に離れてしまいそうになるから、名残惜しくてつい抱きついてしまう。
欲を言えばもっともっと自分と交流してほしい。
一気に満足させる前にもっとクレイを堪能させてほしい。
けれどそれを言うとクレイはそんな必要はないとつれなく言ってくるだろう。
何故ならクレイは自分をただの魔力交流相手兼友人としか見ていないのだから…。
一方通行のこの想いはぶつけすぎるとすぐにこの関係を破綻させてしまう。
けれどもどかしいほどにクレイを求めてしまう自分を止めることができない。

「クレイ…」
「ロイド。大丈夫か?」
「うっ…欲求不満過ぎて辛い…」
そんな風についこぼれ落ちた本音に一瞬虚を突かれたように目を見開いた後、クレイは楽しげに笑いだした。

「ははっ…!俺と同じだな」

それはどういう意味だろうと首を傾げていると、実は自分も酒が入った翌日はそうなりやすいんだとクレイは笑って言ってくる。
「ヒュースが俺におかしな酔い方をするなと言ってきたが、俺だけじゃないんだとわかってよかった」
そう言う訳ではなかったのだが、どうやらクレイ的には共感できる話だったらしい。

(そう言うことならいつかクレイを酒に酔わせてみたいな…)

酔わせたら翌朝欲求不満でやりたくなると言うのなら、ソレーユで飲む機会があれば是非ともそれを利用して口説いてみたいものだ。
もしかしたらそこにクレイを落とすチャンスがあるかもしれない。

(以前酔いつぶれた時に試せばよかったな…)

知らなかったとは言え勿体無いことをしてしまった。
「まあお前と寝てやるわけにはいかないが、花街風に手で抜いてやることはできるから必要なら言ってくれ」
そんな風にクレイをどう酔わすか考えているところでクレイがポロリとそんなことを言いだしたので、一瞬自分の耳を疑ってしまった。

(聞き間違い…か?)

けれどクレイの眷属がクレイを嗜めている姿に聞き間違いなどではなかったのだと確信してしまう。
【クレイ様!戯れにも程があります!!】
【そうですよ!またロックウェル様に叱られますよ?!】
【まだ酒精が残っておられるのでしたら早めにロックウェル様に仰って酔い冷ましをなさって下さい!】
「いや…今のはただの軽口だから……」
どうやらクレイは素面のようで少し酒が残っているようだと当りをつける。
これはもうひと押ししたらこの時点でも意外といけるのではないだろうか?

「…花街風と言うなら手より口がいい」
「…?男にされて嬉しいのか?」
「手淫と一緒だ。気持ち良ければありだろう?」

本当は相手がクレイだから嬉しいのだが、そこは敢えて口にはしない。

「ああ。そういうことなら口淫も得意だし、今度やってやろうか?」
【クレイ様!】
【ロイドを喜ばせてどうするんです?!】

眷属達がそうやって騒ぎ立てるのも無理はない。

(これはやはり昨日の酒の影響が大きいようだな…)

どうやら本人は気がついていなさそうだが、発言や考え方も多少大胆になるようだ。
それを踏まえた上でザッと昨日のクレイの酒量を頭で計算する。
これは自分にとっては思っても見ないチャンスだと思った。
口淫もお言葉に甘えてすぐにでもお願いしたいところだが、このままではまたロックウェルや眷属の邪魔が入るのは間違いないだろう。
ここで大人しくしているような者達ではない。
ここは一旦引いて、眷属達が邪魔をしにくくなるようなシチュエーションに持ち込むに限る。

「そうだな。じゃあ交流会の時にカードゲームでもやって、スリリングな罰ゲームに加えてみるというのはどうだ?」
「ああ、それは面白そうだな。それならロックウェルも怒らないだろう」

負けなければいいだけの話だし勝負事は好きだと言って笑ったクレイに、罠にかかったと密かにほくそ笑む。
これならどちらが罰ゲームに当たっても楽しめることだろう。
こっちがクレイのものを可愛がることだってできるのだから一石二鳥だ。
酒もその時さり気なく多めに勧めてやればいい。

