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【本編】
6.気になる護衛騎士 Side.セドリック
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俺はずっと退屈だった。
ブルーグレイ王国の王太子として生まれ、国のためにあれと言われ続け、国政を学び人を使うことを覚え国を動かすすべを知った。
けれどそんな日々は酷く空しくて、時折自分の中の獣が荒れ狂う。
気に入らない者には容赦など覚えず、歯向かう者には鉄槌を。
冷酷に、冷徹に沙汰を下し淡々と悪を裁く俺はいつしか周辺諸国にまで噂されるほどの極悪王子になっていた。
戦争で一国を滅ぼしたのもその噂に一役買ってしまったのかもしれない。
小国風情がこちらの大臣と国の乗っ取りなどを画策するからいけないのに、どうしてこちらがそれで責められないといけないのだ。
全く気にくわないにもほどがある。
お陰で嫁選びにも随分苦労する羽目になった。
打診しては断られ打診しては断られ……延々と続くそれにいい加減嫌気が差したところで俺は父王に一つの提案を出した。
断られるというのなら断られないよう相手の弱みを握ってから交渉すればよいのではと…。
早速父は各国の情報を精査し、弱みを探った。
嫁入りできる年頃の姫がいて、且つ弱みを持っている国────それがミラルカ皇国だった。
ミラルカ皇国はここ数年天災に見舞われ国勢に陰りがみられていた。
それを補うために他国へと援助を持ち掛け、多額の借金を抱える羽目になっていたのだ。
(これはいい)
幸い姫の年齢も多少離れてはいるものの許容範囲内。
この国の状況ほど使えるものはないとばかりに嫁入り交渉へと入ると、案の定渋々ではあったが姫の輿入れに同意を得ることができた。
これでブルーグレイの未来はほぼ約束されたも同然だ。
後は姫が勘違いして贅沢三昧をしないようしっかり釘をさしておけばいいだけだ。
中には大国に嫁いだのだからと羽目を外す輩もいると聞くし、こういうことは最初が肝心だろう。
そう思って輿入れしてきた初日に気絶しない程度に殺気を飛ばしてやった。
もちろん姫だけではなくその隣に控えていた護衛騎士共々だ。
そもそも普通は護衛は一緒に謁見の間に入ることなどないのだが、姫がどうしてもと譲らず連れてきた男だった。
恐らく何となく嫌な予感でもしていたのだろう。
腰を抜かした時に助けてもらえるとでも思ったのかもしれない。
それくらい俺の悪名は姫の耳にも届いていただろうから…。
狙い通り睨みを利かせた俺の前で姫はブルブルと震えながら怯えていた。
これできっとこの国でおかしな真似はしてこないことだろう。
けれど俺にとって予想外のことが一つだけあった。
────護衛騎士だ。
年は二十歳そこそこだろうか?
一見どこにでもいる若い騎士で、艶のある黒髪と全てを見透かすかのような透き通った青い瞳を持つ男だった。
そんな男が真っ直ぐにこちらを見つめて言葉を紡ぐ。
「お初にお目に掛かります殿下。この度は我が国の王女、アルメリア姫をお迎えいただき感謝申し上げます。何分不慣れなことも多く、また繊細な姫君でもありますので私が代わりにお話させて頂くことをお許しいただけたらと思います」
全く淀みなくそんな言葉を口にしてくる男に俺は興味を持った。
俺から殺気を向けられても全く動じないその姿に酷く興味をそそられたのだ。
護衛騎士だから?違う。ブルーグレイの騎士でも俺から殺気を向けられれば一瞬なりともビクッと身体を震わせたり蒼白になったりと何かしらのリアクションを取る。
それなのにこの騎士はそんなリアクションを全くとることもなく、平然と受け流したのだ。
これだけでも十分おかしい。
俺は試しに更に殺気を込めて男を睨んでみたが、これもまたサラリと受け流された。只者ではない。
だから尋ねたのだ。
「お前は?」
「はい。今回姫の護衛騎士として参りました、筆頭騎士長のアルフレッドと申します。何かございましたら私の方までご連絡頂ければ幸いです」
「……そうか」
アルフレッド…アルフレッドか。
(その名前、しかと覚えたぞ)
姫の護衛など正直どうでもいいと思っていたが、この男に関しては俄然興味が湧いたので早速暗部に探らせようと思った。
それなのにこの男は気づけばそんな暗部の目からするりと抜け出したり、捕まえて牽制したり、お勤めご苦労さんと声を掛けたりしてきたのだ。
ここまで行くともう笑うしかない。
念のため他の護衛騎士や侍女達にも暗部を差し向け探ってみたが、こちらは何の問題もなく情報を得てくることができた。
やはりあの男だけが他とは違うのだ。
筆頭騎士長と言っていたが、確かにそれだけの実力いや、それ以上の実力が窺える人物だった。
(益々気に入った)
そして迎えた結婚式当日────。
思った通りアルフレッドは姫の傍に控えていて、護衛騎士としての仕事を全うしていた。
勿論他の護衛騎士もいるがそんなもの俺の視界にはほぼ入ってはこない。
「来たか」
その言葉は姫ではなくアルフレッドに対して言ったものだとこの場にいた誰が想像しただろう?
