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135.他国からの客人①

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母の件が落ち着き、暫くは貴族からのご機嫌伺いが後を絶たなかった。
それを受けて、面倒だし疲れるし兄との時間が減ると愚痴ったら、その兄からそれならいっそのことパーティーを開いて一度で終わらせてしまったらどうだと提案された。

「兄上…」

それは確かに一度で終わるかもしれないけれど、パーティーとなると俺を嫌っている貴族の夫人や令嬢がもれなくついてくるのを忘れているんだろうか?
各々の家で意識改革はされているようだけど、そんなにすぐに嫌悪感はなくならないだろうし、気疲れするのは目に見えているからできれば避けたい。

「男性だけのパーティーって…難しいですか?」
「……まあ今回はちょっと無理があるだろうな」
「じゃあ嫌です」
「そうか」

これには兄もすんなりと納得してくれてホッとする。
以前の兄ならそれでも必要だからと強行してもおかしくはなかっただろうから。

「俺はお前をもう傷つけたくないんだ。だから嫌なものは嫌だとちゃんと教えてくれ」

極力意見は聞くようにすると兄は言ってくれる。
嬉しくはあるけれど、ちょっと俺を甘やかし過ぎではないだろうか?

「う~ん……」

このまま甘えるのもなんだか悪い気がするし、せめて他国からの来客だけでも笑顔で持てなそう。

というのも、三ヵ国事業がとうとう本格稼働することになったことを受けて、周辺国から一般人が物見遊山でやってきたり、使われている技術を見たいと技術者がやってきたり、自国でも是非やってみたいから色々話を聞かせてほしいという国のお偉方が来たりと賑わっているのだ。
面倒だからガヴァム以外のミラルカやレトロンに行ってくれればいいのに、何故かガヴァムからミラルカに移動して鉱山ホテルに行って自国に帰るというパターンが気づけば出来上がりつつあった。
だから大抵の質問はこちらへと飛んできてしまう。
非常に迷惑極まりない。

「絶対にレオの策略だと思うんですけど…」
「まあそう言ってやるな。ミラルカの大きな財源になっているようだし、協力してやったらどうだ?」

兄は苦笑しながらそう言うけど、俺としては早く何とかしたいところだ。
中にはブルーグレイのセドリック王子と俺との仲を尋ね、彼の為人について教えて欲しいと言ってきたり、ブルーグレイから技術協力があったという話は本当か聞かれたりとよくわからない探りを入れられたりもした。
まあ技術協力があったのも本当だし、仲良くはしてもらっているとは思うけれど、何故為人まで聞かれるのかは首を傾げざるを得ない。
それこそ義兄であるレオに聞いた方がいいような気がするのにどうして俺なんだろう?

取り敢えず尋ねられるたびにセドリック王子は話の分かる親切で良い人だとそのままを伝え、ちょっとでも質問やこちらに来る者達が減ればいいなと思いながら『ブルーグレイでセドリック王子の為人がわかる劇が観れますよ』と勧めておいた。
概ねあのままだしきっと問題はないだろう。
頼むからブルーグレイに直接行って確認してきて欲しい。




レオは俺が大変だったことを聞きつけて、俺が城に戻り少し落ち着いたタイミングですぐにこちらへとやってきた。
レオにしては気遣いがしっかりされていたような気がする。
本人曰く大親友なんだから当然とのこと。
その時は少し話して帰ってもらったものの、今は前以上に心配性になって、頻繁にツンナガールで連絡を入れてくるようになった。
兄との時間が減るからやめてほしいと何度も言ったけどやめてくれない。
そのせいで俺の機嫌が悪くなるから、最近は他の補佐官達が代わりに出てくれるようになった。
非常に助かる。

そうして少々邪険にしてたのが悪かったんだろうか?
レオが婚約者を紹介するという名目で急遽やって来た。

「ロキ!俺の婚約者、レトロンのユーフェミア王女だよ」
「お初にお目にかかります。ユーフェミア=クロス=レトロンと申します。どうぞお見知り置きくださいませ」
「ご丁寧にありがとうございます。ロキ=アーク=ヴァドラシアです。宜しくお願いします」
「ユーフェミア王女、久しぶりだ。貴女が婚約者ならこれからのミラルカは益々発展していくだろう」
「ありがとうございます。カリン陛下にそう言っていただけると心強いですわ」

どうやら兄とユーフェミア王女は面識があったらしい。
まあ隣国だし、何かしら接点があったのだろう。
ユーフェミア王女はとてもしっかりした印象だし、ちょっと調子に乗り過ぎるレオの手綱を上手くとってくれることを期待しようと思う。

そうして四人でお茶をしながら話をしていたのだけど、話が弾んだところでいきなりレオが三ヵ国事業も成功したし、パーティーを開こうと言い出した。
面倒臭い。やりたくない。
けれどレオは勢いに乗ってどんどん話を進めていく。
その流れで場所は最初鉱山ホテルでと言われたのだが、ラッキーなことにこちらのスケジュールが合わなかった。
山を挟んだ向こうにあるアンシャンテへの道を通す事業について、諸々調整や決裁が必要だったせいだ。
来客対応と合わせると長期で国を離れられないし、自分抜きで勝手にやっておいてほしいと言ったら、そういう訳にはいかないと言われてしまった。

「ロキがいないとパーティーの意味がないだろう?」
「どうして?」
「だってロキの無事を皆に知らしめて、ロキの治世は安泰だって周辺諸国にも思ってもらいたいんだ!」
「え…別にそういうのはいらないけど…」
「ダメ!ミラルカの次期王の俺とガヴァム王のロキの友情を見せつけて、国同士の強固な絆も見せつけたいし、ここは譲らないから!」

面倒臭い。
変なところで国と国を出してくるなと辟易しながら兄に意見を求めたら、確かに一理あると言われたので溜息を吐いてしまった。
そして兄は『ここは我慢して出席したらどうだ』と俺を説得してきた。

「でも本当に時間を取れそうにないんですけど…」
「それならここでやればいい」
「え?」
「パーティーをガヴァムでやればいいと言っている。お前はパーティー当日まで普通にいつも通り仕事に励んで、身一つで当日参加しろ。パーティー自体が苦手なのは知っているし、顔出し程度で構わないから」

どうやら準備は全部兄主導の元やってくれるらしい。
これにはレオも目を輝かせて賛成する。

「それいい!流石カリン陛下!」

兄を褒められるのは嬉しいけれど…さてどうしたものか。

「…………」
「俺との時間が一番取れるのはこれだと思うぞ?」
「…………今回はレオの我儘だし、レオにもしっかり準備を手伝わせて、兄上ができるだけ俺の傍に居てくれるなら…」
「お前の我儘はいつも俺関連だな」

そう言いながらも兄はちょっと嬉しそうにしながら『できるだけ傍に居る』と言ってくれた。
優しい。
レオはそんな俺達をニコニコしながら見て、もちろん協力するからと言ってきた。
どうやら本気でやる気満々らしい。
ユーフェミア王女もレトロンの父王に手紙を送っておいてくれるらしい。

そうと決まったら兄との時間確保のために少し手を回しておいたほうがいいかもしれない。
動きたがっている犬達も多々いるようだし、精々こき使ってやりたいところだ。

「兄上。人材は豊富にいるので、是非使ってやってください。話はこちらから通しておきますので」

こうしてパーティー準備は兄とレオ主導の元、順調に進められたのだった。


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