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39.国際会議㉔ Side.カリン王子
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ロキを説得しきれなかった────。
それが悔しくてたまらない。
しかも明々後日には戴冠式を控えているというのに、気づけば城のどこにも姿がなくて、城下に降りたのだと容易に知れた。
護衛にロキの暗部になった例の男がついているはずだが、迂闊にも程がある。
どれだけ王になる自覚がないのか。
(いや…それだけ息苦しかったという事か……)
ロキを型にはめるのは間違っている。
ただでさえ王になるのが憂鬱なところにとどめを刺してしまったんじゃないかと今更ながらに考えてしまう。
俺がロキを追い詰めてしまったんだろうか?
あれからどれだけどんなロキでも好きだと言ってもロキには全く伝わらなかった。
ロキにはただの慰めとしか映らなかったのだろう。
しかもいつもなら耳を貸すはずのリヒターの言葉も話半分に聞き流される始末。
両思いのはずなのにすれ違うこのじれったいほどの焦燥感は一体どうしたらいいのだろう?
もどかしくて仕方がない。
これまでどんな仕事にも最適解を見つけてきたはずなのに、ロキのことに至っては全く正解を導き出せないのだ。
「くそっ…」
他に誰かロキが聞く耳を持つ相手はいないのだろうか?
そんな思いに駆られていた時だった。
「カリン王子!」
明るいその声が耳に届いたのは。
そこに立っていたのはフランシス公爵の娘スカーレットだった。
婚約者であるミュゼにでも会いに来た帰りなのだろうか?
彼女は元俺の婚約者候補の一人で、そこそこ親しく付き合っていた相手でもあった。
だから普通に話しかけられそれに応えたに過ぎない。
「スカーレット嬢。ミュゼに会った帰りか?」
「はい」
ニコニコとした笑顔にささくれ立っていた気持ちがほんの少し癒される。
「ミュゼとはうまくやっていけそうか?」
「はい。勿論カリン王子の方が素敵ですけれど、夫として申し分ないお方だと思っていますわ」
「そうか。結婚式の日取りが決まったらまた教えてくれ。祝いの品で希望があれば好きなものを用意しよう」
「まあ、ありがとうございます!カリン王子が選んでくださったものならどれも素敵だと思いますけれど、そうですね…叶うなら扇子を一ついただきとうございます」
「扇子?ドレスやアクセサリーでなくても構わないのか?」
「はい。ドレスは着る回数はどうしても決まってしまいますし、アクセサリーもドレスによって替えなければなりませんわ。その点扇子でしたらいつでも持ち歩けますもの」
カリン王子から頂いたものは長く愛用したいのですと頬を染めながら言ってこられて、いじらしいなと思った。
けれどただそれだけだ。
彼女の可愛らしい仕草を見ても全く気持ちが動かされるといったことはない。
彼女に浮気心を抱くこともないし、ロキ以上に愛おしく感じるなどということも一切ない。
ロキは俺の特別なのだ。
そんな俺に彼女は余計な一言を口にしてくる。
「カリン王子。父からあの無…いえ、弟王子を籠絡して王配に収まり実権を握ると聞きました。私、そのお話を聞いて流石カリン王子と感動いたしましたの。大国を刺激せず上手く実権を握るその手腕には脱帽致しましたわ!私もミュゼ様の婚約者としてお側に控えておりますので、是非いつなりとお声がけください。国の行く末の為、お役に立てる日をいつでもお待ちしております」
それ即ち、ミュゼを隠れ蓑にして孕ませてくれてもいいのだと言われているのも同然の言葉で、腹立たしい気持ちでいっぱいになってしまった。
馬鹿も休み休み言えと言ってやりたい。
俺はロキが好きで支えてやりたいから王配になるのだ。
ロキを操り人形にするために王配になるのではない。
女を孕ませる気はないし、ロキ以外と肌を重ねる気は毛頭ない。
だからこそ彼女に対して激しい嫌悪を抱いた。
とは言えこれまでの王宮内では決してなくはない話なだけに言葉選びも的確で、無礼だと怒りを露わにするべきではないことくらいは百も承知だった。
だからサラリと流してこの場は当たり障りなく収め彼女と別れたのだが…。
部屋に戻ってすぐ、ソファに腰掛けたロキが泣きそうな顔で俺を見てきたところで俺は柄にもなく動揺してしまった。
「ロ、ロキ…?」
帰っていたのかと声を掛けると、ロキは悲しそうにしながらポツリと言葉を溢してくる。
「兄上…。俺、やっぱり兄上のお相手には女性の方がいいような気がしてきました」
その言葉に心臓が凍り付くかと思った。
「さっき…元婚約者候補の方と話してる兄上を見て、お似合いだなって思ったんです」
見られていたのかと動揺し、そんな言葉に身体が震えるのを感じる。
「だから……」
(だから、なんだ?)
