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【その後の話】
13.これは断じてデートじゃない①
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最近王宮で噂を耳にするようになった。
「へぇ…あの王子がねぇ……」
「側妃ってあの護衛騎士の…?」
「いや、他にいるんじゃないかって噂も聞いたぞ?」
「ああ、なるほど。あっちはカモフラージュってことか」
そんな声がどこからともなく聞こえてくる。
曰く、あの恐ろしい王子が王子妃であるアルメリアの元ではなく、側妃として迎えた相手の元に足繁く通っているというものだ。
実際王子は毎日夕刻近くになると俺と手合わせするためこっちに来るので間違ってはいない。
ただ意味合いが違うだけだ。
夜の相手をするしないを賭けて本気で戦っているというのが実情なのに、この噂は王子が側妃を溺愛しているといった意味合いで広められていた。
しかも側妃が俺だというのは知る人ぞ知るという感じなので、そのまま受け取るのは俄かに信じ難いと、王子が愛する側妃は別にいるのではと言う実しやかな噂が流れていた。
それは別に俺にとっては悪いものではなかったので、将来的には本当にそうなってくれればいいのに…なんて思いながらその噂を聞き流していたところだ。
「ふんふ~ん…♪」
どこか鼻歌まじりに機嫌よく庭園脇の廊下を歩いていると、部下であるコリンズがやってきて姫が呼んでいると告げられた。
また何かこの国に対する要求事項だったりするんだろうか?
たまに姫は俺にこういったことを言ってくるのだ。
やれ『王子にお願いして〇〇を取りよせて欲しいと言ってきてくれ』だとか、『ドレスや靴を新調してもいいか聞いてきて欲しい』だとか……。
正直自分で言えばいいのにと思わないでもなかったけど、姫は是非俺に言ってきて欲しいのだと必死に訴えてくるから仕方なく俺が言いに行っている。
内容によっては別にわざわざ王子に頼みに行かないといけないものじゃないだろうと思って、一度試しに別な護衛騎士に頼んで行かせてみたことはあるが、そいつは震えながら戻ってきて俺に言った。
「騎士長。姫のお願い事は極力騎士長経由で王子に頼んで欲しいッス!」
「え?」
「王子からも直々にそう言われたッスよ!正直あんな怖い殺気初めてッス!騎士長、どうして平気なんスか?」
「は?騎士ならそれくらい耐えろ」
「無理ッスよ~!絶対殺されます!絶対ッス!」
どうやら運悪くあの王子に見つかって殺気を巻き散らされたようだ。
でも騎士ならそれくらい耐えろと軽く流そうとしたが、あんなの俺以外簡単に受け流せないと泣きつかれた。
まあ…確かにあの王子の実力から言えば、俺以外の護衛騎士なんて殺すのは容易いだろうし、そもそも連れてきたのが戦場経験のない若手騎士が主だからこうなってもおかしくはないのか?とちょっとだけ納得もいった。
「しょうがないな。じゃあ今度からは極力俺が言いに行くよ」
「ありがとうございますッ!」
情けないと思いつつ、それ以来姫のお願い事を王子の元に持って行くのは俺の役目になっている。
なんだかますますここから逃げ出せなくなっている気がするのは気のせいだろうか?
(あの王子ももうちょっと殺気を抑えればいいのにな…)
姫は何故か「アルフレッドは愛され過ぎて殺気が向けられていないのではなくて?」なんて言ってくるけど、そんなことはない。
特に手合わせの時の殺気はぞくぞくする程だ。
戦場を思い出しやる気満々になれるから、俺としては自然と笑みまで浮かんでしまうし殺気もいいもんだと思うけど、どうもその感覚は一般的な感覚からは程遠いらしい。
でも今度一応言ってみようか?俺以外に殺気を向けるのはちょっと控えたらどうかと。
まああの王子が素直に聞くとは思えないけれど…。
そんなことを考えながら歩いていると姫の部屋の前までたどり着いた。
コンコン…と軽くドアをノックし名を名乗ると、すぐに入れとの言葉が返ってきたので素直に入室する。
「姫、お呼びと伺いましたがご用件は?」
「アルフレッド!待っていたわ!」
そして姫は蒼白になりながら一着の服を俺へと差し出し、この後街歩きに行くから付き合えと言ってきた。
「さっきセドリック王子から連絡が入って、この後街に行くから付いて来いって…。私もう恐ろしくて恐ろしくて…」
「はぁ」
どうやら珍しく王子からデートの誘いを受けたらしく、怖いから護衛も兼ねて付き添ってくれとのことだった。
ただの街歩きなら他の護衛騎士に任せたらいいが、王子が一緒だと言うなら俺が一緒の方がいいと言ったところなのだろう。
それなら職務範囲だし全く問題はない。
「いい?私の護衛は他の護衛がやってくれるから、王子の相手はできるだけ全部貴方がやってちょうだい。貴方はあの方の気を惹いて私に殺気が飛んでこないように盾になってくれたらそれでいいから!お願いね?」
