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閑話21.筆
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俺は今目の前にある筆を見つめながら考えていた。
一つはブルーグレイでセドリック王子からプレゼントされたもの。
もう一つはあの時王宮に招かれた商人から購入したもの。
手触りが良いのは王宮で購入したものだが、こちらは刺激が少ない。
兄に使うなら断然セドリック王子から貰った適度な刺激がある方が良いとは思う。
でも折角買ったんだし、もう一つの方も使いたい。
何かいい使い道はないだろうか?
「う~ん……」
そうして悩んでいたらリヒターが不思議そうに尋ねてきた。
「ロキ陛下。何か気になる点でも?」
「ああ。兄上を楽しませるなら断然セドリック王子に貰った方なんだけど、もう一本の方も何かいい使い道はないかなと思って」
「ちょっと触ってみても?」
「ああ。構わない」
何か意見がもらえるかなと思いながらリヒターに二本を実際に触ってもらう。
「なるほど。こちらの方が少し刺激があるんですね」
「ああ」
「こちらは性感帯を責めて焦らす時に使うのが良さそうですね。三人でする時に一人がこれでカリン陛下を虐めるというのはありかもしれません」
それについては俺も深く同意する。
きっと兄を楽しませることができるだろう。
問題はもう一本の方だ。
「そっちはいいんだが、こっちも折角買ったし何かしら使いたいなと思って…」
「別に閨に拘らなくても良いのでは?」
閨以外?仕事とか?
それはそれでちょっと勿体ない気がする。
そう思っていたらリヒターの口から思いがけない言葉が紡がれた。
「仕事ではないですよ?ロキ陛下の癒しに」
「……?」
言われた意味が分からず、つい首を傾げてしまう。
「試しに使ってみましょうか?」
「今から?」
「ええ。とても手触りが滑らかなので気持ちいいと思いますよ?」
そしてちょっと悪戯っぽい顔で筆を手に取り、失礼しますと言ってそっと近づけてくる。
「お疲れな陛下をこうして……」
「ん……」
ふわりと頬に滑らされた筆が心地いい。
「いかがです?」
「ふふっ」
ふわりふわりと頬を撫でる感触が気持ち良くて、思わずうっとりしながら堪能してしまう。
動物にあまり興味はないけど、ふわふわの毛に頬ずりしたらこんな感じなんだろうか?
「ほら、癒しになるでしょう?」
「なかなかいいな。もうちょっとして欲しい」
「いいですよ」
そう言って今度は顎の下を擽るように撫でられる。
「ん…気持ちいい……」
そうやって二人でじゃれ合うように楽しい時間を過ごしていたら「そろそろ休憩か?」と声を掛けに来た兄に物凄い目で見られて、「何をしている?!」と叱られた。
残念。とっても気持ちが良かったのに。
取り敢えず誤解を解くために兄を楽しませる筆プレイを二人で考えていたんだと言ったら、嘘つき呼ばわりされてしまった。
「嘘だ!どう見てもリヒターにうっとりしてた!」
うっとりしてたのは認めるけど、それは筆の気持ち良さにだ。
別に浮気をしていたわけじゃないし、そんなに睨まなくてもいいのに。
「そんな筆なんて、絶対に俺は使わないからな!」
「こっちは兎も角、もう一本は折角セドリック王子から貰ったのに…残念です」
まあまた機会を改めて使えばいいかと一応この場では引き下がることに。
「ロキ陛下。もしそちらを試したくなった場合は一声お声掛けくださいね」
「付き合ってくれるのか?」
「ええ。俺も知っておいた方がいいでしょうし」
きっとさっき話していた件だろう。
確かに3Pだと他の誰かを呼ぶ可能性よりも断然リヒターを呼ぶ可能性の方が高い。
それならリヒターと一緒に予めあれこれ考えておくのもありかもしれない。
力加減を知るだけなら腕や首筋で具合を確かめるくらいだから、勉強の合間にさっきみたいに確認すればいいだけの話だ。
これなら別に浮気にもあたらないし、構わないはず。
だからリヒターにお礼を言って兄には笑顔でちゃんと伝えておいた。
「兄上がその気になったらいつでも使えるように二人で予め試しておきますね」
そして改めてリヒターに向き直り、後で付き合ってほしいと言ったんだけど、何故か兄から物凄く驚愕の眼差しで見られてしまう。
どうしてそんな顔をしてるんだろう?