先程の会話が会話だっただけに嫌な予感が頭をよぎる。
(嫌だ、嫌だ……っ)
「絶対にお前との結婚は取り止めにはしないからな!!」
最後まで言わせたくなくて俺は叫ぶようにそう言ったけど、ロキはどこか儚げに微笑しながら誤解しないでほしいと言ってきた。
「結婚は…しますよ?」
じゃあどうしてそんなに悲しげで、遠くに行ってしまいそうな空気を纏っているんだと思いながら必死に手を伸ばす。
「ロキ!」
「……兄上を俺のエゴで縛るのをやめた方がいいのかも知れないと…そう思っただけです」
それは……どういう意味なんだろう?
「兄上が抱かれたいなら抱きます。他の相手ができたら迎えてもいいです。全て兄上の良いようにして下さい」
ロキが言葉を紡げば紡ぐほど何故か離れていくようで、どうしようもないほどの焦燥に襲われて、気づけばその唇を奪っていた。
(戻ってこい!)
そんな思いを込めて必死にロキを自分へと繋ぎ止めにかかる。
しっかりとその身を抱き締め、自分以外に誰がやるんだと息を奪うように口づけた。
「ん…んん…?!」
驚いて最初は逃げようとした舌を絡めとり、逃げるなとあやすように深く口内を犯してやる。
「ん…ふ……。兄上…?」
「ロキ…ゆっくり落ち着いてお前と話したい。だから一緒に酒でも飲まないか?」
このまままた逃げられるような失態は許されない。
酔ってはいないようだが、口づけると酒香が鼻を擽ったので、外で飲んできたのだと察した。
それならそれでそれを利用させてもらおう。
ロキとパーティー以外で飲んだことはなかったが、本音を引き出す手段としてはありだろう。
素面で逃げるならいっそ思い切り酔わせてしまおうか?
どうせこのままベッドに行けば拒まれるだろうし…。
そんな思いで俺は半ば無理矢理酒に誘った。
***
「……ロキ?」
全く顔色が変わらないから酔ってるのか酔ってないのかがわからない。
でも意外にも飲むピッチは早いから、そろそろ酔った頃合いかもしれない。
そう思って黙々と飲み続けていたロキに声を掛けた。
「なあロキ。お前は俺をどう思ってる?」
いつもなら好きですよと笑顔で返ってくる質問だが、今はどうだろう?
そう思いながらそっと顔色を窺ってみる。
そうしたらゆっくりと顔を上げていつも以上に病んだような目で俺を見つめてきた。
「ハハハハッ!」
そして楽しげに笑ったかと思うと、徐に顎を取られて妖艶にも見える目で誘惑するように見つめられ、たっぷりと視姦された。
「兄上?あまり笑わせないでください」
「ロ、ロキ?」
「俺が兄上をどう思ってるか?誰よりも愛しているに決まっているじゃないですか。できるなら俺以外の誰にも取られないよう閉じ込めて、俺なしじゃいられないほど依存させて沢山可愛がりたい、そう思ってるんですよ?」
それは正直熱烈な告白だった。
熱くどこか狂気の炎を燻らせる瞳に魅了されて、胸が弾む。
けれどそれはあっという間に悲しみに彩られて霧散してしまった。
「でもね?兄上は俺なんかには勿体ないほど凄い人なんです」
どうやらロキは相当俺への好きを拗らせているらしく、その感情の変化に俺の方が追いつかない。
でも言うべきことはちゃんと言っておこうと一応言葉を挟んでおいた。
「ロキ?俺はそんなにすごくはないぞ?」
そもそもご主人様と言って弟に抱かれている時点で察してほしいのだが…。
「いいんです。元々兄上は俺なんかには過ぎた人なんですから。浮気されても仕方がないし、俺なんてお飾りにして妃を沢山迎えてください」
知り合いに相談してスッキリしたし謝ろうと思って帰って来たけど、やっぱり自分なんて俺には相応しくない。エゴで縛り付けてすみませんでしたなんて涙を浮かべてヤケクソ気味に言い捨てられて愕然としてしまう。
もうどう言ってやったらいいのかさっぱりわからない。
兎に角俺が好き過ぎてヤケになっているのは物凄く伝わってきて、ダメだと思いつつ赤面するのを抑えられなかった。
「ロキ…俺はお前だけが好きだ」
「…………」
「だからお前の事をもっと知りたい」
「……え?」
「闇医者以外にお前と親しい奴はいるのか?どんな奴らだ?俺に教えてくれ」
今回のようにリヒターじゃダメな時の参考になるかもしれないと思い、ひとまずロキから情報を引き出しておくことにする。
ロキは特に秘匿する気もないようで、聞けば聞いただけ答えは返ってきて安心はできた。
でもその殆ど全員が裏稼業絡みのようで、聞いていてちょっと心配になってしまう。
騙されたりしないんだろうか?