「明日からの交流会が今から楽しみだ」

ロイドはこうして満足げに笑ったのだった。


***


その日の昼間、クレイはどうにも欲求不満でそっとロックウェルの部屋へとやってきていた。

(ロイドと魔力交流するとただでさえ欲求不満になりやすいのに、昨日の酒のせいで余計なんだよな…)

以前はファルに勧められるままグイグイ飲んで翌朝ムラムラしても仕事をしているうちに落ち着いたものなのだが、どうもロックウェルと恋人同士になってから変わってしまった気がする。
身体が勝手にあの快楽を思い出すのか、抱いて欲しくて仕方がなくなるのだ。

(これはさすがにちょっと問題だよな…)

これではロックウェルから淫乱だと言われてしまっても仕方がない。



そしてこっそりといつかの張り型を袋ごとベッドの下から引きずり出して、その一つを自ら手に取り確かめる。

「よし。これこれ」

これなら欲求不満も一人で解消できるとホッと安堵したところで後ろから急に抱きすくめられた。

「クレイ?こんなところで何をしている」
「ロ…ロックウェル?!」

そこに居たのは誰あろう自分の恋人で、一体いつの間に部屋に入ってきたのか全く気が付かなかった。

「私は気配を消すのが得意なんだ。それで?その手にしている物で一体何をするつもりだ?」

冷たい声でやんわりと聞いてくるロックウェルの声がゾワリと身を震わせてくる。

「こ…これはその…」

こんなところを見られては最早何の言い訳すらできそうにない。
自己処理しようとしてましたとしか言えないだろう。

「…言ってみろ」
「その…酒のせいで欲求不満で…」
「ああ。昨日優しく抱きすぎたせいで足りなかったんだな?」
「う…」

確かにその通りで、昨夜は一昨日と同じでロイドがすぐそこに居るし酒も入っているからと優しく抱いてもらった。
二日連続そんな感じだと少々物足りなかったのは事実だ。
けれどそんなことを口にできるわけがない。
それでも三度はしたのだから…。
本当は思いっきり激しく蹂躙してほしかったなど────そんな事を口にして変態認定でもされて嫌われてしまったら大変だ。

「そ…その…。ちゃんと自分で何とかするから、お前は仕事に戻ってく…ッ!」

言葉を途中で遮るようにロックウェルの唇が激しく重ねられてそのまま舌を吸い上げてくる。

「んっ…んんっ!」

チュクチュクと淫猥な音が口から漏れ始め、激しい口づけは思考を徐々に溶かしていく。

「はっ…はぁっ…」

そうこうしている内にあっという間に衣服は取り払われ、気づけばロックウェルの手が全身を這うように官能を引き出し始めていた。

「あぁっ!んふッ!」

口へ指を入れられ更に嬲るようにもう片方の手で弱いところを攻められ、自然に腰が揺らめいてしまう。

「んっんっ…」
「悪い奴だな。一人で勝手に楽しもうとしていたなんて…」
「やっ…違ッ、う…!」
「違わないだろう?それとも何か?これからロイドの所にでも行こうとでも?」

そんな言葉にふるふると頭を振って否定する。

「んぅ…。ロックウェル…」

思わず潤む瞳でロックウェルの方を見遣ると、そこには情欲に濡れた眼差しで自分を見つめる姿があり、ドクリと鼓動が跳ねた。

(そんな目で見つめてこないでくれ…)

熱く自分を見つめるその瞳に心囚われ目が離せなくなり、体の中心に熱が灯る。

「はぁ…ロックウェル…」

そうやって縋るような眼差しを向ける自分にロックウェルがクッと笑いながら意地悪く尋ねてくるが、そんな表情にまで見惚れてしまうどうしようもない自分がいた。

「どうしてほしいのか…ちゃんとその口から聞いてみたいものだな?」
「うぅ…ロックウェル…」
「クレイ、言ってみろ」
「…言えない」

そんな仕事に支障をきたすようなことを言えるわけがない。
誘惑を断ち切るように隙を見て影を渡って家に逃げ帰ってしまおうと心に決めてジリッと後ずさったのだが、ロックウェルはそんな自分を見逃さなかった。

「往生際が悪いな」

そしてあっという間にそのままベッドへと突き飛ばされ、上から抑えつけられてしまう。

「クレイ?私がいつまでもお前に優しくしてやると思ったら大間違いだぞ?」
「……」

ああ…このドS全開のどこまでも綺麗な冷たい笑みはどこまで自分を魅了するのだろう?
この表情がどこまでも好きすぎて仕方がない。
このまま蹂躙されたら幸せすぎてどこまでも溺れてしまいそうだ。
そう考えてしまったところで慌ててふるふるとまた頭を振った。

(ダメだ!)