なんだか護衛の役目が俺だけちょっと違うらしいが、言っていることの意味は分かるからまあいいかと思って引き受けることにした。
「来たか」
姫から手渡された服に着替え、姫と他の護衛騎士を連れて馬車止めまでやってくるとそこにはすでに王子がいて、にこやかに出迎えてくれた。
どうやら今日は機嫌が良さそうだ。
「アル…」
しかし何故か俺の手を取って馬車に促そうとしてきたので、姫が先だろうと冷たい目を向けてしまう。
何故護衛である俺が先に馬車に乗り込まなければならないのか。
「どう考えても扉付近が護衛騎士である俺の場所でしょう?どうぞ王子は姫の手をお取りください」
そっちが正妃なんだからちゃんとやって欲しい。
なのにそれを聞いた姫は真っ青になりながら俺と王子を交互に見遣り、一人で乗れるわと言い出し馬車へと向かおうとした。
淑女がそんなことをしたらダメに決まっているのに。
どれだけ王子が怖いんだ。
「姫、俺がエスコートしますよ。お手をどうぞ」
可哀想にブルブル震えてすっかり怯えてしまっている。
「あ…あのね、アルフレッド。その…」
「なんです?」
「視線避けになって欲しいから、貴方にはセドリック王子のお相手をしてほしいのよ。エスコートは別の騎士にお願いしたいわ」
涙目でそんなことを言われたら俺としては困ってしまうのだが…。
こんなのすぐだというのに。……仕方がない。
「コリンズ」
「はっ!姫、お手をどうぞ」
すかさずコリンズが手を差し出し姫を馬車へと乗り込ませる。
すると今度こそ王子が俺へと手を差し出し、どこか甘い声で名を呼んだ。
「アル、俺達も乗ろうか」
「…はあ」
正直冗談でもエスコートのようなことはしてくれなくて構わないのだが、王子の機嫌を損ねて馬車の中が殺伐としたらまた姫が怯えるかもしれないと考えると断るのは悪手かとおとなしく手を取ることにした。
「へぇ…あの王子がねぇ……」
「側妃ってあの護衛騎士の…?」
「いや、他にいるんじゃないかって噂も聞いたぞ?」
「ああ、なるほど。あっちはカモフラージュってことか」
そんな声がどこからともなく聞こえてくる。
曰く、あの恐ろしい王子が王子妃であるアルメリアの元ではなく、側妃として迎えた相手の元に足繁く通っているというものだ。
実際王子は毎日夕刻近くになると俺と手合わせするためこっちに来るので間違ってはいない。
ただ意味合いが違うだけだ。
夜の相手をするしないを賭けて本気で戦っているというのが実情なのに、この噂は王子が側妃を溺愛しているといった意味合いで広められていた。
しかも側妃が俺だというのは知る人ぞ知るという感じなので、そのまま受け取るのは俄かに信じ難いと、王子が愛する側妃は別にいるのではと言う実しやかな噂が流れていた。
それは別に俺にとっては悪いものではなかったので、将来的には本当にそうなってくれればいいのに…なんて思いながらその噂を聞き流していたところだ。
「ふんふ~ん…♪」
どこか鼻歌まじりに機嫌よく庭園脇の廊下を歩いていると、部下であるコリンズがやってきて姫が呼んでいると告げられた。
また何かこの国に対する要求事項だったりするんだろうか?
たまに姫は俺にこういったことを言ってくるのだ。
やれ『王子にお願いして〇〇を取りよせて欲しいと言ってきてくれ』だとか、『ドレスや靴を新調してもいいか聞いてきて欲しい』だとか……。
正直自分で言えばいいのにと思わないでもなかったけど、姫は是非俺に言ってきて欲しいのだと必死に訴えてくるから仕方なく俺が言いに行っている。
内容によっては別にわざわざ王子に頼みに行かないといけないものじゃないだろうと思って、一度試しに別な護衛騎士に頼んで行かせてみたことはあるが、そいつは震えながら戻ってきて俺に言った。
「騎士長。姫のお願い事は極力騎士長経由で王子に頼んで欲しいッス!」
「え?」
「王子からも直々にそう言われたッスよ!正直あんな怖い殺気初めてッス!騎士長、どうして平気なんスか?」
「は?騎士ならそれくらい耐えろ」
「無理ッスよ~!絶対殺されます!絶対ッス!」
どうやら運悪くあの王子に見つかって殺気を巻き散らされたようだ。
でも騎士ならそれくらい耐えろと軽く流そうとしたが、あんなの俺以外簡単に受け流せないと泣きつかれた。
まあ…確かにあの王子の実力から言えば、俺以外の護衛騎士なんて殺すのは容易いだろうし、そもそも連れてきたのが戦場経験のない若手騎士が主だからこうなってもおかしくはないのか?とちょっとだけ納得もいった。
「しょうがないな。じゃあ今度からは極力俺が言いに行くよ」
「ありがとうございますッ!」
情けないと思いつつ、それ以来姫のお願い事を王子の元に持って行くのは俺の役目になっている。
なんだかますますここから逃げ出せなくなっている気がするのは気のせいだろうか?
