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97.ブルーグレイ再訪⑧

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セドリック王子が呼んでいると聞いたので、兄をリヒターに預けて部屋を出た。
一応リーヴィスにも部屋に残ってもらっているし、ブランドンにも扉の外で護衛をしてもらっているから大丈夫だと思う。
カーライルはそっと俺を護ってくれてるけど、みんなが心配するから一応ディグを連れて向かっていた。
呼びにきてくれた男も安全のためと言って護衛騎士を二人も連れてきてくれたし、いつもより万全だと思ってたんだけど……。

「ロキ!逃げろ!」

とある部屋の奥まで連れていかれた途端暗殺者風の男達に襲われて、ディグとカーライルがすぐさま応戦したが多勢に無勢としか言えない状況に陥ってしまう。
それもそのはず。
ここまで案内してくれた男も騎士達も全員共犯だった上に、かなりな強者だったのだから。

「くっそ…!騎士服も従者服も流出し過ぎだろ?!」

裏に流れすぎだとディグが毒吐いている。

ここに来るまでは全く怪しまれることのないスムーズな誘導だったし、奥の部屋だから廊下にまで騒ぎが届きにくく、バルコニーの外は使用人くらいしか出入りしそうにない夜間は警備が薄そうな場所。
まさに攫うにはうってつけの場所だと思う。

見事に警備の穴を突いた計画には感心してしまったほど。

(まさかこんな警備がしっかりしてそうな場所で襲われるとは思ってもみなかったな…)

完全に油断した。

「今武器らしい武器は持ってないんだけど…」

部屋の外まで逃げられれば助かるのは助かるだろうが、これだけ周到に準備している相手の場合そんな隙を与えてくれるはずがない。
そう考えたところで背後から刃物を突きつけられた。

「大人しくしろ」

こういう時は暴れず怯えたフリをして、更に気絶したフリだったな。
面倒臭いがそのまま脱力して目を閉じる。
刃物を持った相手には下手に抵抗するより安全なんだと闇医者が確か言っていた。
殺す気なら最初から仕留めにくるからすぐ分かると。
どう考えても今回の目的は俺の拉致だろう。
問題は犯人が誰かという事。

(はぁ…。兄上が折角来てくれて可愛く甘えてくれたのにな…)

そんな事を考えながら俺は肩に担がれ、ブルーグレイの王宮から見事に連れ去られた。


***


連れてこられたのはどこかのアジトの中。
一切抵抗せずさっさと気絶したフリをしたお陰で俺は縛られてすらいない。
男達は計画が成功した安堵からか刃物も既にしまっている。
とてもラッキーな状況だ。

「それで?間違い無いのか?」
「はい。これがガヴァムの王です」

これ扱いか。
まあ慣れてるからいいけど。

「へぇ…若いのになぁ。立派なもんだ」
「ちょっとリスクを負ってでも攫って正解だったでしょ?どこにでも高値で売れますぜ?」
「ガヴァムの王配カリンはもとより、アンシャンテの王もブルーグレイの冷酷王子もこいつに夢中ってか?」
「ええ。一昨日街でセドリック王子と仲良くしてる姿を見た奴がいるんすよ。きっといくらでも金を積んでくれますぜ」
「は~凄いもんだ」

どうやらそれ狙いで攫ったらしい。
随分リスクの高い仕事をしているなと感心してしまう。
腕がいいだけにちょっと勿体無いなと思った。

「利用価値は高いですが、どうします?」
「ククッ…。そうだな。いっそ裏でオークションにでもかけるか。どれだけの高値がつくか楽しみだ」
「ま、それが一番妥当でしょうね」
「その前に…とりあえず折角手に入れたんだ。引き渡す前に俺らで味見してやるってのはどうだ?」
「いいっすね!じゃあ目が覚めたら…」

パァン!!

「へぐぁっ?!」
「誰に向かって物を言っているんです?」
「なっ?!お前っ!」

どうしてこんな輩に兄にあげるつもりの処女を差し出さないといけないのか。
非常に腹立たしくて思わず懐から出した鞭を振るってしまったではないか。
そんなに俺は弱そうに見えるんだろうか?
だからと言って大人しく震えると思ったら大間違いだが。

多分帯剣してなかったから武器的なものは何も持っていないと思われて取り上げられなかったんだろうなとは思う。
利用価値云々言っているし、こちらが傷つけられる可能性も低いはず。
それならそれで上手く調教してやるまでだ。

「さっさと帰りたいんで、調教されたくなければ解放してください」
「な、何をぉ?!」
「構うな!みんなで押さえ込め!」

そんな彼らに溜め息を吐きながら俺は順次尻叩き用の鞭で調教していく。
こう言った狭い部屋でも立ち回れるのがこれの利点。
今ここにいるのはざっと8人ほど。
パァン!と頬を打たれる者もいれば何度も尻を叩かれて悲鳴をあげる者もいる。
そんな彼らを床に沈めて適度にグリグリ踏みつけ、強そうな輩は急所狙いで思い切り叩いてやった。
殺傷力はないが、剣より軽くて素早く振れるのがこれの良い所だし、最大限利用しつつ場を制圧しよう。
ついでとばかりにリーダーっぽい強そうな輩を懐から出したロープで縛り上げて股間を足先で嬲ってやった。