花嫁よりも待ち望んでいたのが護衛騎士とは笑わせる。
俺を前にして怯えることしかできない姫には用はない。
そんな思いが冷たい眼差しとなって姫へと向けられたのを彼女は敏感に感じ取ってしまう。
それによって腰が抜けて立ち上がれないほどの恐怖心を抱かせてしまったようだった。
するとすかさずアルフレッドが間へと入り、フォローを入れてくる。
「姫、深呼吸して落ち着いてください」
「お、落ち着くなんて無理よ…!」
「このままでは誓いを行うための聖壇前にたどり着けませんよ?」
「そんなことを言っても立てないものは立てないのよ。アルフレッド、もういっそ代わってくれないかしら?」
姫もなかなか面白いことを言う。
(俺としてはそうしてくれても全く構わないが?)
けれど他国からの賓客が大勢訪れていることを知っているアルフレッドがそれをおとなしく受け入れるはずもない。
「寝言は寝てから言ってください。どこに花嫁の代わりに愛の誓いをする騎士がいるんですか」
「でも同じアル仲間じゃないの。お願い!」
「アルメリア様は姫でアルフレッドである俺は騎士です。変な共通点を見出さずさっさと義務を果たしてください」
「うぅ…酷いわ……」
けれどこのやり取りを受けて俺は一つの光明を見いだした。
上手くやればこの男を手に入れられるかもしれないと思ったのだ。
それを考えるとおかしくてたまらない気持ちになってしまった。
「ククッ…面白い姫だな。ではこうしようではないか」
そしてふわりと姫の身体を横抱きにし、笑顔でこう宣う。
(さっさとつまらない行事は終わらせてしまわないとな…)
「この式さえ乗り切ったなら、後は好きにしてくれて構わないぞ?」
「そ…その言葉は、ほ、本当ですか?」
「ああ。これは政略結婚だ。俺を好きになれとは言わないし、嫌なら宮に籠って暮らせばいい。最低限の義務さえ果たせば其方は自由だ」」
「…………わかりましたわ」
そして姫はアルフレッドに聞こえないようにこっそりと俺へと耳打ちした。
「本日の初夜は別な者を遣わしても構いませんか?」
もちろんだ。
それがアルフレッドであればこの姫の待遇も悪いようにはしない。
(さて…どうなることか)
先程のやり取りから察するにきっと間違いなくアルフレッドが送られてくることだろう。
何故なら他の者にその役目をこなせるとは思えないからだ。
(今夜は哀れな子羊のために祝い酒を大量に用意しておくとしようか)
そして俺は上機嫌で姫を抱き上げながらつまらない茶番を終わらせたのだった。
****************
※次回R-18のため、苦手な方はお気を付けください。
※ちなみにアルフレッドは別に小柄なわけでなく、身長は178センチくらいの細マッチョイメージ。
王子は185センチくらいなのでそこまで身長差があるわけではない感じ。
逆に姫は160センチくらい。
年齢はセドリック王子が24才、アルフレッドが22才、姫が16才。
そりゃ怖いよなと何となくでもわかって頂ければ…。
ブルーグレイ王国の王太子として生まれ、国のためにあれと言われ続け、国政を学び人を使うことを覚え国を動かすすべを知った。
けれどそんな日々は酷く空しくて、時折自分の中の獣が荒れ狂う。
気に入らない者には容赦など覚えず、歯向かう者には鉄槌を。
冷酷に、冷徹に沙汰を下し淡々と悪を裁く俺はいつしか周辺諸国にまで噂されるほどの極悪王子になっていた。
戦争で一国を滅ぼしたのもその噂に一役買ってしまったのかもしれない。
小国風情がこちらの大臣と国の乗っ取りなどを画策するからいけないのに、どうしてこちらがそれで責められないといけないのだ。
全く気にくわないにもほどがある。
お陰で嫁選びにも随分苦労する羽目になった。
打診しては断られ打診しては断られ……延々と続くそれにいい加減嫌気が差したところで俺は父王に一つの提案を出した。