このまま流されてしまったらまた夜に会う時間が減ってしまう。
ここは我慢のしどころだと思いきって声を上げてみた。

「ロックウェル!話せばわかる!取りあえず落ち着いてくれ!」
「私はこれ以上ないほど落ち着いているが?」
「…ッ!兎に角!俺の事はいいから仕事に戻ってくれ!」
「…心配しなくても今はちょうど昼食の時間だ」
「そ、それなら俺の事は放っておいて食事に…」
「目の前にこれ以上ないご馳走があるのに私に余所へ行けとでも?」
「え?あッ…!」

肉食獣のように鋭い眼差しで自分を見つめ、そっと肌に舌を這わせてきたロックウェルに、思わず甘い声が漏れ出てしまう。

「やっ…ロックウェル…」

このままでは我慢が出来なくなってしまうではないか。

「ほら…そうやって強情を張らずに黙って私に食べられてしまうといい」
「あぁっ!!そこは…ッ!」

両足を大きく開かされ、恥ずかしい恰好で蕾へと舌を這わされる。

「ひっ…!」

そんなことをされたらもう逃げるに逃げられない。

「ああっ!やぁっ!」
「嫌じゃないだろう?ほら…さっきからずっとここはやる気満々で立ち上がっているくせに…」
「ふぅう…!やっ…我慢できなくなるッ!」
「最初から素直に抱いて欲しいと言えばいいのに…」

そうやって楽しげに言ってくるロックウェルをつい恨みがましげに睨みつけてしまう。

「そんなの言えるわけがないだろう?!本当はお前にいっぱい蹂躙されたかったなんて…っ!」

そこまで言ってハッと口を噤むが後の祭りだ。
その言葉に目の前のロックウェルの表情に喜悦が混じる。

「…クレイ。そんなに私に虐められたくて仕方がなかったのか?」
「ち、違うんだ…。これはその…」
「それで?夜まで自慰で誤魔化して?仕事をサッサと終わらせて帰ってきてくれと?」
「あ…」

ズバリ言い当てられて思わず顔が熱くなってしまう。

「う…」
「お前は本当に可愛い奴だな。そう言うことなら大歓迎だ。今日はサッサと仕事を片付けて望み通り蹂躙してやる。だが…」

そんな言葉と共にロックウェルの指が蕾へと差し込まれ、緩々と動き始める。

「あぁんッ!」
「こんな美味しそうなお前を放置するわけにもいかないからな」

そう言って中も可愛がり始めた。

「やっ!」
「大丈夫だ。こんなおもちゃに頼らなくてもすぐに満足させてやる」

そう言う問題じゃないと思っていると、ゆっくりとロックウェルが身を沈めてきた。

「はっ…はぁあああっ!!」

絶対的な質量がゆっくりと身を貫き自分を満たしていく。

「やぁッ!気持ちいい…!」

自分の大好きなものがそこに入っているというだけで心まで満たされてしまう。

「ロックウェル…。ダメ…。幸せすぎてイっちゃう…」
「…はっ…お前は本当にいつまで経っても困った奴だな」

そんな言葉と同時に片足を持ち上げたロックウェルが、弱い体位で奥まで蹂躙し始めた。

「んあぁあああッ!」

自分が弱い場所を思い切り突き上げられて腰が自然と揺れて声が抑えられない。

「あっあぁんっ!はぁ…ん…!」
「甘い声で啼くのも随分慣れたな」
「やっ…!だって我慢できなッ…!あぁんッ!」
「フッ…。お前は本当に開発し甲斐がある奴だ。今夜からは奥だけじゃなく浅いところでも沢山イケるように開発してやるからな」
「ひっ…!」