「どうですか?嬲られる側もたまにはいいでしょう?」
「ひ…な、なんだよお前…っ」
「このまま服従してくれます?」
「ふざけっ、ふべぇっ?!」

パァンッ!合間合間で頬を張ってやるがなかなか強情だ。

「ほら」
「誰が言うっ、ふえっ、や、やめへっ!」
「う~ん…。そんなに可愛がって欲しいなら仕方がないですね」

そして懐から長いプジーを取り出しニコリと笑う。

「きっちり…身体に教えてあげますよ」
「ひ、ひぎゃああああっ!」




「最初から怒らせず素直に話し合いをしてくれればよかったのに」
「うっ、ヒック…お、俺のちんぽ…ちんぽがぁ…」
「俺の処女は兄上にあげると約束してるのでそれを勝手に奪おうとした罰です」
「も、申し訳ありません…」
「それで?エプシロンでしたっけ?」
「は、はい…」
「実は丁度一昨日、デルタの方に挨拶に行ってきたところなんです」
「なっ?!そ、それじゃあ…」
「聞くところによるとあそことエプシロンは犬猿の仲だとか」
「くっ…そ、そうだ」
「……そうだ?」
「いえっ!そうです!」
「今後は少し融通を利かして仲良くしてくれれば嬉しいんですけど」
「チッ…誰が…っひぅっ!」
「もうちょっと開発してほしかったんですね。気づかなくてすみませんでした」
「ひぃっ!ゆ、許してください!ロキ様のお望みのままにしますぅ!!」
「わかってくれればいいんです。さて、散歩も飽きましたしそろそろ帰りますね。悪いことはほどほどに」
「ロ、ロキ様?!」
「なんですか?」
「み、見逃してくださるので?」
「攫ったことですか?ええ。まあ。その代わり…二度はありませんけど」
「あ、ありがとうございます!」

そんな会話をしていると急に外がにぎやかになった。
そしてバァンッと飛び込んできたのは息を切らせたリヒターと、セドリック王子率いる騎士達だ。

「ロキ。攫われたと聞いたが、誤報だったか?」
「いいえ。本当ですが?」

どうしてそんな風に言われたんだろう?
ちょっと気絶してる輩が床に転がってるのと、部屋の隅で土下座して震えている者がいるだけなのに。

(リーダーが縛られながら俺の前にいるからかな?)

別に遊んでいたわけではないのだけど…。

「一応今回は見逃すと言っておいたんで考慮してもらえたら嬉しいんですけど、取り調べをするならお連れ下さい」
「そうだな。そうしよう」

そう言ってセドリック王子は速やかに彼らを取り押さえるよう指示を出してくれたのだが、やけになったエプシロンの者の一人がこちらへと突撃してきた。

「どうせ捕まるならぁあっ…!」
「陛下!」

俺を守ろうと咄嗟にリヒターが抱き込んでくれたので、一瞬相手の視覚が塞がれる。
その隙を突いて俺は尻叩きの鞭を素早く横へと走らせた。

「ぎゃあぁあああっ!」

タイミングも合い、見事に目を潰された男がその場で叫ぶ。

「目がっ!目がぁあっ!!」
「逆上するのも大概にしろ」
「陛下…」
「リヒター、大丈夫か?」
「はい。陛下は…?」
「俺は大丈夫だ。それよりカークやディグは無事だったか?」
「ええ。ご安心を」
「そうか。よかった」
「本当に勘弁してください。発信機がなかったらこんなにすぐには駆けつけられなかったんですから」

生きた心地がしなかったとリヒターは言うけど、兄が来てるのにのんびり捕まっている気もない。

「ロキ。すまなかったな。まさかこんな奴らが入り込んでいたとは」
「まあ裏稼業の者達は潜入が得意ですしね。仕方がないですよ」
「それでもだ」

セドリック王子はそう言うけど、100%防ぐなんて無理だと思う。
加えて彼らは優秀だったし、仕方がない。
既に出回っている衣服の回収や全部屋警備強化なんてできるはずがないのだから気にしないでほしい。

「う~ん…。今回は俺目当てだったようですし、調教しておいたのでもう大丈夫だと思いますよ?」
「奴らがそう言ったのか?」
「ええ。アンシャンテにもセドリック王子にも高値で売れるとか、オークション云々言っていたので、金目当てじゃないですかね?」
「それで何がどうしてこうなった?」
「俺の味見がしたいとかなんとかふざけた事を言ってたのでお仕置きしたんですけど、ダメでしたか?」
「…………それはこいつらがバカだったな」
「ええ」
「いずれにせよ無事で良かった。カリンがお前が攫われたと聞いて半狂乱になっていたぞ。早く帰ってやるんだな」
「兄上が?」

そう言えば兄はリヒターと一緒だったのだ。
リヒターが今ここにいるということは兄にも俺が攫われたという話が耳に入っているということで……。
どうやら心配をかけてしまったらしい。

「それなら早く戻らないといけませんね」

可愛い兄に無事な姿を見せてあげたい。
そう思いながら俺は城へと戻った。


****************

※ちなみにロキを攫った連中はカリンのことは全く知らず計画を立ててました。
セドと仲良く街を歩いているロキの情報を得てすぐに計画を立て、帰る前日に攫おうと行動を開始。
計画通り手際よく攫えたことと、すぐに気絶したと聞いて完全に油断していました(剣も持っていなかったので)。
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