不思議だ。
しかも次いでワナワナと震えながら悔しそうに涙目でこちらを見てきた。
「ふ……」
「ふ?」
「筆プレイがそんなにしたいなら今夜にでも俺が付き合ってやるっ!」
「え?でもさっき…」
「お前の伴侶は俺だろう?!」
「そうですね」
伴侶が兄というのはその通りだけど、何故ここで前言撤回してまでそう言われたのかがさっぱりわからなかった。
もしかして俺がこの後リヒターと寝るとでも思ったんだろうか?
もしそうだったとしたら勘違いにもほどがある。
いい加減俺が寝る時は兄も一緒だと理解してほしいものだ。
とは言え折角乗り気になってくれたのなら美味しくいただくまで。
「じゃあ今夜は兄上をこの筆で沢山可愛がってあげますね」
可愛い兄を堪能しようとそう言ったら今度は素直に頷いてもらえた。
最初から素直になってくれたらいいのにとは思うものの、素直じゃない兄もとっても可愛いからつい笑みがこぼれ落ちてしまう。
(さて。今夜に向けてリヒターと打ち合わせをしないと)
取り敢えずさっきの癒し系の筆はリヒターにあげよう。
仕事で疲れた時に使ってもらえたら俺も嬉しいし。
そんな事を考えながら俺はそっと微笑んだ。
***
【Side.リヒター】
二つの筆を前に真剣に悩んでいるロキ陛下は今日もカリン陛下の為に一生懸命だ。
とても微笑ましい。
そして悩みの原因となっている筆を実際に手にとって感触を確かめてみると、セドリック王子から貰ったという筆の方は確かに閨向けだった。
流石の目利きだと思う。
もう一つも凄く気持ちはいいのだが、どちらかと言うとうっとりするような心地よい手触りで、こちらは癒し系の筆と言えた。
これはこれで夫婦でイチャイチャする時用に取っておいてはどうだろうか?
そう思ったものの、ロキ陛下は多分そう言った用途では使わない気がすると思い直した。
だから別の用途を提案してみることに。
「別に閨に拘らなくても良いのでは?」
その言葉にロキ陛下はちょっと勿体なさそうな顔になる。
もしかしたら閨以外の用途として仕事くらいしか思い浮かばなかったのかもしれない。
そんなロキ陛下にフッと笑って、違いますよと教えてあげる。
「仕事ではないですよ?ロキ陛下の癒しに」
「……?」
首を傾げるロキ陛下が可愛くてつい笑みを浮かべてしまう。
「試しに使ってみましょうか?」
「今から?」
「ええ。とても手触りが滑らかなので気持ちいいと思いますよ?」
そして悪戯っぽい顔で筆を手に取り、失礼しますと言ってそっとその頬を撫で上げた。
「お疲れな陛下をこうして……」
「ん……」
「いかがです?」
「ふふっ」
ロキ陛下は最初はキョトンとしていたのに、すぐに気持ち良さそうに表情を綻ばせた。
「ほら、癒しになるでしょう?」
「なかなかいいな。もうちょっとして欲しい」
「いいですよ」
そう言って今度は顎の下を擽るように撫でるとどこか幸せそうに笑ってくれた。
「ん…気持ちいい……」
そんなロキ陛下が見られるのは俺にとってもちょっとした癒しだ。
ロキ陛下が喜んでくれると俺も嬉しい。
だから暫くじゃれ合うように筆で戯れていたのだけど────そんな幸せな時間はカリン陛下の訪れと共に終わってしまった。
コンコンというノックの音に続いてカリン陛下が入って来て「そろそろ休憩か?」と声を掛けてきたのだけど、こちらを見てギョッとしたように目を見開いてくる。
「何をしている?!」
「え?兄上を楽しませる筆プレイを二人で考えていただけですけど?」
「嘘だ!どう見てもリヒターにうっとりしてた!」
まあ、実際はカリン陛下用の筆ではなくもう一本の用途を考えていたから嘘と言えば嘘かも知れないが…。
別に以前のようにキスをしていたわけではないしそんなに目くじらを立てなくてもとは思うものの、多分単純に戯れていたことに対して嫉妬してしまったんだろうなとは思った。
「そんな筆なんて、絶対に俺は使わないからな!」
「こっちは兎も角、もう一本は折角セドリック王子から貰ったのに…残念です」
ロキ陛下は余程筆プレイを楽しみにしていたんだろう。
絶対に使わないと言われて目に見えて落ち込んでしまっている。
何とか元気づけてあげたい。
多分時間さえ置いたらカリン陛下も筆プレイに付き合ってくれることだろう。
だからそれまでの間できることでもしたらどうかと考え、進言しておくことに。