「大丈夫ですよ。みんな俺が子供の頃からの知り合いですし、俺は壊れてるって有名ですから」
今回も散々それで笑われたと言うけれど、そこにはどこか気安い関係が透けて見えた。
「レンバーがね、あ、俺に閨事を教えてくれた男なんですけど、もう散々兄上に独りよがりな考えを押し付けてきたんだから、今更だし、ゴメンねフェラでもして仲直りしろって言ってきたんですよ……」
そろそろ酒量も限界といった感じでフラフラしながらポツリとこぼされた言葉に一瞬自分の耳を疑った。
(ロキに閨事を教えた?)
それは寝たって事じゃないのか?
それも気になるがゴメンねフェラってなんだ?
それも教えてもらったのか?
いつのことだ?
「ロキっ!」
聞き捨てならない言葉にガクガク肩を揺らしてやるが、ロキはそのままスヤスヤ寝入ってしまう。
(どうして最後の最後に爆弾を投下していくんだ?!)
絶対明日吐かせてやると思いながらロキをベッドに運んで、あまりにも腹立たしかったからあちこちにキスマークをつけてやった。
(ロキは俺のだ!)
リヒターだけじゃなく裏稼業の者達にも奪われたくはない。
(離れていかないよう何度でも捕まえてやる!)
そう思いながら、拗らせすぎの弟をしっかり抱きしめて俺は眠りについたのだった。
****************
※ロキは酒が過ぎると感情の起伏が激しくなって、口が軽くなるタイプ。
それが悔しくてたまらない。
しかも明々後日には戴冠式を控えているというのに、気づけば城のどこにも姿がなくて、城下に降りたのだと容易に知れた。
護衛にロキの暗部になった例の男がついているはずだが、迂闊にも程がある。
どれだけ王になる自覚がないのか。
(いや…それだけ息苦しかったという事か……)
ロキを型にはめるのは間違っている。
ただでさえ王になるのが憂鬱なところにとどめを刺してしまったんじゃないかと今更ながらに考えてしまう。
俺がロキを追い詰めてしまったんだろうか?
あれからどれだけどんなロキでも好きだと言ってもロキには全く伝わらなかった。
ロキにはただの慰めとしか映らなかったのだろう。
しかもいつもなら耳を貸すはずのリヒターの言葉も話半分に聞き流される始末。
両思いのはずなのにすれ違うこのじれったいほどの焦燥感は一体どうしたらいいのだろう?
もどかしくて仕方がない。
これまでどんな仕事にも最適解を見つけてきたはずなのに、ロキのことに至っては全く正解を導き出せないのだ。
「くそっ…」
他に誰かロキが聞く耳を持つ相手はいないのだろうか?
そんな思いに駆られていた時だった。
「カリン王子!」
明るいその声が耳に届いたのは。
そこに立っていたのはフランシス公爵の娘スカーレットだった。
婚約者であるミュゼにでも会いに来た帰りなのだろうか?
