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呪怨劇
14、思わぬ術比べ、もっとも仕掛けられた側はその事実を知らず
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護がかつての宿敵であることを知った法師は佳代に、彼女を今まで害してきた者たちに呪詛をかけるための力を貸す、という契約を交わしていた。
だが、よもやこの教室にかつての怨敵がいようとは思いもせず。
――いかんのぉ、実にいかん。仕事を二の次にして術比べをしたくなってしまうわい
自分に屈辱を与えたあの男の子孫ならば、どれだけの実力を有しているのか、どれだけの術をあの男が子孫に伝えてきたのか。
それらの好奇心がなかった、というわけではない。
その好奇心を満たすため、いますぐに術比べをして、確かめたいという衝動が襲いかかってくる。
何より、今、この若者に勝利すれば、この胸の内に燻っている怨念の炎を、いくらかでも晴らすことができるのではないか。
そんな想いが心の内を支配していた。
――とはいえ、いまはまだあの小娘に力を貸すだけにしておくとしようか……小娘を介してのこの術比べ。その陰にわしがおることに気づくかどうかも見ものじゃてのぉ
仮初めとはいえ、あくまで今の自分は佳代の使鬼。
その分をわきまえてのことなのか、法師はどうにかその衝動を抑えた。
とはいえ、完全には抑え込めなかったらしく、殺気じみた瘴気の混ざった霊力が若干、隠形術から漏れ出てしまったらしい。
そのわずかな瘴気が、自分に向けられていると気づいたのか、護は弾かれるように背後を振り向き、注意深く周囲を見回す。
その姿から、法師は自分の気配が隠形術が隠すことのできる範囲を超えてしまったことを察して、平静を保とうと息を整える。
――ここでわしの存在を知られては面白くない……これより先はより慎重にいかねばのぉ
危うく見つかるところではあったが、法師は乱れた心に平静を取り戻すと、再び、霊力を隠形術の中に隠す。
だが漏れ出た霊力を警戒してか、少しの間、護は何かを怪しむように周囲を注意深く見回し、警戒を強めてしまった。
どうやら、護がこの教室にいる間、自分はしばらく佳代のそばから離れたほうがいいようだ。
そう考えると、法師は周囲を見回し、どうすれば護にばれることなく、この教室を抜け出すことができるのか、考え始めた。
しばらく周囲を見回すと。
――ふむ?あのような所に結界のむらがあるのぉ……
法師は、結界の一角に、わずかな、本当にわずかなほころびに疑問を感じ取る。
これだけ強固な結界を作り上げておきながら、なぜ、そこにだけやけに結界が薄い場所になっているのか。
普通なら、なにも考えずにその綻びから抜け出そうとするだろう。
だが、法師は千年以上の昔から、術者として生きてきた、いわば超ベテランだ。
そこに何かあると考えるのは、当然といえば同然のこと。
――もしや、何者かの存在を感知するために、わざと結界に綻びを作ったというのか?だとすれば、この若造、やはりそれなりにできるということかのぉ?
もし、わざと綻びをを作ったのだとしたら、そこを潜り抜けた先に何かしらの術が仕掛けられている。
そう考えることは、経験豊富という言葉では片付けられないほど、経験が豊かすぎる法師にとって常識のようなもの。
となれば、この綻びを通じて、結界を抜けることは得策とは言えない。
――とはいえ、このままこの部屋にいるばかりではつまらんのぉ
どうすれば、この若造に自分の存在を気取られることなく、この場から抜け出ることができるか。
その手段を考えた時、ふと、法師は一つの可能性を思いついた。
――もしや、この若造の背後をついていけば、ばれることなく抜け出ることが?
まさか、とは自分でも思う。
だが人というものはその『まさか』というものを見逃すことが多い。
ならば、その盲点を突くことも、一つの手段である。
仮にばれたとしても、そこは千年を過ごした精神体。
齢二十にも満たない若造を騙すことなど、造作もないことだ。
――ふむ、ひとまずのだまし合いは、お預けとしようか
心の内で、意地の悪い笑みを浮かべながら、法師は隠形術を自身にかけながら護の背後につく。
案の定、護は自分以外の何かがいると感じているのか、周囲への警戒を怠ることはなかった。
だが、その『何か』が背後にいることに気づいた様子はなく、教室を後にする。
むろん、その背後に付いていた法師もともに、教室を後にしていた。
――かかっ、ひとまずの勝負はわしの勝ちのようじゃの……さぁて、はたして、おぬしにわしの仕掛けたからくりが見抜けるかのぉ?
教室を出て、どこへ向かうともなく、法師は護から離れていく。
少しずつ小さくなっていく護の背中を肩越しに見ながら、法師はまるで面白そうなおもちゃを見つけた子供のようにな、無邪気とも取れる笑みを浮かべる。
もっとも、護はその笑みを浮かべている老人の存在に気づくことなく、廊下をそそくさと立ち去って行った。
なお、護は最後まで法師の存在に気づきはしなかったものの。
――視線が消えたな……やっぱ、何かいたのか?