断られるというのなら断られないよう相手の弱みを握ってから交渉すればよいのではと…。
早速父は各国の情報を精査し、弱みを探った。
嫁入りできる年頃の姫がいて、且つ弱みを持っている国────それがミラルカ皇国だった。
ミラルカ皇国はここ数年天災に見舞われ国勢に陰りがみられていた。
それを補うために他国へと援助を持ち掛け、多額の借金を抱える羽目になっていたのだ。
(これはいい)
幸い姫の年齢も多少離れてはいるものの許容範囲内。
この国の状況ほど使えるものはないとばかりに嫁入り交渉へと入ると、案の定渋々ではあったが姫の輿入れに同意を得ることができた。
これでブルーグレイの未来はほぼ約束されたも同然だ。
後は姫が勘違いして贅沢三昧をしないようしっかり釘をさしておけばいいだけだ。
中には大国に嫁いだのだからと羽目を外す輩もいると聞くし、こういうことは最初が肝心だろう。
そう思って輿入れしてきた初日に気絶しない程度に殺気を飛ばしてやった。
もちろん姫だけではなくその隣に控えていた護衛騎士共々だ。
そもそも普通は護衛は一緒に謁見の間に入ることなどないのだが、姫がどうしてもと譲らず連れてきた男だった。
恐らく何となく嫌な予感でもしていたのだろう。
腰を抜かした時に助けてもらえるとでも思ったのかもしれない。
それくらい俺の悪名は姫の耳にも届いていただろうから…。
狙い通り睨みを利かせた俺の前で姫はブルブルと震えながら怯えていた。
これできっとこの国でおかしな真似はしてこないことだろう。
けれど俺にとって予想外のことが一つだけあった。
────護衛騎士だ。
年は二十歳そこそこだろうか?
一見どこにでもいる若い騎士で、艶のある黒髪と全てを見透かすかのような透き通った青い瞳を持つ男だった。
そんな男が真っ直ぐにこちらを見つめて言葉を紡ぐ。
「お初にお目に掛かります殿下。この度は我が国の王女、アルメリア姫をお迎えいただき感謝申し上げます。何分不慣れなことも多く、また繊細な姫君でもありますので私が代わりにお話させて頂くことをお許しいただけたらと思います」
全く淀みなくそんな言葉を口にしてくる男に俺は興味を持った。
俺から殺気を向けられても全く動じないその姿に酷く興味をそそられたのだ。
護衛騎士だから?違う。ブルーグレイの騎士でも俺から殺気を向けられれば一瞬なりともビクッと身体を震わせたり蒼白になったりと何かしらのリアクションを取る。
それなのにこの騎士はそんなリアクションを全くとることもなく、平然と受け流したのだ。
これだけでも十分おかしい。
俺は試しに更に殺気を込めて男を睨んでみたが、これもまたサラリと受け流された。只者ではない。
だから尋ねたのだ。
「お前は?」
「はい。今回姫の護衛騎士として参りました、筆頭騎士長のアルフレッドと申します。何かございましたら私の方までご連絡頂ければ幸いです」
「……そうか」
アルフレッド…アルフレッドか。
(その名前、しかと覚えたぞ)
姫の護衛など正直どうでもいいと思っていたが、この男に関しては俄然興味が湧いたので早速暗部に探らせようと思った。
それなのにこの男は気づけばそんな暗部の目からするりと抜け出したり、捕まえて牽制したり、お勤めご苦労さんと声を掛けたりしてきたのだ。
ここまで行くともう笑うしかない。
念のため他の護衛騎士や侍女達にも暗部を差し向け探ってみたが、こちらは何の問題もなく情報を得てくることができた。
やはりあの男だけが他とは違うのだ。
筆頭騎士長と言っていたが、確かにそれだけの実力いや、それ以上の実力が窺える人物だった。
(益々気に入った)
そして迎えた結婚式当日────。
思った通りアルフレッドは姫の傍に控えていて、護衛騎士としての仕事を全うしていた。
勿論他の護衛騎士もいるがそんなもの俺の視界にはほぼ入ってはこない。
「来たか」
その言葉は姫ではなくアルフレッドに対して言ったものだとこの場にいた誰が想像しただろう?