彼女は元俺の婚約者候補の一人で、そこそこ親しく付き合っていた相手でもあった。
だから普通に話しかけられそれに応えたに過ぎない。
「スカーレット嬢。ミュゼに会った帰りか?」
「はい」
ニコニコとした笑顔にささくれ立っていた気持ちがほんの少し癒される。
「ミュゼとはうまくやっていけそうか?」
「はい。勿論カリン王子の方が素敵ですけれど、夫として申し分ないお方だと思っていますわ」
「そうか。結婚式の日取りが決まったらまた教えてくれ。祝いの品で希望があれば好きなものを用意しよう」
「まあ、ありがとうございます!カリン王子が選んでくださったものならどれも素敵だと思いますけれど、そうですね…叶うなら扇子を一ついただきとうございます」
「扇子?ドレスやアクセサリーでなくても構わないのか?」
「はい。ドレスは着る回数はどうしても決まってしまいますし、アクセサリーもドレスによって替えなければなりませんわ。その点扇子でしたらいつでも持ち歩けますもの」
カリン王子から頂いたものは長く愛用したいのですと頬を染めながら言ってこられて、いじらしいなと思った。
けれどただそれだけだ。
彼女の可愛らしい仕草を見ても全く気持ちが動かされるといったことはない。
彼女に浮気心を抱くこともないし、ロキ以上に愛おしく感じるなどということも一切ない。
ロキは俺の特別なのだ。
そんな俺に彼女は余計な一言を口にしてくる。
「カリン王子。父からあの無…いえ、弟王子を籠絡して王配に収まり実権を握ると聞きました。私、そのお話を聞いて流石カリン王子と感動いたしましたの。大国を刺激せず上手く実権を握るその手腕には脱帽致しましたわ!私もミュゼ様の婚約者としてお側に控えておりますので、是非いつなりとお声がけください。国の行く末の為、お役に立てる日をいつでもお待ちしております」
それ即ち、ミュゼを隠れ蓑にして孕ませてくれてもいいのだと言われているのも同然の言葉で、腹立たしい気持ちでいっぱいになってしまった。
馬鹿も休み休み言えと言ってやりたい。
俺はロキが好きで支えてやりたいから王配になるのだ。
ロキを操り人形にするために王配になるのではない。
女を孕ませる気はないし、ロキ以外と肌を重ねる気は毛頭ない。
だからこそ彼女に対して激しい嫌悪を抱いた。
とは言えこれまでの王宮内では決してなくはない話なだけに言葉選びも的確で、無礼だと怒りを露わにするべきではないことくらいは百も承知だった。
だからサラリと流してこの場は当たり障りなく収め彼女と別れたのだが…。
部屋に戻ってすぐ、ソファに腰掛けたロキが泣きそうな顔で俺を見てきたところで俺は柄にもなく動揺してしまった。
「ロ、ロキ…?」
帰っていたのかと声を掛けると、ロキは悲しそうにしながらポツリと言葉を溢してくる。
「兄上…。俺、やっぱり兄上のお相手には女性の方がいいような気がしてきました」
その言葉に心臓が凍り付くかと思った。
「さっき…元婚約者候補の方と話してる兄上を見て、お似合いだなって思ったんです」
見られていたのかと動揺し、そんな言葉に身体が震えるのを感じる。
「だから……」
(だから、なんだ?)
先程の会話が会話だっただけに嫌な予感が頭をよぎる。
(嫌だ、嫌だ……っ)
「絶対にお前との結婚は取り止めにはしないからな!!」
最後まで言わせたくなくて俺は叫ぶようにそう言ったけど、ロキはどこか儚げに微笑しながら誤解しないでほしいと言ってきた。
「結婚は…しますよ?」
じゃあどうしてそんなに悲しげで、遠くに行ってしまいそうな空気を纏っているんだと思いながら必死に手を伸ばす。
「ロキ!」
「……兄上を俺のエゴで縛るのをやめた方がいいのかも知れないと…そう思っただけです」
それは……どういう意味なんだろう?
「兄上が抱かれたいなら抱きます。他の相手ができたら迎えてもいいです。全て兄上の良いようにして下さい」
ロキが言葉を紡げば紡ぐほど何故か離れていくようで、どうしようもないほどの焦燥に襲われて、気づけばその唇を奪っていた。
(戻ってこい!)
そんな思いを込めて必死にロキを自分へと繋ぎ止めにかかる。
しっかりとその身を抱き締め、自分以外に誰がやるんだと息を奪うように口づけた。
「ん…んん…?!」
驚いて最初は逃げようとした舌を絡めとり、逃げるなとあやすように深く口内を犯してやる。
「ん…ふ……。兄上…?」
「ロキ…ゆっくり落ち着いてお前と話したい。だから一緒に酒でも飲まないか?」
このまままた逃げられるような失態は許されない。
酔ってはいないようだが、口づけると酒香が鼻を擽ったので、外で飲んできたのだと察した。
それならそれでそれを利用させてもらおう。
ロキとパーティー以外で飲んだことはなかったが、本音を引き出す手段としてはありだろう。
素面で逃げるならいっそ思い切り酔わせてしまおうか?