どうやらロックウェルはまだまだ自分を開発する気満々らしい。

「やっ!嫌ッ!」
「嫌じゃないだろう?気持ちいいことがこんなに大好きなくせに…」

いい加減素直になったらどうだと言われて、理性が焼き切れていく。

「あぁんッ!そこ、そんなに責めちゃダメッ!」
「ここだろう?」
「あぁっあぁっ!ダメッ、ダメッ!ひっ…!!あ、やぁあああぁっ!!」

グリッと突き上げられたところで一気に絶頂へと飛ばされてしまい身が震える。
こんなに気持ちがいいことを嫌いになどなれるわけがない。

「あぁあああッ…!ひぅん…。ロックウェル…。ロックウェルッ…!」

イってるところでまた奥を突かれて高みから降りることができず、熱い体を持て余す。

「あぁんッ!もっとして…ッ!ひぁあああっ!イイッ、イイッ!」

そこからはもう理性の欠片すらなく、ひたすら嬌声を上げ続けた。
自分をどこまでも快楽の海に沈めてくるロックウェルが好きで好きで仕方がなかった。

「あっ!も、熱いのが欲しいッ!奥にいっぱい注いでッ!」

その言葉と同時にロックウェルがドプッと熱い欲望を弾けさせたのを最後に意識が飛んだのを感じた。


***


自分の欲望を全て受け止めて歓喜の表情を浮かべるクレイに、ロックウェルは夢中になった。
時間がないから一番満足度が高い感じやすい体位で責めてやったらクレイはあっという間に溺れてしまう。
吐精を促すようにギュッと締めつけてくるクレイに流されそうになりながらもグッとこらえて奥まで可愛がってやる。
ここで半端なことをして自慰をさせるくらいなら、自分が満足させてやる方がずっと良い。
この可愛い淫乱な姿は自分だけのものだ。
誰にも渡さない。渡したくない。

「クレイ…」

意識を手放したクレイにそっと口づけを落とし、そっと身を離す。
そしてトロリと流れ出す自身の欲をそっと拭ってクレイの身を清めてやった。
できれば目を覚ましてから出てやりたかったが、最初に時間をかけ過ぎてしまったためもう戻らねばならない。

「ヒュース」
【分かっております。眷属もついておりますから、大丈夫ですよ】
「そうか。…ヴァリアーク、念のためクレイについていてやってくれないか?」
【仰せのままに】

万が一のロイド対策に自分の眷属に声を掛けクレイの側へと残しておく。

「宜しく頼む」

こうしてロックウェルは今日の分の仕事を早急に片付けようと、速やかに執務室へと戻っていった。




それから数刻後、執務室へと焦ったようにシリィが飛び込んできたので一体何事だと尋ねてみると、仕事の事ではなくクレイの事だったので驚いてしまった。

「ロックウェル様!クレイに何かしましたか?!あんな姿でふらふら歩いていると危険極まりないじゃありませんか!」

詳しく話を聞いてみると、クレイは如何にも事後でシャワーを浴びましたと言わんばかりの色香を振り撒きながら物憂げな表情で回廊を歩いていたらしい。
そんな姿に安易に声を掛けるわけにもいかず、絶対に原因は自分だと踏んで心配でここまで飛んできたのだと言う。

「まさか喧嘩別れでもして落ち込ませたんじゃ…!」

半泣きでそんなことを言ってくるシリィを一先ず落ち着かせ、ヒュースへと声を掛けようとしたところで今度は別の相手が執務室へと入ってきた。

「あ、ロックウェル様。先程コーネリアがクレイに絡んでおりましたが…」
「え?」

コーネリアがクレイに…?
一体どういうことだろう?

「聞き間違いかもしれませんが、毒婦のようにロックウェル様を昼間から誘ったんじゃないかとかなんとか言っていたような…」

その言葉に慌てて執務室を飛び出し、ヒュースに場所を尋ねてそちらへと向かう。
まさかそんなことになるとは思ってもみなかった。
そんなことを言われてまたクレイが明後日の方向に行ってしまってはたまらない。

(クレイ…!)