「ロキ陛下。もしそちらを試したくなった場合は一声お声掛けくださいね」
「付き合ってくれるのか?」
カリン陛下が付き合ってくれなくても筆のお試しくらいはできますよと笑顔で口にすると、ロキ陛下の表情がパッと明るくなる。
「ええ。俺も知っておいた方がいいでしょうし」
試すだけなら首筋や腕を使って加減を見ることはできる。
先程のようにロキ陛下と楽しい時間を過ごすのは全然ありだろう。
ロキ陛下もきっと俺の意をちゃんと汲んでくれていると思う。
その証拠にそれを受けてロキ陛下の気分も浮上し、気持ちを切り替えることができた様子。
笑顔でお礼を言ってもらうことができた。
「兄上がその気になったらいつでも使えるように二人で予め試しておきますね」
ウキウキとした様子でカリン陛下にそう伝え、今度は俺を見て「後で付き合ってほしい」と嬉しそうに言ってこられた。
本当に微笑ましい。
カリン陛下の伴侶だとわかっているから望まれた時しか閨を共にはできないが、愛おしさは募るばかり。
でもそんな俺達を見て、何を勘違いしたのかカリン陛下が涙目で前言撤回をしてきた。
「ふ……」
「ふ?」
「筆プレイがそんなにしたいなら今夜にでも俺が付き合ってやるっ!」
「え?でもさっき…」
「お前の伴侶はリヒターじゃなく、俺だろう?!」
「そうですね」
何を当然のことをとロキ陛下が呆れたようにカリン陛下を見遣る。
「じゃあ今夜は兄上をこの筆で沢山可愛がってあげますね」
そしていつも通りロキ陛下はどこか楽し気にしながらカリン陛下にニコリと笑った。
きっとロキ陛下の頭の中では俺と二人でカリン陛下を虐める姿が浮かんでいるんだろうけど、カリン陛下の中では二人きりでのプレイが頭にあるはず。
この時点で既にすれ違っている。
(後でちゃんと言っておかないと…)
カリン陛下への弁明と、ロキ陛下への説得をサッと頭の中で考えて、今日も今日とてなるようにしかならないんだろうなとそっと苦笑を浮かべたのだった。
****************
※ブルーグレイで手に入れた筆のお話。
筆プレイについてはまたアップ予定の『他国からの客人』で書けたらいいなと思っているので、その際は宜しくお願いします(^^)
一つはブルーグレイでセドリック王子からプレゼントされたもの。
もう一つはあの時王宮に招かれた商人から購入したもの。
手触りが良いのは王宮で購入したものだが、こちらは刺激が少ない。
兄に使うなら断然セドリック王子から貰った適度な刺激がある方が良いとは思う。
でも折角買ったんだし、もう一つの方も使いたい。
何かいい使い道はないだろうか?
「う~ん……」
そうして悩んでいたらリヒターが不思議そうに尋ねてきた。
「ロキ陛下。何か気になる点でも?」
「ああ。兄上を楽しませるなら断然セドリック王子に貰った方なんだけど、もう一本の方も何かいい使い道はないかなと思って」
「ちょっと触ってみても?」
「ああ。構わない」
何か意見がもらえるかなと思いながらリヒターに二本を実際に触ってもらう。
「なるほど。こちらの方が少し刺激があるんですね」
「ああ」
「こちらは性感帯を責めて焦らす時に使うのが良さそうですね。三人でする時に一人がこれでカリン陛下を虐めるというのはありかもしれません」
それについては俺も深く同意する。
きっと兄を楽しませることができるだろう。
問題はもう一本の方だ。
「そっちはいいんだが、こっちも折角買ったし何かしら使いたいなと思って…」
「別に閨に拘らなくても良いのでは?」
閨以外?仕事とか?
それはそれでちょっと勿体ない気がする。
そう思っていたらリヒターの口から思いがけない言葉が紡がれた。
「仕事ではないですよ?ロキ陛下の癒しに」
「……?」
言われた意味が分からず、つい首を傾げてしまう。
「試しに使ってみましょうか?」
「今から?」
「ええ。とても手触りが滑らかなので気持ちいいと思いますよ?」
そしてちょっと悪戯っぽい顔で筆を手に取り、失礼しますと言ってそっと近づけてくる。
「お疲れな陛下をこうして……」
「ん……」
ふわりと頬に滑らされた筆が心地いい。
「いかがです?」
「ふふっ」
ふわりふわりと頬を撫でる感触が気持ち良くて、思わずうっとりしながら堪能してしまう。
動物にあまり興味はないけど、ふわふわの毛に頬ずりしたらこんな感じなんだろうか?