どうせこのままベッドに行けば拒まれるだろうし…。
そんな思いで俺は半ば無理矢理酒に誘った。
***
「……ロキ?」
全く顔色が変わらないから酔ってるのか酔ってないのかがわからない。
でも意外にも飲むピッチは早いから、そろそろ酔った頃合いかもしれない。
そう思って黙々と飲み続けていたロキに声を掛けた。
「なあロキ。お前は俺をどう思ってる?」
いつもなら好きですよと笑顔で返ってくる質問だが、今はどうだろう?
そう思いながらそっと顔色を窺ってみる。
そうしたらゆっくりと顔を上げていつも以上に病んだような目で俺を見つめてきた。
「ハハハハッ!」
そして楽しげに笑ったかと思うと、徐に顎を取られて妖艶にも見える目で誘惑するように見つめられ、たっぷりと視姦された。
「兄上?あまり笑わせないでください」
「ロ、ロキ?」
「俺が兄上をどう思ってるか?誰よりも愛しているに決まっているじゃないですか。できるなら俺以外の誰にも取られないよう閉じ込めて、俺なしじゃいられないほど依存させて沢山可愛がりたい、そう思ってるんですよ?」
それは正直熱烈な告白だった。
熱くどこか狂気の炎を燻らせる瞳に魅了されて、胸が弾む。
けれどそれはあっという間に悲しみに彩られて霧散してしまった。
「でもね?兄上は俺なんかには勿体ないほど凄い人なんです」
どうやらロキは相当俺への好きを拗らせているらしく、その感情の変化に俺の方が追いつかない。
でも言うべきことはちゃんと言っておこうと一応言葉を挟んでおいた。
「ロキ?俺はそんなにすごくはないぞ?」
そもそもご主人様と言って弟に抱かれている時点で察してほしいのだが…。
「いいんです。元々兄上は俺なんかには過ぎた人なんですから。浮気されても仕方がないし、俺なんてお飾りにして妃を沢山迎えてください」
知り合いに相談してスッキリしたし謝ろうと思って帰って来たけど、やっぱり自分なんて俺には相応しくない。エゴで縛り付けてすみませんでしたなんて涙を浮かべてヤケクソ気味に言い捨てられて愕然としてしまう。
もうどう言ってやったらいいのかさっぱりわからない。
兎に角俺が好き過ぎてヤケになっているのは物凄く伝わってきて、ダメだと思いつつ赤面するのを抑えられなかった。
「ロキ…俺はお前だけが好きだ」
「…………」
「だからお前の事をもっと知りたい」
「……え?」
「闇医者以外にお前と親しい奴はいるのか?どんな奴らだ?俺に教えてくれ」
今回のようにリヒターじゃダメな時の参考になるかもしれないと思い、ひとまずロキから情報を引き出しておくことにする。
ロキは特に秘匿する気もないようで、聞けば聞いただけ答えは返ってきて安心はできた。
でもその殆ど全員が裏稼業絡みのようで、聞いていてちょっと心配になってしまう。
騙されたりしないんだろうか?
「大丈夫ですよ。みんな俺が子供の頃からの知り合いですし、俺は壊れてるって有名ですから」
今回も散々それで笑われたと言うけれど、そこにはどこか気安い関係が透けて見えた。
「レンバーがね、あ、俺に閨事を教えてくれた男なんですけど、もう散々兄上に独りよがりな考えを押し付けてきたんだから、今更だし、ゴメンねフェラでもして仲直りしろって言ってきたんですよ……」
そろそろ酒量も限界といった感じでフラフラしながらポツリとこぼされた言葉に一瞬自分の耳を疑った。
(ロキに閨事を教えた?)
それは寝たって事じゃないのか?
それも気になるがゴメンねフェラってなんだ?
それも教えてもらったのか?
いつのことだ?
「ロキっ!」
聞き捨てならない言葉にガクガク肩を揺らしてやるが、ロキはそのままスヤスヤ寝入ってしまう。
(どうして最後の最後に爆弾を投下していくんだ?!)
絶対明日吐かせてやると思いながらロキをベッドに運んで、あまりにも腹立たしかったからあちこちにキスマークをつけてやった。
(ロキは俺のだ!)
リヒターだけじゃなく裏稼業の者達にも奪われたくはない。
(離れていかないよう何度でも捕まえてやる!)
そう思いながら、拗らせすぎの弟をしっかり抱きしめて俺は眠りについたのだった。
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※ロキは酒が過ぎると感情の起伏が激しくなって、口が軽くなるタイプ。
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