花嫁よりも待ち望んでいたのが護衛騎士とは笑わせる。
俺を前にして怯えることしかできない姫には用はない。
そんな思いが冷たい眼差しとなって姫へと向けられたのを彼女は敏感に感じ取ってしまう。
それによって腰が抜けて立ち上がれないほどの恐怖心を抱かせてしまったようだった。
するとすかさずアルフレッドが間へと入り、フォローを入れてくる。
「姫、深呼吸して落ち着いてください」
「お、落ち着くなんて無理よ…!」
「このままでは誓いを行うための聖壇前にたどり着けませんよ?」
「そんなことを言っても立てないものは立てないのよ。アルフレッド、もういっそ代わってくれないかしら?」
姫もなかなか面白いことを言う。
(俺としてはそうしてくれても全く構わないが?)
けれど他国からの賓客が大勢訪れていることを知っているアルフレッドがそれをおとなしく受け入れるはずもない。
「寝言は寝てから言ってください。どこに花嫁の代わりに愛の誓いをする騎士がいるんですか」
「でも同じアル仲間じゃないの。お願い!」
「アルメリア様は姫でアルフレッドである俺は騎士です。変な共通点を見出さずさっさと義務を果たしてください」
「うぅ…酷いわ……」
けれどこのやり取りを受けて俺は一つの光明を見いだした。
上手くやればこの男を手に入れられるかもしれないと思ったのだ。
それを考えるとおかしくてたまらない気持ちになってしまった。
「ククッ…面白い姫だな。ではこうしようではないか」
そしてふわりと姫の身体を横抱きにし、笑顔でこう宣う。
(さっさとつまらない行事は終わらせてしまわないとな…)
「この式さえ乗り切ったなら、後は好きにしてくれて構わないぞ?」
「そ…その言葉は、ほ、本当ですか?」
「ああ。これは政略結婚だ。俺を好きになれとは言わないし、嫌なら宮に籠って暮らせばいい。最低限の義務さえ果たせば其方は自由だ」」
「…………わかりましたわ」
そして姫はアルフレッドに聞こえないようにこっそりと俺へと耳打ちした。
「本日の初夜は別な者を遣わしても構いませんか?」
もちろんだ。
それがアルフレッドであればこの姫の待遇も悪いようにはしない。
(さて…どうなることか)
先程のやり取りから察するにきっと間違いなくアルフレッドが送られてくることだろう。
何故なら他の者にその役目をこなせるとは思えないからだ。
(今夜は哀れな子羊のために祝い酒を大量に用意しておくとしようか)
そして俺は上機嫌で姫を抱き上げながらつまらない茶番を終わらせたのだった。
****************
※次回R-18のため、苦手な方はお気を付けください。
※ちなみにアルフレッドは別に小柄なわけでなく、身長は178センチくらいの細マッチョイメージ。
王子は185センチくらいなのでそこまで身長差があるわけではない感じ。
逆に姫は160センチくらい。
年齢はセドリック王子が24才、アルフレッドが22才、姫が16才。
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