見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
113 / 276
呪怨劇

15、唐突な接触、襲い来る絶望感

しおりを挟む
 教室を出た護は、背後から感じていた気配がなくなったことに気づいた。
 それを気にして、思わず振り向いてしまったが、そこには何もない。
 だが、何かに見られているような気配があったことは確かだ。

 ――いったい、なんだったんだ?

 正体不明の気配に、護は眉をひそめる。
 瘴気に引き寄せられてきた妖の類か、この瘴気を利用しようとしている誰かなのか、はたまたこの瘴気を生み出した元凶か。
 いずれにしても、何か良くないものが絡んできている。
 護の直感がそう告げていた。

 ――警戒しとくにこしたことはないか……

 こういう時の直感はよく当たる。
 護は経験でそれを知っているため、一応、気に留めておくことにして、目的の場所へと急いだ。
 一方、法師が使鬼として力を貸している佳代は、まだ教室に残っていた。
 力を貸してくれている法師から、呪具が何者かに破壊されたと伝えられたため、追加の呪具を仕込むためだ。
 呪具を仕込みながら佳代子は。

 ――少し、慎重さが欠けていたかもしれない……これは少し反省ね

 呪具は見つからないように、隠ぺいしたつもりだった。
 だが、わずかな違和感に気づいた誰かが、呪具を見つけて、捨ててしまったのだろう。
 法師曰く、あの呪具は一つの場所に長い時間とどまってこそ、意味があるものらしい。
 新しい呪具を用意すれば、たしかに呪詛は継続される。
 だが、それまで使っていた呪具の効力よりも、数段、効力が落ちるのだとか。
 じわじわと、ゆっくり苦しめていくには、それもいいかもしれない。
 だが、呪具を隠した場所を見ることは、その呪具に込められた念を完全に消してしまい、呪詛が成立しなくなってしまう恐れがある。
 そのため、自分で呪具を取り替えることはできない。

 ――けど、誰だろう?この呪具の隠し場所を見つけたのって

 佳代の脳裏に疑問が浮かび上がる。
 基本的にクラスメイトたちは佳代に関心を持っていない。
 そもそも、佳代が呪具を隠している時間帯は全員が帰った、あるいは部活動でこの場を離れている放課後である。
 現場を押さえられていた、という事態があるはずはない。
 だとすれば、本当に鋭い観察眼を持っているクラスメイトがいるのか、あるいは、本物の霊能者がいるのか。
 いずれにしても、今後、呪具を仕掛けるには慎重に慎重を重ねなければいけない。
 そう思う反面、同時に。

 ――けど、もし本当に霊能者が見つけたなら、わたしの味方をしてほしいな……

 不思議なこと、不思議なものに幼い頃から興味があり、いわゆる、超能力やオカルトには、幼い頃から何故か心惹かれていた。
 それが高じて、ホラーやオカルト小説を読むようになり、やがて本の虫とまで呼ばれるほどになる。
 その後、ジャンルの特殊性のせいか、風変わりな生徒、として捉えられ、いつしかいじめの対象として取られるようになってしまった。

――興味があるものがオカルト系だったのにいじめられて……仕返ししようとして、呪いのことについても調べたっけ

 人を呪わば穴二つという言葉も、その過程で知った。
 本に登場する呪いをかけた登場人物たちが、ことごとく、非業の最期を遂げていることも。
 だから、いままで仕返しをすることも、心の中で呪詛を吐きつけるようなことはしなかった。

――けど、もう限界……仕返ししないと、わたしの心がもたない

 もし、本当の霊能者が自分の仕掛けた呪具を見つけたなら、その人もまた、理不尽にさらされてきたに違いない。
 だからこそ、まずは自分にとっての理不尽の象徴である彼女たちを懲らしめることに協力してほしいと思っているのだ。
 むろん、代償として次は自分が、その人が受けてきた理不尽への復讐に力を貸すつもりでいる。
 けれど、何よりもそう思う心の奥底には。

 ――そしたら……友達に、なってくれるかな?

 という、寂しさを埋めたいという願望がある。
 しかし、その願望がかなうことも、佳代の淡い期待も、すぐに崩れ去ることになってしまった。

 「なるほど。やっぱり、お前だったわけだ。呪具を仕込んでたのは」
 「……え?」

 突然、がらがら、と教室の扉が開く音が聞こえてきた。
 思わず、視線を扉の方へむける。
 そこにはいままで見たことがある、まるで何事にも無関心であるかのような感情のない瞳ではなく、自分を蔑むような冷たい瞳を向けている護の姿があった。
 生徒は全員、帰宅、あるいは部活動に出席するため、教室を後にしたはず。
 なぜ、ここに彼が、自分が恋心を向けた男子がいるのか。
 佳代は唐突すぎる遭遇に、頭が真っ白になる。
 だが、そんな彼女に慈悲をむけるつもりはなく、むしろ知ったことではないといった風に、護は教室に入り、佳代の手に握られていた呪具を掴み、持ち上げた。

 「……あっ!」

 当然、佳代はそれを取り返そうと手を伸ばした。
 だが、護は佳代の伸ばした手を掴み、それを阻止する。
 佳代の腕をつかむと、護は呆れと怒りが混ざったようなため息をついて、口を開いた。

 「まったく。素人が呪詛なんて物騒なことしようとするな」
 「……っ!!」

 なぜ、自分が呪詛を行おうとしていることに気づいたのか。
 佳代は目を丸くする。
 いや、そもそもこれが呪具であるということになぜ気づいたのか。

――まさか、今朝わたしが仕掛けた呪具を処分したのは……土御門くん、なの?

 その結論が頭をよぎった瞬間。
 佳代の脳裏は。

――この世に、わたしの味方になってくれる人は誰もいない……わたしには、手を差し出して助けてくれる人はいないんだ

 そんな絶望感で埋め尽くされた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...