「ほら、癒しになるでしょう?」
「なかなかいいな。もうちょっとして欲しい」
「いいですよ」
そう言って今度は顎の下を擽るように撫でられる。
「ん…気持ちいい……」
そうやって二人でじゃれ合うように楽しい時間を過ごしていたら「そろそろ休憩か?」と声を掛けに来た兄に物凄い目で見られて、「何をしている?!」と叱られた。
残念。とっても気持ちが良かったのに。
取り敢えず誤解を解くために兄を楽しませる筆プレイを二人で考えていたんだと言ったら、嘘つき呼ばわりされてしまった。
「嘘だ!どう見てもリヒターにうっとりしてた!」
うっとりしてたのは認めるけど、それは筆の気持ち良さにだ。
別に浮気をしていたわけじゃないし、そんなに睨まなくてもいいのに。
「そんな筆なんて、絶対に俺は使わないからな!」
「こっちは兎も角、もう一本は折角セドリック王子から貰ったのに…残念です」
まあまた機会を改めて使えばいいかと一応この場では引き下がることに。
「ロキ陛下。もしそちらを試したくなった場合は一声お声掛けくださいね」
「付き合ってくれるのか?」
「ええ。俺も知っておいた方がいいでしょうし」
きっとさっき話していた件だろう。
確かに3Pだと他の誰かを呼ぶ可能性よりも断然リヒターを呼ぶ可能性の方が高い。
それならリヒターと一緒に予めあれこれ考えておくのもありかもしれない。
力加減を知るだけなら腕や首筋で具合を確かめるくらいだから、勉強の合間にさっきみたいに確認すればいいだけの話だ。
これなら別に浮気にもあたらないし、構わないはず。
だからリヒターにお礼を言って兄には笑顔でちゃんと伝えておいた。
「兄上がその気になったらいつでも使えるように二人で予め試しておきますね」
そして改めてリヒターに向き直り、後で付き合ってほしいと言ったんだけど、何故か兄から物凄く驚愕の眼差しで見られてしまう。
どうしてそんな顔をしてるんだろう?
不思議だ。
しかも次いでワナワナと震えながら悔しそうに涙目でこちらを見てきた。
「ふ……」
「ふ?」
「筆プレイがそんなにしたいなら今夜にでも俺が付き合ってやるっ!」
「え?でもさっき…」
「お前の伴侶は俺だろう?!」
「そうですね」
伴侶が兄というのはその通りだけど、何故ここで前言撤回してまでそう言われたのかがさっぱりわからなかった。
もしかして俺がこの後リヒターと寝るとでも思ったんだろうか?
もしそうだったとしたら勘違いにもほどがある。
いい加減俺が寝る時は兄も一緒だと理解してほしいものだ。
とは言え折角乗り気になってくれたのなら美味しくいただくまで。
「じゃあ今夜は兄上をこの筆で沢山可愛がってあげますね」
可愛い兄を堪能しようとそう言ったら今度は素直に頷いてもらえた。
最初から素直になってくれたらいいのにとは思うものの、素直じゃない兄もとっても可愛いからつい笑みがこぼれ落ちてしまう。
(さて。今夜に向けてリヒターと打ち合わせをしないと)
取り敢えずさっきの癒し系の筆はリヒターにあげよう。
仕事で疲れた時に使ってもらえたら俺も嬉しいし。
そんな事を考えながら俺はそっと微笑んだ。
***
【Side.リヒター】
二つの筆を前に真剣に悩んでいるロキ陛下は今日もカリン陛下の為に一生懸命だ。
とても微笑ましい。
そして悩みの原因となっている筆を実際に手にとって感触を確かめてみると、セドリック王子から貰ったという筆の方は確かに閨向けだった。
流石の目利きだと思う。
もう一つも凄く気持ちはいいのだが、どちらかと言うとうっとりするような心地よい手触りで、こちらは癒し系の筆と言えた。
これはこれで夫婦でイチャイチャする時用に取っておいてはどうだろうか?