そうして気が急くままにクレイがいるという庭園へと足を踏み入れた。


***


「毒婦とはまた随分だな」
クレイは突然庭園で絡まれ、クッと笑いながらコーネリアへと視線を向けた。
その滴るような色香を受けコーネリアが僅かに怯むが、その口から出る言葉は止まらない。

「貴方とロックウェル様は立場が違います!この王宮で責任ある仕事を任されておられるのです。貴方と付き合うことでマイナスになることがあっても、プラスに変わることなどありません!」
「それはつまり、別れろと言っているのか?」
「そう受け取っていただいて構いません。ロックウェル様ならお相手はいくらでもいるのですから」

そう言い切ったコーネリアにクレイはズキリと胸を痛める。

「まあそうだろうな」

モテる男だし、その言葉に間違いはないだろう。

「だが…それを決めるのはお前ではなくロックウェルだ」

それ以外の誰の言葉も自分は聞き入れる気はない。

「俺の心を動かせるのは今も昔もあいつだけだ。通りすがりのお前ごときの言葉に簡単にそうかと納得して頷く俺じゃない。よく覚えておくんだな」
「……っ!」

不敵に笑った自分をコーネリアが悔しそうに睨みつけてくるが、ちょうどそこへ噂のロックウェルがやってきて力強く抱き寄せられた。

「クレイ!」

そして離さないと言わんばかりにそのまま熱く口づけられる。

「ちょっ…!まっ…んんんッ…!」

そしてあっさりと溶かされて、思わずうっとりと酔わされてしまう。

「はぁ…言っておくが、別れるとか言い出しても絶対に別れないからな」

そんな勘違いな言葉を口にしながらしっかりと抱き締めて、ロックウェルは驚きに固まっているコーネリアへと鋭い視線を向けた。

「コーネリア…。クレイに余計な事は言っていないだろうな?」

低く紡がれたその言葉に、コーネリアは思わずふるりと震えてしまう。
未だ嘗てこれほどまでに冷たい眼差しをロックウェルから向けられたことなどなかったからだ。

「それ程までこの男はロックウェル様を虜にしてしまったのですか?」

目に涙を溜めながらコーネリアがロックウェルへと訴える。

「何故です?!あれ程色々な女性と浮き名を流しておきながら…!」
「女も男もこれまで色々付き合ったが、クレイほど夢中になれる相手は他にいなかった。ただそれだけのことだ」

クレイはその言葉に思わず頰が熱くなるのを感じた。

「けれどクレイは男です!どんなに好きでも結婚はできませんし、子も成せないのですよ?!」
「別に構わない。そもそもクレイが女ならとっくの昔に孕んでいるだろうしな。正直男でよかった」
「なっ…!お前は何を言ってるんだ!」

クレイが真っ赤になって抗議するが、ロックウェルは聞く耳を持とうとはしない。

「本当のことだろう?折角時間を掛けて私好みに育て上げたんだから、お前にはこれからもずっと側にいてもらわなければ困る」
「~~~~!!」
「返事は?クレイ…」
「…わかっているくせに言わせるな!」

クレイは恥ずかしいとばかりにそのまま突き飛ばすようにロックウェルから離れて、もう帰ると言い姿を消した。



「ロックウェル様!」
そこへ心配して追ってきたであろうシリィが声を掛けてきた。
「あら…?クレイは?はっ!ま、まさかまた喧嘩して逃げられたんですか?!」
もし逃げられたのなら仕事は暫く自分に任せて追ってくれてもいいと言ってくれた言葉にロックウェルは笑顔で問題ないと返す。

「大丈夫だ。私から離れられなくなるようやっと仕込み終わったんだからな。むざむざ逃すはずがないだろう?今回は喧嘩ではなく、照れて逃げただけで問題はない」
「…そうですか。わかりました。では惚気るのはそのくらいにして、そういうことならこの後は予定通り交流会の最終打ち合わせをして下さいね」
「シリィのそのざっくり流してくれるところは好きだな」
「当然です。これくらい出来ないとロックウェル様と一緒に仕事はできませんから。なにせ傷心の部下にまで惚気る上司ですし!」
「ふっ…優秀な部下を持てて私は幸せだな」

そうやって気安く話しながら戻っていく二人を見送りながら、コーネリアは一人庭園へと取り残され、グシャッと近くに咲いていた紫の花を握り潰した。

愛しさ余って憎さ百倍とはこのことだ。
好きで好きで心から尊敬していたというのにこの仕打ち。
とても許せるものではなかった。

(ロックウェル様…。貴方からクレイを絶対に引き離して見せますわ……!)

そう心に誓うと、コーネリアは昏く燃える瞳でその場から立ち去ったのだった。



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