教室に何かいた、そのことだけは察することができていた。
とはいえ、その何かの正体までは察することができなかったため、法師の存在を知るまでは、まだしばらく先になる。
だが、よもやこの教室にかつての怨敵がいようとは思いもせず。
――いかんのぉ、実にいかん。仕事を二の次にして術比べをしたくなってしまうわい
自分に屈辱を与えたあの男の子孫ならば、どれだけの実力を有しているのか、どれだけの術をあの男が子孫に伝えてきたのか。
それらの好奇心がなかった、というわけではない。
その好奇心を満たすため、いますぐに術比べをして、確かめたいという衝動が襲いかかってくる。
何より、今、この若者に勝利すれば、この胸の内に燻っている怨念の炎を、いくらかでも晴らすことができるのではないか。
そんな想いが心の内を支配していた。
――とはいえ、いまはまだあの小娘に力を貸すだけにしておくとしようか……小娘を介してのこの術比べ。その陰にわしがおることに気づくかどうかも見ものじゃてのぉ
仮初めとはいえ、あくまで今の自分は佳代の使鬼。
その分をわきまえてのことなのか、法師はどうにかその衝動を抑えた。
とはいえ、完全には抑え込めなかったらしく、殺気じみた瘴気の混ざった霊力が若干、隠形術から漏れ出てしまったらしい。
そのわずかな瘴気が、自分に向けられていると気づいたのか、護は弾かれるように背後を振り向き、注意深く周囲を見回す。
その姿から、法師は自分の気配が隠形術が隠すことのできる範囲を超えてしまったことを察して、平静を保とうと息を整える。
――ここでわしの存在を知られては面白くない……これより先はより慎重にいかねばのぉ
危うく見つかるところではあったが、法師は乱れた心に平静を取り戻すと、再び、霊力を隠形術の中に隠す。
だが漏れ出た霊力を警戒してか、少しの間、護は何かを怪しむように周囲を注意深く見回し、警戒を強めてしまった。
どうやら、護がこの教室にいる間、自分はしばらく佳代のそばから離れたほうがいいようだ。
そう考えると、法師は周囲を見回し、どうすれば護にばれることなく、この教室を抜け出すことができるのか、考え始めた。
しばらく周囲を見回すと。
――ふむ?あのような所に結界のむらがあるのぉ……
法師は、結界の一角に、わずかな、本当にわずかなほころびに疑問を感じ取る。
これだけ強固な結界を作り上げておきながら、なぜ、そこにだけやけに結界が薄い場所になっているのか。
普通なら、なにも考えずにその綻びから抜け出そうとするだろう。
だが、法師は千年以上の昔から、術者として生きてきた、いわば超ベテランだ。
そこに何かあると考えるのは、当然といえば同然のこと。
――もしや、何者かの存在を感知するために、わざと結界に綻びを作ったというのか?だとすれば、この若造、やはりそれなりにできるということかのぉ?
もし、わざと綻びをを作ったのだとしたら、そこを潜り抜けた先に何かしらの術が仕掛けられている。
そう考えることは、経験豊富という言葉では片付けられないほど、経験が豊かすぎる法師にとって常識のようなもの。
となれば、この綻びを通じて、結界を抜けることは得策とは言えない。
――とはいえ、このままこの部屋にいるばかりではつまらんのぉ
どうすれば、この若造に自分の存在を気取られることなく、この場から抜け出ることができるか。
その手段を考えた時、ふと、法師は一つの可能性を思いついた。
――もしや、この若造の背後をついていけば、ばれることなく抜け出ることが?
まさか、とは自分でも思う。
だが人というものはその『まさか』というものを見逃すことが多い。
ならば、その盲点を突くことも、一つの手段である。
仮にばれたとしても、そこは千年を過ごした精神体。
齢二十にも満たない若造を騙すことなど、造作もないことだ。
――ふむ、ひとまずのだまし合いは、お預けとしようか
心の内で、意地の悪い笑みを浮かべながら、法師は隠形術を自身にかけながら護の背後につく。
案の定、護は自分以外の何かがいると感じているのか、周囲への警戒を怠ることはなかった。
だが、その『何か』が背後にいることに気づいた様子はなく、教室を後にする。
むろん、その背後に付いていた法師もともに、教室を後にしていた。
――かかっ、ひとまずの勝負はわしの勝ちのようじゃの……さぁて、はたして、おぬしにわしの仕掛けたからくりが見抜けるかのぉ?
教室を出て、どこへ向かうともなく、法師は護から離れていく。
少しずつ小さくなっていく護の背中を肩越しに見ながら、法師はまるで面白そうなおもちゃを見つけた子供のようにな、無邪気とも取れる笑みを浮かべる。
もっとも、護はその笑みを浮かべている老人の存在に気づくことなく、廊下をそそくさと立ち去って行った。
なお、護は最後まで法師の存在に気づきはしなかったものの。
――視線が消えたな……やっぱ、何かいたのか?
教室に何かいた、そのことだけは察することができていた。
とはいえ、その何かの正体までは察することができなかったため、法師の存在を知るまでは、まだしばらく先になる。
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