そう思ったものの、ロキ陛下は多分そう言った用途では使わない気がすると思い直した。
だから別の用途を提案してみることに。
「別に閨に拘らなくても良いのでは?」
その言葉にロキ陛下はちょっと勿体なさそうな顔になる。
もしかしたら閨以外の用途として仕事くらいしか思い浮かばなかったのかもしれない。
そんなロキ陛下にフッと笑って、違いますよと教えてあげる。
「仕事ではないですよ?ロキ陛下の癒しに」
「……?」
首を傾げるロキ陛下が可愛くてつい笑みを浮かべてしまう。
「試しに使ってみましょうか?」
「今から?」
「ええ。とても手触りが滑らかなので気持ちいいと思いますよ?」
そして悪戯っぽい顔で筆を手に取り、失礼しますと言ってそっとその頬を撫で上げた。
「お疲れな陛下をこうして……」
「ん……」
「いかがです?」
「ふふっ」
ロキ陛下は最初はキョトンとしていたのに、すぐに気持ち良さそうに表情を綻ばせた。
「ほら、癒しになるでしょう?」
「なかなかいいな。もうちょっとして欲しい」
「いいですよ」
そう言って今度は顎の下を擽るように撫でるとどこか幸せそうに笑ってくれた。
「ん…気持ちいい……」
そんなロキ陛下が見られるのは俺にとってもちょっとした癒しだ。
ロキ陛下が喜んでくれると俺も嬉しい。
だから暫くじゃれ合うように筆で戯れていたのだけど────そんな幸せな時間はカリン陛下の訪れと共に終わってしまった。
コンコンというノックの音に続いてカリン陛下が入って来て「そろそろ休憩か?」と声を掛けてきたのだけど、こちらを見てギョッとしたように目を見開いてくる。
「何をしている?!」
「え?兄上を楽しませる筆プレイを二人で考えていただけですけど?」
「嘘だ!どう見てもリヒターにうっとりしてた!」
まあ、実際はカリン陛下用の筆ではなくもう一本の用途を考えていたから嘘と言えば嘘かも知れないが…。
別に以前のようにキスをしていたわけではないしそんなに目くじらを立てなくてもとは思うものの、多分単純に戯れていたことに対して嫉妬してしまったんだろうなとは思った。
「そんな筆なんて、絶対に俺は使わないからな!」
「こっちは兎も角、もう一本は折角セドリック王子から貰ったのに…残念です」
ロキ陛下は余程筆プレイを楽しみにしていたんだろう。
絶対に使わないと言われて目に見えて落ち込んでしまっている。
何とか元気づけてあげたい。
多分時間さえ置いたらカリン陛下も筆プレイに付き合ってくれることだろう。
だからそれまでの間できることでもしたらどうかと考え、進言しておくことに。
「ロキ陛下。もしそちらを試したくなった場合は一声お声掛けくださいね」
「付き合ってくれるのか?」
カリン陛下が付き合ってくれなくても筆のお試しくらいはできますよと笑顔で口にすると、ロキ陛下の表情がパッと明るくなる。
「ええ。俺も知っておいた方がいいでしょうし」
試すだけなら首筋や腕を使って加減を見ることはできる。
先程のようにロキ陛下と楽しい時間を過ごすのは全然ありだろう。
ロキ陛下もきっと俺の意をちゃんと汲んでくれていると思う。
その証拠にそれを受けてロキ陛下の気分も浮上し、気持ちを切り替えることができた様子。
笑顔でお礼を言ってもらうことができた。
「兄上がその気になったらいつでも使えるように二人で予め試しておきますね」
ウキウキとした様子でカリン陛下にそう伝え、今度は俺を見て「後で付き合ってほしい」と嬉しそうに言ってこられた。
本当に微笑ましい。
カリン陛下の伴侶だとわかっているから望まれた時しか閨を共にはできないが、愛おしさは募るばかり。
でもそんな俺達を見て、何を勘違いしたのかカリン陛下が涙目で前言撤回をしてきた。
「ふ……」
「ふ?」
「筆プレイがそんなにしたいなら今夜にでも俺が付き合ってやるっ!」
「え?でもさっき…」
「お前の伴侶はリヒターじゃなく、俺だろう?!」
「そうですね」
何を当然のことをとロキ陛下が呆れたようにカリン陛下を見遣る。
「じゃあ今夜は兄上をこの筆で沢山可愛がってあげますね」
そしていつも通りロキ陛下はどこか楽し気にしながらカリン陛下にニコリと笑った。
きっとロキ陛下の頭の中では俺と二人でカリン陛下を虐める姿が浮かんでいるんだろうけど、カリン陛下の中では二人きりでのプレイが頭にあるはず。
この時点で既にすれ違っている。
(後でちゃんと言っておかないと…)
カリン陛下への弁明と、ロキ陛下への説得をサッと頭の中で考えて、今日も今日とてなるようにしかならないんだろうなとそっと苦笑を浮かべたのだった。
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※ブルーグレイで手に入れた筆のお話。
筆プレイについてはまたアップ予定の『他国からの客人』で書けたらいいなと思っているので、その際は宜しくお願いします(^^)
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