(あの王子ももうちょっと殺気を抑えればいいのにな…)
姫は何故か「アルフレッドは愛され過ぎて殺気が向けられていないのではなくて?」なんて言ってくるけど、そんなことはない。
特に手合わせの時の殺気はぞくぞくする程だ。
戦場を思い出しやる気満々になれるから、俺としては自然と笑みまで浮かんでしまうし殺気もいいもんだと思うけど、どうもその感覚は一般的な感覚からは程遠いらしい。
でも今度一応言ってみようか?俺以外に殺気を向けるのはちょっと控えたらどうかと。
まああの王子が素直に聞くとは思えないけれど…。
そんなことを考えながら歩いていると姫の部屋の前までたどり着いた。
コンコン…と軽くドアをノックし名を名乗ると、すぐに入れとの言葉が返ってきたので素直に入室する。
「姫、お呼びと伺いましたがご用件は?」
「アルフレッド!待っていたわ!」
そして姫は蒼白になりながら一着の服を俺へと差し出し、この後街歩きに行くから付き合えと言ってきた。
「さっきセドリック王子から連絡が入って、この後街に行くから付いて来いって…。私もう恐ろしくて恐ろしくて…」
「はぁ」
どうやら珍しく王子からデートの誘いを受けたらしく、怖いから護衛も兼ねて付き添ってくれとのことだった。
ただの街歩きなら他の護衛騎士に任せたらいいが、王子が一緒だと言うなら俺が一緒の方がいいと言ったところなのだろう。
それなら職務範囲だし全く問題はない。
「いい?私の護衛は他の護衛がやってくれるから、王子の相手はできるだけ全部貴方がやってちょうだい。貴方はあの方の気を惹いて私に殺気が飛んでこないように盾になってくれたらそれでいいから!お願いね?」
なんだか護衛の役目が俺だけちょっと違うらしいが、言っていることの意味は分かるからまあいいかと思って引き受けることにした。
「来たか」
姫から手渡された服に着替え、姫と他の護衛騎士を連れて馬車止めまでやってくるとそこにはすでに王子がいて、にこやかに出迎えてくれた。
どうやら今日は機嫌が良さそうだ。
「アル…」
しかし何故か俺の手を取って馬車に促そうとしてきたので、姫が先だろうと冷たい目を向けてしまう。
何故護衛である俺が先に馬車に乗り込まなければならないのか。
「どう考えても扉付近が護衛騎士である俺の場所でしょう?どうぞ王子は姫の手をお取りください」
そっちが正妃なんだからちゃんとやって欲しい。
なのにそれを聞いた姫は真っ青になりながら俺と王子を交互に見遣り、一人で乗れるわと言い出し馬車へと向かおうとした。
淑女がそんなことをしたらダメに決まっているのに。
どれだけ王子が怖いんだ。
「姫、俺がエスコートしますよ。お手をどうぞ」
可哀想にブルブル震えてすっかり怯えてしまっている。
「あ…あのね、アルフレッド。その…」
「なんです?」
「視線避けになって欲しいから、貴方にはセドリック王子のお相手をしてほしいのよ。エスコートは別の騎士にお願いしたいわ」
涙目でそんなことを言われたら俺としては困ってしまうのだが…。
こんなのすぐだというのに。……仕方がない。
「コリンズ」
「はっ!姫、お手をどうぞ」
すかさずコリンズが手を差し出し姫を馬車へと乗り込ませる。
すると今度こそ王子が俺へと手を差し出し、どこか甘い声で名を呼んだ。
「アル、俺達も乗ろうか」
「…はあ」
正直冗談でもエスコートのようなことはしてくれなくて構わないのだが、王子の機嫌を損ねて馬車の中が殺伐としたらまた姫が怯えるかもしれないと考えると断るのは悪手かとおとなしく手を取ることにした。
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